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就職斡旋2
しおりを挟むまあ、いいや。とにかく受付と花の仕事はありがたい。
何しろ天下の清家財閥の本社ビルの受付の花をまかせてもらえるんだからかなりの大きさの花だろう。
受付よりも大変かもしれない。時間もかかるし。その辺は少し受付の仕事を調整してもらう必要があるだろう。
祖母は心配して夕食時に話の内容を聞いてきた。
それで、受付の仕事のことを話した。大奥様の推薦をもらえるとのことだと話すと心配そうに見ている。
「それだけ?そうじゃないでしょ。だって玖生さんがかけてきたんだから……」
「とりあえず知り合いからはじめることにするわ」
「何を?お付き合いするってこと?」
「ううん。そうじゃない。とにかく、彼が女性嫌いを治せるように私がお手伝いするってことらしい」
「らしいって何よ」
「大丈夫。おばあちゃんが心配するようなことはおきない。私だって好みがあります。それに、受付はいいとして、エントランスの花も任されたの。花もうちの取引先から卸していいっていうのよ」
「本当なの、それ?今まで確かフラワーアレンジメントの大手のプロダクションを使ってたんじゃないのかしら?大奥様にはそう聞いていたのに。どういうことなの」
「玖生さんが言うには丁度契約満了だから良かったらとうちに話をくれたの。勉強になるし、反響もあるからうまくいったら最高よ」
「それはそうね。でもそれはそれとして受付の仕事なんて出来るの?花と両立難しいわよ」
「そうよね。それについてはちょっと話し合ってみるね」
「無理しないのよ。身体壊したら元も子もないわ」
「うん」
その後、メールのやりとりをした。何故か、初日から迎えに来てくれると言う。
「いいです。そんなことしてくださらなくても自分で行きます」
「別に同じ所へ行くんだし、初日だから一緒に行った方がわかりやすいだろ。紹介できるし……」
「だから、あなたの知り合いだとなると、色々面倒が……」
「面倒なことにならないよう気をつけてやるよ。それならいいだろ?」
何それ?そんなことできないでしょう。おばあちゃんが心配そうに見ている。ああ、もういいや。
「わかりました。明日だけお願いします」
「わかった。八時くらいには迎えに行くからそのつもりでいてくれ」
「はい。よろしくお願いします」
そう言って、迎えに来てくれると言うと、おばあちゃんはまた心配そうにしている。まあ、そうだよね。なんだかよくわかんないけど、働き出したらどうせこっちのものよ。
月曜日。
迎えの車に乗ると、朝からオーラ全開の御曹司が座っていた。よく見るとやはりイケメン。そして、目の色が前と違う。他人を見る冷たい目ではなくなっていた。
「……よかった」
まずい、心の声が漏れてしまった。
「……何がよかったんだ」
チラッとこちらを見て聞く。
「い、いえ。何でもありません」
「ろくなことじゃないな。君ははっきりしてるからおどおどすると何か隠してるとわかるんだ」
むかつく。相変わらず嫌な人ね。
「何、朝から怒ってんだよ」
「誰のせい?せっかく少しは他人行儀な冷たい目がなくなってよかったと思ったのに、すぐ毒舌になる」
「君だって、結構な毒舌だろ。これから俺もお礼に指摘してやるよ」
「うー、もう」
私がイライラしているのを見て、嬉しそうに口を押さえて笑ってる。何なのよ、もう。
「そうだ。エントランスの花を生ける時間は受付の仕事が出来ないと思うんです。だから……」
「ああ。そうだな。受付は契約社員。今ふたりで回しているが、君が華道の仕事もあることは話してある」
「時間を指定できますか?」
「今日出社したらまず、今後の花のスケジュールを聞いてから受付のシフトを相談してくれ。受付を最低週三で通ってもらっても構わない」
「華道の発表会が近い繁忙期だけ週三日にさせて下さい。あとエントランスの花を飾り終われば、それ以降普通に受付へ入れると思います」
「いや。花が終わったら帰ってもらっていい。その日は花を活けるだけで勤務にしよう。それも立派な仕事だからな」
「ホントですか?助かります。ありがとうございます」
「……君は素直なのか、毒舌なのかわからんな」
「素直なんです。素直だから思ってることを全部口にして後悔するんですよ」
「それなら、俺も素直ってことだな」
「ちょっと違います、それ……」
「何が?同じだろうが……」
「そのうち、教えて上げます。そういう約束ですものね。仕事をもらった代わりにあなたの毒舌や女性嫌いを少しでも治す」
「ああ、良かったよ。俺の女性嫌いは治る見込みが出てきた。誰かさんのお陰でな」
「え?」
「君も素直になりすぎないように、気をつけろよ。職場で本音は禁物だ」
「……あなたに言われたくありません!」
「……くくっ」
また下を向いて笑ってる。もう。
喧嘩しそうになったら、つきましたと言われ、外を見ると立派なビルというか石造りって何なの……さすが、清家財閥。
駐車場からエントランスへ登り、フロアを見て驚く。大理石のフロアに彫刻が施された壁。
建物自体に価値があるとわかる。中央に飾ってある花は非常に人目を引く。かなりの大きさ。これは時間がかかる。そして、写真を撮っている人がいるくらい、この建物が素晴らしい。インスタにあげてもいいくらい。
玖生さんの秘書という男性が説明してくれた。
毎週、花を代えている。月々の予算を聞いて、花を考える。花を代えるのは週末か月曜日。イベントやお客様に合わせてもらうこともあると言われた。
受付の担当者に紹介された。制服をもらって、説明を受けた。
今日の担当者ふたりの横に椅子を置いてもらい、ひとりが接客している間に説明を受けていく。
ホテルのフロントの仕事もしていたので、お客様をお迎えすることは同じだ。
この会社のシステムさえわかればいいのだが、何しろ社員の顔や部署などを把握していないと難しいらしい。
「織原さんって、お花の家元なの?」
綺麗な巻き毛をいじりながら、聞いてくる。さすが、美人。受付って美人多いわよね。私は違う人種だから絶対なんで採用なのか理由が欲しいんだなとわかった。
「まだ家元ではありませんが、いずれなるかもというところです」
「ふーん。だから、お花もやるってことなのね」
「そうですね。あまり受付のほうでお役に立てないかもしれないです。よろしくお願いします」
受付の名札に須藤って書いてある美人さんは、笑いながら返した。
「いいわよ、そんなのは。それより、玖生さんの秘書と一緒に来たけど、どういうこと?」
「あ、えっと大奥様と祖母が知り合いで……ここを紹介頂きました」
「……なるほど。ということは、御曹司とも知り合い?」
「そうですね、最近お話しをしました」
「御曹司って冷たいよね。氷みたい」
はあ。どこでもああなんだね。
「そうですね。女性に興味ないって感じですかね」
「ねー、やっぱりそうなんだね。誰でもダメなんだ。夫人の知り合いでもダメなんだね。あれじゃ、イケメンの無駄遣い。せっかくの玉の輿を夢見る気にもさせないし。たいした人だよね」
「……なるほど」
苦笑いするしかない。いやあ、受付さんにまでこんな言われかたされてる。事務所内ではもっとひどいだろうなと思った。大奥様の耳にも入るよね。心配になるのもうなずけた。
私の役割は大きいかもしれない。まっとうな人にしてあげようとひとりやる気を出したのであった。
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