叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐

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由花の過去2

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 その日の終業前。
 玖生さんの秘書の人が内線で連絡してきた。

 「織原さん。お時間あれば少し上に上がってきてもらえますか?」

 「なんでしょう?」

 「お花の件です。すべてお任せといっても、一応契約したほうがいいか、ご相談したいんです。花の入荷にかかる費用の問題もあります」

 「わかりました。どちらへ行けばいいですか?」

 「三十階なので役員用エレベーターであがってください。五分後にエレベーターホールの前で待ってますので」

 「はい、わかりました」

 そう言って、挨拶をして受付の仕事を終えると、役員フロアへ向かった。

 三十階について、エレベーターが開いた。
 出てみると、目の前には壁にもたれた玖生さんがいた。

 「お疲れ」

 「お疲れ様です。あ、あの……」

 「ああ、秘書は来ない。俺と話をしようか」

 「え?」

 「このまま食事に行こう。夕飯を食べながらでも花の件は聞かせてもらうよ」

 「え?今からですか、急に……」

 「まずいか?予定があるのか?」

 「い、いえ。ただ、祖母に連絡しないと。夕飯準備してるので……」

 「ああ、そうか。悪いな、じゃあ連絡してくれ」

 そう言って、私の腕を取って、またエレベーターへ一緒に入った。
 そして、駐車場のある地下二階を押してしまう。

 私は祖母にメールした。
 顔を上げて、彼を見るとガラス張りなので外を見ている。

 「玖生さん。今日はありがとうございました」

 彼はこちらをチラリと見て、ほくそ笑んだ。

 「そのことも聞きたいから、今日話す時間が欲しかった」

 「……」

 「話したくないか?無理に聞くつもりはない。ただ、山川さんは取引先なのでこの後も来る可能性がある。君のために少し事情を知っておいた方がいいかと思ったんだ」

 「いえ。お話しします」

 「そうだ、苦手な食べ物とかあるのか?」

 「いいえ、特にないです」

 「そうか。今日は何が食べたい?」

 彼の顔をじっと見た。

 「なんだ?」

 「なんか、優しいなと思って。感動してました」

 「そうか。俺のこと見直したか?」

 「ええ。成長著しいです」

 「君も、殊勝な顔の時があるんだと今日は思ったよ。いつも威勢がいいからな。びっくりした」

 「失礼な。すぐにそういう風になるから、ダメなんですよ」

 エレベーターが地下へついて、ふたりで降りる。
 運転手が車の前で待っていた。

 「いつもの懐石料理の店へ行ってくれ。その後は帰ってもらって構わない」

 「はい」

 私は運転手さんに車の扉を開けてもらい、乗り込んだ。反対側から玖生さんが乗ってきた。

 「行きつけの懐石料理の店に行こうと思う。まあ、間違いのない店だ。いいか?」

 「はい。でも……その店、私払える金額です?」

 玖生さんはお腹を押さえて笑っている。

 「まあな、契約社員に払わせるには少し高いかもしれん。今日は就職祝いをしてやるよ」

 就職祝い?意味分からない。

 「ありがとうございます。いつかお返しできるよう、稼がせてくださいね」

 「ああ。しっかり働いてくれ」

 「もうっ!」「ははは」

 ふたりで車の中で声を立てて笑った。

 運転手さんが、ミラー越しに驚いている。

 お店についた。

 玖生さんが急だったので入れるか聞いてくると言って、先に暖簾の中へ入っていった。
 
 「あの……」

 運転手さんがおずおずと話しかけてきた。

 「はい?」

 「玖生様が笑っておられるのを久しぶりに拝見したんです。しかも若い女性と。どうか、玖生様のことよろしくお願いします」

 初老の男性に頭を下げられて、驚いた。

 「あ、そんな。こちらこそ、お世話になりました。ありがとうございました」

 「玖生様が素を見せられる方はほとんどおられない。お嬢さんのことは特別なんでしょう」

 「そうですかね?ほとんど先ほどのように言い合って喧嘩してるだけなんですよ」

 「喧嘩するほど仲がいいって言いますよね。他人行儀な玖生様の壁をお嬢さんがなくしているように見えました。あ、このことは内緒でお願いしますね」

 玖生が戻ってくるのが見えて、運転手さんは人差し指を口元に当てて、去って行った。

 「どうでした?」

 「ああ。大丈夫そうだ。ただ、お任せになるが、いいな?」

 「ええ。こんな店構えのお店ですもの、何が出ても美味しいんでしょうから……」

 「ああ。旨いぞ」

 「楽しみ。じゃあ、お願いします」

 そう言って、玖生の後ろをついて行く。

 玖生の言ったとおり、由花はこんなに美味しいお店に来たのは初めてだった。

 上流階級というのは言い過ぎかもしれないが、普通の人は来られないんだろうと思う。おばあちゃんを一度連れてきてあげたいと思った。

 「それで、そろそろ話を聞いてもいいか?」

 この場で立てたであろう抹茶が出て、あんみつなどの和の甘味が運ばれてきた。

 「何が聞きたいの?」

 「君が顔色を変えた、神田との関係。履歴書を見た。今まで神田ホテルグループにいたようだな」

 さらっとこともなげに核心を聞いてくる。

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