叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐

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由花の過去3

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 「実は、神田は知り合いだ。知り合いというか、学生時代に同じ付属の系列学校で高校まで行っていた。奴は一年下だが、女好きで有名だった」

 「……それなら、想像ついてるでしょ」

 「君があいつの言葉に踊らされるタイプでないことも知っているから聞いてるんだ」

 「褒めてくれてるの?」

 「茶化すな」

 私は茶碗を両手で下から持ってゆっくり回しながら話し出した。

 「フロントとして働きながら、花をエントランスに活ける仕事もしていたの。神田ホテルグループ主催の大きなイベントにも関わった。彼に話しかけられて徐々に親しくなった」

 「……」

 「彼は明るくて社交的。ホテルの御曹司って感じだった。対して私は少し内向的。ホテルのフロントなんて向いていなかったと思う。彼がそういう私を外に引きずり出して、色々なことを経験させてくれた。感謝はしてる。彼が紹介してくれて今も仕事に繋がっているお客様もいるくらい」

 「恋人だったのか……」

 「付き合ってくれと言われて、舞い上がっていたのは私だと思うの。恋愛経験もなかったし、夢を見ていた。いつか私となんて……」
 
 彼に目を向ける。

 「でも結局、結婚相手としては不都合だったみたい。約束した日に婚約者という人が現れて終わったわ。今はその婚約者と一緒にいるはずよ」

 「婚約者は誰だ?」

 「確か、大手銀行の頭取の娘さん。私とは立場が違いすぎ。張り合う相手でもなかった。夢を見ていた私が馬鹿なのよ」

 「そんなこと言うな。君を選んで付き合ったということは、あいつもそれなりの考えがあったはずだ。君は他の女とは違う」

 「でも結婚相手には選ばれなかったの。お相手が御曹司だということも、身分違いだということもわかっていないお子様だったのよ。ホテルの人に知られて笑われたわ」

 玖生さんは何も言わず私を見つめている。

 「……ごめんなさい。もう私は過去のことだと思ってる」

 「山川さんはお前達が付き合っていたことを知っているのか?」

 「あの口ぶりだと知っていたんでしょうね」

 「……わかった。別れた理由は今の現状を見ればわかるからな」

 「そうね。要するにフラれていなくなった私を見つけて驚いただけよ。そして、いじってみたんでしょ、好奇心で」

 「最低だな」

 「神田とおそらく山川さんの関係があまり良くないんだと思う。彼は敵が多いのよ。しょうがないの」

 「なるほどな。よく分かったよ」

 「そう?ならよかった」

 「由花。何かあったらすぐに俺に言うんだ」

 「え?」

 「君を泣かせたくないし、神田や山川のような奴から君を守りたい」

 彼の真剣な目を見た。嬉しかった。心配してくれているのがわかった。

 「……ありがとう。頼りにしてる、玖生さん。今日はかっこよかった。隣にいた須藤さんも玖生さんのこと見直したみたいよ。私のこと庇ったって言ってたもの」

 「隣にいた須藤さん?」

 「もう。やっぱり全然覚えてないのね。受付の須藤さんよ。もう少し、会社の女性にも興味を持って。そうしたら、実は素敵な女性がたくさんいることにきっと気付くから」

 「いや、いい」

 「え?」

 「そろそろ送っていこう。明日も早いだろ。明日は花の日か?」
 
 「そうだ、秘書の方が言ってた、花の予算の件は……?」

 「ああ、とりあえず今月やってみて値段を出してこい。それを見て許容範囲か逸脱しているか話して調整してもらう。前に飾っていたものの画像見たよな。あれを見ればお前ならわかるだろ?」

 この人。本当に頭がいいというか、無駄がないというか。
 さすがに御曹司。ここまで仕事の話で聞いているだけでうなずかされる人、今までいたかな?

 「ええ。そうさせてもらいます。玖生さん、すごいわね」

 「は?何が?」

 「同じことを他の人が話すと長くなるのに、あなたは無駄がないというか、核心を上手に突いてくる。さすがだなって思ったの」

 玖生さんが後ろを向いてしまった。どうしたんだろう。具合でも悪いのかしら?

 「……玖生さん?大丈夫?」

 口元を覆った彼がこちらを向いた。ん?どうしたの?

 「顔が赤いけど、大丈夫?具合悪いの?」

 「いや。なんでもない。じゃあ、帰ろう」

 そう言って、勢いよく立ち上がり先に出て行ってしまった。

 「……変な玖生さん」

 私は忘れ物がないか、キョロキョロしてコートを持つと部屋を出た。

 暖簾を出た先に彼が袋を二つ持っている。

 「お会計すみません。ごちそうさまでした」

 「これを持って帰れ」

 袋を一つ渡された。

 「この店のお土産だ。あんみつなどが詰め合わせになっている。祖母が大好きで、いつも作ってくれるんだ。君のおばあさんにも渡してやれ」

 「わあ、ありがとう。嬉しい」

 にっこり笑いかけると、彼はまた私の方を見てびっくりしている。

 「やだ、大丈夫?」

 「……由花」

 「はい?」

 「お前とこうやって、たまに一緒に食事したり、出かけたりしたい。俺を矯正するという割には話す時間がほとんどない。勤務中は無理だしな。どうだ、俺と付き合うか?」

 驚いて固まってしまった。

 「玖生さん」

 「なんだ?」

 「今の聞き方だと返事はNOです」

 「……そうか」

 がっくりしてる。あ、いい方が悪かったかしら。だけど。

 「付き合うっていうのは恋人にしたい人へ言うんです。私のようにあなたと喧嘩ばかりしている相手に言っても信じないです。百歩譲ってせいぜい友達です。それと、告白して付き合って欲しいという人にはこんなとこで急にそんな風に聞いたらだめ。もっとムードのあるところで、お互いに気持ちを高めてから聞くの。そうしたら効果があります」

 「……お前。その言い方、俺にまるで色気がなくて興味がないと言っているんだな」

 「ほら。そうやって、すぐに核心を突く。もう少しやんわり回りくどい方法も必要なの」

 「相手がお前でも必要なのか?俺は他の奴にそういうことを言う気も予定も全くないからこのままでいいんだが……」

 口を開けて呆れてしまう。私はつい大きな声で言ってしまった。

 「私が相手でもダメ。ちゃんとやって!そのために私が今一緒に教えてるんじゃないの」

 玖生は驚いて息をのんだ。

 「ちゃ、ちゃんとってどうやるんだ?」

 ずっこけてしまう。もう、この人どうしたらいいの?

 「とりあえず、お友達からはじめていきましょう。徐々に教えてあげますね」

 彼が左手を出した。握手?友人だから?すると、私の右手を引っ張った。そして何故か抱き寄せる。

 「ああ、頼んだ。よろしくな」

 耳元で低音のイケボが囁く。

 私の新しい男友達は無駄に色気がある。それを注意することはできないから、困ってしまった。身体を離すと見たことのない甘い目がこちらを見ていた。私の中で何かが警笛を鳴らした瞬間だった。

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