9 / 36
友達として1
しおりを挟む祖母にお土産の袋を渡したら、歓声を上げられた。
「え?おばあちゃん、どうしたの?」
「由花、これどうしたの?誰かにもらったの?」
「だから、今日そこへお夕飯食べに行ったのよ」
「えー!誰と?もしかして、玖生さんと行ったの?そうでしょ。この店に普通の人が行くはずないわ」
「やっぱりそういう店なのね。すごく美味しかった。今までで一番美味しい和食というか懐石料理だった」
「ふふふ。良かったわね。おごりだったんでしょ、もちろん」
「うん。就職祝いとか言われた。訳わかんない。雇った人がお祝いって何それ?て感じ。歓迎会っていうならわかるけど」
「まあ、いいじゃない。そう、お土産もくれたのね。ここの美味しいのよ。おばあちゃんも最後に行ったのは二十年以上前かもしれない」
「そんな前からある店なの?」
「そうよ。創業昭和のはじめくらいじゃないの?」
「へえ。おばあちゃんを連れて行ってあげたいなって思ったんだよ。お金が高そうだから、もう少し待ってね」
「それは楽しみだわ。歩けなくなる前に連れて行ってちょうだいね」
「もう。変なこと言わないで。分かった。近いうちに行こうね」
「それで、玖生さんとはどうなの?」
「……友達になった」
おばあちゃんはお腹を抱えて笑ってる。
「はー。面白い。そうなの?少しは話が出来るくらいにはちゃんとしてきたのね、彼……」
「そうなのよね。話は出来るけど、なんというか、人の気持ちをよむのはいいんだけど、言葉がストレートすぎる」
おばあちゃんはまた笑い出した。
「……ふふふ。とにかく、由花が教えてあげなさいよ。女の人が相手でも、人に話すときは目を見てきちんと話しましょうってね」
「おばあちゃんったら……」
「そう。友達になったのね。大奥様にも言っておかないと。このあんみつのお礼と一緒にね。きっと喜ぶわ」
おばあちゃんったら、すっかり人ごと。面白おかしく話してるけど、結構私は大変なのよ。心配かけたくないから言わないけどね。
「明日の花材、来てる?」
「ああ、そっちに入っているから確認しておきなさい。明日は花を生けたら帰ってくるのよね。昼過ぎから家でお稽古入っているけど任せて大丈夫?」
「うん。任せてもらっていいから、おばあちゃんは明日ゆっくり休んでね」
「ありがとう。そうさせてもらいますよ」
そう言って、あんみつを嬉しそうに冷蔵庫に入れて、寝室へ下がっていった。
私は花材を確認した後、玖生さんにメールしてお礼を言った。祖母がお土産をとても喜んでいたことを話した。
すると、急に電話がなりだした。びっくりして見ると、彼からだ。
「はい、どうしたんですか?」
「ああ。お疲れ」
「ふふふ。会社じゃないんだから、お疲れじゃないでしょ」
「……まあ、いい。次の約束をしたい」
何なの、その言い方。本当に行間がないのよねえ。どうやったら出来るようになるかしら?
「次の約束って何の約束ですか?」
「男友達なら飲みだな。女友達って何がしたいんだ?」
私はおかしくて笑い出してしまった。
「何でしょうね?というか、お互いが好きなことをするんじゃないかしら。友達なんだから、共通点があるとか、趣味が一緒とか、まあ相手に合わせてもいいし」
「由花が好きなことはなんだ?花か?」
「花は好きですけど、仕事だし、休みは別のことをしたいかな」
「何したいんだ?」
「そうですねえ。お買い物とか、映画も行きますよ。玖生さんこそお休み何してるんですか?」
「……俺は本を読んでるか、映画を家で見てる」
あまりに想像通りで驚く。
「外には行かないの?」
「そうだな。仕事でイベントにも行ったりまあ、休日も色々あるから、完全オフは家にいることが多い」
「お忙しいんですね。そうですよね、すべてのグループの取りまとめされてるんですものね。お父様もいるからまだそんな忙しくないのかと思っていました」
「父はほとんど仕事をしていない」
「え?お身体の具合でも悪いんですか?」
「そうじゃない。ボランティア中心で、実質俺が跡取りに近いことをしているんだ」
「え!?それって皆さんご存じのことですか?」
「まあ、そうだな。口に出さずとも皆知ってるだろうな、関係者は特に」
「まさか、本当にそうなる可能性があるってことなの?」
「そうだな。おじいさまからはそうしたいと言われてる。父に継ぐ気持ちがない可能性もある」
どうして、そんな他人行儀なの?聞きたいけど、聞けない。
「大変な立場なんですね。私と出かけてる場合ではありません」
「なぜ、祖母が君に会わせたと思っているんだ?もし祖父の跡を俺が継ぐとなった場合、困ったことに妻を娶る必要があるらしい」
「それが条件なんですか?」
「条件というか、まあ実質、仕事上でもパートナーが必要なんだ。妻の仕事というものが結構あるんだ。うちは母が他界しているので、祖母がやっている」
そうか……わかった。だから、大奥様が私を紹介してきたのか。要はどうしても嫁が必要なんだわ。それなら余計まずいかも。早めにそういう関係にはなりませんって言わないと勘違いさせてしまう。
「……」
「おい、由花?聞いてるのか?」
「あ、聞いてます。ごめんなさい。眠くなってきちゃった。明日起きられないと困るから、寝ます。切りますね。また、メールします。今日はごちそうさまでした。ありがとうございました」
「なんだ、子供みたいに。もう寝るのか?まだ十時だぞ」
「ええ。私、子供なんです。では、おやすみなさい」
そう言って、切った。玖生さんはいい人だし、嫌いじゃないけど、結婚相手としては私では役不足。身分違い。私は学んだから今度は間違わない。
12
あなたにおすすめの小説
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
わたしとの約束を守るために留学をしていた幼馴染が、知らない女性を連れて戻ってきました
柚木ゆず
恋愛
「リュクレースを世界の誰よりも幸せにするって約束を果たすには、もっと箔をつけないといけない。そのために俺、留学することにしたんだ」
名門と呼ばれている学院に入学して優秀な成績を収め、生徒会長に就任する。わたしの婚約者であるナズアリエ伯爵家の嫡男ラウルは、その2つの目標を実現するため2年前に隣国に渡りました。
そんなラウルは長期休みになっても帰国しないほど熱心に勉学に励み、成績は常に学年1位をキープ。そういった部分が評価されてついに、一番の目標だった生徒会長への就任という快挙を成し遂げたのでした。
《リュクレース、ついにやったよ! 家への報告も兼ねて2週間後に一旦帰国するから、その時に会おうね!!》
ラウルから送られてきた手紙にはそういったことが記されていて、手紙を受け取った日からずっと再会を楽しみにしていました。
でも――。
およそ2年ぶりに帰ってきたラウルは終始上から目線で振る舞うようになっていて、しかも見ず知らずの女性と一緒だったのです。
そういった別人のような態度と、予想外の事態に困惑していると――。そんなわたしに対して彼は、平然とこんなことを言い放ったのでした。
「この間はああ言っていたけど、リュクレースと結んでいる婚約は解消する。こちらにいらっしゃるマリレーヌ様が、俺の新たな婚約者だ」
※8月5日に追記させていただきました。
少なくとも今週末まではできるだけ安静にした方がいいとのことで、しばらくしっかりとしたお礼(お返事)ができないため感想欄を閉じさせていただいております。
前世が見えちゃうんですけど…だから、みんなを守ります(本編完結・番外編更新)
turarin
恋愛
伯爵令嬢のスーザンは、3歳のある日、突発的に発熱して、1週間ほど熱にうかされた。
気がつくと清水智美という名前と高校の教員だったことを思い出した。
やっと復調して来たある日、乳母の顔を観ると、幸せそうに微笑む結婚式の若い娘、その後、胸を押さえて倒れる初老の女性の姿、そして、浮かび上がる享年54歳、死因:心筋梗塞という文字が目の前に浮かんできた。
なぜか文字も読めてしまった。
そう、彼女は前世を思い出すとともに、初対面の人間の、前世の幸せの絶頂期の姿と、最期の姿と年齢、死因が見えるようになってしまったのだ。
そして、乳母が54歳のある日、胸を押さえて倒れてしまう。
え?!前世と同じ年に死んじゃうの?
大好きな乳母。絶対に死なせない!!
3歳の彼女の人生の目的が決まった日だった。
不定期ですが、番外編更新していきます。よろしくお願いします🙇
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
レドゼンツ伯爵家の次女メルティは、水面に映る未来を見る(予言)事ができた。ある日、父親が事故に遭う事を知りそれを止めた事によって、聖女となり第二王子と婚約する事になるが、なぜか姉であるクラリサがそれらを手にする事に――。51話で完結です。
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる