叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐

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友達として2

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 翌朝。

 家の前に車が止まっている。八時半だ。見たことのある車。
 出て行くと、運転手さんが降りてきた。昨日の人だ。

 「おはようございます。織原様」

 「あ、昨日はありがとうございました。あの?」

 「玖生様は乗ってません。今日は外出先へ直行なので。私は玖生様からお花を乗せて会社へ行くよう頼まれたんです」

 「え?それならそれで連絡してくれればいいのに……」

 「昨日、言おうとしたらもう寝るからと電話を切られたと言ってました」

 そんなことまで運転手さんに言ったの?信じられない。
 私が赤くなって下を向いたら、運転手さんが笑っている。

 「ははは。本当に、玖生様は面白いでしょ。子供みたいなところもおありなんですよ。甘えベタでね」

 「すみません、振り回すようなことしてしまって……」

 「いいえ。詳しく伺ったら、今日からエントランスのお花を活けるお仕事もされるとか?花やそのほか色々あるだろうから車が必要だと玖生様がおっしゃってました」

 「相変わらず、気が回るんだか、気が利かないんだかよくわかんない人ですね」

 ため息をつきながら言う。

 「わかるのは、織原様を大切にしているってことだけですかね」

 運転手さんがじっと私を見て言う。
 恥ずかしい。でもそうかもしれないと思った。

 「せっかく来て頂いたんです。お言葉に甘えさせて頂いてもいいですか?」

 「もちろんですよ。私がやらなかったら怒られるんですよ、きっと」

 私は笑い出してしまった。

 「じゃあ、花材を持ってきますので。あ、汚れるかもしれないので、何か下に敷くものを……」

 「ああ、すでにシートをひいてきましたからご安心下さい」

 主も気が利くけど、お仕えする人も気が利くのね。

 「助かります」

 「手伝いますよ、運ぶの……」

 そう言って、運転手さんも付いてきた。
 ふたりで運ぶとあっという間だった。

 運転手さんにはお茶を飲んでいてもらって、その間に出る準備をした。

 会社に入り、今日受付のふたりに挨拶して、花材を運び入れた。

 私に任された初日。
 どういう風に作ろうかと案を挙げて考えてきた。

 名刺がわりの最初のエントランス。剣山を入れてきちんと和の生け花にしようと決めた。

 こじんまりとしすぎず、それでいて華やかにもなり過ぎず……。

 二時間近くかけて、出来上がった。
 会場で活けると雰囲気や周りとの相性があり、思っていたのと違うから変更することも多い。

 今回は初めてだったので、さらに時間がかかってしまった。でも、いい感じだ。

 後ろから声がした。

 「なかなかやるじゃないか」

 振り向くと玖生さんが見ていた。

 秘書へ一瞥すると、彼は頭を下げて先にエレベーターへ向かって行った。

 「そうですか?気に入っていただけたなら嬉しいです。あ、朝は車のお迎えありがとうございました。助かりました。メールしてくれたらよかったのに……」

 不機嫌そうにこちらを見た。

 「お子様は早く寝て、朝は寝坊するんだろ。メールなんか見る時間ないはずだからな。気を遣った」

 また……そんな下を向いて。いじけてそんな言い方して。もう。

 「今度はメールしてください。ね?」

 ウインクしたら、びっくりした顔をして、エレベーターの方へ歩き出した。

 数歩行き、立ち止まる。
 
 「週末、暇なら一緒に出かけたい。また、連絡する」

 顔も見ずに、返事も聞かずに居なくなってしまう。相変わらずだ。

 時計を見るともうすぐ昼だ。振り向いたら、須藤さん。

 「ねえ、ねえ。もしかして、そういう関係なの?」

 「……違いますよ」

 「嘘ばっかり。私、二年くらい玖生様のこと見てるけど、これは初めて見た。いいもの見ちゃったー」

 ニヤニヤ笑ってこちらを見てる。

 私は周りをキョロキョロしてしまった。誰に見られてるか分かったものではない。

 「大丈夫よ。今日の相方の根本さんはまだそこに座ってる。聞こえてないから大丈夫よ。離れてるし……」

 私の心配を言い当てる。須藤さんも本当に食えない人だわ。

 「ねえ?お昼一緒にどお?私これからだからさ」

 「そうですね。あんまり時間ないですけど、大丈夫ですか?」

 「それは一時間以内ってこと?」

 「十二時四十分くらいにはここを出たいんです」

 「了解。まだ、四十五分だから一時間くらいはあるよ。近くの店で目立たないところ行こう」

 そう言って、私の腕をつかんでつれていく。

 大通りを挟んで小道に入った。地下だ。これは、わからない。

 「あれー、礼子ちゃん。見ない人だね」

 入るとバーのような作り。

 「そうなの。新しい受付さんよ。織原さん」

 「いらっしゃいませー。初めまして、どうぞー」

 お姉言葉の男の人が声をかけてくれる。

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