叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐

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夢に向かって2

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 三日後。

 大奥様の手配してくださった部屋へ入り、お着物をお借りした。

 お着物はもちろん、帯も素晴らしい。さすがとしかいいようがない。うちにも古い着物でいいものもあるが、手入れをしていないのでここまでではない。着物を知る者としては、緊張するくらい良い物だ。

 上から下までお任せして、変身した。

 自分じゃないみたい。鏡の中の自分はシンデレラさながらだった。

 大奥様が入ってこられた。

 「あらあらまあ……ふふふ。綺麗よ、由花さん。玖生さんに見せてあげたかったわね」

 「大奥様。素晴らしいお着物ありがとうございました」

 「それね、玖生さんの母親が着ていたの。そのままあなたにあげますからね」

 「ええ?!」

 「何驚いているのよ。これから、着てもらう機会は多いから慣れておいてもらわないとね。まあ、着物には慣れているだろうからそこは安心ね」

 「はい」

 「じゃあ、行きましょう。あの人のところへね」

 そう言って、いつも仕事で行っていた本社ビルへふたりで車に乗って移動した。
 運転手さんは玖生さんの人だった。

 私を見て嬉しそうにして下さった。

 車に乗ると運転手さんが大奥様に話す。

 「奥様。織原さんがお相手に決まったんですか?」

 「崎田。あなた、ああ、玖生の車をまわしているから彼女を知っているのね?」

 「はい。玖生様は織原さんとお話しするようになって生き生きしてこられて私は本当に嬉しかったんです」

 崎田さんとおっしゃるのか。何度も迎えに来てもらいながら知らなかった。

 「いえ、こちらこそ私の迎えに来て頂いたり、お世話になっております」

 大奥様に言う。

 「崎田。今から、総帥に彼女を会わせるのよ。玖生さんには内緒よ」

 「はい。わかりました。織原さん頑張って下さい」

 頑張るって言ったって……うなずくしかできない。

 地下の駐車場から直通のエレベーターで役員フロアへ。
 すごい、地下の担当者が敬礼してる。大奥様ってすごいのね。

 「緊張してるかもしれないけど、大丈夫よ」

 そう言って下さる。

 見慣れた役員フロアを歩いて、一番奥の革張りのドアの前に行った。

 すると、ドアが開いて眼鏡をかけた秘書の男性が出てきた。

 「奥様。総帥がお待ちです」

 そう言って、ドアを開けてくれた。

 私は会釈しながらゆっくり歩いて行く。和服で毛足のあるカーペットは気をつけて歩かないと転んでしまう。

 ふたりの男性がソファに座って待っていた。

 若い方の人が立ち上がった。玖生さんに目の辺りが似ている。この人がきっとお父様ね。

 「おお、来たか」

 「紹介しますよ、織原由花さん。彼女が玖生さんの想い人。結婚前提でお付き合いをしているそうです。そして彼女はもうすぐ次期織原流華道四代目家元に就任される予定です」

 「そうか。わしが清家総帥で玖生の祖父じゃ。となりが父親じゃ」

 お父様が頭を下げてくれる。

 「初めまして、織原由花と申します。玖生さんにはよくして頂いております。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません」

 かけるように言われて、腰を下ろした。

 「さてと。大体のことは志津から聞いているが、玖生とすぐには結婚できないというのは襲名のためだとか……」

 「はいそうです。私にとって襲名は小さい頃からの夢でした。ただこのタイミングになってしまったのは予想外でした。今継がないと祖母に無理をさせてしまうと思います。大変申し訳ないのですが、襲名の方を先にさせて頂きたいのです」

 頭を下げた。

 「それはわかった。君は玖生の仕事をどのくらい知っている?」

 「……ほとんど知りません」

 「正直で結構だ。総帥の妻がする仕事については?」

 大奥様を見ると、うなずいてくれた。

 「それについてはリスト化して渡してあります」

 「志津、決まってもいないのに見せてしまったのか?あれは社外秘だぞ。まだ嫁にすると決めたわけではない」

 「ごめんなさいね。でも、彼女は自分の家元の仕事をしながらやっていくにはそういうすりあわせは大切よ。現家元である彼女のおばあさまにも頼んで両方の仕事を調整中よ。もちろん私が出来ることは私がしばらくやりますよ」

 「志津お前、引退しないのか?わしと一緒にしばらく海外へ行くと言っていたのは嘘か!」

 「大奥様、そんな予定だったんですか?それなら、私ひとりでやります」

 「無理じゃ!」「無理よ!」

 ご夫婦で声を合わせておっしゃる。隣で息子さんが笑っている。

 「お父さん、お母さん。彼女がびっくりしてる。少しいいですか?」

 大奥様に目配せした彼は私に向き直った。

 「織原さん。まずはお礼を言わせて下さい」

 「え?」

 「玖生を変えてくれてありがとう。あの子はあなたに出会ってから表情や人当たりもよくなった。周りは別人かと思うときがあるそうだ。ねえ、父さん」

 「……確かに、そうだな」

 「玖生のどんなところが好きですか?」

 突然聞かれた。

 「……そうですね。優しく、頼りがいがあるところ。反面少し子供みたいなところも彼の魅力です。花の仕事で彼の指示に従っていましたが、今までのどのオーナーよりも的確でお仕事もさぞ出来るんだろうと思いました。そういうところも尊敬しています」

 「そうですか。ありがとう。息子をよく見てくれているんだね」

 「いいえ」

 「織原さん。おそらく息子が結婚したがらなかったのは私達夫婦を見ていたからだと思う。激務で妻の身体に気づけなかった私や私を思いやって自分のことを隠していた妻をあの子は歯がゆい思いで見ていたんだ。結婚しても妻を幸せにできないかもしれないと悟ったようでね」

 お父様はご存じだったのね、玖生さんのこと。

 「あの……玖生さんが私と付き合おうと思った理由は、私がずうずうしく何でも考えていることをはっきりと玖生さんに言うからだったそうです。自分の結婚相手は言いたいことを言い合える関係の人でないとする気はないとおっしゃってました」

 お父様はうなずいた。おじいさまは驚いている。

 「やはりそうか。あの子はわかっていたんだね。周りにいる女性や見合いで連れてこられた女性はまずあの子の身分を見て、気に入られようといいことしか言わない。そんな関係だと長続きしないと思っていたんだろう。父さん、答えは出ましたね」

 「いや、清家財閥の嫁としてはやってもらわねばならぬことがある。家元より優先すると約束できるかね?」

 「……お約束はできません」

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