叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐

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夢に向かって3

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 「さすが由花さん。それでなくては家元は務まりませんよ。あなた、勘違いも甚だしい。清家の仕事のほうが彼女の織原流家元としての仕事より上だとどうして思うの?家元とて大事な仕事ですよ。全国に支部がありお弟子さんも大勢いる。その頂点にいるの。そんなすごい人が清家の嫁になってくれるなら社会的に十分な価値がある。海外へ彼女を連れて行き、花を活けてもらうだけでかなりの利益になります」

 「……亜紀さんだって仕事はできるし、杉原社長は玖生の長年のアドバイザー的な立場だ。杉原社長と親子関係になれるならそれ以上の益があるだろう。すぐに結婚できるのもいい」

 やっぱり私の背景に何もないことを言っているのね。神田との時も暗にそう言われた。
 
 「もちろん、あなたが言うことも一理あります。杉原社長との縁はあの子にとっては重要でしょう。でもそのために好きでもない娘を迎えるとは思えない。さっき彼女が言っていたとおり、玖生は相手に求めることがあるのよ。亜紀さんは玖生に直言など出来るはずもない。逆に気に入られるため我慢をするかもしれないけど。それだと亡くなった秀美さんと一緒じゃないの?」

 大奥様の言葉に総帥はしばらく考えて答えた。

 「玖生の結婚をしない理由にそういうことがあったとはしらなんだ……それが本当だとすると玖生はおそらく亜紀さん相手ではうなずくまい」

 お父様は立ち上がると、ソファの後ろにあるデスク上のパソコンに向かって話しかけた。

 「聞いたか、玖生。さあお前はどうしたい?」

 私達三人は驚いて後ろを見た。パソコンの中から玖生がこちらを見ている。

 「父さん、遅いよ……やっと聞いてくれた。おじいさまが由花を責め立てて俺は叫びそうになったよ。ああ、疲れた……」

 「玖生お前、見ていたのか?まさか、秘書の山川までわしを騙していたのか!」

 ああ、玖生さんだ……どういうことなの?大奥様はお父様を睨んでる。まずい、ふたりとも怒ってるよ。
 玖生さんのお父様が立ち上がって謝った。

 「ああ、父さん、母さんそう怒らないでくれ。俺だって玖生に父親らしいことをしたくてね。俺を蚊帳の外にしてふたりで息子の結婚相手を決めようとしていただろ。どう考えてもおかしいよな。俺は玖生の考えは知っていたし、あいつのために一肌脱いだんだ。織原さん、驚かせてすまない。でも君のためにやったんだよ。許してくれ」

 玖生さんは、大奥様に声をかけ、画面の向こうから頭を下げた。

 「おばあさま。由花を助けてくれてありがとうございました。おじいさま、父さんが言っていた通りです。俺は父さんと母さんが愛し合っているのにお互いが遠慮し合っているのを見て育った。母さんのように言いたいことをのみ込んでしまうようでは忙しい清家総帥は妻を不幸にしてしまう。父さんごめん。こんな言い方して……」

 「いや、いいんだ。俺達を見てお前が学んでくれたのなら、俺が総帥を辞退した意味があった」

 「康宏。お前……」

 総帥はお父様をじっと見た。

 「そうだな。お前が父親で本来なら玖生のことを最初に相談すべきだった。すまん」

 「そうね、ごめんなさい、康宏」

 「いいんですよ、僕もだからこんな手を使ってしまった。こちらこそすみません。さあ、玖生……」

 「由花。ひとりで辛い思いをさせて済まなかった。それにしても、今日はとびきり綺麗だな。ここからだとよく見えなかったんだ。頼む、パソコンの前まで来てくれないか。会うのは本当に久しぶりだ」

 私はお父様を見たら、どうぞとパソコンを指し示された。それで立ち上がり、そろそろと正面に移動した。

 「由花……とても美しいよ。惚れ直した」

 「玖生さん、このお着物は玖生さんのお母様のものだそうです。大奥様からお借りしたの」

 「そうか。それで見たことあると思ったんだ。良く似合うよ。由花、この間話したとおり、正式に婚約しよう。いいね?」

 「はい」

 「よし、後は全部俺に任せろ」

 私は席に戻った。彼はおじいさまとおばあさまを見て話し出した。

 「由花と正式に婚約させて下さい。それで総帥になります。彼女が落ち着いたら結婚して清家の仕事もさせようかと思っています。もちろん結婚式もしますよ。一年以内には終えたいと思います」

 おばあさまは嬉しそうにうなずいてくれた。

 「玖生。杉原社長には話したのか?」

 お父様が言った。

 「社長にはお断りしたいとお伝えしましたが、亜紀さんとは会っていません。日本へ入れ違いで来ていたようでした。戻ったら話し合います」

 私は亜紀さんが会いに来たことは黙っていた。

 総帥は大きなため息をついた。

 「……よかろう。お前の人生だ。清家を守るという約束を違えなければよい」

 「ありがとう、おじいさま。期待に背くようなことはないと思います」

 総帥が私を見た。

 「由花さん。それでいいかな?正式に婚約だけは先にしてもらいたい」

 「はい。勝手ばかり言って申し訳ございませんでした。そちらのご意向に従います。よろしくお願いします」

 玖生さんはアポイントが入っていて、すぐに通信が切れた。

 「あなた。来週のアメリカでのパーティー、彼女を連れて行きましょう」

 「何だと?まだ、正式に婚約しておらんぞ」

 「私達が了承したんだから同じようなものでしょ。由花さんのおばあさまからも了承を得ています」

 「それはいい考えですね、母さん。杉原さん達には申し訳ないが、玖生がどれほど彼女を大切にしているか、目の当たりにするので諦めもつくでしょうし……」

 「まあ、それよりも取引先に婚約済みであることを言っておかねば、未婚のままだと縁談がきっと次から次と来るのは目に見えておる。それこそ地位目当てのな。だからこそ、先に結婚させたかったのだ」

 「それでね、今日は玖生に驚かされたから、彼女のアメリカ行きは黙っていましょう。そして驚かせてやりましょう。ふふふ」

 ほくそ笑む大奥様を総帥とお父様は呆れて見ている。

 渡米の日程を軽く打ち合わせし、お三方を残して私は先に失礼した。

 早くおばあちゃんに嫁として認められたことを報告して安心させてあげたかった。今頃さぞ心配しているだろう。

 そして……仏壇の両親にも報告したかった。由花は大好きで尊敬する人と結婚しますと……。

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