叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐

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婚約発表3

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 「由花」

 振り向いて笑顔を見せた彼女に、玖生は問い詰めようという気持ちを忘れてしまいそうになった。

 彼女以外の女性と結婚など絶対にあり得ないと痛感した。

 「どうしたの?亜紀さんとはどうなった?」

 自分を見たまま黙っているのを不思議そうに見ている。

 「由花。亜紀が日本へ会いに行ったそうだな。聞いたぞ。何故話してくれなかった」

 「ごめんなさい。話しづらくて……それに彼女を怒らせてしまったかもしれないと思っていたし。でも玖生さんを信じようと決めたから、その話をすることで疑っていると思われるのがいやだった。私を選んでくれるなら、彼女を断ってくれると思ったから……」

 玖生は由花の手を自分の腕に絡ませて、会場へ向かって歩き出した。

 「断ったよ、もちろん。だが納得させるには君といるところを見せて、君がいかに素晴らしいかを思い知らせる必要があるな」

 「え?」

 「今日の美しい姿を他の奴らに見せるのは気が引けるが、いい薬になるだろう。そして、俺がどれだけ君を愛しているか見てもらえればわかるはずだ」

 真っ赤になった由花は黙っている。

 「前の威勢のいい由花はどこへ行ったんだ?俺はそういう由花だから、結婚したいと思ったんだ」

 「……もう。今日は段取りを頭に入れるだけで精一杯。話すと忘れてしまう。英語も不安なのに」

 「隣に俺がいるだろ?仕事の俺を見たことがないよな?今日は由花に惚れ直してもらえるよう頑張るとするかな」

 「ええ。本当に冗談抜きで頼りにしてます。よろしくね、玖生さん」

 「ああ、任せておけ。俺がいる限りお前は安心していていい」

 彼女の手を優しく上から撫でて、軽くキスを落とした。
 びっくりした由花は真っ赤だ。

 玖生は上機嫌で会場へ入った。美しい着物姿の由花は人目をひいた。

 そして、何より玖生がエスコートしている。このパーティーの意味するところを知る招待客は彼女がどういう立ち位置なのかすぐに把握し、品定めが始まった。

 玖生が流ちょうな英語で自分が清家の総帥になる予定であることを来賓に挨拶をした。

 予定通り、由花は中央でデモンストレーションとして日本の生け花を紹介した。

 彼女が下がって着物の袖を元に戻したとき、わっと拍手が上がった。

 玖生が迎えに来て、手を取られて一緒に挨拶へ回った。
 
 「由花。杉原社長だ。紹介しよう。これからも重要な俺のアドバイザーだからな」

 亜紀と一緒に立っているダンディな男性こそが彼女の父親である杉原社長のようだった。

 「社長。ご紹介します。織原由花さんです」

 「ああ、初めまして。とても美しいね。日本美人が花を活けて皆見とれていたよ」

 「……ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」

 「玖生君。本当に残念だが、今後も親しくさせてもらうつもりだよ、安心してくれ」

 「パパ!」

 隣に立つ亜紀が由花を睨んだ。

 「亜紀さん、先日は失礼しました。どうかこれからもよろしくお願いします」

 由花が頭を下げるのを見て、杉原社長が言った。

 「亜紀?彼女と会ったのか?」

 「先ほど亜紀さんから聞きました。日本で会ったようです。僕も由花から聞いていませんでした」

 社長は驚いた様子で亜紀を睨んだ。

 「お前、先週日本へ帰っていたのはそれが目的だったのか」

 「玖生さんには今までそういう噂もなかったのに、絶対騙されているんだと思ったのよ。失礼ながら、彼女の噂は聞いていたし、会って玖生さんを惑わせないように釘を刺しに行ったの」

 「亜紀、お前は……全く。そういうところが玖生君から選んでもらえない理由だな。由花さん、何か失礼なことを娘が言ったんですね。お詫び致します」

 社長が頭を下げた。

 「パパ!私そんなこと言ってない。玖生さんを諦める気はないと言ったけど……」

 由花が口を開こうとしたので、玖生が先に話した。

 「先ほど、亜紀さんには僕の気持ちを伝えました。今まで誤解させることがあったなら謝ります。由花は初めて会ったときから僕の至らないところを指摘して、かたくなだった俺を変えてくれました。僕に直言出来る人は由花以外見当たらない。他の女性とは結婚を考えられないので、僕よりいい人を見つけて欲しい。亜紀さんなら美しく優秀だし、すぐに見つかりますよ」

 「そうだったのか……」

 「亜紀さん。私は玖生さんのお仕事についてほとんど知らないのは本当ですし、恥ずかしい事だと思っています。今後、こちらに来たときには亜紀さんを頼らせて頂いてもいいですか?色々ご指導下さい」

 由花は亜紀に頭を下げた。

 「……何なのよ!ずるいわ」

 亜紀はきびすを返していなくなった。杉原社長はため息をついて、私達を見ると「お幸せに」と言い置いて、亜紀さんを追いかけていった。

 「由花、上出来だ。惚れ直したぞ」

 「……玖生さん、きちんとお断りしてくれてありがとう。嬉しかった」

 玖生は彼女を抱き寄せ、耳元で「俺にはお前だけだ」と囁くと頬へキスした。
 見ていた人がはやし立てる。

 「もう、やめて……」

 「何が?ここはアメリカだ。キスなんて挨拶だ。赤くなってるのは由花だけだぞ」

 パーティーは無事に進み、終わりに近づいた。

 「おじいさま、おばあさま。この後はもう失礼していいですか?」

 玖生が由花の手を握って挨拶に行った。

 「玖生さん。無事終わってよかったわね。由花さんもお疲れ様。これからよろしくね」

 「ありがとうございました」

 「父さんは?」

 後ろから戻ってきた彼は玖生に言った。

 「今日は彼女とゆっくり過ごさせてやる。感謝しろよ。後のことは俺がやっておく。由花さんお疲れ様」

 「父さん。ありがとう。お言葉に甘えます」

 玖生は意気揚々と由花の部屋から彼女の荷物を自分の部屋へ移動させると、自分の部屋へ連れ込んだ。

 「ああ、長い間待ったよ。由花、いいね?」

 こくんとうなずく彼女を、抱きしめてキスすると、胸元に手をいれて着物を緩めていく。

 立ったまま、あちこちキスをしながら彼女の着物や帯をほどき、長襦袢だけにすると抱き上げてベッドへ運んだ。

 「あ、あ、ああ」

 「こっちを見て。ほら……」

 玖生に身体中を愛されて、由花は彼を涙目で見つめた。

 「……可愛い、由花」

 何度か彼女を頂点へ導くと彼がようやく入ってきた。

 由花は背を弓なりにして彼の愛に応えた。

 激しい律動に玖生の息が上がっていく。

 「あ、あん、あ、玖生さん、好き、好きなの……」

 「……俺は愛してる」

 そう言うと玖生は彼女に口づけながら強く抱きしめ揺さぶった。あっという間にふたりで駆け上がった。

 「由花、ようやく君を手に入れた。誰にも渡さない……俺の花嫁」

 寝入った彼女を抱きしめながら、彼は呟いた。

 
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