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エピローグ
しおりを挟むアメリカから戻り、華道織原流家元襲名式典をツインスターホテルで行った。
たくさんの流派からのお祝いが会場入り口に飾られた。清家財閥からも来ていた。
無事に式典を終え、四代目家元となったところで、司会者からお祝いのメッセージが届いておりますとアナウンスがあり、中田オーナーがビデオを流した。
皆が驚いて見ている。
私はおばあちゃんの指さす方向を見た。壁にスクリーンがいつの間にか下ろされて、玖生さんが映っている。
「嘘……どういうこと?」
一緒に帰国した彼は忙しいスケジュールの合間に結納だけ交わして、一昨日から今度はヨーロッパへ移動してしまった。
「織原流の皆様。初めまして。華道織原流四代目家元就任披露式典誠におめでとうございます。私は清家玖生と申します。現在私は四代目家元織原由花さんと婚約中です。清家財閥では織原流を全面的に支援していきます。清家ビルが全国にございますが、花に関わる仕事は今後すべて織原流にお願いします。全国各支部の皆様でお手配よろしくお願い致します」
会場中の人達が驚きの声を上げた。大きな拍手が起きた。前に言っていた仕事を発表してくれたのね。
「皆様どうか若い彼女を支えてやって下さい。そして織原流のお仕事を分担していただき、彼女を私になるべく戻して頂けると嬉しいです」
どっと笑い声と歓声が上がった。恥ずかしくて顔も上げられない。玖生さんったらあとで怒らないと。余計なこと言わないで欲しい。
「由花さん、ごめんなさいね。玖生ったらもうすぐ結婚できそうだって毎日浮かれて最近饒舌なのよ。もう、本当にどうしようもないわね」
大奥様が隣にいらして、話しかけてくれた。筆頭弟子のひとりとして今日は参加されている。
「はあ……」
私が肩を落とすと、中田さんが来て声をかけてきた。
「ごめん、勝手にこんなの流して。昨日頼まれてさ。メールに添付して送ってきたんだよ。しっかし玖生変わったな。君のためなら何でもしそうだ」
「中田さん。今日は一番いい広間を貸して頂いてありがとうございました。宿泊やこの式典のパーティーの料理など急だったのにもかかわらず本当にありがとうございました」
「いやいや。これからはうちのホテルも織原流に変更しますから」
「ええっ!本当ですか?」
「もちろんですよ。玖生と親友ですからね。無言の圧力が……いや、冗談ですよ。この間の花も素晴らしかったので、会議でそちらにお任せすることで正式に決まりました。よろしくお願いします」
「ありがとうございます。嬉しいです。ああ、皆さんきっと喜ばれます」
「由花、よかったわね。頑張らないとね」
「はい、三代目。頑張ります」
「由花、これからは結婚式の打ち合わせで忙しくなるでしょう。お手伝いさんはそのまま大奥様に派遣していただいているので家に戻れないときは気にしないでね」
「次から次で身体が持たないかも……」
「そうね。だから、最初はお稽古などはしばらく私が見ますよ。家でやるだけだし、花はお手伝いさんに運んでもらうわ」
「……でもやれることはやります。家元になったのに最初から頼っていたら恥ずかしいわ」
「結婚式までは皆さん理解して下さるわ。それに師範の皆さんにお手伝いいただくつもりよ。由花はお待たせしていた分、清家のために全力を尽くしなさい」
「わかりました。よろしくお願いします」
翌週。
海外から戻ってきた玖生さんは成田空港へ迎えに来ていた私を見つけるなり、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。
「ただいま、由花。あー、やっと帰ってきた」
「……く、苦しい、玖生さん」
「ああ、ごめん。由花、やっと一段落ついた。もうこれからは一緒にいられるな」
「お疲れ様。式典のビデオ、恥ずかしいこと言わないでよ!」
「何が恥ずかしいんだ。仕事を回しただろ?そうだ、ツインスターホテルも仕事回してくれるそうだぞ」
「うん、中田さんから聞いたわ。全部玖生さんのお陰ね。ありがとう、皆を代表してお礼をいいます」
「そうか。じゃあ、たくさんこれからお礼をもらうとするかな」
歩きながら私の耳元で呟いた。
「……今日は家に帰さない」
「ええ?」
「結婚式の話もあるし、今日は由花を泊まらせると話してある。実家はお手伝いさんに泊まってもらうから安心しろ」
恥ずかしくて一緒にいる秘書の人の顔が見られない。
「玖生様、別人のように甘くなられましたね。見ていられません」
すると、秘書の人がここで失礼しますと笑いながらいなくなった。
「……甘いのは由花にだけだぞ」
そう言うと、手を握られて引っ張られた。
「これからはずっと一緒だ、未来の奥さん」
「はい、私の未来の旦那様……」
ふたりは荷物カートを壁にして曲がり角で隠れるようにキスをした。
fin.
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