107 / 151
<ジルベール>恋愛ルート
25
しおりを挟む準備は出来たが、足が重い。ドアノブに手をかけようとしたが、出来ずにまた戻す。
―― どんな顔して、会えば良いんだ
バクだろうが付き合うという事実は、存在する。一体どんな顔――いや顔は何時も通りか。モブであるから表情差分が、極端に少ない。内心で何を考えてようと、基本的に俺の表情は無愛想なままだ。
―― よし、行くか
心の内が表情に出ない。何時もならもっと愛想良い差分がほしいと思うところだ。けど今回に関しては、良いのかも知れない。
大体此処でぐだぐだ悩んでも、どうしようもない。俺は講義を受けたいから、サボるなんて選択肢はないんだ。
―― よし
また決意を込めて手を上げて、扉を開けると何かぶつかった音が聞こえた。
「なにをしているんだ」
扉は外側に開く。庭なんてないから、開けたら直ぐ道路だ。だから開けたら人にぶつかる可能性はゼロではない。もしや通行人にぶつかったかと思えば、なぜか顔を覆っているジルベールがいた。
「大丈夫か」
「うん、大丈夫。ごめん」
一歩遅れてジルベールの顔面に、扉をぶつけたことに気付く。悪いと思ったが、なんで玄関の扉が開いたらぶつかる距離にいるのかという疑問が湧いてくる。方向的に真正面を向いているから、通行の途中ではない。扉の前に、立っていたことになる。
―― 本当になにしてたんだ?
再度疑問が湧いたが、確認はあとにすることにした。ジルベールの高い鼻が赤くなっている。冷やすのが先だ。
「あのレイザード」
「冷やしているから、少し待て。動くな」
術を構築して氷を作る。薄くしてからジルベールの鼻にあてた。あまり冷たくしすぎると、逆効果になるから気を遣う。
「もう大丈夫だから、手を離してくれると……」
「手を当てていたほうが、微調整がしやすい。我慢しろ」
鼻に手を当てられたままの状態が、不満なようだ。ただ訓練の時のように氷を作って、あとは攻撃っていう大雑把なのと違うんだ。皮膚という人体にあてているから、冷やしすぎて凍傷という結果にもなりかねない。
―― 加減、間違えたか?
これでも細心の注意を払ったつもりだった。だがジルベールの顔全体が、赤い。冷やしすぎを通り越して、凍傷を起こしてしまったのだろうか。
赤くなった鼻を冷やすつもりが、顔面凍傷にまで悪化してしまった。加減を間違えたでは済まない。どうすればいいんだ。医者か薬か。凍傷の応急処置って、どうすればいいんだ。
―― なんてことだ、いや待て
混乱しながら術を解いて、気まずげに視線をそらしたジルベールに盛大に勘違いをしていたことに気づく。これは照れて顔が、赤くなっているだけだ。
―― ああ、なんと罪深きバグなのか
ジルベールは現在バグのせいで、俺を好きだと思い込んでいる。というかジルベールにとっては、それがバグのせいだとか関係ない。事実だ。
忌々しいバグに、腹が立つ。思わず舌打ちをしたい気分になったが、なんとか堪えた。ここでそんなことをしたら、ジルベールが悪いほうに誤解する。
「気安く触って、悪かったな。嫌だったろう。許せ」
バグだからと言って、好きな相手にいきなり触られたようなものだ。奥手のジルベールには、あまり歓迎すべき事案じゃない。素直に謝ろうと思ったのに、なぜこう不愛想な物言いになってしまうのか。
「嫌じゃない! 違うんだ、えっとその、ごめん。慣れてなくて……ああ、すごく格好悪い」
離そうとした手をつかまれる。不快ではなかったらしい事に安堵したのだが、声が萎んでいき最終的には肩が落ちてしまった。なんというか凄く落ち込んでいるように見える。
―― なんというか
画面の外から見ていたジルベールと、本当にイメージが異なる。外側から見ていた時は、主人公相手にいつも余裕があって取り乱すことなんてなかった。
けど此処にきて前より親しくなって、知らない面を多くみてきた気がする。あきれる位に良いやつでお人好しなところもあって、行為を向けた相手には超がつく奥手だ。まったくイメージが異なる。
―― それでも嫌じゃないけどな
感じるのは不快なものじゃない。好ましいって思うことだって多かった。
「安心しろ。お前はどんな状態でも、格好良い」
いろいろと世話になったし迷惑もかけた。それでも呆れることもなくいてくれた。そんなジルベールに自信を取り戻させるために、口にしたことを否定する言葉を伝える。
―― また、間違ったな
目を見開いて、さらに顔を赤くしたジルベールを見て、また対応を間違ったことに気づいた。
67
あなたにおすすめの小説
流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
神様は身バレに気づかない!
みわ
BL
異世界ファンタジーBL
「神様、身バレしてますよ?」
――暇を持て余した神様、現在お忍び異世界生活中。
貴族の令息として“普通”に暮らしているつもりのようですが、
その振る舞い、力、言動、すべてが神様クオリティ。
……気づかれていないと思っているのは、本人だけ。
けれど誰も問いただせません。
もし“正体がバレた”と気づかれたら――
神様は天へ帰ってしまうかもしれないから。
だから今日も皆、知らないふりを続けます。
そんな神様に、突然舞い込む婚約話。
お相手は、聡明で誠実……なのにシオンにだけは甘すぎる第一王子!?
「溺愛王子×お忍び(になってない)神様」
正体バレバレの異世界転生コメディ、ここに開幕!
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜
陽七 葵
BL
主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。
この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。
そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!
ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。
友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?
オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。
※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
最可愛天使は儚げ美少年を演じる@勘違いってマジ??
雨霧れいん
BL
《 男子校の華 》と呼ばれるほどにかわいく、美しい少年"依織のぞ"は社会に出てから厳しさを知る。
いままでかわいいと言われていた特徴も社会に出れば女々しいだとか、非力だとか、色々な言葉で貶された。いつまでもかわいいだけの僕でいたい!いつしか依織はネットにのめり込んだ。男の主人公がイケメンに言い寄られるゲーム、通称BLゲーム。こんな世界に生まれたかった、と悲しみに暮れ眠りについたが朝起きたらそこは大好きなBLゲームのなかに!?
可愛い可愛い僕でいるために儚げ男子(笑)を演じていたら色々勘違いされて...!?!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる