BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月

文字の大きさ
39 / 151

39<シーディス視点>

しおりを挟む
<シーディス視点>

「…………」

 やたらと重い瞼を、開けると雲一つない青空が広がっているのが見えた。
 重だるく感じるのは、瞼だけじゃない。指一つ動かすのに、やたらと時間がかかった。
 霞がかかったような意識が、清明になったとき痛みを無視して起き上がる。 

「レイザード!」

 意識せずに、声が出た。
 全身が悲鳴を上げている。だが今そんなことに、かまっちゃいられなかった。
 
「レイザード……」

  すぐ横で仰向けに倒れているレイザードの、状態を確認する。

 ――生きている

 浅い呼吸が確認できた。

 全身から力が抜けそうになるのを、足に力を入れて堪える。横抱きにして、抱きかかえる。予想していたよりは、状態は酷くない。だが治療が必要な状況だ。

 抱きかかえると熱傷により傷が、強い痛みを発する。

 ―― こんなもの、どうってことないだろう

 痛みを感じているということは、生きている証拠だ。過去に何度も、自分に言い聞かせた言葉を心中で繰り返す。死ねば痛みさえ感じることが出来なくなる。ならばまだ最悪ではない。
 生きている。彼も俺も生きているのだから、ならば死なぬようにもがくだけだ。

 普段から軽くはない足取りが、足枷をつけられたかのように重い。だがあの頃よりマシだ。あの頃は俺に、希望など欠片もなかったのだから。

 利によって動く。そんな俺が、一つの光を心の拠り所にして生きてきたと知られたのなら周りはどんな反応をするのだろうか。
 そんなどうでもいいことを、考えて痛みを誤魔化し重い体を引きずるように街を目指した。




「ギルド長!? どうされたのですか!」
「今日会う予定の、客はまだいるか?」

 騒ぎになるのは、レイザードにとっても良くない。裏口から入ると、ギルドの職員が目を見開き駆け寄ってくる。
 答えている時間すら惜しい。聞きたいことを伝えると、うなずき返してくる。

「はい時間通りにいらっしゃって、まだお待ち頂いていますが」
「そうか……今見たことは、内密にしろ。上にも来るなよ。命令だ」
「わかりました」

 そこそこ務めて長い職員だ。命令と口にすると、表情を引き締めて了承の意を示してくる。

 ―― 帰ってなくてよかった

 約束の時間を、とうに過ぎている。機嫌を損ねて、帰っていてもおかしくない。
あいつが止まっている宿と、ギルドどちらにいるかは賭けのようなものだった。だがどうやら俺は、賭けに勝てたらしい。

「ギーニアス!」

 両の腕は彼を、支えているためドアノブを開けることが出来ない。かといって彼を、床に下ろす選択肢はなかった。
 蹴破る勢いで、扉を開ける。露骨な嫌悪をといぶかし気な表情が、珍しく驚愕に染まったのが見えた。



 短い押し問答を繰り返した後に、ギーニアスは部屋を出ていく。ここで横になることができるのは、来客用のソファしかない。
 だから治療のために、ベッドの置いてある部屋に行かせた。
 あいつの腕は、確かだ。任せておけば、彼は大丈夫だろう。
 皮のソファに倒れこむように、体を預ける。
 
 ―― もう少しで、失うところだった

 浅い息を繰り返し、抱き上げながら名を呼び続けても目が開くことはなかった。
 震える手を、きつく握りしめる。

 恐怖を感じたのは、何年ぶりだろうか。

 ―― 恐ろしかった

 彼を、失うかと考えたら恐ろしくてたまらなかった。

 ―― 体が重いな

 そういや俺も怪我を、負っていたんだったか。
 死なない程度に、回復させて先に彼の怪我の治癒を優先させた。だからまだ痛みはある。

「どうして生きてる?」 

 ふと湧いた疑問が、口から出る。
 ドラゴンの攻撃を受けて、行使した術も破られた。それでもなんとかあの子だけはと、覆いかぶさって―― なんでこの程度で、済んでいる。

 熱による火傷だろう。皮膚がただれていた。そして堪えがたい痛みが、存在していた。ブレスで焼かれた痛みは、確かに存在している。

 だが普通ならドラゴンのブレスを浴びて、痛みのある程度の火傷で済むわけがない。だというのに俺の痛覚は、しっかりと機能していた。いくら術で防御したからと言って、あまりにも程度が軽すぎる。
  事態が飲み込めない。助かる筈のない攻撃だった。なのになぜ俺は、軽傷で済んでいる。

 ―― まさかあの状況で……

 きっとそうなのだろう。またあの子に助けられた。でなければ生きていられるはずがない。

 ―― 知らない振りを、するべきなんだろうな

 あの子が、他者に知られたがっているようには思えない。きっと俺を助けるために、してくれたのだろう。ならば問うべきじゃない。
 あの子が望まぬことを、するつもりなどない。何を敵に回すことになろうが、誰と敵対することになろうがだ。

 大して強くない俺は、力をもってあの子を守ることはできないだろう。だが金とそこそこの権力は有している。その力をもって、あの子の為になろう。
 あの子があの子の望む、幸せを手に入れられるように

 ―― それを彼が、望むとは限らないけれどな

 重くなった気分と共に、息を吐く。綺麗ごとだけでは、通用しない世界で生きてきた。そんな世界でのし上がってきた俺の、力に頼るのを彼は望まないだろう。
 体の重さと比例して、気分が下がっていく。

 今の状態じゃしょうがねえのは、わかっちゃいるが体が重くてしょうがねえ。

 ああだが――そんなことは、どうでもいい。あの子が無事なら、それで構わなかった。嫌われようが、必要とされなかろうがあの子が生きている。それだけで十分だ。
 言い聞かせるようにして、横になったまま目を閉じる。


 ―― そういや痕が残るか?

 ふと閉じきる前の視界に移った、皮膚に気がいってまた目を開ける。
 熱傷による外傷だ。痕は残るだろうが、どうでもいい。傷なんぞ、数えきれないくらい刻まれている。ギーニアスの術を使えば、傷など何もなかったように消えるだろう。けれどわざわざ、そこまで力を使わせる必要もない。
傷が残らないようにするのは、商談の時に相手に悪印象を与えないように服で隠れないところだけでかまわないだろう。
 ああでもレイザードが、気に病んだりしないように消したほうがいいだろうか。

 そういえば、彼を怒らせてしまった。あとで謝って、おかないとな。

『なにふざけたことを、言っているんですか?』

 奴隷だった。置いていけ。そう言った俺に、あの子は怒りをあらわにした。表情はわずかに、眉間にしわが寄った程度だ。けれど声には、怒気が含まれていた。

 ―― 優しい子だ

 奴隷だと知っても、助けようとしてくれた。ふざけるなと怒ってくれた。

 ずっと奴隷であったことを、知られることを恐れていた。なのにあの子は、何でもないようにそんな事をと言いきった。

―― なんといって、謝るべきか……

 商談の時なら、考えなくとも出てくる最適な言葉が思い浮かばない。熱で脳みそまで、ゆだって役に立たないらしい。
 だが役立たずの頭を使って、彼への謝罪を考えないと不味い。

 ―― なさけねえな

 嫌われようが、構わない。そんな強がりを吐いたところで、結局はそうなるのが怖いらしい。臆病で滑稽だ。

「おい考え込むのは、あとにしろ。お前の治療は、まだ完璧じゃないだよ。治療を、再開するぞ」

 無遠慮にノックもなしに、扉が開く。この場所で、そんなことをするやつはこいつくらいだ。
 傷む体を動かして、声の下方向に顔を向けるとまるで心の中を読んだような呆れを滲ませた顔をさせたギーニアスが溜息をついた。












しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜

陽七 葵
BL
 主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。  この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。  そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!     ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。  友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?  オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。 ※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

最可愛天使は儚げ美少年を演じる@勘違いってマジ??

雨霧れいん
BL
《 男子校の華 》と呼ばれるほどにかわいく、美しい少年"依織のぞ"は社会に出てから厳しさを知る。 いままでかわいいと言われていた特徴も社会に出れば女々しいだとか、非力だとか、色々な言葉で貶された。いつまでもかわいいだけの僕でいたい!いつしか依織はネットにのめり込んだ。男の主人公がイケメンに言い寄られるゲーム、通称BLゲーム。こんな世界に生まれたかった、と悲しみに暮れ眠りについたが朝起きたらそこは大好きなBLゲームのなかに!? 可愛い可愛い僕でいるために儚げ男子(笑)を演じていたら色々勘違いされて...!?!?

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

処理中です...