BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月

文字の大きさ
54 / 151

54(騎士A視点)

しおりを挟む
 

 王子の部屋から、仕事場に戻るとロヴァルタが視線を向けてくる。何か話でも、あるらしい。
 だがそのまえに、先に口を開く。

「あそこは気を使わないで、本当のこと言えよ。諦めるかもしれないだろう」
「あんな目で見られて言えるか。お前が言えよ」

 贈り主を、告げられぬ贈り物―― そんなものを、あの子が喜んで受け取るとは思えない。いやいや受け取った姿が、目に浮かぶ。
 正直に言えば、王子も少しはまともに……ならないか。

「あのガキと、王子ってどんな関係なんだ?」
「お前はそこまで、しらなくていいよ」

 王子があそこまで、様子が違えばその疑問ももっともだ。けど王子の初恋の相手だなんて、言えるわけがない。

 言ってもいいけど、ものすごく微妙な気持ちになるのは確実だ。俺はとてつもなく、何とも言い難い気持ちになった。
 理知的で、自分がどんな立場にいるのかを理解している。冷静な人だ。そんな主が、好きな子のことだからと別人そのものになるんだ。

「ムカつく奴だな」
「いつものことだろう」

 初恋の子に、会いたいがために警護をおざなりにして会いに行ったなんて知らないほうが幸せだ。お前は幸せだぞ。俺が黙っていることを選択したから、知らずに済むんだからな。
 俺もできる事なら、知りたくなかった。まあ俺の場合は、立場上しらないでは済まないけどな。

「そうだな」
「そこは思ってても、そんなことありませんって否定で返せよ。減給されたいの?」

 こんなに部下想いの俺に対して、当のロヴァルタは可愛げの欠片もない。むかついたので、おちょくることにした。

「痺れ薬と腹を下すのと、茶に仕込まれるのどれがいい?」
「逆に聞くけど、お前はどっちがいいんだ? 希望は一応考慮してやるよ。あくまで考慮だから、希望通りにいかないけどな」

 減給と口にしたからか、遠回しどころか直球に薬を盛ると宣言された。けどそれくらいで、ひるんだりはしない。逆にお前はどっちがいいと聞き返してやる。

 返答は予想の範囲内だったのだろう。ロヴァルタは特に怒りもせずに頬を杖をつき、小首をかしげている。その顔に浮かぶのは、微笑みだ。
これと同じ仕草を、女にやると大体が可愛いと騒がれる。いくら中身が、可愛げのかけらもなくとも女どもには可愛く映るらしい。
 だが俺にやっても、可愛くない部下がニヤニヤ笑っているという真実しか見えない。


「お互いに相手が、次の日休みの時にしてくれ。仕事が増える」
「お前には、相手を思いやる気持ちってものはないわけ?」

 黙々と書類仕事を、こなしていたサルヴァが口をはさんでくる。こいつも可愛げがない。というか俺の部下で、可愛い奴なんて一人もいない。

「お互いに毒を盛る話をしている奴に、思いやり云々と言われたくはない」
「お前の正論で返しくるところ嫌い」
「俺は仕事が残っているのに、くだらない言葉の応酬をしている上司が嫌いだ」

 普通は上司に対して、取り繕ったりするもんだ。堂々と上司に嫌いという部下なんていない。

 ―― まあいいか

 ここで好きだなんて言われても、怖気が走るだけだ。

「ちょっと休憩して、他愛ない話をしているだけだろう? 心に余裕を持てよ」
「余裕なぞ、仕事が終われば自動的に出てくる。つべこべ言ってないで、さっさと手を動かせ。ロヴァルタ、お前もだ。仕事のさぼり癖まで、移ったのか」

 仕上げに俺のサインがいる書類を押し付けながら、ロヴァルタにも呆れの視線を向ける。

「俺は、ここまで酷くないぞ」
「お前らそろいも揃って、上司を敬う気持ちってものをもってないわけ?」
「敬われたければ、それ相応の態度を見せろ。敬意とは、地位に付随するものではない。相手の能力、人格そのた多岐にわたる要因が関わってくる。言っておくが、俺は仕事をさぼって下らん話に時間を割く上司に尊敬の念などいだかない」

 真顔でロヴァルタが、口を開く。続けてサルヴァが、淡々と言葉を紡いでくる。
 ここまで言われるほど、俺は仕事をさぼったりはしていない。むしろ忙しくて、のんびりさぼってなんかいられない。

 それに加えてレイザードがらみで、王子が奇行にはしるから余計に精神的な疲労が増している状況だ。そんなこと分かってるだろうに、こいつらはからかうようにサボりサボりと口にする。書類仕事する前のちょっとした時間がくらい休んでもいいだろうが。

「はいはーい、分かりましたよ。仕事しますよ。まったく可愛くない部下ばかりだな」
「かわいくなくて、結構だ」
「あっ俺も、お前に可愛く思われても寒気しかしないしな」

 可愛げがないうえに、口が減らない。
 対外的には問題があるから、他の目があるときは俺に対して敬語を使う。態度もそれ相応に、取り繕いもする。
 だが俺たちしかいないときは、いつもこれだ。敬いなんて、欠片もない。

 ―― まあ俺らは、特殊だからな

 ほかの騎士共とはちがう。
 王子の顔に泥を塗ることにならなければ、内輪でどんな状態だろうと問題はない。

 脳裏に泥と悪臭に満ちた路地裏が浮かぶ。今じゃあの掃き溜めを、懐かしむ余裕もできた。あのころに比べれば、部下が可愛くないなんて大した問題じゃない。なんせいつものことだからな。

「なに哀愁漂う顔してるんだよ。気持ち悪い」
「休んでも疲れが取れなくなったのか。歳には勝ててないな」
「俺の顔のどこを、どうみて気持ち悪いなんて台詞が出てくるんだよ。あと俺はそんな歳じゃない。お前らと大して変わらないだろうが」

 問題はないけど、ムカつきはする。
 まあいきなりこいつらが、恭しい態度をとったりしてきたら本気で俺の毒殺をもくろんでるじゃないかと疑いたくなるから今のままでいい。

「やっぱムカつくから減給な」
「ふっざけるなよ! そんなことしたらお前の財布から、その分くすねるからな!」

 声の高さを下げて言えば、俺が本気だと感じたのだろう。今度は軽く流さずに声を荒げてくる。

「給料の額と、やる気は直結しない。そんな戯言を言うやつがいるが、俺は直結する。額が減れば、どこかで手を抜くぞ。そうなった場合、周り周って責任がお前に行くことになる」

 普通ならただの冗談だろうと、笑う類のものだ。けどこいつは確実にやる。仕事に支障が出ない程度に、けれど確実に手を抜く。

「堂々と上司の金くすねるとか宣言するな。やるならばれないように、うまくやって見せろって」 
「言ったな。吠え面かくなよ」

 肩を竦めなると、吐き捨てるように返してくる。しばらくは財布を、肌身離さず持っていくことにしよう。

「お前もだ。考えてても上司に、手を抜くっていうな」 
「安心しろ。王子に関わる事では手は抜かない」

 そうか安心だなんて思うわけがない。ようするに俺にのみ迷惑の掛かることで、手を抜くと言ったにも等しい。

「可愛い部下が欲しい……」

 ため息をつき、椅子の背もたれに寄りかかる。
 当たり前だけど、慰めの言葉をかけてくるやつはいない。一人は鼻で笑い、もう一人はなんの反応もしないで書類に視線を落とす。

 本気でどこかから、可愛げがあって気を使ってくれて上司を敬ってくれる部下を連れてくることを考えながら、書類に目を落とした。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

転生したが壁になりたい。

むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。 ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。 しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。 今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった! 目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!? 俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!? 「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」

モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息 就職に失敗。 アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。 自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。 あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。 30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。 しかし……待てよ。 悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!? ☆ ※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。 ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼2025年9月17日(水)より投稿再開 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

処理中です...