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62話(シーディス視点)
しおりを挟む不自然にならないように、他の店の店主にも声をかけながらレイザードの元まで向かう。
声をかけたところで、店の傍にいた男が客だと気づく。謝罪を口にすると、ゆったりとした動作で男が振り返った。
―― なぜお前が、ここにいる
喉元まで出かけた言葉、飲み込み頭を下げた。
青を基調にした簡素な服に、身を包んでいる。生地の質から見ても、大した値段じゃないのは分かった。市場で買い物を、していても何の違和感もない。
だが本来なら、平民の集う市場にいる奴じゃない。
ローエン・ファンブルグ―― 王家の次に、権力を有している。ファンブルグ家の、次男だ。
そんな奴が、なぜここにレイザードの前にいる。
王家の番犬が、一体何をしに来た。
不自然にならないように、奴の視界からレイザードを隠すように動く。
警戒を顔に出さぬように、話を振り探りをいれる。だが一言二言返すと、奴から話を切り上げ背を向けた。
「あのお客さんと、お知り合いですか?」
俺とのやり取りを、疑問に思ったのだろう。首を傾げてレイザードが、尋ねてくる。
余計な心配をかけないように、貴族だとだけ伝えた。
ただの貴族というだけなら、どれだけよかったか。
王家の番犬といわれているファンブルグは、長年王家を支えてきた。支えたと言えば、聞こえは随分と良い。だがあの家が、請け負ってきたのは汚れ仕事だ。王家に仇をなすものを、闇に葬り続ける。
長子は家を継ぎ、次男が裏の仕事を率いる地位につく。それが通例で、国の始まりから王家の闇の部分を一手に引き受けていた。
王家に次ぐと言われている権力と、全てを闇に葬る力をもつ家として長い間恐れを抱かれている。
ただ十年前に、その役目を果たす機関自体がなくなっている。本当のところは、怪しいもんだ。まったく裏も表もない権力者など、どこにもいやしない。それにファンブルグが、今まで築いていた権力の地盤を全くなくすことに是と頷くとは考え難い。表立っていないだけで、どうせ似たようなことはやっているんだろう。
だが当時の王命で、解散させられたということは貴族ではない俺の耳にも届いている。
それでもいまだに絶大な権力を有し、国の中枢に関わっていた。そんな家の奴が、なぜレイザードのところにいる。
―― まさか……
最悪の状況が、頭をよぎる。だがもしバレているのなら、レイザードはもうここにはいない。可能性は低いだろう。
だがならあいつは、何のために此処に来た。
―― 偶然なんて、ありえるか?
あの男が、偶然レイザードの店に買い物に来たとでもいうのか。あいつの立場から考えて、そんなことはあり得ない。
―― 危険だが、探るか……
何かあってからじゃ遅い。後手に回れば、レイザードを守れないだろう。
―― いやまて
下手に動けば、レイザードを巻き込みかねない。今はまだいつでも動けるように、準備を整えるだけに止めたほうがいい。
―― よりによって、ファンブルグとはな
思わず舌打ちを、しそうになったが抑えた。できるだけレイザードの前で、柄の悪いところを見せたくない。奴隷だったことを知られている上に、品のいい育ちでもないからいまさらだろう。だがわざわざ、心象を悪くもしたくなかった。
もし杞憂が、現実になれば骨が折れる。厄介どころの、話じゃない。それでも、引くつもりはない。何があろうと、相手がなんであろうと持てうるすべての力を使い守ってみせる。
俺の光を、傷つけるならなんであろうと容赦するつもりはねえ。
「あのギルド長……」
「どうした?」
下からかけられた声に、怖がらせたりしないように穏やかに返す。
初めてお前に会ったあの日は、同じ高さで視線が合った。ろくなものを、食えてなかったせいでチビだったからな。やせ細った体は、頼りなく見えただろう。
だが今は、違う。お前を守れるくらいの金も立場も、手に入れた。まだ十分とは言えないが、それでも俺はあの頃のように無力じゃねえ。
なにに代えてでも、守って見せる。
―― だからなあ、お前は幸せであってくれ
情けねえからお前が誰かを選んだ時に、心から祝福をしてやれないかもしれない。それでもお前の幸せを、望んでいる気持ちに偽りはないんだ。
―― 長居しすぎか……
忠告だと言ってきたギーニアスの顔が浮かぶ。出来るならもう少し話していたいが、もう移動したほうがいいだろう。
「おやギルド長、お越しだったのですか?」
「ああ、どんな様子が確かめにな。それじゃあな、頑張れよ」
ちょうどいいタイミングで、声をかけられる。
助かった。もう行くべきだと分かっていても、足が重くて動きそうになかった。
心の中で、声をかけてきた男に礼を言う。
表面上は何もかえずに、当り障りのない返事をしてからレイザードに別れを告げた。
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