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<ジルベール>恋愛ルート
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空は快晴で、すがすがしい陽気だ。市場は、いつも通り賑わっている。
―― さあ今日も借金返済のために、頑張るぞ
いつもどおり動かない表情のままで、商品を置いている台の下で拳を握りしめて気合いをいれる。
頭痛がしばらく続いていたけれど、そのあとの体調はすこぶるいい。バグの発生もないから、気分も晴れやかだ。
内面の晴れやかさが、顔面にも反映されてほしいが兆しもない。早々に諦めて、いつも通りに振る舞う。
「どうぞ」
「ありがとう!」
商品を買ってくれたお客に手渡すと、満面の笑みを浮かべて去って行く。
好きな子に渡したいのだと、長いこと悩んでいた。選んでいる間に好きな子が男だったらBLだなとか、妄想してたよこしまな俺とは違い爽やか系のよいお客だった。
残念ながら彼女と言っていたから、妄想は数秒で終わってしまう。
本当はロイと攻略キャラのあれやこれを妄想したいのだが、供給が少なくて横道に逸れてしまった。恵みがないからと言って、別のところに走るなんて腐男子の風上にも置けない。反省しよう。
購入してもらったのは、髪飾りだ。最近考えて商品化した新商品である。考えたのはいいけれど、つけて試す相手がいない。だめもとで旅をしている間に、髪が伸びていたヴァルで試させてもらった。
髪飾りなんて触ったこともないし、作ったこともなかったけれど俺にしては良い出来に仕上がったと思う。
―― それにしても
相変わらずの接客スキルに、溜息をつきたくなる。好きな人にプレゼントするって、言ってるんだ。上手くいくと良いですねとか、応援してますくらい言うべきだろう。どうぞじゃない。せめてもう一言、付け足すくらいしてもいい。
とりあえず頑張って次に、活かすことにして商品を整える。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ……」
お客さんがきた。さあ今度こそ、もう一言付け足そう。そう思ってできずに、動きを止めるはめになった。
理由は単純で、目の前に動きを止める理由がいるからだ。
―― ジルベールのそっくりさん?
目の前で人の良い笑みを、浮かべている長身の男を観察する。
似てる凄く似ている。これで他人ていわれたら、ツッコミいれたくなるくらいにそっくりだ。
違うのは、まず年齢だな。いくつか知らないけれど、確実にジルベールより上だ。
あと――もの凄く胡散臭い
初対面のお客さんに、失礼だと思うけれど仕方が無い。
笑みを浮かべてるだけだ。どこにも、怪しい要素なんてない。ないはずだが、なんていえばいいんだろうか。味方面して近づいてきた奴が、実はラスボスでした的なうさんくささがある。
「俺の顔に、何かついてるかな?」
「いえ、失礼しました」
いくら胡散臭いからと言って、凝視しすぎた。お客さんに対する態度じゃない。素直に頭を下げる。気にしてないと微笑む表情は、やはりジルベールに似ている。けれどやはり胡散臭い。
「商品を見せてもらってもいいかい」
「どうぞ」
見ても良いかと、聞いてきたのに手に取る様子がない。かといって立ち去るわけでもない。
一体何だと考えて、あることに気がつく。この胡散臭い人は、金持ちだ。なんかで聞いたことがある。金持ちは店に行っても、自分で商品をとったりしない。あれをこれを見たいといって、店員に商品をとらせるらしい。
「あの此処は市場なので、ご自分でどうぞ」
「ん? ああ、そうか。すまない」
どうやら考えていたことは、あたりらしい。俺が商品を差し出すのを、待っていたようだ。
金持ちが、下々の市場に来るなよ。なんて言うつもりはない。金持ちだろうがそうじゃなかろうが、商品が気に入ってくれたら作った方からすれば嬉しいものだ。
「ああ、これがいいな。ほら君によく似合う」
「それは、女性ものですが」
髪飾りの一つを手に取ったと、おもったらふざけたことを抜かしてくれた。あげくに、俺の頭にあてがう。
目が機能してないんじゃないだろうか。モブ顔の俺が、女性ものの髪飾りを付けてみろ。事案どころか、事件扱いされるぞ。
「別に男が付けたら、いけないわけじゃないだろう?」
「それは購入された方の、自由ですが。俺は付けませんよ」
「それは残念」
かけらも残念なんて思っていないだろう顔をする。なんだろうか。このそっくりさんは、俺をおちょくりに来たのか。
―― こういう場合は、どうすればいいんだ
前に絡んできた酔っ払いのように、明確に商売の邪魔をされているわけじゃない。あそこまで突き抜けてると、堂々と追い払えるけどそこまで悪質なことをされているわけでもない。
一番対処に困るパターンだな。買う気がないなら他のお客さんに迷惑だから帰れと言えるんだが、あいにいくと今いるのはそっくりさんだけだ。
こういうときコミュ力マックスのジルベールなら、角の立たないように上手く追い払うんだろうな。
―― うらやましい
笑顔でさらりこなす姿を思い浮かべていたら、青筋を浮かべたジルベールがそっくりさんの後ろから現れる。
挨拶くらいするかと口を開こうとする前に、音がするほど強くそっくりさんの肩を掴んだのが見えた。
―― さあ今日も借金返済のために、頑張るぞ
いつもどおり動かない表情のままで、商品を置いている台の下で拳を握りしめて気合いをいれる。
頭痛がしばらく続いていたけれど、そのあとの体調はすこぶるいい。バグの発生もないから、気分も晴れやかだ。
内面の晴れやかさが、顔面にも反映されてほしいが兆しもない。早々に諦めて、いつも通りに振る舞う。
「どうぞ」
「ありがとう!」
商品を買ってくれたお客に手渡すと、満面の笑みを浮かべて去って行く。
好きな子に渡したいのだと、長いこと悩んでいた。選んでいる間に好きな子が男だったらBLだなとか、妄想してたよこしまな俺とは違い爽やか系のよいお客だった。
残念ながら彼女と言っていたから、妄想は数秒で終わってしまう。
本当はロイと攻略キャラのあれやこれを妄想したいのだが、供給が少なくて横道に逸れてしまった。恵みがないからと言って、別のところに走るなんて腐男子の風上にも置けない。反省しよう。
購入してもらったのは、髪飾りだ。最近考えて商品化した新商品である。考えたのはいいけれど、つけて試す相手がいない。だめもとで旅をしている間に、髪が伸びていたヴァルで試させてもらった。
髪飾りなんて触ったこともないし、作ったこともなかったけれど俺にしては良い出来に仕上がったと思う。
―― それにしても
相変わらずの接客スキルに、溜息をつきたくなる。好きな人にプレゼントするって、言ってるんだ。上手くいくと良いですねとか、応援してますくらい言うべきだろう。どうぞじゃない。せめてもう一言、付け足すくらいしてもいい。
とりあえず頑張って次に、活かすことにして商品を整える。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ……」
お客さんがきた。さあ今度こそ、もう一言付け足そう。そう思ってできずに、動きを止めるはめになった。
理由は単純で、目の前に動きを止める理由がいるからだ。
―― ジルベールのそっくりさん?
目の前で人の良い笑みを、浮かべている長身の男を観察する。
似てる凄く似ている。これで他人ていわれたら、ツッコミいれたくなるくらいにそっくりだ。
違うのは、まず年齢だな。いくつか知らないけれど、確実にジルベールより上だ。
あと――もの凄く胡散臭い
初対面のお客さんに、失礼だと思うけれど仕方が無い。
笑みを浮かべてるだけだ。どこにも、怪しい要素なんてない。ないはずだが、なんていえばいいんだろうか。味方面して近づいてきた奴が、実はラスボスでした的なうさんくささがある。
「俺の顔に、何かついてるかな?」
「いえ、失礼しました」
いくら胡散臭いからと言って、凝視しすぎた。お客さんに対する態度じゃない。素直に頭を下げる。気にしてないと微笑む表情は、やはりジルベールに似ている。けれどやはり胡散臭い。
「商品を見せてもらってもいいかい」
「どうぞ」
見ても良いかと、聞いてきたのに手に取る様子がない。かといって立ち去るわけでもない。
一体何だと考えて、あることに気がつく。この胡散臭い人は、金持ちだ。なんかで聞いたことがある。金持ちは店に行っても、自分で商品をとったりしない。あれをこれを見たいといって、店員に商品をとらせるらしい。
「あの此処は市場なので、ご自分でどうぞ」
「ん? ああ、そうか。すまない」
どうやら考えていたことは、あたりらしい。俺が商品を差し出すのを、待っていたようだ。
金持ちが、下々の市場に来るなよ。なんて言うつもりはない。金持ちだろうがそうじゃなかろうが、商品が気に入ってくれたら作った方からすれば嬉しいものだ。
「ああ、これがいいな。ほら君によく似合う」
「それは、女性ものですが」
髪飾りの一つを手に取ったと、おもったらふざけたことを抜かしてくれた。あげくに、俺の頭にあてがう。
目が機能してないんじゃないだろうか。モブ顔の俺が、女性ものの髪飾りを付けてみろ。事案どころか、事件扱いされるぞ。
「別に男が付けたら、いけないわけじゃないだろう?」
「それは購入された方の、自由ですが。俺は付けませんよ」
「それは残念」
かけらも残念なんて思っていないだろう顔をする。なんだろうか。このそっくりさんは、俺をおちょくりに来たのか。
―― こういう場合は、どうすればいいんだ
前に絡んできた酔っ払いのように、明確に商売の邪魔をされているわけじゃない。あそこまで突き抜けてると、堂々と追い払えるけどそこまで悪質なことをされているわけでもない。
一番対処に困るパターンだな。買う気がないなら他のお客さんに迷惑だから帰れと言えるんだが、あいにいくと今いるのはそっくりさんだけだ。
こういうときコミュ力マックスのジルベールなら、角の立たないように上手く追い払うんだろうな。
―― うらやましい
笑顔でさらりこなす姿を思い浮かべていたら、青筋を浮かべたジルベールがそっくりさんの後ろから現れる。
挨拶くらいするかと口を開こうとする前に、音がするほど強くそっくりさんの肩を掴んだのが見えた。
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