あなたの月 8月

渋谷かな

文字の大きさ
40 / 72

長月とドック

しおりを挟む
「zzz。」
 九月長月。趣味は寝ること。どこででも。
「ワン?」
 犬が道端で捨てられている人間? 眠っている長月を見つけた。
「ワン。」
(遭難者か。助けなければ。)
 犬は長月をくわえて道を引きづり交番にたどり着いた。
「ああ~長月ちゃんか。この子は寝ているだけだから大丈夫。」
「ワン?」
 犬にはお巡りさんが何を言っているのか分からなかった。
「ほら、見ていてごらん。寝ながらでも自宅に歩いて帰るから。」
「ワン!?」
「zzz。」
 寝ている長月がゾンビか、キョンシーのように動き出した。
「zzz。」
「ワン。」
 心配な犬は長月についていくことにした。
「zzz。」
 赤信号は止まり、バイクが来ては道端に退避する長月。
「ワン!?」
(こいつはいったい何者だ!? 神だ!? 神に違いない!?)
「zzz。」
 寝ている長月は無敵だった。
「zzz。」
 授業中や自宅では睡眠学習。
「zzz。」
 もちろんテストの点数は100点満点。
「zzz。」
 結果、寝ている長月は完全無敵なのであった。
「zzz。」
「ワン。」
 長月は家に着いた。犬も長月について家にあがる。
「おかえりなさい。長月ちゃん。」
「zzz。」
 出迎えた母親も寝ている娘に慣れているので、別に気にしない。
「ワン。」
「あら? かわいいワンちゃん。きっと娘のことが気に入ったのね。」
「ワン。」
「そうね。眠りながら外を歩くって危ないから、盲導犬の一匹でも飼おうかしらと思っていたのよね。ちょうど良かったわ。」
 長月の母親は、眠っていてもテストの点数が100点、無事に家に帰って来るので、特に娘に疑問を抱くことはなかった。
「娘のことをよろしくね。ワンちゃん。」
「ワン。」
 こうして犬は長月家の一員として迎えられたのであった。
「zzz。」
 長月は服を着替える時も、ご飯を食べる時も、お風呂に入っている時も寝ていた。
「はあっ!? 今!? 何時だ!?」
 そんな長月が目覚めた。
「ワン!?」
 長月が目覚めるということは天と地が逆転するくらいの衝撃、世界に終わりを告げるインパクトがあった。
「歌番組を見なければ!」
 長月が目覚める理由は歌番組を見るためだった。
「いいな~。私もアイドルになりたいな~。」
 目覚めても夢見る少女の長月。彼女の夢はアイドルになることだった。
「ワン。」
(きっと長月ならなれるよ。アイドルに。)
 犬は長月の夢を応援するのだった。
「ウワアアアアアー!? 犬がいる!?」
 やっと初対面の長月と犬。
「ワン。」
「・・・・・・そうか、そうか。おまえも私がアイドルになれると言ってくれるんだな。カワイイ奴だ。飼ってあげよう。」
「ワンワン。」
 こうして長月にも受け入れられた犬は大変喜んだ。
「そうだな。名前を付けなくっちゃな。アイドルらしく、zzz(トリプルz)はどうだ?」
「・・・・・・。」
「犬丸zとか?」
「・・・・・・・。」
 長月のネーミングセンスは残念なものだった。
「分かった! 犬の大先輩から名前をいただいて、ヨーゼフにしよう。バロンでもコロンでもいいぞ。」
「・・・・・・。」
「面倒臭いからドックでいいや。」
「ワン。」
 犬は普通の名前に喜んだ。
「よし! アイドルになるためにユーチューブに歌を投稿だ!」
 現代人の発想は同じだった。
「ガーン・・・・・・。」
 しかし長月は音痴でファンはできなかった。
「zzz。」
 真夜中。
「ワン、ワン、ワワン! ワン! ワン! ワワン!」
 謎の踊りを寝ながら踊る長月と犬のくせに歌が上手なドックがユーチューブに歌っている所を投稿した。
「はあっ・・・・・・おはよう。ドック。」
 さすがの長月も朝は目覚めるみたいだった。
「ワン。」
 ドックは何かを見せたいみたいだった。
「なに? 私は眠たいんだけど?」
「ワン。」
 ドックは寝ぼける長月にパソコンの画面を見せた。
「なんじゃこりゃ!?」
 珍しく長月の目が完全に覚めた。
「1億人!? 私の動画が1億人の人に見られたというのか!?」
「ワン。」
 といっても寝ている長月の不思議な踊りと、ドックがワンワン歌っている映像なのだが。
「やったー! これで私もトップアイドルの仲間入りだ!」
「ワン。」
 幸運を呼ぶ犬のドックと長月は不思議な眠り姫であった。 
 つづく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...