滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢

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01 旅の始まり

死んだ目の幼女

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 白い部屋で目覚めた。
 またかと思いながら、体を起こす。

 でも今回は霧の中ではなかった。
 体の下にはベッドがある。

「お……いいじゃんこれ、あったかい」

 思わず呟いてから、妙なことに気がついた。

 
 視界に入る手足が、めちゃくちゃ小さい。
 聞こえる声が、めちゃくちゃ高い。


「……は?」

 頬を突いてみる。ぷにっ、と跳ね返るような感覚。

「えっ、え、ええ!?」

 声が超高い。


 慌てて跳ね起きて、部屋を見渡す。鏡、鏡……

「か、鏡ないの!?」

 声に出した瞬間、何もなかったはずの壁に鏡がかかった。
 その前に走っていって、自分の姿を確認する。


「よ……幼女」

 鏡の中には、唖然として床に膝をつく、推定6歳くらいの幼女が映し出されていた。

「な、なんで幼女?」

 確かに、自分の年齢も性別も見た目も名前も何もかも覚えてないけども、だからといって幼女ではない。

 絶対に、幼女ではない。


「えぇ、おいおい嘘でしょ幼女て……」

 顔を眺めてみる。
 金髪ロリというわけではなくて、髪も目も黒かった。

 あと目が死んでいた。ジト目というやつだ。

「……元気のない子供だなー」

 と、可愛い声で幼女が言った。


 でもいつまでも驚いているわけにもいかない。
 周囲を確認してみようか。

 部屋の大きさは3メートル四方くらい。
 特別広くもないが、嫌気がさすほど狭くはない。
 
 照明はないが部屋は明るい。

 明るいといえば窓がない。

「ベッド、鏡だけ……ドアもない」


 異世界は異世界でも、脱出ゲームの世界とは聞いてないんだけど。
 イラッとしながら、しかし思い立って、口に出してみた。

「外に出るためのドアがほしい」


 グイン、と部屋の壁が歪んだ。
 次の瞬間、その場所には白いドアがあった。

「……なるほどね」

 つまりこの部屋では、自分が望んだものが出てくる。
 わたしは周囲を見渡した。

 部屋の形はきれいな立方体に見える。


「大きな天窓、クローゼット、ツナマヨおにぎり」

 天井の約半分がガラスに変わり、壁際にクローゼットが現れ、おにぎりが空中に現れ、床に落ちた。

「……なるほど?」


 壁だけでなく天井も自由に操作でき、家具はそれとなくいい感じの場所に勝手に収まり、食べ物も出てくる。

 空中に現れるが、すぐに重力に従って落ちる。

 おにぎりを拾って食べてみると、確かにツナマヨおにぎりだった。
 うまうま。

 口が小さいみたいで、ちょっとはみ出したけど。
 うまうま。


「肝心なのは、これが自分の能力なのか、部屋の能力なのか」

 はみ出たマヨを手の甲で拭いながら、呟く。
 キリッとした顔が鏡に映って、すぐ真顔になった。

 小さなお腹は膨れているので、食物としての能力はあるのだろう。


「うーん……」

 天窓を見上げてみると、そこには木の葉が見えた。
 木漏れ日が差しているので、今は昼間だと分かる。


「……ところで、わたしは女の子なんだよね?」

 呟いてみたが、当然ながら返事はない。


「ステータスオープン!」

 いつか読んだラノベの真似をしてみた。
 ……やはり反応はない。


「あー、えっと、わたしのプロフィール! ……が書いてある手帳!」

 ……反応はない。

 
「……なるほど?」

 見たところ、わたしには家族も同居人もいなさそうだし、名前も年齢も不明というわけだ。


「……まあいっか。一人でいる間は、名前とかいらないし」

 名前なんて、必要になったら自分で考えればいい。

 しばらくは一人でいたいと考えていた。
 どうしてかは分からないけれど、とにかくそう思った。


「この世界の靴と服! ええと、子供用!」

 元々着ていた、頼りないワンピースの代わりの服が現れる。
 
 それは案の定、わたしの知っているTシャツとかじゃなく、厚くて重たい布でできていて、ベルトがついていた。


「結構似合ってる……かな」

 せっせとそれに着替えて、それから付属していたブーツを履てみた。

 紐靴は、履くのは面倒だったけどかなり格好がいい。
 
 鏡の前で回ってみて、なるほど、我ながら可愛い。
 目が死んでるけど。


「……外、しらべてみるかぁ」

 天窓から見える木の葉は見知った緑色だった。
 しかしその木には白い球体が実っていた。

 それは発光しているらしく、逆光でも輝いて見える。


 そろそろとドアノブに手をかける。

 不安と期待が半分半分。

 外の森に出ると、ばぁっと視界が開けた。

 ものすごく眩しく感じて目を覆ってしまったけど、実はそうでもなかった。


「……すごい」

 そこは間違いなく異世界だった。


 窓から見えただけでは普通に見えた木は、こうして見ると明らかに形が変だ。

 まるで草みたいに地面から無造作に生えていて、木の実らしき光る白い球がところ構わずくっついている。

 リンリンリン、とそんなはずもないのに鈴の音みたいな不思議な音が聞こえた。
 

 なんて綺麗なんだろう。

 降り注ぐ木漏れ日が、木の実の光と混ざっている。
 
 まるで海の底にいるようだ。
 光は水面越しの砂浜みたいに揺れている。

 複雑に絡む枝葉は軽く、僅かなそよ風すら克明に描き出している。

 鈴の鳴るような音は、木の実が鳴っているのだとすぐに気づいた。
 その音は高いのに不思議と芯に響き、体が暖かくなるような感じがする。

 頭のてっぺんから爪先まで、トウトウと何かが流れている。

 なんだか目の前がふわふわして、気持ちがいい……

「グルォオオアアア!」
「ふぁっ!?」

 とんでもない鳴き声に、わたしは生存本能のままに背後の扉に飛び込み、バタンと閉めた。

「ギャアアアア!」

 物凄い叫び声と共に、ドンッと部屋が揺れる。

 天窓から見えたのは、5メートルはありそうな巨大な爬虫類だった。

「……ま、まじ、か」

 たぶん魔獣とかいうやつだろう。
 異世界に恐竜がいるとは知らなかったけど。
 
 それは鋭い牙を使って、なんとかガラスを破ろうとしていた。
 ドンドンと部屋は揺れたけど、全く壊れる気配はない。


 やがて魔獣は悔しそうに諦めて、去っていった。


 わたしはしばらく呆然としていたが、どうやらこの部屋はとてつもなく安全なシェルターなのだと気がついた。

 何しろ、食べ物は無限に出てくるし、巨大な魔獣の襲撃にも耐えられる。
 

 なんなら世界の終わりが来ても生き残れそうだ。
 それはないか。

「あ、そういえば、時計、見たい」

 時計が現れた。
 わたしの知っているアナログ時計と同じ文字盤だったけども、電池とかで動いているわけではないらしい。

 しかもなんかギィギィ音を立てている。

 それはおよそわたしの知っている時計と同じくらいのスピードで、秒針が動いていた。


「え、あ、うわっ」

 バキ、と音がして、私は小さく悲鳴を上げた。

 短針が吹き飛んでいた。

 わたしの扱いが悪かったのか……?
 
 
 あの天使のいうことが正しければ、恐らく世界の終焉は、あと1年と17日と、半日くらいで訪れる。

 余命宣告は三ヶ月前と相場が決まっているけれど、世界の余命は一年前に宣告されるらしい。


 一年となると、ずっとここにいるにしては暇すぎる。

 死ぬ前にやりたいことをやるっていうのは、余命宣告にありがちな展開だ。

 わたしもそれにならってみようか。


「でもなー、やりたいこと、かー」

 パッと思いつくのはやはり魔法だ。
 異世界に来たのだから、やっぱり魔法は使いたい。
 

 わたしはドアをそっと開けて外に出て、外に向かって叫ぶ。

「ツナマヨおにぎり!」

 ……反応はない。


 すぐに部屋に引っ込む。

「ツナマヨおにぎり!」


 また出た。わたしは落ちる前にキャッチする。
 
 どうやらこの部屋にぽんぽん現れるツナマヨおにぎりは、わたしが出しているわけではなく、やはり部屋から出ているだけのようだ。
 
つまりこれは私の魔法じゃない。


「……魔導書! あー、魔術書! 魔法の教科書!」

 ……反応はない。


「ツナマヨおにぎりのレシピ!」

 ……反応はない。


「地図!」

 ……反応はない。


「……魔法使いの杖!」

 部屋の中央に、長さ1mくらいの木の棒が現れた。

 しかしそれは床に落ちることなくその場に留まり、数秒後に跡形もなく消えた。


「……どうしても魔法を使わせたくないんだ?」

 まず、魔術書とレシピ、地図が出て来なかった理由は、多分それが情報を含んでいるからだと思う。

 この部屋は私の望むものをなんでも出してくれるけど、情報を含むものは出せない。
 
 そして魔法の杖は、多分それとは違う原理で出て来ない。


「……ねえちょっと、なんで肝心の魔法が使えないの?」

 杖に関しては、明らかに「出せない」のじゃなく「出さない」という意志を感じた。

 できないなら仕方ないけど、やる気がないのはムカつく。

 でも鏡の中で幼女が頬を膨らまし、腕組みしているのを見て、なんだか力が抜けた。


「はぁ……あ、そうだ。拳銃」

 ……反応はない。


「銃も駄目なの? じゃああの外の化け物をどうしろっていうの!」

 ……反応はない。


「はー? じゃあ武器! 今わたしが使える中で、一番強い武器!」

 ポンっ。トンカチが現れた。

 わたしは手に取って振ってみたりしたけれど、ただ重いだけの、普通のトンカチだ。


「……死ぬのはいいけど、あんな恐竜に食べられるのは嫌なんだけどー!」

 ……反応はない。


 私はムキーッと大きな声を上げた。

 でもやっぱり反応はなくて、それが虚しくて沈黙した。
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