滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢

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02 出会いと別れ

魔力戦術

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 およそ予定通りに、高原には到着した。

 昼過ぎに着いたのだが、霧が濃く、肝心の景色は見えない。


「早朝なら晴れるから、ぜひ展望台にお立ち寄り下さい。それか、もしお花が好きなら天空の花畑に。早朝の花畑は、朝露に濡れて本当に美しいので」

 ギルドのお姉さんは、わたしにそう言った。


「スズネさんも討伐に参加されますか?」
「え、えっと、一応」

「そうですか。現在遺跡の方では、ギルドの方でキャンプを運営しておりますので、ぜひそちらをご利用ください。他に御用件は?」

「あ、あの……よければ装備とか、資料を見たいんですけど」
「地下階にございますので、ご自由にどうぞ」


 高原のギルドは石造りの立派な建物で、確かにコムギ村のギルドとは全てが異なっていた。

 建物は立派で、窓口は一階から二階までずらっと並び、人も多い。


 わたしは人酔いでふらふらになりながら地下階へ向かった。

 アリスメードさんに、勝手にギルドから離れないように釘を刺されている。


「……静かだ……」

 地下階には、意外と人が少なかった。
 
 資料室、保管庫、倉庫、武器庫等々あって、ほとんど鍵がかかっていたが、不用品置き場みたいな場所もあって、そこは開いていた。


「……失礼しまーす……」

 ご自由にどうぞという表示の裏に、少数の装備が置いてあった。


「あ、カバン」

 それはちょっと古くて小さい手持ちカバンらしかったけど、肩にかけるとちょうどいい大きさだった。

 穴も開いていないみたいだし、ちょうどいいから貰っていこう。


 しかしわたしが一番欲しかった鎧系は、あるいにはあるけどサイズが合わない。

「やっぱり、子供用はないよね……」

 大体が買い替えの時の中古品なので、汎用品のサイズばかり。
 女性用すら滅多になく、誤魔化して着るにはなかなか厳しいものがある。


 わたしは諦めて、武器の方を手に取り始めた。

「ナイフ、剣……うーん……長いのはないのかな、長いのは…………ないか」

 今持っているロッドよりも惹かれるものはなさそうだ。
 バッグだけでも十分収穫だったので、全然いいけど。


「スズネー、お待たせ!」

 振り返ると、レイスさんがいた。

「もう終わったんですか?」
「うん、ギルドも忙しいみたいだしねー、アリスが出迎えはいいって言ったから」

「出迎え? 出迎えなんてあるんですか?」


「うんうん、Aランクのパーティだからねー、どこ行っても歓迎されるよ! 特にこの高原ギルドは、あたしたちのホームだしね!」

 もしかしてこの人たち、思った以上にすごい人たちなのかもしれない。


 わたしはそんなようなことを思って、ふとレイスさんに尋ねた。

「レイスさんって魔術師なんですよね」
「そうだよー」

「わたし、魔術師に向いてると思いますか?」
「スズネちゃん? うーん……大きくなってからならいいと思うよ!」

 手放しに応援してくれると思ったら、意外と条件付きだった。

 わたしが大きくなる頃には、もうこの世界はないんだけどなあ。


「どうしてですか?」
「うーんとねー……ちっちゃいときだと、得意な属性とか変わったりするかもしれないし!」

 レイスさんはそう言って、その辺に置いてあった剣の柄を握った。


「魔術師は、大人になってからが本番だからねー! 小さいときに無理しなくても、大人になってから十分目指せるよ! それより、こういうので剣術とかを習って鍛えた方がいいよ?」

「剣……ですか?」


「そうそう! あたしは魔術しかできなくって、体力もなかったから、パーティ探すのにすごく苦労して。だからヤバイって思って、それから頑張ったんだ!」

「でもわたし、今すぐ強くなりたいんです」


「今すぐー? そんなに焦らなくてもいいと思うけどなぁ。じゃあねぇ、魔力戦士とかはどう?」

「魔力戦士?」
「魔術とか魔法で補助しながら戦うんだよー!」

 レイスさんは、楽しそうに拳を振るうようなジェスチャーをして言った。


「フェンネルに聞いたら分かるんじゃないかな、さっき暇そうにしてたし、訓練場行こうよ! 3人で特訓しよっ!」

 レイスさんはタタタッと階段を駆け登る。

「早く!」

 また人混みの中に入るのはちょっと嫌だったのだけど、稽古をつけてもらえるならありがたいし、わたしはレイスさんに着いていくことにした。


「フェンネルー!」
「……何」
「スズネに教えてあげてよ!」
「……何を?」

 呼んでもいないのにフェンネルさんは訓練場にいた。
 いつものように長剣を携えている。


「それそれ! スズネは強くなりたいんだって!」

 レイスさんは、フェンネルさんの剣を指してそう言った。

 フェンネルさんは剣を抜き、しばらく首を傾げていたが、「ああ」と言って剣を仕舞った。


「剣術、ってこと?」
「そうそう! 魔力戦士だったら、スズネにも適性があると思うし!」
「あぁ……うん、いいけど」

 フェンネルさんはにべもなく言って、置いてあった木刀を手に持つ。


「そもそも、魔力戦術、知ってる?」
「えっと、いいえ……」
「……見た方がいい。……ねえ、そこの」

 フェンネルさんはおもむろに振り返って、視線の先の男に話しかけた。

 男はどうやら、こちらを窺っていたらしい。
 彼とフェンネルさんはばっちり目があった。
 
「えっ、お、俺ですか?」
「そう。あたしと打ち合わない?」
「もちろんです! ありがとうございます!」


 男は走って来て、それを仲間が「良かったなぁ」なんてニヤニヤしながら眺めている。

「そっちは真剣でいいよ」

 フェンネルさんは木刀を軽く振って感覚を確認しながら、そう言った。


「え、でもそれ、ただの木刀ですよ?」
「魔力戦術で応戦する」

 そう言うと、男は「光栄です!」と言った。

 レイスさんは「やれやれー」とか言って囃し立てている。

「それじゃあ、失礼します!」
「うん。よろしく」


 男はフェンネルさんのものと似た長剣を持っていた。
 
 フェンネルさんはそれを受ける。
 金属の刃に対して木刀が折れる気配がない。

 フェンネルさんは片腕で受けていた。

 相手は両手で、高速の打ち合いというわけではなかったのだけど、フェンネルさんはそのパワーを正面から受けている。

 しばらく打ち合った後、フェンネルさんは受け流し、相手が体勢を崩したところを、剣先で首を突いた。

「ウッ」

 まともに首を突かれた男は呻き声を上げて、2歩引いた。


「うわぁ……クソ……思った以上に、はぁ……強い……です」

 男は悔しそうに呻いた。

 わたしの目から見ても完封だった。木刀であれだけやるなんて、本当にすごい。

 
「魔獣相手なら十分な速度。もうちょっとパワーがあればいいと思う」
「はぁ、はぁ……ありがとうございます」
「魔獣相手の剣術が人間相手に通じないのは当然」

 と、フェンネルさんはそう言って、木刀をわたしに渡した。


 それはわたしにはかなり長くて、見た目より重く感じる。

「魔力剣術、基本。選択とタイミング。攻めるか、守るか、退くか。最初のうちは威力二の次」
「……なるほど」
「身体能力及び武器装備強度属性、魔力を使って強化する。魔獣の硬い爪や鱗を斬るには必須の技術」


 フェンネルさんはそう言って、わたしの持った木刀の剣先を掴む。

「コート・エレメント・クレイ。物質を表面から一時的に変質させる。やってみて」
「コート・エレメント・クレイ」

 木刀の表面を意識し、魔力を這わせて浸透させる。

 バブルやシュートとは違って、もともとある物質を変化させる類の魔術は初めて使うのだけど、そんなに難しくなさそうだ。


「……でき……ましたか?」
「できてる。魔力を切ったら解除される。バブルと一緒。バブルは分かる?」

「あ、はい……スードルに聞きました」

 わたしは、木刀でコンコンと地面を叩いたりしてみた。


「他にも種類がある。風でコートすれば、軽く速くなる。火でコートすれば非物体に当たる。水でコートすれば広く重く、鈍くなる。
「適切な属性を選択して高速で切り替える。慣れるまでは土だけでいい。できるようになったら風を使う」

 フェンネルさんはそう言って、新しい木刀を手に取った。
 それを振り上げ、振り下ろす。


「武器にかける他にも、自分の鎧、靴にかけて硬化させたり軽くするのもできる。慣れないうちは、身体強化はやめた方がいい。また記憶喪失になりたくなければ」

 フェンネルさんはニコリともせず、無表情のまま言った。

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