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04 行商人と目的地
ネコ人魚
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わたしと醤油さんは、小さなボートで近くの小島に向かった。醤油さんが言うには、そこで誰かと待ち合わせをしているらしい。
「きっとスズネさんと仲良くなれると思いますよ」
島には小さいながらもビーチがあって、しかも小さいからか誰もいない。プライベートビーチだ。
超楽しい。
「シュート・エレメント・アクア!」
キースに向かって水鉄砲を打ち出す。
「キー!」
「にゃはは、まてまてー!」
「キー!!」
悲鳴を上げて逃げ出すキースが面白い。
ケラケラ笑いながら後を追いかける。
シュート系は何度も練習したので、もう無詠唱でも撃てる。せっかくだから剣の練習でもしようかと、わたしは鞘から剣を抜く。
「シュート・エレメント……アクア!」
一瞬遅れて、さっきとは比べものにならないくらいの速度と重量で水が発射される。
「キー!!?」
キースは電撃を打ち出して水の勢いを弱め、急旋回して躱した。
ケラケラ笑いながら追撃すると、キースは右に左にヒラヒラ動いて逃げていく。
「まてまてー! あはは!」
「キー! キー!! キーーーー!!?」
ついに命中した。
全身に水を受けたキースは、なすすべなくそのままボトッと海に落ちて波に揉まれる。
わたしはくちゃくちゃで砂まみれになったキースを抱き上げた。
「わたしの勝ち!」
「キー!!!」
「うわっ! ちょっと!」
「キー! キー!」
怒り心頭のキースは、わたしに対して電撃をお見舞いしてくる。
立っていられなくなったわたしは波の中に倒れ込んだ。
「つめたーい! もう、ごめんったら、濡れてるところに電気はダメだって!」
「キー! キー!!」
飛べないキースと立てないわたしでもみくちゃになりながら、遠浅の海で転げ回る。
ああ、海っていいなぁ。
「たはは。若いですね」
近くの木陰で、クスクス笑いながら醤油さんが座っている。
「醤油さんも遊びませんかー?」
「私はやめておきますよ。もうすぐ約束の時間ですし。スズネさんも、こちらへ」
わたしは水で塩水を洗い流してから、風を出してキースを乾かしながら、言われた通り木陰に戻った。
「誰を待ってるんですか?」
「協力者ですよ。じきに来ます。……ほら」
遠くに船が見えた。
漁船みたいな、ヨットみたいな、なんとも表現し難い変わった形だ。
船はあっという間に着岸し、すぐに人が降りて来た。
「チャオ!」
苦手な人だ。わたしはすぐに醤油さんの後ろに隠れる。
「あら、怖かったですか?」
「怖がらにゃいで! 見た目は怖いけど、悪いことはしにゃいから。はじめまして、ダイバーのリンだよ」
第一声で苦手判定をしてしまったリンさんだったが、悪い人ではなさそうだった。
わたしは半分だけ体を覗かせる。
ネコみたいなキャラとは裏腹に、その見た目はネコとは程遠い。
手足は細長く、靴を履いていない。
広げた手の指の間には、見紛うことのない水掻き。
開いた口の歯は間違いなく草食動物のそれで、傾げた首がパックリと割れてエラみたいなのが見える。
表情は少し困ったような感じで、わたしを見ていた。
ボーイッシュだけど背格好は小さく、大きな目をしていて、そこだけはネコらしい。
「この度は、リンのダイビング・ツアーにご参加いただき、ありがとうございにゃす」
「ダイビング……?」
「さっそく船に乗ってほしいにゃ。最高のスポットにゃで連れていくよ」
リンさんの背中には、よく見ると魚の鰭みたいなものがついていた。体は薄い鱗で覆われている。
「最高のスポットはいいんですが、お約束をお忘れですか?」
「あぁ……いや、もちろん忘れてにゃい。でも、こっちも約束したよにゃ? あの海域は危険じゃにゃいけど、深海に行くには護衛が必要にゃんだって。もちろん、リンの人魚の血を8倍にしてくれるなら、話は別にゃんだけど」
「クウォーターのハーフにしては、相変わらずやや先祖返りが過ぎますね。いえ、その話はよしましょう。護衛ならここにいますよ、子猫さん。私の頼れる友人です」
そう言って、醤油さんはわたしの首根っこを掴んで前に出した。
「えっ?」
「にゃ?」
わたしもリンさんも同時にびっくりして、お互いの顔を見合わせる。
ニコニコしているのは、醤油さんだけだ。
「いやいや、こんにゃ……子供? いやいやいや、あり得にゃいあり得にゃい」
「彼女は手練れですよ、リン。少なくとも陸上では」
「陸上のことは知らにゃいけど、水中はにゃれてるのかにゃ?」
「今から鍛えるんですよ。たはは」
「にゃーにを言ってるのか分からにゃいにゃー」
「何を言ってるのか分からないのはこちらですよ。ああいえ、毒づいたわけではないです。……たはは、護衛を雇うにも高くつくんですよ。その点彼女はタダで働いてくれます。その上才能があり、ツアー代金は子供料金。足りない実力は、後からついて来ますよ」
なんだかとんでもないことを言われているような気がしながら、わたしは船に乗った。
キースはブスッとしていたが、その毛並みはとんでもなくふわふわだ。
「リンさんと醤油さんはお知り合いなんですか?」
「んにゃ?」
「ええ、まあそうですね。リン、彼女は私の友人、兼護衛のスズネです」
紹介されたわたしは、リンさんに手を差し出す。
小柄な彼女は、握手に応えた。
手の平はしっとりと濡れている。
「スズネは冒険者にゃん?」
「あ、はい。そうです」
「ランクは?」
「ランク?」
「冒険者ランクだにゃ」
そういえばそんなものあったなぁ、とか思ったけれど、実際今自分がいくつなのかは確認していない。
特定のランクしか泊まれない宿があるから、そのタイミングで確認するのだけど、今回は醤油さんの紹介で宿を決めたし。
「えっと……たぶんDランクだと思うんですが……」
「新人じゃにゃいか!」
「伸びしろがありますよ」
「伸びしろじゃ命は救えにゃい!」
ともっともなことを言いながら怒るリンさんに、微笑み続ける醤油さん。
「リンは、私の友人というわけではありませんが、お得意様ですよ。若く見えますが、私とそう歳は変わりません」
「リンさん、よろしくお願いします」
「にゃは、可愛い子だにゃ。でも、実力がないのは問題にゃん。ダイビングの経験もにゃいのに、急に深く潜るのは無理。ゆっくり練習しにゃいとダメだにゃ」
ボートは走り始めた。
キラキラ光る水面を、切り裂いていった。
「きっとスズネさんと仲良くなれると思いますよ」
島には小さいながらもビーチがあって、しかも小さいからか誰もいない。プライベートビーチだ。
超楽しい。
「シュート・エレメント・アクア!」
キースに向かって水鉄砲を打ち出す。
「キー!」
「にゃはは、まてまてー!」
「キー!!」
悲鳴を上げて逃げ出すキースが面白い。
ケラケラ笑いながら後を追いかける。
シュート系は何度も練習したので、もう無詠唱でも撃てる。せっかくだから剣の練習でもしようかと、わたしは鞘から剣を抜く。
「シュート・エレメント……アクア!」
一瞬遅れて、さっきとは比べものにならないくらいの速度と重量で水が発射される。
「キー!!?」
キースは電撃を打ち出して水の勢いを弱め、急旋回して躱した。
ケラケラ笑いながら追撃すると、キースは右に左にヒラヒラ動いて逃げていく。
「まてまてー! あはは!」
「キー! キー!! キーーーー!!?」
ついに命中した。
全身に水を受けたキースは、なすすべなくそのままボトッと海に落ちて波に揉まれる。
わたしはくちゃくちゃで砂まみれになったキースを抱き上げた。
「わたしの勝ち!」
「キー!!!」
「うわっ! ちょっと!」
「キー! キー!」
怒り心頭のキースは、わたしに対して電撃をお見舞いしてくる。
立っていられなくなったわたしは波の中に倒れ込んだ。
「つめたーい! もう、ごめんったら、濡れてるところに電気はダメだって!」
「キー! キー!!」
飛べないキースと立てないわたしでもみくちゃになりながら、遠浅の海で転げ回る。
ああ、海っていいなぁ。
「たはは。若いですね」
近くの木陰で、クスクス笑いながら醤油さんが座っている。
「醤油さんも遊びませんかー?」
「私はやめておきますよ。もうすぐ約束の時間ですし。スズネさんも、こちらへ」
わたしは水で塩水を洗い流してから、風を出してキースを乾かしながら、言われた通り木陰に戻った。
「誰を待ってるんですか?」
「協力者ですよ。じきに来ます。……ほら」
遠くに船が見えた。
漁船みたいな、ヨットみたいな、なんとも表現し難い変わった形だ。
船はあっという間に着岸し、すぐに人が降りて来た。
「チャオ!」
苦手な人だ。わたしはすぐに醤油さんの後ろに隠れる。
「あら、怖かったですか?」
「怖がらにゃいで! 見た目は怖いけど、悪いことはしにゃいから。はじめまして、ダイバーのリンだよ」
第一声で苦手判定をしてしまったリンさんだったが、悪い人ではなさそうだった。
わたしは半分だけ体を覗かせる。
ネコみたいなキャラとは裏腹に、その見た目はネコとは程遠い。
手足は細長く、靴を履いていない。
広げた手の指の間には、見紛うことのない水掻き。
開いた口の歯は間違いなく草食動物のそれで、傾げた首がパックリと割れてエラみたいなのが見える。
表情は少し困ったような感じで、わたしを見ていた。
ボーイッシュだけど背格好は小さく、大きな目をしていて、そこだけはネコらしい。
「この度は、リンのダイビング・ツアーにご参加いただき、ありがとうございにゃす」
「ダイビング……?」
「さっそく船に乗ってほしいにゃ。最高のスポットにゃで連れていくよ」
リンさんの背中には、よく見ると魚の鰭みたいなものがついていた。体は薄い鱗で覆われている。
「最高のスポットはいいんですが、お約束をお忘れですか?」
「あぁ……いや、もちろん忘れてにゃい。でも、こっちも約束したよにゃ? あの海域は危険じゃにゃいけど、深海に行くには護衛が必要にゃんだって。もちろん、リンの人魚の血を8倍にしてくれるなら、話は別にゃんだけど」
「クウォーターのハーフにしては、相変わらずやや先祖返りが過ぎますね。いえ、その話はよしましょう。護衛ならここにいますよ、子猫さん。私の頼れる友人です」
そう言って、醤油さんはわたしの首根っこを掴んで前に出した。
「えっ?」
「にゃ?」
わたしもリンさんも同時にびっくりして、お互いの顔を見合わせる。
ニコニコしているのは、醤油さんだけだ。
「いやいや、こんにゃ……子供? いやいやいや、あり得にゃいあり得にゃい」
「彼女は手練れですよ、リン。少なくとも陸上では」
「陸上のことは知らにゃいけど、水中はにゃれてるのかにゃ?」
「今から鍛えるんですよ。たはは」
「にゃーにを言ってるのか分からにゃいにゃー」
「何を言ってるのか分からないのはこちらですよ。ああいえ、毒づいたわけではないです。……たはは、護衛を雇うにも高くつくんですよ。その点彼女はタダで働いてくれます。その上才能があり、ツアー代金は子供料金。足りない実力は、後からついて来ますよ」
なんだかとんでもないことを言われているような気がしながら、わたしは船に乗った。
キースはブスッとしていたが、その毛並みはとんでもなくふわふわだ。
「リンさんと醤油さんはお知り合いなんですか?」
「んにゃ?」
「ええ、まあそうですね。リン、彼女は私の友人、兼護衛のスズネです」
紹介されたわたしは、リンさんに手を差し出す。
小柄な彼女は、握手に応えた。
手の平はしっとりと濡れている。
「スズネは冒険者にゃん?」
「あ、はい。そうです」
「ランクは?」
「ランク?」
「冒険者ランクだにゃ」
そういえばそんなものあったなぁ、とか思ったけれど、実際今自分がいくつなのかは確認していない。
特定のランクしか泊まれない宿があるから、そのタイミングで確認するのだけど、今回は醤油さんの紹介で宿を決めたし。
「えっと……たぶんDランクだと思うんですが……」
「新人じゃにゃいか!」
「伸びしろがありますよ」
「伸びしろじゃ命は救えにゃい!」
ともっともなことを言いながら怒るリンさんに、微笑み続ける醤油さん。
「リンは、私の友人というわけではありませんが、お得意様ですよ。若く見えますが、私とそう歳は変わりません」
「リンさん、よろしくお願いします」
「にゃは、可愛い子だにゃ。でも、実力がないのは問題にゃん。ダイビングの経験もにゃいのに、急に深く潜るのは無理。ゆっくり練習しにゃいとダメだにゃ」
ボートは走り始めた。
キラキラ光る水面を、切り裂いていった。
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