滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢

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04 行商人と目的地

人外兄妹

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 朝から日が落ちるまで、わたしは毎日毎日潜る練習をしたのだけど、なかなか上手くいかなかった。

 醤油さんは完全に他人事で、「情報収集をしてきます、たはは」と言うだけでついて来てくれない。

 まあ、ついて来たら来たで、キースが怯えるので別にいいのだけど。
 

 とにかく醤油さんはマイペースな人で、ふらっと現れてはスッと消える。
 
 
 リンさんはよく醤油さんの苦言を言う。

「昔から、にゃーにを考えているのかさっぱり分からにゃい。ニコニコニコニコ、笑ってさえいればにゃんでもごにゃかせると思ってるらしいにゃ」

 心底うんざりしているというよりは、醤油さんの自由さに振り回されて苦労しているらしい。

 なんだかんだ、リンさんは面倒見がいいからな……


「昔から行商人だったんですか?」

「そうだにゃぁ、そうにゃのってた。でも本当かどうかは知らにゃい。今だって怪しいものだと思わにゃいか? 荷物は持ってるけど、商売もしにゃいでほっつき歩いてるばかりだし」

 高原で露店を建てるのを手伝ったし、行商人だというのは確かだと思う。

 でも確かに隠し事の多そうな人ではあるので、リンさんが信用ならないというのも理解はできる。


 そういえば、醤油さんはレイスさんのことも知ってるとか言っていた。
 
 ネコの半魚人と、獣人と知り合い。

 もしかして人ならざる者と仲良くするのが得意だって、そういう……? 
 
 いや、偶然だと思うけど。


「リンさんって、なんていうか、人間……じゃないですよね? 獣人さんですか?」

「人魚のクウォータと、ネコ科獣人のミックスだにゃ。ちょっと人魚が強く出てるけどにゃー」


 ちょっとではないと思うけど、なるほど。
 
 半分はネコさんなのか。
 それでこんなににゃあにゃあ言ってると。


「人魚って、いるんですか? わたし、お会いしたことないですけど」
「普段は海の中にいるからにゃぁ」

「海の中に人魚さんの国とかあるんですか?」
「国みたいにゃのはにゃいよ。群れはあるけど」

「へぇ……会ってみたいです」


「そうだにゃぁ……あんにゃり、人間とは関わりたくにゃいかもしれにゃいからにゃ。人間好きにゃ人魚もいるけど、野生動物みたいにゃ種族だからにゃ」

「やっぱり人間とは違うんですね」

「いや、そんにゃに変わらにゃいよ。ちょっと排他的だけど、それだけだにゃ。ほとんど同族嫌悪に近くて、人魚もそれを理解してる」


 リンさんはそう言って、「めんどくさいにゃー」と言った。

 リンさん自身がさっぱりした性格だから、そういうのが余計に嫌なのかもしれない。


「リンさんは、ここでお仕事をして、生活してるんですか?」
「そうだにゃ。生まれも育ちもこの海だよ」

「ご両親は?」
「ママは陸に、パパは海に帰ったにゃ」
「……寂しいですね」

 悪いことを聞いたかな、と思ったけれど、リンさんは特に気にしていないようだった。
 
「そんにゃことないけどにゃー、別に仲が悪かったわけじゃにゃいから。一緒に暮らしてにゃいだけで、普通に会うよ」


「どうしてご両親と別れたんですか?」

「ママが実家の都合で砂漠に戻ったんだにゃ。もう成人してたし、これからは一人で生きていこうと思ってにゃ」


 魚には砂漠は辛いだろうな、それは……うん、納得だ。

 わたしはすっかり手に馴染んだ剣のを、指先で弄んだ。


「今日も呼吸の練習をしますか?」

「今日は特別講師を呼んでるから、別のことをするよ。僕は反対にゃんだけど、アノヤローはどうしてもスズネを連れて行きたいみたいだからにゃー」

「あはは……わたしも、ついて行きたいですから」


 例の場所、というのは、海溝のことらしい。

 そこは深く、冷たく、暗い場所。
 しかし同時に、世界樹の都市に最も近い場所らしい。

 なんでそんな深海に世界樹が生えているのかは全然分からない。


「う……頭、いたぁっ……」
「大丈夫かにゃ? 来るまでもうちょっと時間がかかるだろうし、船に戻って休憩した方がいいにゃ」

 ずっと海底にいたからか、ズキズキ深めの頭痛がした。

 わたしはリンさんと一緒に船に戻る。


 海の中は透き通っていて、海底まで見渡せた。それでも少し遠くの海溝は、深すぎて真っ暗だ。

 あの先に世界樹の都市があるのだろうか。なんだか、考えるだけでワクワク……うぅ、頭痛い。


「リンさんって、船酔いしないんですか?」
「したことにゃいにゃー、もともと、平衡感覚はいい方だからにゃ」

「ああ、ネコだから……」
「うん、ネコだから」

 わたしもそういうつもりだったのだけど、平衡感覚は悪いらしい。

 海に来てから頭痛続きだし、船に乗ると酷くなる。
 夢中で練習してると痛みも忘れて平気になるけど、ふと気づくとまた痛い。


「その呼んだ人って、誰なんですか? リンさんの知り合い?」

「兄さんだにゃ。宮廷騎士団に入ってる、じにゃんの兄さんにゃんだ!」
「宮廷騎士団……って?」

「知らにゃい? 王城に仕える騎士団、とっても強いんだ。今この辺りを視察して回ってるみたいで。1週間くらい自由にゃ時間があるから、帰ってきてくれるって!」

 リンさんは本当に嬉しそうに笑っていた。


 そうか、お兄さんか。
 
 リンさんのお兄さんだと、やっぱり半魚人みたいな感じなのだろうか。


「……えっと、こんな海の真ん中で待っててもいいんですか? 迎えに行ったりした方が……お兄さんも船で来るんですよね?」

「兄さんは一人で来ると思うけどにゃ」
「ここ、岸から結構距離ありますよ」

「大丈夫大丈夫。ほら、近づいて来てる」


 そう言って、リンさんは海を指差した。

 わたしには何も見えないけど、リンさんは目がいい。彼女には見えているのだろう。

 
「うーん……」

 わたしもしばらく見ていたら、見えてきた。

 彼は確かに生身だ。でも泳いでいるわけではない。

 獣のように、いわばネコのように、四足歩行で水面を蹴って進んでいる。

「……え?」

 後ろの足が沈む前に前の足を出す、その理論をこんなところで見るとは思わなかった。

 脚力を魔法で強化しているのか、水面の方を変化させているのかは分からないのだけど。


 青年はあっという間に船に辿り着き、甲板に降り立った。

 私の見る限り、魚成分は皆無の、純粋なネコ科の青年だ。


「久しぶりだな、妹よ。元気そうで何よりだ」

 私の知ってる中では、彼はヒョウに近い。
 
 その特徴的な斑点こそないものの、浅黒い金髪と、獰猛かつ冷涼な眼光に、肉食獣みたいな牙、頭には獣の耳が生えている。
 
 その上、四足歩行で走って来て、甲板にもそのまま着地した。

 這いつくばってるのに、その姿勢はすごく格好いい。

 爪を立てて、肘と両膝を軽く曲げている。
 まさに獣、って感じだ。


「兄ちゃんも元気そうで良かった!」
「まあな……その子は?」
「お客さん!」

 でも青年はゆっくりと立ち上がり、伸びをした。

「やはり海水は走りやすいな。お客さんってことは、観光客か?」
「うんにゃぁ、そういう感じにゃんだ。ちょっと違うけど」

 リンさんがそう言うと、青年は頷く。
 驚いたことに、彼の姿はほとんど人間みたいになっていた。
 

「そうか。それはツアー中に失礼した。終わるまで待とう」

「あ、ううん。兄ちゃんに頼みたいことがある。この子に水中の戦闘を教えてほしいんだ」

「戦闘を?」
「ダメにゃのか?」

「可愛い妹の頼みだ、もちろん叶えてやるとも。俺にできることならなんでもしよう」

 
 イケメンかどうかは意見の分かれるところだったが、野生味溢れるワイルドさは確かなので、普通にファンはいそうな感じのお兄さん。

 ネコ科なのに泳げるのだろうかという不安はあるけど。


「私は宮廷騎士団第3団所属、ミノル。リンの兄だ。はじめまして」

「あ……えっと、スズネ……です」
「スズネ……いい名前だ。冒険者かな」

「はい、そうです。まだ新人ですけど」

 ミノルさんからは、心なしか微かに獣の匂いがする。
 同じ獣人のレイスさんは、こんなにワイルドじゃなかったはずなのだけど……


「呼吸はできるのか?」
「もう教えたんだ。筋は悪くにゃいよ!」

「そうか。見たところ、剣術を使うようだが、魔力戦術はどうだ?」
「は、はい。主に魔力戦術で戦っています」
「若いのに魔力戦術を使いこなすとは、将来が楽しみだな。リン、船を動かしてくれ」

「出航だにゃー!」

 リンさんは意気揚々と船を動かす。
 それはいいんだけど、どこに行くつもりだろう?
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