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05 試練と挑戦
古代妖精
しおりを挟むわたしは、醤油さんのことを話した。
彼女は高原で出会って、一緒に船に乗って、それから海を探検した仲だということ。不思議な人だけど、悪い人じゃない。
エナーシャさんを探していて、神様と会話できる、不思議な行商人。
わたしは神様に世界の宿命を聞かされてここにいて、そしてそのエナーシャさんは、どうやらそれを変えることができるかもしれないと。
「エナーシャ……」
案の定、シアトルさんもアトランタさんも、渋い顔をしていた。
「私はその人物を知らないが、嫌な予感がするな」
「私もよ。そのエナーシャっていう人……すごく嫌な感じがするわ」
生物が本能的に嫌悪する呪い、とか醤油さんは言っていた。
やっぱり、こうなっちゃうんだな……
「スズネの言うことだから信じたいけど……その行商人っていうのは、どこにいるの? 一緒に王都には来なかったの?」
「世界樹の都市は海底に入口があるんじゃないかって言われてて。だから、そこから入ろうとしてるみたいなんです」
「海底に都市が? ……ふむ、確かに海底には未知の場所が多い。可能性はあるだろう。だがしかし、エナーシャ……エナーシャという人物が気になる。とてつもなく邪悪な気配を感じるのだが」
「私もよ、スズネ。世界樹の都市にその人がいるのだとしたら、きっと危険な人物に違いないわ」
名前を聞いただけなのにそんな風になるのなら、本人はすごく苦労してるんだろうなと、わたしは思った。
「でも、世界が滅びちゃうんですよ? だったら、危険な人にでも頼った方がいいじゃありませんか?」
「まぁ……そうね、そうかもしれないけど」
「現状、我々はその原因すらも把握できていないからな。それも選択肢の1つではあるのだろう」
2人とも納得してくれたみたいだ。あまり進んで賛成はしたくないみたいだったけど。
「確認するが、その世界崩壊の原因は分からないんだな?」
「はい。魔力が原因、ってことしか」
「つまり、現状の手掛かりはその世界樹の都市だけか。……探してみる価値はあるかもしれんな。世界樹の都市は、我々の及びもつかないほど発展した未来都市だという。エナーシャが見つからなかったとしても、何らかの手助けを得られるかもしれない」
アトランタさんはそう言って、またがさがさと資料の山を漁り始めた。
そしてその中から白紙を取り出すと、何かをすごい勢いで書いていく。
「……よし。これでいいだろう」
「えと、これは……?」
「依頼書だ。ギルドに持っていってくれたまえ。世界樹の都市の調査のため、闇の峡谷への護衛を依頼した」
「スズネを行かせるのかしら?」
「そのつもりだが、何か不都合があったかね」
「不都合って……スズネはまだ子供よ。危険すぎるわ」
「人間なんてみんな子供みたいなものじゃないか。それに、立派に冒険者をしているのだろう。世界中を旅して回るのなら、どうせいずれ訪れることになる。一人で行くより、安全だ」
アトランタさんはそう言って、シアトルさんにその依頼を書いたらしい紙を渡した。
「それに、君もそれに賛成のように見えるがね?」
シアトルさんは肩を竦めて否定もしない。「悪いことは考えてないわ」と笑って、その依頼書を受け取った。
「スズネ、他にも聞きたいことはあるかしら?」
「え? ええと……そ、その、なんでしたっけ、エン……」
「古代闇妖精、古代から生きる闇妖精族」
「あ、えとそうです。その人たちは……助けてくれるんですか? その……言葉が通じなかったり、非協力的だったりしないんですか?」
「言葉を話すのだから、意思疎通はできるだろう。だが、友好的かどうかは分からんな。交流は長い間途絶えている。ギルドや王城には、時折書簡が届くそうだが」
アトランタさんは、そう言って「人は食わなかったな?」とシアトルさんに尋ねた。
シアトルさんは呆れたように首を振る。
「もちろん友好的よ。先生、忘れたの? 例の宝具を授けたのは彼らじゃないの」
「例の宝具?」
「ええ。今周辺地域では魔獣が増加しているけれど、ダンジョンの魔物は宝具を使って抑えられてるのよ。ダンジョンの魔物は出てくるといつも大きな被害を出すから、お陰でなんとか持ち堪えられているわ」
「その宝具を、闇妖精さんたちがくれたんですか?」
「そういえばそうだったな、すっかり忘れていた」
アトランタさんもそう言って、席を立ち、塞がれた窓の方へ歩いていく。
窓辺に積まれた資料の束を丸ごとひっくり返し、一番下の分厚い資料を持ってきた。
「これがダンジョン内に設置され、魔物の発生が一気に収まったのだ。これはその時の研究会の案内だね。あまり興味を惹かれなかったから、参加はしなかったが」
もしかしてこの人、片付けができないだけで物の場所は全部把握してるのかな。すご。
見せられた資料には、不思議な形の機械のスケッチが描かれていた。
これに興味を惹かれないというのもやや驚きだ。
なんか、この世界に似つかわしくないような見た目をしている。
無機質で、無骨さよりも繊細な印象を受ける。
どこかで見たような見たことないような、そんな不思議な機械。
「これをダンジョンに置いたんですか?」
「そのようだな」
「……そのせいで周囲の魔獣が増えたんじゃ?」
「その可能性はあるが、因果関係は不明だ。ダンジョン内の危険が増すよりはマシだしな。5年ほど前だったかな、君は幼かったから覚えていないかもしれないが、ダンジョンの魔物が激増した。ダンジョンの魔獣の危険度は地上とは桁違いだ。これを置くとすぐにギルドが決めたのも、そういう危機があったからだろう」
「ひどい被害だったんですか……?」
「そうね。魔獣は各地に拡散してしまった。点在していた小さな村は自衛の手段を持たず、蹂躙され、多くの命が奪われたのよ。冒険者も宮廷騎士団も奮戦したけれど、大きな街を守るので精一杯だった」
「一番の被害は森だったな。痛ましい事件だった」
「未だにその傷痕は残ってる……レイスは故郷を失ったわ。スードルも。私もよ。本当に多くの人が、癒えない傷を負った。アリスが仲間を失ったのも、その時よ。あまりにも酷い……あんなの、二度と繰り返してはいけない」
シアトルさんは悲しそうにそう言って、唇を噛み締めた。
重苦しい空気になってしまったが、シアトルさんはそんな空気を否定するように「だから助かったのよ」と明るい声で言う。
「彼らは私たちの危機を救ってくれた。古代闇妖精は。だから友好的だと思うわ。少なくとも、世界を滅ぼしたいとは思っていないはず。そうでしょ?」
シアトルさんはそう言って、またウインクした。
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