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05 試練と挑戦
レイス
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峡谷への出発の準備をしている最中のこと。
図書館に行こうと思っていたわたしは、スードルを迎えに来たレイスさんとばったり遭遇し、そのまま近くの喫茶店で講義が終わるまで一緒にお茶をすることになった。
レイスさんは、自分の昔話を話してくれた。
白玉の森は、もともと色々な木々が生い茂る、もっともっと大きな森の一部だったそうだ。
その頃には、白玉の森だなんて呼ばれていなかった。
白い実をつける木なんて、珍しくもなかったからだ。
しかし、ダンジョンの魔物が各地へ飛び出した事件。
あれによって森は壊滅してしまった。
豊かな森が占拠され、破壊されていく中、白玉の森の木だけは、傷一つなかったのだという。
そして魔物たちはなぜかその場所に留まった。
それによって弱い魔獣が淘汰され、強い魔獣だけが生き残り、互いを高め、そして今の白玉の森になった。
結局そこに住んでいた人々は住処を追われてしまったのだけど、白玉の森は、かつての森の姿を残す貴重な場所だそうだ。
「あたしたちはねー、すっごく長い間森に住んでたの」
と、レイスさんはそう言った。
「本当に長い間。何年も、何十年も、もしかしたら何百年も。だから、みんな森を守ろうって一生懸命だった。獣人だけじゃないの。それまで交流がなかった、エルフや森の守護者のドライアド、もちろん森に住んでた人間の人も、一緒に戦った」
レイスさんは懐かしそうに言った。
「あたしはね、村で一番の魔術の使い手だったんだ。あたしより魔術が上手い人なんて誰もいなかった。あたしは、誰よりも強いと思ってたんだ」
故郷を追われたレイスさんは、冒険者になった。
それは、家を失った多くの人が取らざるを得なかった選択肢だったけれど、レイスさんにとっては前向きな選択でもあった。
レイスさんは自分の能力に自信があって、冒険者になれば必ず成功するだろうと思っていたそうだ。
冒険者になって経験を積んで、宮廷の騎士団に入ろうと思っていた。
しかし、冒険者としての活動はなかなか上手くいかなった。
「言ったっけ? あたし、魔術ばっかりやってたから体力のほうがからっきしだったの。でも、冒険者って体が資本でしょ? 剣とか武術をやってる冒険者には、全然及ばないの。それに、野宿をしたり雑務をやったり、そういう細々した仕事もたくさんある。あたしは魔術しかできなかった」
その頃は冒険者が溢れていたし、その上魔術だけの依頼なんてほとんどなくて、生活は苦しかった。
仕方なく魔術以外の訓練も受けてみたり、勉強をしてみたりするのだけど、なかなか身にならず、苦しい日々が続いていた。
そんなとき、レイスさんに興味を持ったのがアリスメードさん。
彼らは魔術師のメンバーを失ったばかりだった。
才能ある獣人の魔術師が苦労しているという話を聞き、彼女に声をかけたようだ。
アリスメードさんも、当時は今ほど有名だったわけじゃなく、ランクはBになったばかりのパーティだった。
それも、一人仲間を失っていたせいで降格しそうになっていたらしい。
レイスさんは、本当は一人でやっていこうと思っていたそうなのだけど、自分にはその実力がないことを痛感していた。
だからアリスメードさんたちと一緒に、組むことに決めた。
「あたしは魔術が得意だけど、剣では絶対フェンネルに勝てないし、ロイドほど頭も良くないし、シアトルみたいに経験もないし、アリスみたいなリーダーシップもない。あたしは、すごく運が良かったんだ。でもスズネは一人でしょ?」
「わたしは基本、ソロですもんね」
「そうそう。それに、パーティにいても、やっぱり剣くらいやっておけば良かったなって思うよ。魔術は万能だけど、あたしは魔力量が多くないからさ。ダウンしたときの対抗手段が何もなくて」
「レイスさんが、わたしに剣を習ったほうがいいって言ってくれたのは、そういうことだったんですね」
「うん、そうだよー! スズネは素直で、いい子だよね。ちゃんと強くなっちゃって、羨ましいぞ!」
レイスさんはわたしの頭をめちゃくちゃに撫でる。
牙を剥き出しにして笑うようなその表情も、だんだん見慣れてきた。
「キー、キー!」
「あはは、そーだね、スズネにはキーくんがいるかぁ」
基本ソロだと言ったのが気に食わなかったらしい。
キースはキーキー鳴いて抗議する。
アリスメードさんに何を教えてもらったのか知らないけど、キースは明らかに変化していた。
蝶々みたいなヒラヒラした飛び方から、ムササビのような滑空を織り交ぜるようになり、全体的に動きに無駄がない。
コウモリのくせに地上の民に飛行について教えを請うとは何事かと思ったけど、意外と役に立ったようだ。
「あたし、スズネはあんまり元気がない子なんだなーって思ってたけど、最近のスズネは楽しそうでいいね! なんかいきいきしてて! やっぱり、キーくんのおかげかな?」
「それはないです」
「キー!?」
キースは怒って突撃してきた。なんか真剣に痛い。
「あー! 分かった、わたしが悪かったってば! じょーだんだよ! ごめん! キースのおかげ! おかげだから!」
そう言うと、キースは満足げに「キ~」と鳴いた。
図書館に行こうと思っていたわたしは、スードルを迎えに来たレイスさんとばったり遭遇し、そのまま近くの喫茶店で講義が終わるまで一緒にお茶をすることになった。
レイスさんは、自分の昔話を話してくれた。
白玉の森は、もともと色々な木々が生い茂る、もっともっと大きな森の一部だったそうだ。
その頃には、白玉の森だなんて呼ばれていなかった。
白い実をつける木なんて、珍しくもなかったからだ。
しかし、ダンジョンの魔物が各地へ飛び出した事件。
あれによって森は壊滅してしまった。
豊かな森が占拠され、破壊されていく中、白玉の森の木だけは、傷一つなかったのだという。
そして魔物たちはなぜかその場所に留まった。
それによって弱い魔獣が淘汰され、強い魔獣だけが生き残り、互いを高め、そして今の白玉の森になった。
結局そこに住んでいた人々は住処を追われてしまったのだけど、白玉の森は、かつての森の姿を残す貴重な場所だそうだ。
「あたしたちはねー、すっごく長い間森に住んでたの」
と、レイスさんはそう言った。
「本当に長い間。何年も、何十年も、もしかしたら何百年も。だから、みんな森を守ろうって一生懸命だった。獣人だけじゃないの。それまで交流がなかった、エルフや森の守護者のドライアド、もちろん森に住んでた人間の人も、一緒に戦った」
レイスさんは懐かしそうに言った。
「あたしはね、村で一番の魔術の使い手だったんだ。あたしより魔術が上手い人なんて誰もいなかった。あたしは、誰よりも強いと思ってたんだ」
故郷を追われたレイスさんは、冒険者になった。
それは、家を失った多くの人が取らざるを得なかった選択肢だったけれど、レイスさんにとっては前向きな選択でもあった。
レイスさんは自分の能力に自信があって、冒険者になれば必ず成功するだろうと思っていたそうだ。
冒険者になって経験を積んで、宮廷の騎士団に入ろうと思っていた。
しかし、冒険者としての活動はなかなか上手くいかなった。
「言ったっけ? あたし、魔術ばっかりやってたから体力のほうがからっきしだったの。でも、冒険者って体が資本でしょ? 剣とか武術をやってる冒険者には、全然及ばないの。それに、野宿をしたり雑務をやったり、そういう細々した仕事もたくさんある。あたしは魔術しかできなかった」
その頃は冒険者が溢れていたし、その上魔術だけの依頼なんてほとんどなくて、生活は苦しかった。
仕方なく魔術以外の訓練も受けてみたり、勉強をしてみたりするのだけど、なかなか身にならず、苦しい日々が続いていた。
そんなとき、レイスさんに興味を持ったのがアリスメードさん。
彼らは魔術師のメンバーを失ったばかりだった。
才能ある獣人の魔術師が苦労しているという話を聞き、彼女に声をかけたようだ。
アリスメードさんも、当時は今ほど有名だったわけじゃなく、ランクはBになったばかりのパーティだった。
それも、一人仲間を失っていたせいで降格しそうになっていたらしい。
レイスさんは、本当は一人でやっていこうと思っていたそうなのだけど、自分にはその実力がないことを痛感していた。
だからアリスメードさんたちと一緒に、組むことに決めた。
「あたしは魔術が得意だけど、剣では絶対フェンネルに勝てないし、ロイドほど頭も良くないし、シアトルみたいに経験もないし、アリスみたいなリーダーシップもない。あたしは、すごく運が良かったんだ。でもスズネは一人でしょ?」
「わたしは基本、ソロですもんね」
「そうそう。それに、パーティにいても、やっぱり剣くらいやっておけば良かったなって思うよ。魔術は万能だけど、あたしは魔力量が多くないからさ。ダウンしたときの対抗手段が何もなくて」
「レイスさんが、わたしに剣を習ったほうがいいって言ってくれたのは、そういうことだったんですね」
「うん、そうだよー! スズネは素直で、いい子だよね。ちゃんと強くなっちゃって、羨ましいぞ!」
レイスさんはわたしの頭をめちゃくちゃに撫でる。
牙を剥き出しにして笑うようなその表情も、だんだん見慣れてきた。
「キー、キー!」
「あはは、そーだね、スズネにはキーくんがいるかぁ」
基本ソロだと言ったのが気に食わなかったらしい。
キースはキーキー鳴いて抗議する。
アリスメードさんに何を教えてもらったのか知らないけど、キースは明らかに変化していた。
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コウモリのくせに地上の民に飛行について教えを請うとは何事かと思ったけど、意外と役に立ったようだ。
「あたし、スズネはあんまり元気がない子なんだなーって思ってたけど、最近のスズネは楽しそうでいいね! なんかいきいきしてて! やっぱり、キーくんのおかげかな?」
「それはないです」
「キー!?」
キースは怒って突撃してきた。なんか真剣に痛い。
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