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06 常闇の同士
異文化
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そして、それは晩御飯も食べ終わり、さてこれから寝ようかというときに訪れた。
「……敵……!」
突然レイカさんが耳を立てて、ナイフを握った。
「え?」
「……魔獣じゃ、ない……!」
「キー!」
キースは飛び上がって臨戦体制に入った。わたしも剣を抜く。
「人間?」
「……大きさは……そのくらい。足音……1人」
その音は、辛うじてわたしにも聞こえはじめた。
カンカンとブーツが地面を叩く音が聞こえる。
リズムからして二足歩行に間違いなく、ゆっくり歩いている。
「え、えと、レイカさん。敵……ですか?」
「……分からない。でも警戒して」
足跡が近づいて来る。緊張感が高まる。
誰も話そうとしない。キースが羽ばたくので、その音だけが響いている。
「……あー、ああ、ええと、だ、誰かいますか?」
突如、緊張感のない声が聞こえた。
わたしは思わず返事しそうになったけれど、誰一人として身じろぎもしない。
「誰かー? あ、あぁその……敵じゃないですよー! こっちは一人です! 一人ですから、暴力的なことはなしですよ!」
若い男の声に聞こえる。
彼は至って自然体のまま、緊張感のかけらもなく、壁の裏側から出てきた。
「あー、あー、紳士淑女の……いや紳士はいないのかな? 女子供の皆さまか。ええと、ボクは闇の王国の王子の使いとして参りました。一番小さい女の子を、王国へお連れしろって言われてます」
男の肌は闇のように暗く、岩に溶け込んでよく見えない。
その眼は黒眼と白眼の色が逆転していて、耳はシアトルさんよりずっと長く鋭く尖っている。
「もしかして……闇の峡谷、の……」
「ええそうですそうです」
うんうんと頷いて、男は品定めするようにこちらを見る。
「ええと、ボクは小さい女の子を連れて来いって言われてるんですよね。なんだか多いなぁ……ええと、一番小さい女の子って誰ですか?」
「……」
「……」
誰も返事をしない。
恐らくわたしのことだということは、なんとなく察しがついた。
そしてそれを言い出すのは、やや危険そうだということも。
「……ワタシはこのパーティのリーダー、エリオットだ。まず名を名乗れ。それが礼儀ではないのか?」
「ああ、そうだったね。それは失礼、お詫びします。人間には詳しいと思ってたんだけど、うっかりしてたよ。ボクはデオリュプスズと申します」
彼はそう言って、うやうやしく一礼する。
「王子から、一番小さい女の子をお招きするようにと申し付けられまして。こんなところまで、長旅ご苦労様でした。大変苦労されたことと思います」
「我々は王国までの護衛を請け負っている。途中で投げ出すわけにはいかない」
エリオットさんはそう言って、険しい顔をした。
「なるほど。まあ人間って信頼を大事にしますもんね。理解します、もちろんです。でも結局は、こちらの王国を目指してるんですよね? だったら別にボクの提案に乗ってくださってもいいじゃありませんか」
「その提案というのは、一番小さい女の子というのをそちらに渡すというものか?」
「それは嫌なんですね、分かりました。それは分かりましたよ、十分に。だったらどうすればいいですか?」
デオリュプスズさんは、困ったように首を傾げる。
「闇の峡谷は、真の闇で満ちています。光の民では、王国に到達することは簡単ではありません。人を招くことなんて今までありませんでしたが、今回は王子様が特別にご招待くださったので、ボクがご案内しますよ」
「つまり、これは親切だと?」
「ボクとしてはそのつもりです。もちろんどうしても断るというのなら、武力のないボクは帰るしかないんですけど」
多勢に無勢ですもんね、と笑う。
「でもあの見境なしのドSサイコパス絶倫クソビッチ……じゃなかった、王子様に叱責されるのはちょっと嫌ですね。何をされるか分からないし」
あの方は、色んな意味でとにかく怖いんですよ。とデオリュプスズさんは肩をすくめて苦笑いする。
「なら、我々全員で行く」
「全員で? ええ……全員、かぁ……」
エリオットさんの凛とした返答に、デオリュプスズさんはやや面食らったようだった。
「……ええ、まあ、いいですよ。分かりました、争いにならないなら、それが一番です」
デオリュプスズさんはそう言って、膝を折ってその場に座った。
両手を上げたままなので、やや滑稽な姿勢に見える。
「もうそろそろ、武器を下げてもらっても構いませんか? 腕が痺れちゃって」
「……分かった」
エリオットさんは武器を下ろし、それから手を差し出した。
ロアさんやレイカさん、ドワーフ二人組も武器を下ろす。
ちなみに、ナノノさんは液体が入ったガラス瓶を持っていた。
投げつけて戦うつもりだったようだ。
デオリュプスズさんは手を差し出したエリオットさんに対してやや困惑していたけれど、ハッとしたようにその手を取って立ち上がる。
「握手ですね! はい、仲良くしましょう」
彼は、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「……敵……!」
突然レイカさんが耳を立てて、ナイフを握った。
「え?」
「……魔獣じゃ、ない……!」
「キー!」
キースは飛び上がって臨戦体制に入った。わたしも剣を抜く。
「人間?」
「……大きさは……そのくらい。足音……1人」
その音は、辛うじてわたしにも聞こえはじめた。
カンカンとブーツが地面を叩く音が聞こえる。
リズムからして二足歩行に間違いなく、ゆっくり歩いている。
「え、えと、レイカさん。敵……ですか?」
「……分からない。でも警戒して」
足跡が近づいて来る。緊張感が高まる。
誰も話そうとしない。キースが羽ばたくので、その音だけが響いている。
「……あー、ああ、ええと、だ、誰かいますか?」
突如、緊張感のない声が聞こえた。
わたしは思わず返事しそうになったけれど、誰一人として身じろぎもしない。
「誰かー? あ、あぁその……敵じゃないですよー! こっちは一人です! 一人ですから、暴力的なことはなしですよ!」
若い男の声に聞こえる。
彼は至って自然体のまま、緊張感のかけらもなく、壁の裏側から出てきた。
「あー、あー、紳士淑女の……いや紳士はいないのかな? 女子供の皆さまか。ええと、ボクは闇の王国の王子の使いとして参りました。一番小さい女の子を、王国へお連れしろって言われてます」
男の肌は闇のように暗く、岩に溶け込んでよく見えない。
その眼は黒眼と白眼の色が逆転していて、耳はシアトルさんよりずっと長く鋭く尖っている。
「もしかして……闇の峡谷、の……」
「ええそうですそうです」
うんうんと頷いて、男は品定めするようにこちらを見る。
「ええと、ボクは小さい女の子を連れて来いって言われてるんですよね。なんだか多いなぁ……ええと、一番小さい女の子って誰ですか?」
「……」
「……」
誰も返事をしない。
恐らくわたしのことだということは、なんとなく察しがついた。
そしてそれを言い出すのは、やや危険そうだということも。
「……ワタシはこのパーティのリーダー、エリオットだ。まず名を名乗れ。それが礼儀ではないのか?」
「ああ、そうだったね。それは失礼、お詫びします。人間には詳しいと思ってたんだけど、うっかりしてたよ。ボクはデオリュプスズと申します」
彼はそう言って、うやうやしく一礼する。
「王子から、一番小さい女の子をお招きするようにと申し付けられまして。こんなところまで、長旅ご苦労様でした。大変苦労されたことと思います」
「我々は王国までの護衛を請け負っている。途中で投げ出すわけにはいかない」
エリオットさんはそう言って、険しい顔をした。
「なるほど。まあ人間って信頼を大事にしますもんね。理解します、もちろんです。でも結局は、こちらの王国を目指してるんですよね? だったら別にボクの提案に乗ってくださってもいいじゃありませんか」
「その提案というのは、一番小さい女の子というのをそちらに渡すというものか?」
「それは嫌なんですね、分かりました。それは分かりましたよ、十分に。だったらどうすればいいですか?」
デオリュプスズさんは、困ったように首を傾げる。
「闇の峡谷は、真の闇で満ちています。光の民では、王国に到達することは簡単ではありません。人を招くことなんて今までありませんでしたが、今回は王子様が特別にご招待くださったので、ボクがご案内しますよ」
「つまり、これは親切だと?」
「ボクとしてはそのつもりです。もちろんどうしても断るというのなら、武力のないボクは帰るしかないんですけど」
多勢に無勢ですもんね、と笑う。
「でもあの見境なしのドSサイコパス絶倫クソビッチ……じゃなかった、王子様に叱責されるのはちょっと嫌ですね。何をされるか分からないし」
あの方は、色んな意味でとにかく怖いんですよ。とデオリュプスズさんは肩をすくめて苦笑いする。
「なら、我々全員で行く」
「全員で? ええ……全員、かぁ……」
エリオットさんの凛とした返答に、デオリュプスズさんはやや面食らったようだった。
「……ええ、まあ、いいですよ。分かりました、争いにならないなら、それが一番です」
デオリュプスズさんはそう言って、膝を折ってその場に座った。
両手を上げたままなので、やや滑稽な姿勢に見える。
「もうそろそろ、武器を下げてもらっても構いませんか? 腕が痺れちゃって」
「……分かった」
エリオットさんは武器を下ろし、それから手を差し出した。
ロアさんやレイカさん、ドワーフ二人組も武器を下ろす。
ちなみに、ナノノさんは液体が入ったガラス瓶を持っていた。
投げつけて戦うつもりだったようだ。
デオリュプスズさんは手を差し出したエリオットさんに対してやや困惑していたけれど、ハッとしたようにその手を取って立ち上がる。
「握手ですね! はい、仲良くしましょう」
彼は、嬉しそうに顔を綻ばせた。
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