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09 交流の成果
去る者追わず
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平和なコムギ村が、ちょっとした大騒ぎになった。
「目立つと思わなかったですか?」
「……」
「悪目立ちするって分かりませんでしたか?」
「……」
「俺がギルドの信頼を得てなかったら、新種の魔獣として討伐されてたんですよ?」
「……」
ジーさんが、ディーさんに凄い勢いで怒られている。
森を飛び出し、ほぼそのままの勢いでコムギ村に突っ込んだミニバスは、幸いにも誰もいないスライムの湧き場で止まった。
どうやら、自動運転アシストの機能で、スライムにぶつからないようにブレーキがかかったらしい。
ちょっとだけ間に合わなかったけど、相手がスライムだったから、良かった。
既に村では大騒ぎになっていて、猛スピードで爆走する新種の魔物として、ギルドに討伐依頼が掲載されかけていたそうだ。
アイさんが見つけて、「せっかくだから我々が討伐しよう! ハハハ!」と大声で叫んだために、ディーさんが気づき、止めてくれたそうだ。
「ジーさん!」
「このライトは……マナ・ストーンを直接組み込んでいるのか。回路は単純だが、洗練されている」
「ちょっと聞いてますか? 反省してますか?」
「スズネちゃん、この世界に技術者はいるのか」
「ジーさん!」
興味のないことには全く応答しようとしないジーさんは、ディーさんに激しく揺さぶられても怒鳴られても、その関心は微動だにしない。
「諦めなよ。ジーに話を聞いてもらうことは不可能だって。この子に何かを強制させることなんて、僕にもできない。目的が一致したときに役に立つ、災害みたいなもんだよ。無駄なことしてないで、早いとこ有益な情報でも喋ってくれる?」
場所は、アリスメードさんが宿泊していた宿屋だ。
本来は宮廷騎士団とか、高ランクの冒険者さんとかしか泊めないらしいんだけど、アリスメードさんの紹介で泊めてもらえることになったみたいだ。
エナさんは当然のように堂々とソファーに座り。
ビーさんは棒立ちで睨みをきかせ。
叱られているはずのジーさんはテーブルランプに夢中。
ちなみにエルさんは、颯爽と散策に行った。
エフさんやアイさん、エーチさんも一緒だ。エヌさんが未だに帰らないので、部屋にいるのはビー、ディー、ジーさん、そしてエナさんとわたしの5人と1匹。
異世界でも、この人たちはマイペースみたいだ。
……というか、エフさんたちがいなくていいなら、わたしだって遊びに行っても良かったんじゃ?
キースに無理をさせないために、わたしは2日くらいかけて森まで行ったのだけど、その間にディーさんたちは村の人やギルドの人と仲良くなってたらしい。
エフさんなんてすっかり馴染んで、村の子たちと一緒に遊んでいる。
なんと驚いたことに、エーチさんの精神状態も回復傾向にあって、アイさんが喜んでいた。
「僕らがこっちに来たのは、マナを回収するためだよ。あと、君らがしくじったら、その後処理をするつもりだった」
「……そうですか」
ディーさんは、何か言いたいことを殺すような風にしていた。
エナさんはそれに気がついていたみたいだけど、全く気にしていない。
「……では、俺は成功しましたか?」
「そうだね。ま、成功したんじゃない? ところで、交渉の結果はどうなったの。まだ分からないんだっけ?」
「概ね理解は得られました。有識者の意見を求めるため、エヌは研究機関に向かいました。多人数での旅は費用と時間が嵩むため、単独で向かわせました」
と、ディーさんは滔々と語る。
やっぱり、エナさんがいないときの方が元気だったような気がしなくもない。
「で、戻って来るのは?」
「10日程度だそうです」
「遅すぎだろ! 10日!? ふざけんな! おいジー、迎えに行け!」
「……」
「迎えに行け!!」
「……」
ジーさんはキレ散らかすエナさんを無視している。
ここまで怒られても無視できるなんて逆にすごい。なんか尊敬する。
「……ジー、総督に従え」
黙って聞いていたビーさんが、呟くように言った。
「……」
「エヌは、この世界の研究機関に出向いた。お前の興味を引くことに出会えるかもしれない」
「……」
「お前が同行を望んだのは、そのためじゃないのか」
「……」
ジーさんはランプを置いて、立ち上がった。
「……地図はありますか」
「ジーさん、俺が用意します」
気が変わらない内に、とディーさんは急いで地図を取り出しジーさんに見せた。
「王都はこちらです。現在地がここで。バスの乗り入れは外周まででお願いします。それから、街道は人が多いので、迂回するか、速度を落としてください」
「……了解した」
ジーさんはそう言って、カバンを手に取り、立ち上がる。
そんなジーさんに、エナさんは「あのさ」と声をかけた。
「ちなみになんだけど、君、エヌと一緒に戻って来る?」
「いいや」
「あー……そうなんだ。じゃあ、お別れだね」
「はい」
「え」
「えっ」
「キ?」
わたしもそうだし、ディーさんも驚いていた。
あと、何故かキースもびっくりしていた。
「あー、うん」
エナさんは、驚いてはいなかった。当然みたいに受け入れた。
「君の目的は、マナっていう新時代の未知なるエネルギーの研究だったもんね。こっちの世界の方が進んでるっぽいし、もう既に、君にとっては故郷の存亡なんてどうでもいいんだろう」
「……」
「否定はしないよ。新たな世界の技術者として、君の前途が明るいことを祈ろう。僕も君の才能は認めてるんだよ、素直にね」
「……どうも」
ジーさんは短く言って、カバンを持ち上げ、一礼した。
「ま、待って下さい、どういうことですか総督?」
ディーさんはびっくりして、目を白黒させている。
エナさんはあっさりしてるけど、こういうことがいつもあるってわけじゃないみたいだ。
「そのままの意味だよ。ジーは僕らと袂を別つってこと。ま、殺すわけじゃないけど。レアケースだね」
「え、いやでもそんな、急に……ジーさんの技術は我々には不可欠ではなかったんですか!?」
「これだけのマナがある世界と邂逅ができたなら、無理に繋ぎ止めておく必要も感じないかな。そもそもこの子自身が独立を望んでるわけだし、それを応援してあげるのが、仲間ってやつじゃないの?」
エナさんの言葉に、ディーさんは何か言いたげにしていたけど、何も言えないでそのまま座った。
わたしも、あまりに急な展開に、驚きすぎて声も出ない。
「じゃあ、ここで君とはお別れだね」
「……」
「君の功績は後世に語り継ぐよ。今までよく働いてくれた、ご苦労様。元気でね」
「……我らが故郷に、光ある未来を」
「光ある未来を」
ジーさんは、名残惜しそうにするわけでもなく、トイレにでも行くみたいに、普通に部屋を出て行った。
「……ってなわけで、今日はみんな、解散! あとのことは、エヌが帰ってきてから考えよう!」
「……」
「……」
「……」
「キー?」
キースはあんまり理解できなかったみたいで、素っ頓狂な鳴き声を上げた。
「目立つと思わなかったですか?」
「……」
「悪目立ちするって分かりませんでしたか?」
「……」
「俺がギルドの信頼を得てなかったら、新種の魔獣として討伐されてたんですよ?」
「……」
ジーさんが、ディーさんに凄い勢いで怒られている。
森を飛び出し、ほぼそのままの勢いでコムギ村に突っ込んだミニバスは、幸いにも誰もいないスライムの湧き場で止まった。
どうやら、自動運転アシストの機能で、スライムにぶつからないようにブレーキがかかったらしい。
ちょっとだけ間に合わなかったけど、相手がスライムだったから、良かった。
既に村では大騒ぎになっていて、猛スピードで爆走する新種の魔物として、ギルドに討伐依頼が掲載されかけていたそうだ。
アイさんが見つけて、「せっかくだから我々が討伐しよう! ハハハ!」と大声で叫んだために、ディーさんが気づき、止めてくれたそうだ。
「ジーさん!」
「このライトは……マナ・ストーンを直接組み込んでいるのか。回路は単純だが、洗練されている」
「ちょっと聞いてますか? 反省してますか?」
「スズネちゃん、この世界に技術者はいるのか」
「ジーさん!」
興味のないことには全く応答しようとしないジーさんは、ディーさんに激しく揺さぶられても怒鳴られても、その関心は微動だにしない。
「諦めなよ。ジーに話を聞いてもらうことは不可能だって。この子に何かを強制させることなんて、僕にもできない。目的が一致したときに役に立つ、災害みたいなもんだよ。無駄なことしてないで、早いとこ有益な情報でも喋ってくれる?」
場所は、アリスメードさんが宿泊していた宿屋だ。
本来は宮廷騎士団とか、高ランクの冒険者さんとかしか泊めないらしいんだけど、アリスメードさんの紹介で泊めてもらえることになったみたいだ。
エナさんは当然のように堂々とソファーに座り。
ビーさんは棒立ちで睨みをきかせ。
叱られているはずのジーさんはテーブルランプに夢中。
ちなみにエルさんは、颯爽と散策に行った。
エフさんやアイさん、エーチさんも一緒だ。エヌさんが未だに帰らないので、部屋にいるのはビー、ディー、ジーさん、そしてエナさんとわたしの5人と1匹。
異世界でも、この人たちはマイペースみたいだ。
……というか、エフさんたちがいなくていいなら、わたしだって遊びに行っても良かったんじゃ?
キースに無理をさせないために、わたしは2日くらいかけて森まで行ったのだけど、その間にディーさんたちは村の人やギルドの人と仲良くなってたらしい。
エフさんなんてすっかり馴染んで、村の子たちと一緒に遊んでいる。
なんと驚いたことに、エーチさんの精神状態も回復傾向にあって、アイさんが喜んでいた。
「僕らがこっちに来たのは、マナを回収するためだよ。あと、君らがしくじったら、その後処理をするつもりだった」
「……そうですか」
ディーさんは、何か言いたいことを殺すような風にしていた。
エナさんはそれに気がついていたみたいだけど、全く気にしていない。
「……では、俺は成功しましたか?」
「そうだね。ま、成功したんじゃない? ところで、交渉の結果はどうなったの。まだ分からないんだっけ?」
「概ね理解は得られました。有識者の意見を求めるため、エヌは研究機関に向かいました。多人数での旅は費用と時間が嵩むため、単独で向かわせました」
と、ディーさんは滔々と語る。
やっぱり、エナさんがいないときの方が元気だったような気がしなくもない。
「で、戻って来るのは?」
「10日程度だそうです」
「遅すぎだろ! 10日!? ふざけんな! おいジー、迎えに行け!」
「……」
「迎えに行け!!」
「……」
ジーさんはキレ散らかすエナさんを無視している。
ここまで怒られても無視できるなんて逆にすごい。なんか尊敬する。
「……ジー、総督に従え」
黙って聞いていたビーさんが、呟くように言った。
「……」
「エヌは、この世界の研究機関に出向いた。お前の興味を引くことに出会えるかもしれない」
「……」
「お前が同行を望んだのは、そのためじゃないのか」
「……」
ジーさんはランプを置いて、立ち上がった。
「……地図はありますか」
「ジーさん、俺が用意します」
気が変わらない内に、とディーさんは急いで地図を取り出しジーさんに見せた。
「王都はこちらです。現在地がここで。バスの乗り入れは外周まででお願いします。それから、街道は人が多いので、迂回するか、速度を落としてください」
「……了解した」
ジーさんはそう言って、カバンを手に取り、立ち上がる。
そんなジーさんに、エナさんは「あのさ」と声をかけた。
「ちなみになんだけど、君、エヌと一緒に戻って来る?」
「いいや」
「あー……そうなんだ。じゃあ、お別れだね」
「はい」
「え」
「えっ」
「キ?」
わたしもそうだし、ディーさんも驚いていた。
あと、何故かキースもびっくりしていた。
「あー、うん」
エナさんは、驚いてはいなかった。当然みたいに受け入れた。
「君の目的は、マナっていう新時代の未知なるエネルギーの研究だったもんね。こっちの世界の方が進んでるっぽいし、もう既に、君にとっては故郷の存亡なんてどうでもいいんだろう」
「……」
「否定はしないよ。新たな世界の技術者として、君の前途が明るいことを祈ろう。僕も君の才能は認めてるんだよ、素直にね」
「……どうも」
ジーさんは短く言って、カバンを持ち上げ、一礼した。
「ま、待って下さい、どういうことですか総督?」
ディーさんはびっくりして、目を白黒させている。
エナさんはあっさりしてるけど、こういうことがいつもあるってわけじゃないみたいだ。
「そのままの意味だよ。ジーは僕らと袂を別つってこと。ま、殺すわけじゃないけど。レアケースだね」
「え、いやでもそんな、急に……ジーさんの技術は我々には不可欠ではなかったんですか!?」
「これだけのマナがある世界と邂逅ができたなら、無理に繋ぎ止めておく必要も感じないかな。そもそもこの子自身が独立を望んでるわけだし、それを応援してあげるのが、仲間ってやつじゃないの?」
エナさんの言葉に、ディーさんは何か言いたげにしていたけど、何も言えないでそのまま座った。
わたしも、あまりに急な展開に、驚きすぎて声も出ない。
「じゃあ、ここで君とはお別れだね」
「……」
「君の功績は後世に語り継ぐよ。今までよく働いてくれた、ご苦労様。元気でね」
「……我らが故郷に、光ある未来を」
「光ある未来を」
ジーさんは、名残惜しそうにするわけでもなく、トイレにでも行くみたいに、普通に部屋を出て行った。
「……ってなわけで、今日はみんな、解散! あとのことは、エヌが帰ってきてから考えよう!」
「……」
「……」
「……」
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