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10 最終章
27階——後編
しおりを挟む大きな体が倒れ、動かなくなる。
「た、倒した……?」
倒してない。
倒していれば、わたしたちは次に進めるはずだ。
「……」
アリスメードさんは、傷口に矢を放った。
その矢は正確に突き刺さり、魔物の傷口が凍り始める。
「……ダメか」
フェンネルさんが腹部に切りつける。
羽毛が舞い、深い傷を与える。
「キー!」
「コート・エレメント・クレイ!」
飛び降りて剣を叩きつける。羽毛は思ったよりも硬かったけど、せいぜい魚のウロコ程度。気にするほどじゃない。
それで完璧に入ったと思ったけど、なんか全然手ごたえがない。
「離れろ!」
アリスメードさんの声と共に、魔物は跳ね起きた。
あれだけダメージを与えたのに、嘘みたいにまた頭が生えているし、お腹の傷も治っている。
「な、なんでですか!? どうすれば……」
「……参ったな。さすがは最深部の魔物だ」
「周囲の魔力を散らしてみましたが、回復します! どうやって止めればいいのか……」
スードルの報告に、アリスメードさんは「そうだな」とか言って呟いた。
「俺には分からない……体力が削れてる感じもないから、このまま闇雲に攻撃しても仕方がない」
「でも、それならどうするのー? 攻撃は強くないけど、倒せなきゃ次に進めないよ!」
「そうよねぇ。頭を潰しても再生するんじゃ、どうしようもないわ」
レイスさんとシアトルさんもお手上げみたいで、首を振っている。
「……あたしが止める。考えてて」
「キー?」
「一人でいい」
フェンネルさんはそう言って、走っていった。
下手に入って邪魔しても悪いし、大人しく任せておいた方がいいだろう。実際、突進を受け止めてたし、攻撃を考えなければ普通に受けきれるのかもしれない。
とはいえ、守っているだけではどうしようもない。
アリスメードさんは少し疲れているみたいで、少しだけだけど息が上がっていた。
「どうする? 俺の矢が尽きるまで、とりあえず撃ってみるか?」
「シアトル、剣を寄越せ」
それは、ロイドさんだった。
さっきまでどこにいたのか謎だけど、みんなが集まってるのを見て歩いてきたらしい。
ロイドさんは手を差し出して、シアトルさんに短剣を渡すように言っているらしかった。
「あら、何か考えが?」
「……脚だ」
低い声で、ロイドさんは言う。
「ほとんどの合成獣が、その特性から、本来の場所に弱点がない。首の中には脳がない。腹の中には腸がない」
「つまり、弱点は脚ってこと?」
「あぁ」
「それじゃあ、切り落としちゃえばいいのかな? フェンネルなら、きっとできるよねー!」
「切り落とすんじゃ意味がない。そこから回復する。ダメージが大きいほど、回復速度は上がる。元になった魔獣の特性だ。完全に新種ってわけじゃない。ボロボロにするほど素早く立ち上がるんだよ」
ロイドさんは、シアトルさんに貸してもらった短剣の柄を噛んで咥えた。
……咥えた? なんで?
「ろ、ロイドさん、どうしたんですか?」
ちょっとおかしくなっちゃったのかと思って、わたしは恐る恐る尋ねる。
ロイドさんはわたしを見下ろし、短剣を咥えたまま器用に喋った。
「……お前らのおかげで、十分ダメージは入ってる。俺が仕留める」
そう言うと、ロイドさんは走り出した。
「ロイドさん!?」
その手にはいつの間にか長い鞭を持っていた。ロイドさんはそれを地面に向かって振り下ろす。
反動でロイドさんの体が宙に浮いた。ロイドさんに気付いた魔物の頭のうち一つが、ロイドさんを追って首を回す。
ロイドさんは魔物の背中に飛び乗り、激しく鞭を振った。
ダメージになってるようには見えなかったけど、魔物は振り返る。
ロイドさんは魔物の背中を蹴って飛び上がった。それを追い、2つの頭が上を向く。
「フェンネル、喉を裂け! 両方だ!」
鞭を手放し、噛んでいた短剣を代わりに持って、ロイドさんが叫ぶ。
フェンネルさんは指示通り、その喉を狙って縦に切りつけた。
魔物は再びフェンネルさんにターゲットを戻し、前脚でネコパンチ。
フェンネルさんはバックステップで避けた。
「なんか考えがあるの?」
「後脚だ。右を狙う」
「ふぅん……そう」
フェンネルさんは剣を使い、軽く魔物をあしらう。
「キース、スズネ! こいつを空に! 喉を裂いたから、炎は来ない!」
「キー!」
「わ、分かりました!」
キースと共に飛び立ち、頭上に回る。魔物は喉が割けてるけど、頭はまだ元気みたいで、わたしを目で追い、そのままジャンプした。
「ハァ……できることなら、傷つけたくはなかったんだけどな」
バキンッ、って音がした。
ロイドさんの悲しそうな声と共に、視界は暗転する……
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