滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢

文字の大きさ
137 / 143
10 最終章

30階——後編

しおりを挟む
 水は冷たく、深海を感じる。

 そこかしこにぼんやりと輝く水晶の淡い光に照らされて、キラキラした洞窟の壁が見える。

 それにひっついた泡と、ザラザラした壁に触れる度、肌が擦れてひりひり痛む。


 わたしたちは、洞窟内の小空洞にて、モアリーイルと対峙していた。

 最初の大空洞ほどではないけど、それなりに広い空洞だ。
 そこで、多分この辺を縄張りにしているらしい個体と遭遇してしまった。


「前だ!」

 フェンネルさんが軽々と両断していたから、てっきりわたしにもできるかと思ったけど、それは大きな間違いだった。

「うぅっ……」

 速度の遅い振りと、踏ん張ることができない水中では、相手の攻撃を受けるのに精いっぱいで、攻勢に転じることができない。


 ロイドさんが細かく指示を出してくれるけど、その通りに動けない。

「怯むな、隙を見せれば突かれるぞ! 奴は頭上が死角だ、攻撃を回避し、視界から外れて潜り込め! 隙をついて一撃で仕留めろ!」


 鋭い牙で噛みつこうとしてくるのをいなしても、鋭い尻尾の振りで追撃を受ける。

 3mはある体長に、尻尾の背びれはトゲトゲしている。
 触れれば無事では済まない。


「はぁっ、む、無理です! 助けて!」

 申し訳ないけど、わたしにはちょっと厳しすぎる。
 わたしは、シアトルさんに泣き言を言った。

「怯むなスズネ! 食われるぞ!」
「ロイド、あんまり虐めちゃだめよ。小さい子なんだから」

「冒険者に大人も子供もない。何が何でもやってもらう!」

 う、うぅ厳しい……
 でも、こういうときは発破をかけられるべきのような気もする……

 わたしは頑張って、ロイドさんに言われた通りに天井方向へと回避した。


「惹きつけろシアトル! スズネ、エラを狙え! 絶対に一撃で決めろ!」

 シアトルさんが短刀を投げつけ、注意を引いてくれた。
 わたしはその隙をつき、エラを狙って刺突を構え、天井を蹴る。

「!?」

 しかしその気配に気づかれた。

 モアリーイルは急に頭の方向を変えてわたしを見て、その鋭い牙を見せたのだ。

「突っ込めスズネ!」

 ロイドさんが叫ぶ。
 わたしは意を決して、剣を突き出した。


 グサッ、とその剣先は、正確にモアリーイルのエラを捉える。
 そして貫いた剣を、すぐさま逆手に持ち替え、回して引き抜く。

「……よくやった。エラを裂いたら、もう動けないはずだ」

 ロイドさんが、見たことない武器を持っている。

 フックつきのワイヤー、のような武器だ。
 それを牙に引っ掛けて、強引に顔を逸らせたらしい。


「ロイドさん、そんなの持ってたんですか?」
「そうだな」

 指示しかしないと見せかけて、肝心なところでは手を出してくれるみたいだ。

 すっごいモテそうだなぁ。
 もうちょっと早めに手をだしてくれると、もっとモテると思うけど……


「次だキース。出番だ」
「キー!」

 ちなみに、動きの激しいわたしの邪魔になるからと、キースはロイドさんの頭の上に乗っかっている。

 触れたものの魔力を勝手に吸い込むキースだけど、少々の時間なら平気みたいで、ロイドさんの白髪の中に紛れるように、ぺちゃんこになっている。

 つまり同じ空気を共有しているということで、わたしとしては、ちょっと複雑な気持ちだったりする。


 わたしは再び周囲を空気で満たす。そして一瞬で解除する。

 その一瞬だけで、キースは大きな声で鳴いた。

「キー、キー!!」
「見つけたらしいな」

「どこ?」
「キー!」
「分かった、行こう」

 何故かキースの言葉が分かるロイドさんに先導されて、わたしとシアトルさんは洞窟を先へと進む。


「どのくらいなんですか?」

「もう一息だな。スズネ、タワーが見えたら魔物は無視してタワーを壊せ。余計な体力を消耗する必要はない」

「分かりました」
「ワカッター! キーキー!」

 キースが調子に乗っている。
 乗るのは、人の頭だけにしてほしい。

 ロイドさんがその気になれば、キースなんて一口で食べられちゃうんだからね。


 そのまま、しばらく泳いだ。
 
 道は複雑だったけど、さっき一匹倒したおかげか、他の魔物はいない。
 スルスルと先に進めた。


「……この先か」

 その光も、すぐに見つかった。

「行ってきます」

 直接攻撃した方がいいだろうと思って、わたしはタワーの方へ急いで泳いだ。
 ロイドさんの言う通り、直接壊せばそれでこの階層は終わり。
 これ以上戦う必要はない。

 もちろんこの先も水の中っていう可能性はあるけど。


「待てスズネ! ダメだ止まれ!!」
「!?」

 びっくりした。
 びっくりしたので、わたしは足を止める。

 そして次の瞬間、足に鋭い痛みを感じた。

「うぁあああああああ!!」

 何かに引っかかれたような、引きずられるような、大きな釣り針に釣られるような、そんな痛み。

 同時にその足が引っ張られ、激痛に思わず叫んで足を庇う。


「ロイド! あなた何を!?」

「シアトル、俺が足止めする! 死ぬ気で壊せ! お前は主人を守るんだ、いいなキース!!」


 足の痛みと、そこから伸びる赤い糸で、わたしは自分の足に何かが刺さり、出血しているのだと知った。

 それは物凄く激しい痛みで、経験したことのないものだった。

 全然、周囲を把握できない。
 そして視界は、暗転する。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~

うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」 探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。 探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼! 単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。 そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。 小さな彼女には秘密があった。 彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。 魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。 そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。 たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。 実は彼女は人間ではなく――その正体は。 チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~

御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。 異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。 前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。 神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。 朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。 そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。 究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

処理中です...