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10 最終章
30階——後編
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水は冷たく、深海を感じる。
そこかしこにぼんやりと輝く水晶の淡い光に照らされて、キラキラした洞窟の壁が見える。
それにひっついた泡と、ザラザラした壁に触れる度、肌が擦れてひりひり痛む。
わたしたちは、洞窟内の小空洞にて、モアリーイルと対峙していた。
最初の大空洞ほどではないけど、それなりに広い空洞だ。
そこで、多分この辺を縄張りにしているらしい個体と遭遇してしまった。
「前だ!」
フェンネルさんが軽々と両断していたから、てっきりわたしにもできるかと思ったけど、それは大きな間違いだった。
「うぅっ……」
速度の遅い振りと、踏ん張ることができない水中では、相手の攻撃を受けるのに精いっぱいで、攻勢に転じることができない。
ロイドさんが細かく指示を出してくれるけど、その通りに動けない。
「怯むな、隙を見せれば突かれるぞ! 奴は頭上が死角だ、攻撃を回避し、視界から外れて潜り込め! 隙をついて一撃で仕留めろ!」
鋭い牙で噛みつこうとしてくるのをいなしても、鋭い尻尾の振りで追撃を受ける。
3mはある体長に、尻尾の背びれはトゲトゲしている。
触れれば無事では済まない。
「はぁっ、む、無理です! 助けて!」
申し訳ないけど、わたしにはちょっと厳しすぎる。
わたしは、シアトルさんに泣き言を言った。
「怯むなスズネ! 食われるぞ!」
「ロイド、あんまり虐めちゃだめよ。小さい子なんだから」
「冒険者に大人も子供もない。何が何でもやってもらう!」
う、うぅ厳しい……
でも、こういうときは発破をかけられるべきのような気もする……
わたしは頑張って、ロイドさんに言われた通りに天井方向へと回避した。
「惹きつけろシアトル! スズネ、エラを狙え! 絶対に一撃で決めろ!」
シアトルさんが短刀を投げつけ、注意を引いてくれた。
わたしはその隙をつき、エラを狙って刺突を構え、天井を蹴る。
「!?」
しかしその気配に気づかれた。
モアリーイルは急に頭の方向を変えてわたしを見て、その鋭い牙を見せたのだ。
「突っ込めスズネ!」
ロイドさんが叫ぶ。
わたしは意を決して、剣を突き出した。
グサッ、とその剣先は、正確にモアリーイルのエラを捉える。
そして貫いた剣を、すぐさま逆手に持ち替え、回して引き抜く。
「……よくやった。エラを裂いたら、もう動けないはずだ」
ロイドさんが、見たことない武器を持っている。
フックつきのワイヤー、のような武器だ。
それを牙に引っ掛けて、強引に顔を逸らせたらしい。
「ロイドさん、そんなの持ってたんですか?」
「そうだな」
指示しかしないと見せかけて、肝心なところでは手を出してくれるみたいだ。
すっごいモテそうだなぁ。
もうちょっと早めに手をだしてくれると、もっとモテると思うけど……
「次だキース。出番だ」
「キー!」
ちなみに、動きの激しいわたしの邪魔になるからと、キースはロイドさんの頭の上に乗っかっている。
触れたものの魔力を勝手に吸い込むキースだけど、少々の時間なら平気みたいで、ロイドさんの白髪の中に紛れるように、ぺちゃんこになっている。
つまり同じ空気を共有しているということで、わたしとしては、ちょっと複雑な気持ちだったりする。
わたしは再び周囲を空気で満たす。そして一瞬で解除する。
その一瞬だけで、キースは大きな声で鳴いた。
「キー、キー!!」
「見つけたらしいな」
「どこ?」
「キー!」
「分かった、行こう」
何故かキースの言葉が分かるロイドさんに先導されて、わたしとシアトルさんは洞窟を先へと進む。
「どのくらいなんですか?」
「もう一息だな。スズネ、タワーが見えたら魔物は無視してタワーを壊せ。余計な体力を消耗する必要はない」
「分かりました」
「ワカッター! キーキー!」
キースが調子に乗っている。
乗るのは、人の頭だけにしてほしい。
ロイドさんがその気になれば、キースなんて一口で食べられちゃうんだからね。
そのまま、しばらく泳いだ。
道は複雑だったけど、さっき一匹倒したおかげか、他の魔物はいない。
スルスルと先に進めた。
「……この先か」
その光も、すぐに見つかった。
「行ってきます」
直接攻撃した方がいいだろうと思って、わたしはタワーの方へ急いで泳いだ。
ロイドさんの言う通り、直接壊せばそれでこの階層は終わり。
これ以上戦う必要はない。
もちろんこの先も水の中っていう可能性はあるけど。
「待てスズネ! ダメだ止まれ!!」
「!?」
びっくりした。
びっくりしたので、わたしは足を止める。
そして次の瞬間、足に鋭い痛みを感じた。
「うぁあああああああ!!」
何かに引っかかれたような、引きずられるような、大きな釣り針に釣られるような、そんな痛み。
同時にその足が引っ張られ、激痛に思わず叫んで足を庇う。
「ロイド! あなた何を!?」
「シアトル、俺が足止めする! 死ぬ気で壊せ! お前は主人を守るんだ、いいなキース!!」
足の痛みと、そこから伸びる赤い糸で、わたしは自分の足に何かが刺さり、出血しているのだと知った。
それは物凄く激しい痛みで、経験したことのないものだった。
全然、周囲を把握できない。
そして視界は、暗転する。
そこかしこにぼんやりと輝く水晶の淡い光に照らされて、キラキラした洞窟の壁が見える。
それにひっついた泡と、ザラザラした壁に触れる度、肌が擦れてひりひり痛む。
わたしたちは、洞窟内の小空洞にて、モアリーイルと対峙していた。
最初の大空洞ほどではないけど、それなりに広い空洞だ。
そこで、多分この辺を縄張りにしているらしい個体と遭遇してしまった。
「前だ!」
フェンネルさんが軽々と両断していたから、てっきりわたしにもできるかと思ったけど、それは大きな間違いだった。
「うぅっ……」
速度の遅い振りと、踏ん張ることができない水中では、相手の攻撃を受けるのに精いっぱいで、攻勢に転じることができない。
ロイドさんが細かく指示を出してくれるけど、その通りに動けない。
「怯むな、隙を見せれば突かれるぞ! 奴は頭上が死角だ、攻撃を回避し、視界から外れて潜り込め! 隙をついて一撃で仕留めろ!」
鋭い牙で噛みつこうとしてくるのをいなしても、鋭い尻尾の振りで追撃を受ける。
3mはある体長に、尻尾の背びれはトゲトゲしている。
触れれば無事では済まない。
「はぁっ、む、無理です! 助けて!」
申し訳ないけど、わたしにはちょっと厳しすぎる。
わたしは、シアトルさんに泣き言を言った。
「怯むなスズネ! 食われるぞ!」
「ロイド、あんまり虐めちゃだめよ。小さい子なんだから」
「冒険者に大人も子供もない。何が何でもやってもらう!」
う、うぅ厳しい……
でも、こういうときは発破をかけられるべきのような気もする……
わたしは頑張って、ロイドさんに言われた通りに天井方向へと回避した。
「惹きつけろシアトル! スズネ、エラを狙え! 絶対に一撃で決めろ!」
シアトルさんが短刀を投げつけ、注意を引いてくれた。
わたしはその隙をつき、エラを狙って刺突を構え、天井を蹴る。
「!?」
しかしその気配に気づかれた。
モアリーイルは急に頭の方向を変えてわたしを見て、その鋭い牙を見せたのだ。
「突っ込めスズネ!」
ロイドさんが叫ぶ。
わたしは意を決して、剣を突き出した。
グサッ、とその剣先は、正確にモアリーイルのエラを捉える。
そして貫いた剣を、すぐさま逆手に持ち替え、回して引き抜く。
「……よくやった。エラを裂いたら、もう動けないはずだ」
ロイドさんが、見たことない武器を持っている。
フックつきのワイヤー、のような武器だ。
それを牙に引っ掛けて、強引に顔を逸らせたらしい。
「ロイドさん、そんなの持ってたんですか?」
「そうだな」
指示しかしないと見せかけて、肝心なところでは手を出してくれるみたいだ。
すっごいモテそうだなぁ。
もうちょっと早めに手をだしてくれると、もっとモテると思うけど……
「次だキース。出番だ」
「キー!」
ちなみに、動きの激しいわたしの邪魔になるからと、キースはロイドさんの頭の上に乗っかっている。
触れたものの魔力を勝手に吸い込むキースだけど、少々の時間なら平気みたいで、ロイドさんの白髪の中に紛れるように、ぺちゃんこになっている。
つまり同じ空気を共有しているということで、わたしとしては、ちょっと複雑な気持ちだったりする。
わたしは再び周囲を空気で満たす。そして一瞬で解除する。
その一瞬だけで、キースは大きな声で鳴いた。
「キー、キー!!」
「見つけたらしいな」
「どこ?」
「キー!」
「分かった、行こう」
何故かキースの言葉が分かるロイドさんに先導されて、わたしとシアトルさんは洞窟を先へと進む。
「どのくらいなんですか?」
「もう一息だな。スズネ、タワーが見えたら魔物は無視してタワーを壊せ。余計な体力を消耗する必要はない」
「分かりました」
「ワカッター! キーキー!」
キースが調子に乗っている。
乗るのは、人の頭だけにしてほしい。
ロイドさんがその気になれば、キースなんて一口で食べられちゃうんだからね。
そのまま、しばらく泳いだ。
道は複雑だったけど、さっき一匹倒したおかげか、他の魔物はいない。
スルスルと先に進めた。
「……この先か」
その光も、すぐに見つかった。
「行ってきます」
直接攻撃した方がいいだろうと思って、わたしはタワーの方へ急いで泳いだ。
ロイドさんの言う通り、直接壊せばそれでこの階層は終わり。
これ以上戦う必要はない。
もちろんこの先も水の中っていう可能性はあるけど。
「待てスズネ! ダメだ止まれ!!」
「!?」
びっくりした。
びっくりしたので、わたしは足を止める。
そして次の瞬間、足に鋭い痛みを感じた。
「うぁあああああああ!!」
何かに引っかかれたような、引きずられるような、大きな釣り針に釣られるような、そんな痛み。
同時にその足が引っ張られ、激痛に思わず叫んで足を庇う。
「ロイド! あなた何を!?」
「シアトル、俺が足止めする! 死ぬ気で壊せ! お前は主人を守るんだ、いいなキース!!」
足の痛みと、そこから伸びる赤い糸で、わたしは自分の足に何かが刺さり、出血しているのだと知った。
それは物凄く激しい痛みで、経験したことのないものだった。
全然、周囲を把握できない。
そして視界は、暗転する。
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