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第三章 黄
第46話 「聖霊からの祝福」
しおりを挟むコンテストが終わり、手紙によってもたらされた興奮と熱も落ち着いた後。
メインステージには数人のパティシエが残り、テーブルや椅子が追加で並べられていた。
そこでは、子どもたちがパティシエに教わりながら、簡易的なカップデザートやアイシングクッキーを作っている。
どうやら、これがポールの考えた企画だったようだ。
子どもたちは、憧れのパティシエに指南してもらえるとあって、目を輝かせている。
パティシエたちも、先ほどコンテストで見せていた真剣な表情とは打って変わって、優しい眼差しで子どもたちを見守っていた。
メインステージの周辺に並んでいるパティスリーの屋台では、コンテストに出品されていたケーキを通常サイズで販売し始め、どの店舗も売上を伸ばしていた。
店員もお客さんも笑顔である。
エレナにもポールにも、この調子なら夜には降聖霊祭を無事迎えることが出来るだろうというお墨付きをもらい、私たちはお祭りを楽しみながら、夜まで待つことにしたのだった。
そして、ついに迎えた降聖霊祭の夜。
色とりどりに光る聖樹のてっぺんには、大きな星のオブジェがしっかりと輝いていた。
昼間は綺麗な青空が広がっていたのだが、今は雪がちらついているからか、聖樹広場には人の姿がほとんどなかった。
「静かな夜だね」
「そうだね……みんな、家で聖霊様を待つのが習わしなんだって、エレナは言ってたわ。良い子のところに祝福を授けてくれるんですって」
エレナは、宿で休んでいる。
私たちだけで夜に出かけるなんてと心配していたが、私が説得して残ってもらった。聖霊に会うならセオと二人でいた方がいいと、なんとなく直感したからだ。
その考えはセオも同じだったようで、エレナは渋々引き下がった。
「ねえ、パステル」
「ん?」
セオは、聖樹から目を離さないまま、私に話しかけた。目を見ずに話しかけてくるなんて、珍しい。
聖樹の明かりに照らされたセオの横顔は、不思議な色気をはらんでいて、私はまたドキドキしてしまう。
「悩んでいたことの答えは、出たの?」
「え……?」
「パステル、ずっと悩んでたでしょ?」
「あ……それは」
私は、セオを見ていられなくて、俯いてしまう。
「僕、やっぱりいくら考えてもわからないんだ。それに、僕、パステルの力になりたい。だから、悩みがあるなら教えてほしい」
「セオ……」
セオはいつの間にかこちらを向いていた。私とセオの視線が交錯する。
吸い込まれそうな、澄んだその瞳を見ていると、もうこれ以上誤魔化すことが出来ないと悟った。
セオはきっと、私が何も言わなくても悲しむ。だから私も、覚悟を決めた。
「あのね、セオ。私ね、セオのことが――」
――その時だった。
突然、高らかな笑い声と鈴の音が静かな夜に響き渡ったのは。
「ほーっほっほっほーーーぅ!!!」
「「……え?」」
「みんなぁああ!! 良い子にしてるかねぇえぇ!!?」
私とセオは、驚いて辺りを見回す。声の出所は、広場の中央、聖樹の上空だった。
聖樹の周りを八頭のトナカイと、大きなソリが滑空している。
大きなソリは様々な色の電飾でデコレーションされていて、直視するとかなり眩しい。
ソリの上には、電飾もつけていないのに何故かソリと同じくらい眩い輝きを放つ老人と、雪だるまのような姿の妖精たちが乗っていた。
老人はナイトキャップをかぶり、長い白髭をたくわえた、恰幅の良い男性である。彼が聖霊だろう。
聖霊の周りに乗っている雪だるまたちは、枝のような細い腕を上手に動かして、鈴やミニシロフォン、ハンドベルなどで軽快な音楽を奏でていた。
それぞれ表情も大きさも異なっていて、バケツの帽子や布切れのマフラーも、ひとりひとり違っているのが面白い。
その肌は、みな一様に真っ白。まるで本当に雪でできているかのように、氷の粒が光を反射してキラキラと煌めいている。
「悪い子はいねぇかぁぁあ!? うっし、野郎ども、祝福を配るぞ!」
聖霊が手をスッと振ると、空中で小さなソリが七つ現れた。七つの小さなソリは、形こそそれぞれ違うが、電飾はついてはいない。
それぞれのソリにトナカイが一頭ずつ近づいていき、どこからともなく現れた光の手綱が装着される。
ソリに乗っているのは、聖霊をミニチュアにしたような小人たちだ。
七人の小人たちは、大きな袋を抱えて七頭のトナカイと共に各方向に飛び去って行った。
「ほっほっほ、行ったか」
突然現れたハイテンションの聖霊に驚いて固まっていた私たちは、その笑い声を聞いて我に返った。
聖霊はトナカイを繰り、ゆっくりと私たちの方へと降りてきたのだった。
「さて、と。ここにも祝福を待つ良い子がいるな。二人とも、神殿に案内すっから、後ろに乗りな」
聖霊は、親指をぐいっと立てて自分の後ろを指し示す。想像していたのとキャラが大分違うが、優しく面倒見の良い親分、といった印象だ。
私がセオの方を見ると、セオは私に手を差し出し、ソリに乗れるようエスコートしてくれた。
セオも続いてソリに乗り込むと、聖霊はトナカイの手綱を引く。
トナカイは、まるで空に道があるかのように、ゆっくりと空を歩き始め、徐々にスピードを上げて駆けだしたのだった。
トナカイは、聖樹のてっぺんを飾る星のオブジェに向かって駆ける。ぶつかるかと思ったその刹那、星のオブジェは眩い光を放ち、私は目を閉じたのだった。
目を開くと、そこには別世界が広がっていた。
辺り一面に雪が積もっていて、光り輝くオーナメントに彩られたモミの木がたくさん生えている。
その中央部には、これまたチカチカした電飾に彩られたささやかな家と、大きな煙突の付いた平屋建ての建物があった。
平屋建ての、工場のような建物の煙突からは、もくもくと不思議な形の煙が次々と吐き出されている。ドーナツの形、魔女の帽子の形、馬車の形、鳥の形……ずっと見ていても飽きなそうだ。
「ここが光の神殿だ。あっちの工場で子どもたちに渡す祝福を作ってる。んで、そっちの小屋が俺ん家だ」
「光の神殿……」
「おう、神殿っぽくなくて悪ぃな。さ、入んな」
トナカイのソリを家の前に停めて、聖霊はサッと家の扉を開けた。
リビングには暖炉と小さなモミの木、大きなロッキングチェアがある。
聖霊はロッキングチェアに腰掛けると、その口の悪さが嘘のように、人好きのする笑みを浮かべた。
長い白髭と髪の毛で口元は見えにくいが、目が笑っていて優しい風貌だ。
「椅子、これしかねえんだ。すまねぇな。改めて、俺は光の精霊、クロースだ。ノエルタウンでは聖霊と呼ばれてるな」
クロースは、屈んで足元をごそごそ探している。
そして、おもむろに黄金色のプレゼントボックスを取り出した。
「セオ、パステル、これが何か分かるな。二人はずっと良い子だったから早く渡したかったんだけどよ、二人が一緒にいる時じゃないとダメだったんだよな。
さ、聖霊からの祝福、受け取ってくれ」
私とセオは顔を見合わせ、頷きあう。
プレゼントボックスをクロースから受け取ると、二人で一緒にリボンに手をかける。
しゅるしゅるとリボンが解けると、プレゼントボックスの中から黄色い光が溢れ出した――。
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