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第一章 「実地訓練」(7)
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7
こうして、洞窟中に散らばっていた生徒の中から役に立ちそうなのをピックアップして合流していくうちに、その勢力はおよそ30人になった。
ここまで来ると立派な兵力だ。
ゴブリン1匹まともに倒せていない僕がこのまま仕切っていていいのかと多少不安にもなるが、こういう時は勢いだ。勢いに任せてしまおう。
「よし、このまま中央を一気に突破しよう!! 花京院とジョセフィーヌは切り込み隊長! とにかく前に前に進んでくれ!!」
「うっしゃぁぁぁ行くぞー!!!」
「イクわよぉぉぉぉっ!!!」
二人が棍棒を振りかざしてゴブリンの隊列に突入する。
「メルは二人の取りこぼしを殲滅してくれ! キムは殿軍(しんがり)を頼む。後方から追ってくるゴブリンをまとめて相手して欲しい。後ろからは誰も通すな!! 敵の壁役になってくれ!」
「わかったわ」
「了解だ」
メルとキムは、それぞれ即答してすぐに動いた。
「ルッ君は、その、なんだ。いいかんじに」
「な、なんだよそれ! もうちょっと何かないのかよ!」
ルクスが軽くズッコケながらツッコミを入れる。
「俺にもなんかカッチョいいこと言ってくれよ! なぁ、なんかあるだろ!?」
「そ、そうだな、そう、遊撃! 棍棒と弓を使って、その場の判断でいいかんじにやってくれ」
「結局『いいかんじ』じゃねぇかよ! わかったよ、やるよ!」
「他のみんなは後に続いてくれ!! ケガをした奴は無理をするな! 重症の奴からキャンプに戻ってくれていい。キムが合流を助けてくれるはずだ!」
「おー!」
「了解!」
「指図すんじゃねー!」
様々な声が響き渡った。
その一斉突撃で、戦況は一気に変わった。
周囲に積み重なるゴブリンの屍の山、山、山。
「個」が「兵」になり、「軍」となっただけで、ここまで変わるものなのか。
花京院とジョセフィーヌの捨て身の突撃による突破力。
メルの圧倒的な剣……棍棒さばきによる制圧力。
討ち漏らしたり、奇襲をかけたりしてくるゴブリンには、冷静で機敏、機転が利くルクスが弓に棍棒に、的確に処理する。
キムが後方をがっちりカバーしてくれるおかげで、負傷した兵もキャンプで回復して、すぐさま戦線に復帰できる。
僕たちの「軍」による快進撃はゴブリンたちの戦線を一気に押し下げて、みるみるうちに洞窟の最深部まで到達した。
すべてが順調に推移している。
いや、少し順調すぎる。
なぜだろう、周囲の皆の士気が最高潮に高まり、意気が高揚しているのに反して、僕は急速に体温が下がっていくのを感じていた。
こういう時は、何かが起こる。
すべてがひっくり返るような何かが……。
僕は周囲の様子に細心の注意を払った。
ゴブリン達は一見、同じように攻めているように見えて、じり、じり、とゆっくり後ろに下がっているように見える。そう、まるでこちらをおびき寄せるような……。
(おびき寄せた先には何が……?)
壁掛け松明に照らされて、敵の陣地が少しずつ視界に入り始めている。
「あれが、ゴブリンの親玉か……」
追い詰められているせいだろう、鎖帷子を身に纏った大柄のゴブリンは玉座に座ることなく、立ち上がってゴブリン達に指示を出している。
その顔は、陣地のさらに後方、それも上の方を向いて……。
上の方は暗くてよく見えないが……。
「っっ!」
(今、何かが光るのが見えた!!!)
「全員、急いで盾を構えてしゃがむんだ!!! 矢が飛んでくるぞっ!!!!」
僕が叫ぶのが、一瞬だけ早かった。
ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!!!
ガッ、ガッ、ガッ!!!!
「うわわわわわわわあああっ!!!」
周りに指示するだけで、肝心の自分の準備ができていなかった。僕は飛来する矢をあわてて避けまくりながら、その辺に落ちていたゴブリン兵の盾を拾い上げて身を守った。
「痛っっー!!!」
「っ、大丈夫っ?!」
メルが盾を前方に構えたまま素早く駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫」
また肩かよ。
盾からはみでた肩に、木製の矢が突きささっていた。
幸いなことに、木を鋭く削っただけの簡素なもので、矢じりのようなものは付いていない。毒の類もない。顔にさえ当たらなければ、あるいは無数に食らわなければ、ただ痛いだけだ。
出血も大したことない。それでも最悪なんだけど。
「しっかりして。今、あなたがやられたら、全員総崩れよ」
「い、いや、そんなことはないでしょ。君がいるもの」
「そんなことあるわよ」
メルが後方を振り返ったので、僕もそれに倣った。
「えっ」
僕は思わずうめいた。
全員が、僕を見ている。
支給品の、簡素な木の盾で降り注ぐ矢の雨を必死に防ぎながら、それでも真っすぐに、全員が僕を見ている。
次はどうすればいい? どう動けばいいんだ? 早く言ってくれ。皆がそう訴えているように感じたのは、決して、僕の思い上がりというわけではなさそうだ。
「ぷっ、ふふっ」
「っ?」
思わず噴き出してしまった僕の顔を、メルが怪訝そうに見上げる。
こいつらはバカじゃないのか。
ゴブリン1体まともに倒せない僕みたいな奴に、本当に命を預けてもいいの?
「わははは!!!」
「……あなた、この状況で笑っているの?」
「このクラス、最高」
肩に刺さった矢の痛みなんて、一瞬で忘れてしまった。
その代わりに、それまでまったく平気だったのに、急に胃の辺りにズン、と鉛のように重いものがのしかかるのを感じた。
……重責。
これが、30 人の生命を背負った責任の重みということなのだろうか。
(悪くない、この重み、悪くないぞ)
「まつおさん、矢による負傷で減点3」
「ふふっ、うるせーよ……」
実に残念なタイミングで指導教官の魔法伝達が届き、僕は思わず口元をほころばせた。
「全軍っ、集まれ!! 密集体形!! 盾と盾の隙間がなくなるぐらい密集するんだ!!盾を持つ腕は絶対に下げるな!!」
僕は叫んだ。叫んですぐに恥ずかしくなった。全軍ってなんだ、全軍って。
だが、そこにツッコミを入れる者は誰もいなかった。
全員の動きは、僕が思ったよりもはるかに迅速だった。
無言で、それぞれがそれぞれの間合いに合わせ密着し、盾と盾をぴったりとくっつけた。
「矢勢が衰えないわね……」
僕に駆け寄ったメルは、必然的にそのままの位置で僕の隣に密着している。
さらさらの銀髪から漂う甘い、いい香りにくらくらしそうだ。
あれだけ連戦して汗だくなはずなのに、なんでこんないい匂いがするんだろう。いや、きっと汗の匂いも混ざっているのか。とにかく、この匂いはヤバい。僕はこんなに緊張状態なのに、とってもムラムラしていた。
「……ねぇ」
「なっ、僕は変態じゃないぞ!」
「はぁ? 何を言ってるの?」
「あ、いや」
怪訝そうな表情のメルに、僕は取り繕うように笑顔を作る。
「このまま撤退するつもり?」
「うーん、いや、ダメだな」
後方を見渡しながら、僕は言った。
進軍速度が落ちたせいで、周りを取り囲んでいるゴブリンたちの勢力が大きくなってきている。最後尾のキムや他の生徒たちが奮戦してくれているおかげで、今のところなんとかなってはいるが、おそらく崩れるのは時間の問題だろう。
「たぶんだけど、撤退した方が被害が大きくなる。たぶんだけど」
「たぶん、が多いわね」
「仕方ないだろ。僕だって初めてなんだから」
こうして、言葉にしてメルに伝えると、自分の考えていることがうまくまとまる感じがする。
そうだ。やるべきことは限られている。
「全軍、このまま敵の本陣に乗り込もう!! メルとキム、ルッ君以外、ゴブリンリーダーは後回しだ! 先に後方にいるゴブリン弓兵たちを殲滅する!! メルはみんなが弓兵を倒して合流できるまで、ゴブリンリーダーを足止めしてくれ!」
「わかったわっ!」
「キムは弓兵以外のゴブリンを叩いてくれ! できるだけ多くのゴブリンを相手にするんだ。できるか?!」
「やってみるっきゃねぇな!」
「ルッ君は……、その、なんだ、いい感じにやってくれ!」
「またそれかよ!!」
僕はルッ君のツッコミに構わず、全員に向けて叫んだ。
「いいか! ここが正念場だぞ!! 俺たちの恐ろしさをクソ生意気なゴブリン共に思い知らせてやろう!!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!」
特に示し合わせたわけでもない。
およそ30人の怒涛のような雄叫びが、一斉に洞窟内に響き渡った。
「戦の咆哮(ウォークライ)スキルだと?! まだ戦士クラスでもない者たちが、一斉に……」
魔法伝達で指導教官が何かを呟いているが、鼓膜を破らんばかりの咆哮に、よく聞こえな
い。
声の力って、すごいんだな。
全身にみなぎるような高揚感。心なしか、身体も少し身軽になったように感じる。あれだけ恐ろしくて目も開けていられなかった矢の雨が、ゆっくりになったように感じる。
周囲にいたゴブリン達は僕たちの咆哮に動揺し、それどころか、腰を抜かしている奴らが何匹もいた。
「ッシャーオラアアアアアア!!!!」
「ンーッ、もうっ、サイッコー!!!」
士気が高揚している兵の中でも、先陣を切っている花京院とジョセフィーヌの猛戦ぶりはすさまじく、至近距離まで近づかれて逃げ惑う弓兵たちを次々と殲滅していく。
「弓兵部隊、撃破ッ!!」
「倒したぞー!!」
生徒たちが叫ぶのが聞こえる。
「おい、やったな!!」
いつのまにか隣にいたルッ君とガツッ、と拳を合わせた。
「ああ、後は親玉だけだ!! メルティーナ!! 足止めお疲れ……あれっ?」
玉座の方を振り向いた僕とルッ君は、それを見て、思わず互いの顔を見合わせた。
ルッ君は、ぽかん、とアホみたいに口を開けている。僕もたぶん、同じような顔をしていることだろう。
「フッ、すでに討ち取っている」
鎖帷子を身に纏ったゴブリンリーダーが床に転がっている。
まるで戦乙女のようだと、僕は思った。
メルは棍棒を軽く一度横に振って血を払うと、 銀縁眼鏡を左手でずり上げて、こちらに向かって不敵に笑った。
「実地訓練終了! よくやった! 全員キャンプまで戻れ」
洞窟内に響き渡る勝鬨の声で、教官の声はよく聞こえなかった。
こうして、洞窟中に散らばっていた生徒の中から役に立ちそうなのをピックアップして合流していくうちに、その勢力はおよそ30人になった。
ここまで来ると立派な兵力だ。
ゴブリン1匹まともに倒せていない僕がこのまま仕切っていていいのかと多少不安にもなるが、こういう時は勢いだ。勢いに任せてしまおう。
「よし、このまま中央を一気に突破しよう!! 花京院とジョセフィーヌは切り込み隊長! とにかく前に前に進んでくれ!!」
「うっしゃぁぁぁ行くぞー!!!」
「イクわよぉぉぉぉっ!!!」
二人が棍棒を振りかざしてゴブリンの隊列に突入する。
「メルは二人の取りこぼしを殲滅してくれ! キムは殿軍(しんがり)を頼む。後方から追ってくるゴブリンをまとめて相手して欲しい。後ろからは誰も通すな!! 敵の壁役になってくれ!」
「わかったわ」
「了解だ」
メルとキムは、それぞれ即答してすぐに動いた。
「ルッ君は、その、なんだ。いいかんじに」
「な、なんだよそれ! もうちょっと何かないのかよ!」
ルクスが軽くズッコケながらツッコミを入れる。
「俺にもなんかカッチョいいこと言ってくれよ! なぁ、なんかあるだろ!?」
「そ、そうだな、そう、遊撃! 棍棒と弓を使って、その場の判断でいいかんじにやってくれ」
「結局『いいかんじ』じゃねぇかよ! わかったよ、やるよ!」
「他のみんなは後に続いてくれ!! ケガをした奴は無理をするな! 重症の奴からキャンプに戻ってくれていい。キムが合流を助けてくれるはずだ!」
「おー!」
「了解!」
「指図すんじゃねー!」
様々な声が響き渡った。
その一斉突撃で、戦況は一気に変わった。
周囲に積み重なるゴブリンの屍の山、山、山。
「個」が「兵」になり、「軍」となっただけで、ここまで変わるものなのか。
花京院とジョセフィーヌの捨て身の突撃による突破力。
メルの圧倒的な剣……棍棒さばきによる制圧力。
討ち漏らしたり、奇襲をかけたりしてくるゴブリンには、冷静で機敏、機転が利くルクスが弓に棍棒に、的確に処理する。
キムが後方をがっちりカバーしてくれるおかげで、負傷した兵もキャンプで回復して、すぐさま戦線に復帰できる。
僕たちの「軍」による快進撃はゴブリンたちの戦線を一気に押し下げて、みるみるうちに洞窟の最深部まで到達した。
すべてが順調に推移している。
いや、少し順調すぎる。
なぜだろう、周囲の皆の士気が最高潮に高まり、意気が高揚しているのに反して、僕は急速に体温が下がっていくのを感じていた。
こういう時は、何かが起こる。
すべてがひっくり返るような何かが……。
僕は周囲の様子に細心の注意を払った。
ゴブリン達は一見、同じように攻めているように見えて、じり、じり、とゆっくり後ろに下がっているように見える。そう、まるでこちらをおびき寄せるような……。
(おびき寄せた先には何が……?)
壁掛け松明に照らされて、敵の陣地が少しずつ視界に入り始めている。
「あれが、ゴブリンの親玉か……」
追い詰められているせいだろう、鎖帷子を身に纏った大柄のゴブリンは玉座に座ることなく、立ち上がってゴブリン達に指示を出している。
その顔は、陣地のさらに後方、それも上の方を向いて……。
上の方は暗くてよく見えないが……。
「っっ!」
(今、何かが光るのが見えた!!!)
「全員、急いで盾を構えてしゃがむんだ!!! 矢が飛んでくるぞっ!!!!」
僕が叫ぶのが、一瞬だけ早かった。
ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!!!
ガッ、ガッ、ガッ!!!!
「うわわわわわわわあああっ!!!」
周りに指示するだけで、肝心の自分の準備ができていなかった。僕は飛来する矢をあわてて避けまくりながら、その辺に落ちていたゴブリン兵の盾を拾い上げて身を守った。
「痛っっー!!!」
「っ、大丈夫っ?!」
メルが盾を前方に構えたまま素早く駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫」
また肩かよ。
盾からはみでた肩に、木製の矢が突きささっていた。
幸いなことに、木を鋭く削っただけの簡素なもので、矢じりのようなものは付いていない。毒の類もない。顔にさえ当たらなければ、あるいは無数に食らわなければ、ただ痛いだけだ。
出血も大したことない。それでも最悪なんだけど。
「しっかりして。今、あなたがやられたら、全員総崩れよ」
「い、いや、そんなことはないでしょ。君がいるもの」
「そんなことあるわよ」
メルが後方を振り返ったので、僕もそれに倣った。
「えっ」
僕は思わずうめいた。
全員が、僕を見ている。
支給品の、簡素な木の盾で降り注ぐ矢の雨を必死に防ぎながら、それでも真っすぐに、全員が僕を見ている。
次はどうすればいい? どう動けばいいんだ? 早く言ってくれ。皆がそう訴えているように感じたのは、決して、僕の思い上がりというわけではなさそうだ。
「ぷっ、ふふっ」
「っ?」
思わず噴き出してしまった僕の顔を、メルが怪訝そうに見上げる。
こいつらはバカじゃないのか。
ゴブリン1体まともに倒せない僕みたいな奴に、本当に命を預けてもいいの?
「わははは!!!」
「……あなた、この状況で笑っているの?」
「このクラス、最高」
肩に刺さった矢の痛みなんて、一瞬で忘れてしまった。
その代わりに、それまでまったく平気だったのに、急に胃の辺りにズン、と鉛のように重いものがのしかかるのを感じた。
……重責。
これが、30 人の生命を背負った責任の重みということなのだろうか。
(悪くない、この重み、悪くないぞ)
「まつおさん、矢による負傷で減点3」
「ふふっ、うるせーよ……」
実に残念なタイミングで指導教官の魔法伝達が届き、僕は思わず口元をほころばせた。
「全軍っ、集まれ!! 密集体形!! 盾と盾の隙間がなくなるぐらい密集するんだ!!盾を持つ腕は絶対に下げるな!!」
僕は叫んだ。叫んですぐに恥ずかしくなった。全軍ってなんだ、全軍って。
だが、そこにツッコミを入れる者は誰もいなかった。
全員の動きは、僕が思ったよりもはるかに迅速だった。
無言で、それぞれがそれぞれの間合いに合わせ密着し、盾と盾をぴったりとくっつけた。
「矢勢が衰えないわね……」
僕に駆け寄ったメルは、必然的にそのままの位置で僕の隣に密着している。
さらさらの銀髪から漂う甘い、いい香りにくらくらしそうだ。
あれだけ連戦して汗だくなはずなのに、なんでこんないい匂いがするんだろう。いや、きっと汗の匂いも混ざっているのか。とにかく、この匂いはヤバい。僕はこんなに緊張状態なのに、とってもムラムラしていた。
「……ねぇ」
「なっ、僕は変態じゃないぞ!」
「はぁ? 何を言ってるの?」
「あ、いや」
怪訝そうな表情のメルに、僕は取り繕うように笑顔を作る。
「このまま撤退するつもり?」
「うーん、いや、ダメだな」
後方を見渡しながら、僕は言った。
進軍速度が落ちたせいで、周りを取り囲んでいるゴブリンたちの勢力が大きくなってきている。最後尾のキムや他の生徒たちが奮戦してくれているおかげで、今のところなんとかなってはいるが、おそらく崩れるのは時間の問題だろう。
「たぶんだけど、撤退した方が被害が大きくなる。たぶんだけど」
「たぶん、が多いわね」
「仕方ないだろ。僕だって初めてなんだから」
こうして、言葉にしてメルに伝えると、自分の考えていることがうまくまとまる感じがする。
そうだ。やるべきことは限られている。
「全軍、このまま敵の本陣に乗り込もう!! メルとキム、ルッ君以外、ゴブリンリーダーは後回しだ! 先に後方にいるゴブリン弓兵たちを殲滅する!! メルはみんなが弓兵を倒して合流できるまで、ゴブリンリーダーを足止めしてくれ!」
「わかったわっ!」
「キムは弓兵以外のゴブリンを叩いてくれ! できるだけ多くのゴブリンを相手にするんだ。できるか?!」
「やってみるっきゃねぇな!」
「ルッ君は……、その、なんだ、いい感じにやってくれ!」
「またそれかよ!!」
僕はルッ君のツッコミに構わず、全員に向けて叫んだ。
「いいか! ここが正念場だぞ!! 俺たちの恐ろしさをクソ生意気なゴブリン共に思い知らせてやろう!!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!」
特に示し合わせたわけでもない。
およそ30人の怒涛のような雄叫びが、一斉に洞窟内に響き渡った。
「戦の咆哮(ウォークライ)スキルだと?! まだ戦士クラスでもない者たちが、一斉に……」
魔法伝達で指導教官が何かを呟いているが、鼓膜を破らんばかりの咆哮に、よく聞こえな
い。
声の力って、すごいんだな。
全身にみなぎるような高揚感。心なしか、身体も少し身軽になったように感じる。あれだけ恐ろしくて目も開けていられなかった矢の雨が、ゆっくりになったように感じる。
周囲にいたゴブリン達は僕たちの咆哮に動揺し、それどころか、腰を抜かしている奴らが何匹もいた。
「ッシャーオラアアアアアア!!!!」
「ンーッ、もうっ、サイッコー!!!」
士気が高揚している兵の中でも、先陣を切っている花京院とジョセフィーヌの猛戦ぶりはすさまじく、至近距離まで近づかれて逃げ惑う弓兵たちを次々と殲滅していく。
「弓兵部隊、撃破ッ!!」
「倒したぞー!!」
生徒たちが叫ぶのが聞こえる。
「おい、やったな!!」
いつのまにか隣にいたルッ君とガツッ、と拳を合わせた。
「ああ、後は親玉だけだ!! メルティーナ!! 足止めお疲れ……あれっ?」
玉座の方を振り向いた僕とルッ君は、それを見て、思わず互いの顔を見合わせた。
ルッ君は、ぽかん、とアホみたいに口を開けている。僕もたぶん、同じような顔をしていることだろう。
「フッ、すでに討ち取っている」
鎖帷子を身に纏ったゴブリンリーダーが床に転がっている。
まるで戦乙女のようだと、僕は思った。
メルは棍棒を軽く一度横に振って血を払うと、 銀縁眼鏡を左手でずり上げて、こちらに向かって不敵に笑った。
「実地訓練終了! よくやった! 全員キャンプまで戻れ」
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2024年12月追記
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小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
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