士官学校の爆笑王 ~ヴァイリス英雄譚~

まつおさん

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第九章「廃屋敷の冒険」(1)~(2)

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 冒険者ギルド、イグニア第二支部のワンオペ業務を終えて、僕は一息ついた。
 テーブルには、お昼にイグニア第二支部の資料室から見つけてきたボロボロの巻物を広げてある。
 
 「よし、できた!」

 羊皮紙に巻物の主要部分を書き写し終えて、僕はジェルディク産のコーヒーでひとりごちた。
 アンナリーザが飲んでいる姿がシブかったので雑貨屋で買ってマネをしてみたんだけど、僕の淹れ方が下手なのか、酸味も苦味も強くてなかなか慣れない。……でも香りだけは最高だ。

 巻物の中身は、「ベルゲングリューン邸および庭園の設計図」と書かれている。 
 そう、例のおばけ屋敷の図面だ。

 今から100年以上前、ベルゲングリューン伯爵の屋敷を建てるために大規模工事の発注があった時のものらしい。

『あーあー、てすてす。諸君聞こえるかね」

 僕は覚えたての同時多数の魔法伝達テレパシーを行う。
 これ、すごく便利なんだけど、こちらからの一方通行なのが難点なんだよね。

『そろそろ決行だ。僕も現地に向かうから、各員現地集合で』

 


 イグニス北東部。
 イグニス街道から隣のアルミナ市へと続く分岐路のあたりが僕らの合流地点だった。

 辺りはすっかり日が落ち、街灯もない周囲をミヤザワくんの光明魔法ライトの明かりだけが周囲を照らしている。

「おまたせ。……集まったのはこれで全員?」
 
 一番最後にやってきたアンナリーザが周囲を見回してから、僕に言った。
 教会の修道女シスターの服の上に、ファーのついた男物の黒い外套コートを身にまとった姿が実に絵になっている。

「まつおさんまつおさん……こちらの超かっこいいおねぇさまは一体……」

 小声で話しかけるルッ君を見て、僕は思わず言った。

「あれ? なんでルッ君がここにいるの?」
「ひどっ!! お前らが何かコソコソやってるからついてきたんだよ!」
「あ、そう。けっこう危ないかもしれないから、死なないでね」
「えっ、えっ、なに、そんなヤバいやつなの?これ?」

 慌て始めるルッ君の肩を、偽ジルベールがぽんぽんと叩いた。

「ふっ、今更うろたえるものではない。友らと死地に向かえるのだ。これ以上の僥倖ぎょうこうはなかろう」

(いや、閣下も呼んでないんだけど……)

 周りを見渡せば、僕が声を掛けたキムやメル、ミヤザワくんの他にも花京院やジョセフィーヌ、ユキまで集まっていた。
 
 結局いつもの面々が勢揃いというわけだ。
 計画の最初から想定外イレギュラー発生なんだけど……、まぁいいか。

「ねぇねぇまつおさん、今から何が始まるの? なんだかワクワクしちゃう!」
「まつおさんのやることだからな、きっとロクでもねぇことなんだろうけど、笑えるのは確かだと思うぜ」

 ジョセフィーヌと花京院の発言に、周りがくすくすと笑った。

「それじゃみんな、こんな時間に集まってくれてありがとう」
「まったくだわ」

 おまえも呼んでないんだけどな、とユキに言いたいのを必死こらえて、僕は話を続ける。

「こちらはBクラスのアンナリーザさん。無理を言って今回の作戦に参加してもらうことになりました。皆、粗相そそうのないように! 特にルッ君!」
「えっ、えっ、なんでオレなの?!」

 アンナリーザにチャラい感じでいくとひどい目に合うと思うから、これは僕の優しさだ。

「まさか本当に『聖女』に協力させるなんて……、やっぱりまつおさんはあなどれないわね……」
「すごい魔力を感じる……、私達とはレベルが違うわね」

 アンナリーザ と一通り挨拶を交わしたユキとメルが何かうなっている。

「今回の作戦は少数精鋭でいくつもりだったんだけど、けっこうみんなが集まってくれたのでちょっと作戦を変えたいと思う」
「それはいいけど、そもそも何をするんだ?」
「おばけが出るんだよ……」

 さっきからずっと無口で下を向いていたミヤザワくんがルッ君に答えた。

「ああ、例のおばけ屋敷の話か……」
「申し訳ないけど、今から事情を詳しく説明し直す時間はないんだ。わかっていることは、おそらくロクでもない連中がロクでもないことをやっていて、たぶんもっと大きなことをしでかすつもりなんだろうということだ」
「アラ、ずいぶんあやふやなのね」
「ああ、これ以上詳しく調べたら危険だし、連中が逃げる可能性もある。どちらにしても、僕たちの手には負えなくなるだろう」
「ふむ、つまりけいは今なら我らの手に負えると考えているというわけだな」
「そういうこと。作戦通りにいけば、僕らは誰もケガせずにすむ」
「失敗したら?」

 アンナリーザが言った。
 基本的に(メルを含めて)イケイケドンドンなCクラスにはいない、貴重な冷静キャラだ。

「少しでも作戦が失敗したら即座に逃げる。ただ、賭けてもいいが相手は絶対深追いはしてこないと思う」
「それはどうして?」

 腕を組んでじっと僕を見ていたメルが尋ねる。

「あれだけ念入りに痕跡を消したり、おばけの仕業に見せかけたりしていたってことは、連中はそれだけあの場所からなるべく動きたくなくて、かつ、なるべく大事にはしたくないってことだからだ。口封じに走るぐらいなら姿をくらますんじゃないかな」

「……うーん、それ、根拠としてはちょっと弱いんじゃない?」

 ユキの言葉に、僕はうなずく。

「そうだね。じゃ、少しだけ嫌な言い方をすると、もし僕が言った通りでなければ、子供たちは僕のところに来る前にとっくに死んでいる」

 僕の言葉に、一同は息を飲んだ。

「……そ、それはわかったけど……まつおさん……」

 かぼそい声でミヤザワくんが言った。

「さっきから抱えているその大きな袋……、何が入ってるの……なんか袋からぽたぽた、赤いのが滴ってるんだけど……、それ……もしかして……ち、ちち、……血……?」

 僕はミヤザワくんに答えずに、邪悪な笑みを浮かべてみせた。
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