士官学校の爆笑王 ~ヴァイリス英雄譚~

まつおさん

文字の大きさ
19 / 199

第九章「廃屋敷の冒険」(3)

しおりを挟む


 ぐちゃっ……

「ひっ」

 納屋の前まで歩いて、僕が大きな布袋を地面に置くと、ミヤザワくんが小さく悲鳴をあげた。
 
 ガラガラガラ!!

「ひぃぃぃ!」

 頼んでおいた枝や木材を集めたものをキムが乱暴に地面に置くと、さらにミヤザワくんが悲鳴をあげた。

「よーし、キム、例のやつ持ってきて」
「いいけど、こんなの何に使うんだ? ……けっこう重かったんだぞ」 

 キムが最初に愛用していた鉄板を薄く伸ばしただけの簡素な大盾。
 今は士官学校から授与されたやつを使っているから無用の長物なんだけど、愛着があって捨てずにとっておいたらしい。
 毎日きちんと手入れしているらしく、表面はぴかぴかの状態だ。

「持ち手の部分は汚いからひっぺがして……っと」
「わ、バカ!! 何しやがる!」
「まぁまぁ、洗ってまた使えばいいから」

 湖の水をすくって草でキムの盾をごしごし洗いながら、僕は言った。

「洗うって、お前いったい……」
「ミヤザワくん、その木材に火球魔法ファイアーボール撃てる? 威力は限界まで低くして」
「わ、わかった」

 動揺するキムを尻目に、ミヤザワくんが両手杖をかざして魔法詠唱を始めた。

「万物の根源に告ぐ、物質に束縛されし力を放ち、我のもとに収束せよ。ファイアーボールッ!!」
「おおおっ、すげぇ」

 ミヤザワくんの杖の先からほとばしる炎を花京院が身を乗り出して覗き込んだ。
 アンナリーザが感心したようにミヤザワくんを見る。
 
 火球はキムが置いた木材に命中して、大きな火柱を立てる。

「わわ、思ったより燃えた。ファイアーボールってすごいんだね」
「ご、ごめん。まだコントロールが難しくて……」
「いやいや、大丈夫。ここにキムの盾をのせてフタをすればっと」
「おおい!!!」

 キムが慌てて静止するのをよそに、僕はキムの大盾に山羊のバターをのせて、まんべんなく塗りたくった。

「あー、やべぇいい匂い……ってバカヤロウ!! てめぇなんてことしやがるんだ!」
「ヤダまつおさん、もしかして、その袋の中身って……」
「ご名答」

 僕はジョセフィーヌにウィンクして、袋の中身を広げてみせた。

「僕がアルバイト代をはたいて買った、丘バッファローの厚切り肉だ!!」
「ヤダも~!! 素敵!! ここでバーベキュー始めちゃう気なのね!!」

 感極まったジョセフィーヌが僕に抱きついてきた。
 心は乙女でも、身体は男。
 お肉が大好きなのは僕たちと同じなのだ。

「バーベキューって、……あんた、正気? すぐそこにヤバい奴らが潜伏してるんでしょ?」
「ちょ、ちょっとまって、ちょっとまって、思考がおいつかないんだけど」
 
 混乱するユキやルッ君に構わず、僕は丘バッファローの肉をキムの盾にのせた。

 ジュー!!!

「……」「……」「……」「ゴクッ」

 他にも物言いたそうにしていた連中は、肉が焼ける音を聞いた瞬間、思考停止した。

「あっはっはっはっは!!! おっかしぃ!! あなたって最高!!」

 そんな一同の反応がアンナリーザのお気に召したらしく、僕の肩をバシバシ叩いて爆笑する。
 そんなこちらをじっと見ているメルの表情は、ちょっと読めない。

 またたく間に肉が焼ける匂いと共に、もくもくと煙が立ち上がった。

「いいかい? ここまでの筋書きはこうだ。士官学校のアホ共が屋敷の前で肉を焼いて馬鹿騒ぎをしている。騒がしいし不愉快極まりないが、我々の大いなる計画のためにもここは放置しておこう。……後でぶっ殺す」
「い、いや、だからって肉を焼かなくても……」
「いいか、最初に食うのはオレだからな? オレの思い出の盾が犠牲になったんだからな?」
「わーい、いただきマース!!」
「あ、ばか! ジョセフィーヌ!!」
「メルは肉、へいき?」
「好きよ。脂身は苦手だけど」
「あ、じゃ肩の肉を食べるといいよ。待ってね、今焼くから」
「身分の上では庶民であるけいに通じるだろうか。私は『ハラミ』という部位を特に好むのだが……」
「そういう奴もいるかなと思って、ちゃんと買ってあるよ。閣下!」
「おおお、さすがである。だからけいけいなのだぞ、まつおさんよ」
「肉が苦手なミヤザワくんのために、魚も買ってあるよ! アルミナ産のレインボートラウトだ!」
「わぁ……まつおさんはやさしいね……! ありがとう!」

 焚き火でおばけへの恐怖心がずいぶん払拭されたらしく、ミヤザワくんが明るくなってる。

「なぁ、修道女シスターって肉食ってもいいの?」
「なにアンタ、修道女シスターを差別する気?」

 ルッ君がさっそく地雷を踏んでアンナリーザにひと睨みされている。
 ……言わんこっちゃない。

「あ、そ、そうですよね。お肉取りましょうか?」
「自分で取るからいいわよ。それより、お皿取ってくれる?」
「は、はい!」
「うんま!、これうんま!!」
「ちょっと花京院!全部持っていかないでよ!」
「あ、ユキ、ワリィワリィ!! これ、食うか?」
「きちゃないわね!! あんたの食べかけなんていらないわよ!!」

 ……どうやら、「アホな士官学校の生徒たちが馬鹿騒ぎをしている」という僕の筋書きは完璧すぎるぐらいに筋書き通りに進んでいるようだ。今のこいつらはどこからどう見ても、アホな士官学校生にしか見えない。

「大丈夫なの?」
「うん、何が?」

 僕も適当に肉をつついていると、メルが声を掛けてきた。
 僕がオススメした肩の肉を食べながら、どこから見つけてきたのか野菜も食べている。

「これだけのお肉、ぜんぶあなたが買ったんでしょう?」
「まぁね。みんなと違って装備を買うこともないし、アルバイトしてるから、大丈夫かなって」

 ここまでの大所帯でバーベキューをやるとは思ってなかったけど、念の為に多めに買っておいてよかった。
 ……余ったら全部キムに食わせようと思ってたから。

「そう。……冒険者ギルドのお仕事、楽しい?」
「そうだね、楽しいよ。いろんな人と知り合いになれるし、こんな事件とも出会えるし」
「ふふ、事件を起こしているのはあなたのような気もするけど」

 メルが少し笑った。
 メルが笑うのはとても貴重だから、それだけでも今回の冒険の価値はあったかも。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...