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第十四章「元帥の娘」(1)
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「エドワード君と言ったかな」
「は、はい、ベルゲングリューン伯」
「申し訳ないが、君が僕の相手をするのはまだ早いようだ。まずはA組のゾフィアと戦って勝てるようなら考えよう」
「は、はいっ! さっそく申し込んできます!」
目をきらきらさせて退室するエドワード君の背中を見送ってから、僕は大きくため息をついた。
「はぁ~っ」
「これで何件目?」
「10件から先は覚えてないよ……」
メルの問いに、僕は力なく苦笑する。
「その人たちって、全部ゾフィアさんのとこに行ってるんじゃないの? かわいそうじゃない?」
かわいそうとか言いながら、目が笑ってるぞ、ユキ。
「そもそもこういう状況になったのはあの子のせいなんだ。僕は知らん」
「あ、そう。……まぁそれはともかく、『アレ』使うの、もうやめてよね! みんなの前でひざまずかされてめちゃくちゃ恥ずかしかったんだから!」
「そうだ! 『アレ』は禁止!」
二度も僕の『アレ』の屈辱を味わっているキムが同調した。
「『アレ』は絶対、何かのハラスメントに該当すると思うんだよね! 4人の女を無理やりひざまずかせるなんて」
「アラ嬉しい。私も女に入れてくれたのネ」
「ゾフィアを入れたつもりだったんだけど……」
ジョセフィーヌが喜んでいるので、ユキが小声になった。
ジョセフィーヌはオネエ言葉だけど、たまにものすごく猛々しい雄叫びをあげたりするし、本人の素性に謎が多いこともあり、本当に心まで女子なのかどうか、女子たちの間では議論が分かれているらしい。
僕はそのへんよくわからないので、とりあえず女子として扱うことにしている。
「そう言われてもなぁ……、わざとやってるわけじゃ……」
「わざとじゃなきゃハラスメントが許されると思ったら大間違いよ!」
「そうだそうだ!」
「気をつけます……」
数少ない僕の能力……かどうかもよくわかってないものをユキとキムからハラスメント認定されて、僕はすっかりしょげてしまった。
「だがな、不思議なことに、卿にひざまずかされた時、嫌な気分ではなかったのだ。むしろ自ら望んでしているような高揚感があった」
「そこが問題なのよ!」
ユキが偽ジルベールにつっかかった。
「自ら望んで服を脱ぐようにまっちゃんが命令したら、とんでもないことになるんだから!」
「おお……っ」
ルッ君の反応に、女子たちの冷たい視線が一気に向けられた。
「ルッ君、やらないぞ、僕はそんなこと」
「わ、わかってるよ!」
それまで黙っていたメルが、僕の方を向いた。
「意識的にできるようにはなったの?」
メルの問いに答える代わりに、僕はルッ君に言った。
「ルッ君、あんパン買ってきて」
「お、あんパンね、わかった……ってオイ!!!」
「……ごめん、できないことを証明するつもりだったんだけど、ルッ君のリアクションのせいでちょっとややこしい感じに……」
「俺のせいかよ! お前が自然な感じで言うからだろ!」
「ごめんごめん、ルッ君がお姉ちゃんに逆らえないことをすっかり忘れてた」
「姉貴のことはゆーな!!」
ルッ君の反応に、メルがくすくす笑う。
メルの笑顔は本当に癒やされる。
僕たちがそんないつものノリで談笑していると、Cクラスの教室のドアが開いた。
「失礼する!」
よく通る、凛とした声が響き渡って、アイスブルーの髪の女生徒が教室に入ってきた。
帝国猟兵の留学生、ゾフィアだ。
試合での負傷は回復魔法で完全に癒えたらしく、包帯一つ巻いていない。
(もしかして、僕に来た試合の申込みを全部ゾフィアにぶん投げたから、怒りにきたんじゃ……)
つかつかと僕の方に歩いてくるんじゃないかとドキドキしていたけど、ゾフィアは教師のように教壇の前に立つと、僕たち全員に向けて宣言した。
「今日から、私、ゾフィア・フォン・キルヒシュラーガーはCクラスに移籍することになった。これからよろしく頼む!」
「ええええええええ」
僕は思わず声を上げた。
「移籍って……、そんなことってあるの?」
「さ、さぁ……聞いたことないけど」
ユキに小声で答えた。
「学校側にも正式に許可を取った。父上にも報告した。すべて問題ない」
「問題ありまくるわ!」
僕は思わずツッコんだ。
この子は僕の平穏な生活を粉々にしておいて、さらにトドメを刺そうというのか。
それに、Aクラスからの移籍って……、それでなくても面倒くさいことになりそうな真ジルベールとの関係がまたややこしくなるじゃないか……。
僕は頭を抱えた。
「どうして、移籍しようと思ったの?」
「ふふ、メルと言ったか。無粋なことは聞くものではない」
ゾフィアがちらちらと僕を見ながら、そんなことを言った。
「Aクラスが思っていた以上につまらんのでな。あそこにいてこれ以上得るものはないと判断した。それに……」
ゾフィアが恥ずかしそうに顔を伏せる。
なんか、すごい嫌な予感がする。
「側室になれと言われたのだ。離れたクラスにいるのも不自然だろう?」
「わ、バカ……」
……メルとユキのじとっとした視線が僕に突き刺さった。
「エドワード君と言ったかな」
「は、はい、ベルゲングリューン伯」
「申し訳ないが、君が僕の相手をするのはまだ早いようだ。まずはA組のゾフィアと戦って勝てるようなら考えよう」
「は、はいっ! さっそく申し込んできます!」
目をきらきらさせて退室するエドワード君の背中を見送ってから、僕は大きくため息をついた。
「はぁ~っ」
「これで何件目?」
「10件から先は覚えてないよ……」
メルの問いに、僕は力なく苦笑する。
「その人たちって、全部ゾフィアさんのとこに行ってるんじゃないの? かわいそうじゃない?」
かわいそうとか言いながら、目が笑ってるぞ、ユキ。
「そもそもこういう状況になったのはあの子のせいなんだ。僕は知らん」
「あ、そう。……まぁそれはともかく、『アレ』使うの、もうやめてよね! みんなの前でひざまずかされてめちゃくちゃ恥ずかしかったんだから!」
「そうだ! 『アレ』は禁止!」
二度も僕の『アレ』の屈辱を味わっているキムが同調した。
「『アレ』は絶対、何かのハラスメントに該当すると思うんだよね! 4人の女を無理やりひざまずかせるなんて」
「アラ嬉しい。私も女に入れてくれたのネ」
「ゾフィアを入れたつもりだったんだけど……」
ジョセフィーヌが喜んでいるので、ユキが小声になった。
ジョセフィーヌはオネエ言葉だけど、たまにものすごく猛々しい雄叫びをあげたりするし、本人の素性に謎が多いこともあり、本当に心まで女子なのかどうか、女子たちの間では議論が分かれているらしい。
僕はそのへんよくわからないので、とりあえず女子として扱うことにしている。
「そう言われてもなぁ……、わざとやってるわけじゃ……」
「わざとじゃなきゃハラスメントが許されると思ったら大間違いよ!」
「そうだそうだ!」
「気をつけます……」
数少ない僕の能力……かどうかもよくわかってないものをユキとキムからハラスメント認定されて、僕はすっかりしょげてしまった。
「だがな、不思議なことに、卿にひざまずかされた時、嫌な気分ではなかったのだ。むしろ自ら望んでしているような高揚感があった」
「そこが問題なのよ!」
ユキが偽ジルベールにつっかかった。
「自ら望んで服を脱ぐようにまっちゃんが命令したら、とんでもないことになるんだから!」
「おお……っ」
ルッ君の反応に、女子たちの冷たい視線が一気に向けられた。
「ルッ君、やらないぞ、僕はそんなこと」
「わ、わかってるよ!」
それまで黙っていたメルが、僕の方を向いた。
「意識的にできるようにはなったの?」
メルの問いに答える代わりに、僕はルッ君に言った。
「ルッ君、あんパン買ってきて」
「お、あんパンね、わかった……ってオイ!!!」
「……ごめん、できないことを証明するつもりだったんだけど、ルッ君のリアクションのせいでちょっとややこしい感じに……」
「俺のせいかよ! お前が自然な感じで言うからだろ!」
「ごめんごめん、ルッ君がお姉ちゃんに逆らえないことをすっかり忘れてた」
「姉貴のことはゆーな!!」
ルッ君の反応に、メルがくすくす笑う。
メルの笑顔は本当に癒やされる。
僕たちがそんないつものノリで談笑していると、Cクラスの教室のドアが開いた。
「失礼する!」
よく通る、凛とした声が響き渡って、アイスブルーの髪の女生徒が教室に入ってきた。
帝国猟兵の留学生、ゾフィアだ。
試合での負傷は回復魔法で完全に癒えたらしく、包帯一つ巻いていない。
(もしかして、僕に来た試合の申込みを全部ゾフィアにぶん投げたから、怒りにきたんじゃ……)
つかつかと僕の方に歩いてくるんじゃないかとドキドキしていたけど、ゾフィアは教師のように教壇の前に立つと、僕たち全員に向けて宣言した。
「今日から、私、ゾフィア・フォン・キルヒシュラーガーはCクラスに移籍することになった。これからよろしく頼む!」
「ええええええええ」
僕は思わず声を上げた。
「移籍って……、そんなことってあるの?」
「さ、さぁ……聞いたことないけど」
ユキに小声で答えた。
「学校側にも正式に許可を取った。父上にも報告した。すべて問題ない」
「問題ありまくるわ!」
僕は思わずツッコんだ。
この子は僕の平穏な生活を粉々にしておいて、さらにトドメを刺そうというのか。
それに、Aクラスからの移籍って……、それでなくても面倒くさいことになりそうな真ジルベールとの関係がまたややこしくなるじゃないか……。
僕は頭を抱えた。
「どうして、移籍しようと思ったの?」
「ふふ、メルと言ったか。無粋なことは聞くものではない」
ゾフィアがちらちらと僕を見ながら、そんなことを言った。
「Aクラスが思っていた以上につまらんのでな。あそこにいてこれ以上得るものはないと判断した。それに……」
ゾフィアが恥ずかしそうに顔を伏せる。
なんか、すごい嫌な予感がする。
「側室になれと言われたのだ。離れたクラスにいるのも不自然だろう?」
「わ、バカ……」
……メルとユキのじとっとした視線が僕に突き刺さった。
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