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第十四章「元帥の娘」(2)
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「それにしても、側室ってなによ、側室って」
ゾフィアが意気揚々とAクラスの私物を取りに行った後、みんなに側室発言についての苦し紛れの釈明――売り言葉に買い言葉で、一番動揺を誘う言葉を選んだ――をみんなに終えた僕に、まだ釈然としないという風にユキがぼやいた。
「そもそも、正室は誰なのよ? メル? アンナリーザ? いっやらしい!」
「私は側室のほうがいいかな、気が楽だし」
「ブバッッ!!」
なぜかCクラスにいて釈明の場に混じっていたアリサがシャレにならない軽口を叩くと、メルが飲みかけのハーブティをルッ君の顔面に盛大に噴き出した。
「う、うわっ!!」
「ご、ごめんなさい……」
メルが慌ててハンカチを取り出して、ハーブティまみれになったルッ君の顔を拭いた。
「だ、だから、そんな深い意味は何も……」
「深い意味ってアンタね……、試合の時のあの子のセリフ覚えてる? この技を受けたのは皇帝陛下と父親だけだとかなんだとか……、あれがどういうことかわかってるの?」
「え、えっと……、もしかしてゾフィアは、ジェルディク皇帝のお気に入り?」
おそるおそる尋ねた僕に、ユキがやれやれという風に肩をすくめる。
「ゾフィアはね、ジェルディク皇帝と親交が深い帝国元帥の娘なのよ? もう孫娘も同然なわけ」
「こ、皇帝の孫娘……」
「アンタはそんなジェルディク皇帝の孫娘に『側室になれ』って言ったのよ!」
「ま、まって……僕は『側室なら考えるよ』って言ったんだ」
「「「同じことでしょ」」」
ユキ、メル、アリサの冷ややかな声が完全にシンクロした。
「これはヘタをすると国際問題になりかねないわよ……。ヴァイリス王国とジェルディク帝国300年の和平を終焉に導いた男、その名はまつおさん……」
「うわあああああ!! もうやめてくれええええ!!」
僕は頭を抱えたまま机に突っ伏した。
「でも、帝国元帥の娘であるゾフィアが側室なら、私もメルも側室になるんじゃないの?」
「おまえはなにをいってるんだ……」
アリサ、悪ノリなのはわかってるけど、側室前提の会話はもうやめて……。
「だって、帝国元帥の娘と私達じゃ、家格が合わないもの。それを凌ぐ正室って言うなら、もっと……」
「なっ!? あ、あんた……、ま、まさか……!!」
ハッとしたように、ユキが机に突っ伏した僕を無理やりゆさぶり起こした。
「ユ、ユリーシャ王女殿下を正室にしようとむぐぐぐぐっ!!!!」
「な、なんちゅうことを言い出すんだきさまは!!!」
とんでもなく不穏当なことを言おうとするユキの口を全力で抑え込んだ。
「ううん、たしかに怪しいわ。爵位と領土を授与された時に宰相閣下もおっしゃっていたもの。『ユリーシャ王女殿下の格別のはからいにより』って」
「……アリサさん?」
偽ジルベールは何をやっているんだ。
いつもこういう時に、予想の斜め上方向からの援護射撃で話題が違う方向に……。
「~~~~~っ」
偽ジルベールは顔を本で隠して震えていた。
どうやら声を押し殺して笑っているらしい。
「まつおさん、身の丈を越えた野心は身を滅ぼすぞ」
「野心ないのにもう滅ぼされそうだよ!」
真顔で言ってきたキムの口元が笑いをこらえてぷるぷるしている。
「でも、それってとっても面白そう! まつおさんがヴァイリスの王様になったら、一体どんな国になっちゃうのかしらァン」
「わかんねぇけど、学校の偏差値は低くなりそうだよな!」
花京院にだけは言われたくない。
「……」
ルッ君はさっきからぼーっとしておとなしい。
メルにハーブティーをぶっかけられたことで変な性癖に目覚めないといいな。
「それにしても……」
話がようやく一段落ついたと思ったところで、アリサが切り出した。
「……移籍ってズルくない?」
「いや、僕に言われても……」
「あのね、あなたたちはいいのよ。同じCクラスの仲間なんだから。私はね、あの時、Bクラスの中で1人だけまつおさんにひざまずいていたのよ? まるで裏切り者みたいじゃないの」
アリサがうらみがましい目で僕を見る。
「Aクラスのエタンも思わずやりそうになったらしいわよ。必死に抵抗してなんとかごまかせたって言ってた」
「そ、それはまずい。そんな姿をジルベール公爵たちに見られたら、エタンが連中からどんな嫌がらせをされるか……」
「私だってまずいわよっ!」
「いでっ!!」
アリサにびしぃ!とデコピンされた。
「あ、でも!」
おとなしかったルッ君が思い出したように言った。
よかった、こちら側に戻ってこれたか。
「他のクラスでもまつおさんと交流があってひざまづいた奴、何人かいたらしいよ? あと、教官連中の中にもいたって、前にちょっとした騒ぎに……」
「……ルッ君、わかったから今はもうそれ以上何も言わないで……」
僕はくらくらするこめかみを押さえながらルッ君に頼んだ。
「……こうなったら、私も移籍させてもらいますからね」
「「は?」」
アリサの高らかな宣言に、メルとユキが同時に反応した。
「い、いやいや、そんな気軽に生徒の一存で移籍なんてできるわけが……」
「留学生だけ特別扱いなんて絶対に許さないわよ。教官に掛け合って、『聖女』だって特別扱いさせてやるわ」
唖然とする僕を見て、アリサが口元だけにっこり笑って、言った。
「責任、取ってもらうからね?」
その翌日。
アリサが正式に、Cクラスに加入した。
「それにしても、側室ってなによ、側室って」
ゾフィアが意気揚々とAクラスの私物を取りに行った後、みんなに側室発言についての苦し紛れの釈明――売り言葉に買い言葉で、一番動揺を誘う言葉を選んだ――をみんなに終えた僕に、まだ釈然としないという風にユキがぼやいた。
「そもそも、正室は誰なのよ? メル? アンナリーザ? いっやらしい!」
「私は側室のほうがいいかな、気が楽だし」
「ブバッッ!!」
なぜかCクラスにいて釈明の場に混じっていたアリサがシャレにならない軽口を叩くと、メルが飲みかけのハーブティをルッ君の顔面に盛大に噴き出した。
「う、うわっ!!」
「ご、ごめんなさい……」
メルが慌ててハンカチを取り出して、ハーブティまみれになったルッ君の顔を拭いた。
「だ、だから、そんな深い意味は何も……」
「深い意味ってアンタね……、試合の時のあの子のセリフ覚えてる? この技を受けたのは皇帝陛下と父親だけだとかなんだとか……、あれがどういうことかわかってるの?」
「え、えっと……、もしかしてゾフィアは、ジェルディク皇帝のお気に入り?」
おそるおそる尋ねた僕に、ユキがやれやれという風に肩をすくめる。
「ゾフィアはね、ジェルディク皇帝と親交が深い帝国元帥の娘なのよ? もう孫娘も同然なわけ」
「こ、皇帝の孫娘……」
「アンタはそんなジェルディク皇帝の孫娘に『側室になれ』って言ったのよ!」
「ま、まって……僕は『側室なら考えるよ』って言ったんだ」
「「「同じことでしょ」」」
ユキ、メル、アリサの冷ややかな声が完全にシンクロした。
「これはヘタをすると国際問題になりかねないわよ……。ヴァイリス王国とジェルディク帝国300年の和平を終焉に導いた男、その名はまつおさん……」
「うわあああああ!! もうやめてくれええええ!!」
僕は頭を抱えたまま机に突っ伏した。
「でも、帝国元帥の娘であるゾフィアが側室なら、私もメルも側室になるんじゃないの?」
「おまえはなにをいってるんだ……」
アリサ、悪ノリなのはわかってるけど、側室前提の会話はもうやめて……。
「だって、帝国元帥の娘と私達じゃ、家格が合わないもの。それを凌ぐ正室って言うなら、もっと……」
「なっ!? あ、あんた……、ま、まさか……!!」
ハッとしたように、ユキが机に突っ伏した僕を無理やりゆさぶり起こした。
「ユ、ユリーシャ王女殿下を正室にしようとむぐぐぐぐっ!!!!」
「な、なんちゅうことを言い出すんだきさまは!!!」
とんでもなく不穏当なことを言おうとするユキの口を全力で抑え込んだ。
「ううん、たしかに怪しいわ。爵位と領土を授与された時に宰相閣下もおっしゃっていたもの。『ユリーシャ王女殿下の格別のはからいにより』って」
「……アリサさん?」
偽ジルベールは何をやっているんだ。
いつもこういう時に、予想の斜め上方向からの援護射撃で話題が違う方向に……。
「~~~~~っ」
偽ジルベールは顔を本で隠して震えていた。
どうやら声を押し殺して笑っているらしい。
「まつおさん、身の丈を越えた野心は身を滅ぼすぞ」
「野心ないのにもう滅ぼされそうだよ!」
真顔で言ってきたキムの口元が笑いをこらえてぷるぷるしている。
「でも、それってとっても面白そう! まつおさんがヴァイリスの王様になったら、一体どんな国になっちゃうのかしらァン」
「わかんねぇけど、学校の偏差値は低くなりそうだよな!」
花京院にだけは言われたくない。
「……」
ルッ君はさっきからぼーっとしておとなしい。
メルにハーブティーをぶっかけられたことで変な性癖に目覚めないといいな。
「それにしても……」
話がようやく一段落ついたと思ったところで、アリサが切り出した。
「……移籍ってズルくない?」
「いや、僕に言われても……」
「あのね、あなたたちはいいのよ。同じCクラスの仲間なんだから。私はね、あの時、Bクラスの中で1人だけまつおさんにひざまずいていたのよ? まるで裏切り者みたいじゃないの」
アリサがうらみがましい目で僕を見る。
「Aクラスのエタンも思わずやりそうになったらしいわよ。必死に抵抗してなんとかごまかせたって言ってた」
「そ、それはまずい。そんな姿をジルベール公爵たちに見られたら、エタンが連中からどんな嫌がらせをされるか……」
「私だってまずいわよっ!」
「いでっ!!」
アリサにびしぃ!とデコピンされた。
「あ、でも!」
おとなしかったルッ君が思い出したように言った。
よかった、こちら側に戻ってこれたか。
「他のクラスでもまつおさんと交流があってひざまづいた奴、何人かいたらしいよ? あと、教官連中の中にもいたって、前にちょっとした騒ぎに……」
「……ルッ君、わかったから今はもうそれ以上何も言わないで……」
僕はくらくらするこめかみを押さえながらルッ君に頼んだ。
「……こうなったら、私も移籍させてもらいますからね」
「「は?」」
アリサの高らかな宣言に、メルとユキが同時に反応した。
「い、いやいや、そんな気軽に生徒の一存で移籍なんてできるわけが……」
「留学生だけ特別扱いなんて絶対に許さないわよ。教官に掛け合って、『聖女』だって特別扱いさせてやるわ」
唖然とする僕を見て、アリサが口元だけにっこり笑って、言った。
「責任、取ってもらうからね?」
その翌日。
アリサが正式に、Cクラスに加入した。
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