士官学校の爆笑王 ~ヴァイリス英雄譚~

まつおさん

文字の大きさ
47 / 199

第十七章「君主(ロード)の猛毒」(2)

しおりを挟む


「まっちゃん!! まっちゃんってばッッ!!」

 ユキにガクガクと身体を揺さぶられて、僕は目を開いた。

「あれ、泣いてんの?」
「あ、あ、あ……っ」

 目を覚ました僕を見て、ユキの琥珀色の瞳からみるみる涙が溢れ出した。

「ぐすっ、よかった!! よかったよお!!!!」

 ユキが泣きじゃくったまま、僕に抱きついた。
 さっき夢で会ったばっかりだから、ちょっと恥ずかしい。
 
「あ、みんなも来てくれたのか」

 僕がユキの身体ごしに見上げると、キムたちいつもの面々がほっとしたような顔でこちらを見ている。
 偽ジルベールまで来てくれたんだ。

「アリサ、君が癒やしてくれたの?」
「ううん、回復魔法ヒール解毒魔法キュア解呪魔法ディスペルも効果がなかったの。助けてくださったのは、この方よ」

 アリサが手のひらでうやうやしく指す方向を向くと……。

「う、うわっ、ユリーシャ王女殿下!」
「えっ」
「えっえっ、まじで?!」

 僕の反応に、アリサが小さく、ルッ君が大声をあげて、ユキも慌てて振り返る。
 他のみんなも驚いて、慌ててその場にひざまずいた。

「よい、おもてを上げよ。ベルゲングリューン伯の友は我が友も同様である」

 そっか。
 叙勲の時も、みんなはユリーシャ王女殿下とは直接会ってないのか。

「体調の方はどうだ? ベルゲングリューン伯」
「はい、問題ありません」

 そう答えるが、ユリーシャ王女殿下の表情は暗い。

「すべてはわたくしの責任だ。許してほしい」

 ユリーシャ王女殿下が謝罪したので、僕たちはさらに驚いた。

「お、王女殿下、私はこの通り、何も問題ありませんので」
「そうではない。そうではないのだ……」

 ユリーシャ王女殿下が泣きそうな顔になりながら言った。

「そなたが盛られた毒は、古代王国時代に作られた魔法毒だ。魔法分類学的には毒というよりは悪意のある付与魔法エンチャントといったところだな。だからそこの生徒の神聖魔法では解除できなかった」
「ちょっとよくわかりません」
「わ、ばかっ! 王女殿下に何言ってるの!」

 ユキが僕の頭をはたいた。

「ごめん、オレもわかんねぇ」
「たぶんアレじゃないかしら、ユキちゃんが作ってくれたおにぎりを食べるとオナカこわしちゃうけど、悪気があって作ったわけじゃないから、解毒魔法キュアじゃ治せない、み・た・い・な?」
「全然違うし例えが最悪すぎるわよ!」

 ジョセフィーヌにユキがツッコんだ。

「昏睡状態はわたくし付与解除魔法ディスエンチャントで回復できたのだが……、魔法毒の本体である魔法付与エンチャントは解除できなかった。……失われた魔法だ。おそらく、解除できる者はこの世におらぬだろう。呪いと言ってもよい」

 ユリーシャ王女ががっくりと肩を落とした。

「そ、それは、どんな呪いなのですか?」

 珍しく取り乱した様子のメルが、王女殿下に問う。
 ユリーシャ王女殿下は、唇を震わせながら、言った。

「……弱化エナジードレインの呪いだ……」
「……弱化エナジードレイン……?」

 罪の意識にさいなまれた苦しそうな表情で、王女殿下は続ける。

「すべての能力が最も低いレベルまで下げられてしまうものだ」
「最も低いレベル?」
「熟練の戦士や高位の魔法使いも、最初は素質だけの存在だ。そこから剣技や魔法を学び、様々な修練を積み、やがて一流になっていく」
「そうだな」

 王女殿下の言葉に、ゾフィアがうなずいた。

「そんな一流になった者でさえ、もっとも初期の状態に戻されてしまうという、恐ろしい呪いだ」
「な、なんということだ……」

 打ちのめされたように、ゾフィアが膝をついた。

「一度かかってしまったら、解除することはできぬ。また一から、最弱の状態から修練をするしかない」
「……」
「……」

 キムたちが全員、目をぱちぱちと数回まばたきさせた。

「そ、それって……」

 ルッ君とキム、花京院が顔を合わせる。

「「「……まったく、問題なくね?」」」
「え?」

  予想外の言葉に、ユリーシャ王女殿下が顔を上げる。

「わははははははははは!!!!
「ぎゃはははははははは!!!!」
「はぁはぁはぁ、だ、だめだオレ、このまま笑い死んじまうかも……」
「あはははははは!!! ちょ、ちょっと、アンタたち!王女殿下の御前なのよ!! こ、これ以上笑わせないで!」
「卿(けい)も買いかぶられたものだな! うははははは!!!」
「あははははっ、あー、おっかしぃ……キミってホント、『持ってる』のね」
「ひぃ、ひぃ~、おなかいたい……おなかがいたいワァ~!!」
「ふふっ、あははっ!」
「……」

 みんなが笑っているのを、僕はげんなりとした顔で見た。
 メルまで声を出して笑ってるよ……。

 ゾフィアだけが膝をついたまま、「なぜだ……このようなことが許されてよいのか……っ」とか言いながら地面を叩いている。
 あとでちゃんと説明しないと。

「……まつおさんよ、あれはどうしたことなのだ? なぜ連中はそなたの不幸を笑っておる」

 僕に近づいて、怪訝そうな表情でユリーシャ王女殿下が尋ねる。
 
「王女殿下は、イグニア新聞、全部は読んでいらっしゃらなかったのですね……」

 僕は捨てようとしてそのままにしてあった、くしゃくしゃに丸めた羊皮紙をユリーシャ王女殿下にお見せした。

「……な」

 ユリーシャ王女殿下が羊皮紙を持つ手が震えた。

「なんじゃこの成績は――ッッ!!!!!」

 なんじゃこの成績は――ッッ!!!!!
 なんじゃこの成績は――ッッ!!!!!
 なんじゃこの成績は――ッッ!!!!!

 ユリーシャ王女殿下の絶叫が、ベルゲングリューン伯領の森林にこだました。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。 『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』 ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。 まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。 みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。 でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...