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第十八章「決起集会」(2)
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「て、敵襲だぁ!!!!」
両手いっぱいに集めた木の実や芋、キノコ類などをぽろぽろこぼしながら、ルッ君がこちらに走ってきた。
「ヴァイリス軍が大挙してこっちに向かってるぞ!!」
「お、きたきた」
「お前、今度は何をやらかしたんだよ!」
慌てた様子で言いながら、ルッ君はこぼれ落ちた食材を几帳面に拾っていた。
「違うよ、ルッ君。僕が呼んだんだ」
「へ?」
「ベルゲングリューン伯爵様っつーのは、あんたで合っちょうと?」
ルッ君の後ろから、ものすごい素朴な顔をした初老の兵士が、ロバみたいに短足の馬に乗ってやってきた。
ヴァイリス王国兵士の鎧を来ていなければ、村役場の村長さんみたいな雰囲気だ。
「あ、はい」
「わしゃヴァイリス西部辺境警備隊ちゅうとこの隊長をやらせてもらっちょるソリマチっちゅうもんだ」
リップマンさんとはまた違ったイントネーションで、ソリマチと名乗る兵士が言った。
「ソリマチ隊長。遠いところからよくお越しくださいました」
「やめーや、わしらみてぇなもんに伯爵様が頭を下げちょったらもったいないけん」
首に巻いた綿のタオルで顔の汗を拭きながら、ソリマチ隊長が照れくさそうに笑った。
「他のモンも今向かっとるけん、ちょっこし待ってごすか?」
ソリマチ隊長はそう言うと、メルが淹れて湯気が立っている紅茶を受け取って、まるで麦茶でも飲むようにごくごくと飲み干した。
ベルゲングリューン領の広場には、総勢1000人のヴァイリス西部辺境警備隊兵士が集結していた。
……って言うと、ものすごくカッコよく聞こえるんだけど……。
「ワシらは、なしてこがなとこに呼ばれちょるん?」
「他の連中はガッコに呼ばれとったけんな」
「風変わりな伯爵様ちゅう話じゃったけ、なんかあるんと違うか」
「がいな土地じゃのうー、屋敷はぼろくたじゃけど」
どう見ても田舎の漁業組合の寄り合いにしか見えない。
「ね、ねぇ、まっちゃん……。この人たちってもしかして……」
「そうそう。若獅子祭で僕たちに協力してくれるヴァイリス王国兵士の皆さんだよ」
「ま、まじかよ……」
「終わった。オレたちの若獅子祭は終わった……」
ルッ君とキムががっくりと膝をつく。
「こらこら、遠路はるばる僕たちのためにイグニアまで来てくれた皆さんに失礼だろ」
呆然とするCクラスの面々に聞こえるように、僕はたしなめた。
そのまま広場の前まで歩いて、ゾフィア主導による噴水建築予定地に小高く積まれたブロックの上に立った。
「えー、お集まりの皆さん! 本日は我が領内までお越しいただき、誠にありがとうございます」
遠くの人まで聞こえるように、僕は声を発するのと同時に低出力の魔法伝達をこっそり重ねた。
昨日試してみてわかったのだけれど、どうやら魔法伝達は元々の素質というやつらしく、大公の毒で弱化することはなかった。
むしろ、僕の中の何かがいい感じにリセットされたのか、今やったように、これまでより自在に魔法伝達を扱えるようになった気がする。
その効果もあってか、今までやる気もクソもなさそうだった西部辺境警備隊の兵士たちが、少し居住まいを正して注目してくれている。
「僕はC組の級長……を無理やりやらされることになった、まつおさん・フォン・ベルゲングリューンと申します」
「あたりまえだー!」
「あんだけ好き勝手やってきたんだ!級長として最後まで責任取れー!」
「メルちゃんをジルベール公爵の標的にできるかー!お前が盾になれー!」
Cクラス生徒から容赦なくヤジが飛んできて、クラスメイトたちがどっと湧いた。
「いなげな名前じゃのう」
西部辺境警備隊の兵士の声で、彼らもなぜかどっと湧いた。
「ソリマチ村長……じゃなかった、ソリマチ隊長、『いなげな』ってどういう意味なんですか?」
「コッチ風に言うたら『変な』とか『ふざけた』ちゅう感じかいね」
「……」
キムラMK2よりマシだろう。
「伯爵さんよ、いっこ聞いてもいいかね?」
ソリマチ隊長が発言して、兵士たちは静かになる。
僕は黙ってうなずいた。
「若獅子祭に参加する兵士いうんは、級長さんが自由に指名できるんじゃろ?」
「えっ、そうなの?!」
ルッ君が信じられないという風に僕を見上げる。
「はい、その通りです」
僕は返答した。
さすがに失礼だから誰も口に出さないけど、『なんでよりによってこんな連中を指名したんだ』っていうCクラス全員から猛抗議の目が僕に向けられる。
「それがわからんのよ。なしてワシらなん? あんたも伯爵様なんじゃけ、もっと近衛師団やら騎兵隊やらマシなもんがあるじゃろうに」
ソリマチ隊長の言葉に、兵士たちもCクラスの生徒たちもウンウンとうなずいた。
「その答えは簡単です」
僕は表情を変えずに答えた。
「みなさんが、ヴァイリスで最強の兵士だからです!!」
「……」
「……」
「……」
「……」
ベルゲングリューン領が静寂に包まれる中、一人の兵士のぽつりと言ったつぶやきが思いの外響いた。
「この伯爵、頭がわやになっちょる……」
その瞬間、会場全体が爆笑に包まれた。
「て、敵襲だぁ!!!!」
両手いっぱいに集めた木の実や芋、キノコ類などをぽろぽろこぼしながら、ルッ君がこちらに走ってきた。
「ヴァイリス軍が大挙してこっちに向かってるぞ!!」
「お、きたきた」
「お前、今度は何をやらかしたんだよ!」
慌てた様子で言いながら、ルッ君はこぼれ落ちた食材を几帳面に拾っていた。
「違うよ、ルッ君。僕が呼んだんだ」
「へ?」
「ベルゲングリューン伯爵様っつーのは、あんたで合っちょうと?」
ルッ君の後ろから、ものすごい素朴な顔をした初老の兵士が、ロバみたいに短足の馬に乗ってやってきた。
ヴァイリス王国兵士の鎧を来ていなければ、村役場の村長さんみたいな雰囲気だ。
「あ、はい」
「わしゃヴァイリス西部辺境警備隊ちゅうとこの隊長をやらせてもらっちょるソリマチっちゅうもんだ」
リップマンさんとはまた違ったイントネーションで、ソリマチと名乗る兵士が言った。
「ソリマチ隊長。遠いところからよくお越しくださいました」
「やめーや、わしらみてぇなもんに伯爵様が頭を下げちょったらもったいないけん」
首に巻いた綿のタオルで顔の汗を拭きながら、ソリマチ隊長が照れくさそうに笑った。
「他のモンも今向かっとるけん、ちょっこし待ってごすか?」
ソリマチ隊長はそう言うと、メルが淹れて湯気が立っている紅茶を受け取って、まるで麦茶でも飲むようにごくごくと飲み干した。
ベルゲングリューン領の広場には、総勢1000人のヴァイリス西部辺境警備隊兵士が集結していた。
……って言うと、ものすごくカッコよく聞こえるんだけど……。
「ワシらは、なしてこがなとこに呼ばれちょるん?」
「他の連中はガッコに呼ばれとったけんな」
「風変わりな伯爵様ちゅう話じゃったけ、なんかあるんと違うか」
「がいな土地じゃのうー、屋敷はぼろくたじゃけど」
どう見ても田舎の漁業組合の寄り合いにしか見えない。
「ね、ねぇ、まっちゃん……。この人たちってもしかして……」
「そうそう。若獅子祭で僕たちに協力してくれるヴァイリス王国兵士の皆さんだよ」
「ま、まじかよ……」
「終わった。オレたちの若獅子祭は終わった……」
ルッ君とキムががっくりと膝をつく。
「こらこら、遠路はるばる僕たちのためにイグニアまで来てくれた皆さんに失礼だろ」
呆然とするCクラスの面々に聞こえるように、僕はたしなめた。
そのまま広場の前まで歩いて、ゾフィア主導による噴水建築予定地に小高く積まれたブロックの上に立った。
「えー、お集まりの皆さん! 本日は我が領内までお越しいただき、誠にありがとうございます」
遠くの人まで聞こえるように、僕は声を発するのと同時に低出力の魔法伝達をこっそり重ねた。
昨日試してみてわかったのだけれど、どうやら魔法伝達は元々の素質というやつらしく、大公の毒で弱化することはなかった。
むしろ、僕の中の何かがいい感じにリセットされたのか、今やったように、これまでより自在に魔法伝達を扱えるようになった気がする。
その効果もあってか、今までやる気もクソもなさそうだった西部辺境警備隊の兵士たちが、少し居住まいを正して注目してくれている。
「僕はC組の級長……を無理やりやらされることになった、まつおさん・フォン・ベルゲングリューンと申します」
「あたりまえだー!」
「あんだけ好き勝手やってきたんだ!級長として最後まで責任取れー!」
「メルちゃんをジルベール公爵の標的にできるかー!お前が盾になれー!」
Cクラス生徒から容赦なくヤジが飛んできて、クラスメイトたちがどっと湧いた。
「いなげな名前じゃのう」
西部辺境警備隊の兵士の声で、彼らもなぜかどっと湧いた。
「ソリマチ村長……じゃなかった、ソリマチ隊長、『いなげな』ってどういう意味なんですか?」
「コッチ風に言うたら『変な』とか『ふざけた』ちゅう感じかいね」
「……」
キムラMK2よりマシだろう。
「伯爵さんよ、いっこ聞いてもいいかね?」
ソリマチ隊長が発言して、兵士たちは静かになる。
僕は黙ってうなずいた。
「若獅子祭に参加する兵士いうんは、級長さんが自由に指名できるんじゃろ?」
「えっ、そうなの?!」
ルッ君が信じられないという風に僕を見上げる。
「はい、その通りです」
僕は返答した。
さすがに失礼だから誰も口に出さないけど、『なんでよりによってこんな連中を指名したんだ』っていうCクラス全員から猛抗議の目が僕に向けられる。
「それがわからんのよ。なしてワシらなん? あんたも伯爵様なんじゃけ、もっと近衛師団やら騎兵隊やらマシなもんがあるじゃろうに」
ソリマチ隊長の言葉に、兵士たちもCクラスの生徒たちもウンウンとうなずいた。
「その答えは簡単です」
僕は表情を変えずに答えた。
「みなさんが、ヴァイリスで最強の兵士だからです!!」
「……」
「……」
「……」
「……」
ベルゲングリューン領が静寂に包まれる中、一人の兵士のぽつりと言ったつぶやきが思いの外響いた。
「この伯爵、頭がわやになっちょる……」
その瞬間、会場全体が爆笑に包まれた。
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