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第十八章「決起集会」(3)
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「お、お前は何をやっとるんじゃ!!!」
「し、しーっ、ユリーシャ王女殿下!! お声が大きいですっ!!」
街道の外に止めた馬車の客室からほんの少しだけ顔を出しているユリーシャ殿下に、僕は慌てて言った。
「声が大きくもなるわ! 訓練もせず、領内で療養していると聞いたから心配して来てみれば……」
王女殿下の言葉に重なるように、領内から兵士たちと生徒たちのバカ騒ぎの声が聞こえる。
「わははははは!! おめぇらんとこの伯爵様はかわっちょるのう!!」
「うははは!! そーなんスよー!! アイツのせいでいつもめちゃくちゃなことに巻き込まれてばっか!」
「いやー、伯爵様だけじゃなく、あんたらにしても若ぇ連中にしちゃ相当腹がすわっちょるわ。なんちゅったかいな……、そう! ふてぶてしいもんな!」
「そりゃふてぶてしくもなりますよ!」
「わははは! たしかに!! おっつぁん、これ読んでみてよ。イグニア新聞って言うんだけど……」
ウチのクラスの連中は西部辺境警備隊の皆さんとすっかり打ち解けたようだ。
ソリマチ村長……じゃなかった、隊長は「おっつぁん」と呼ばれるようになっていた。
ソリマチさんたちの地方で「おじさん」という意味らしい。
「わははははは!! なんじゃこりゃ!!!! 地元で爆笑王言われちょるんか!」
「ワシらんためにこげなごっつぉ用意しちょるとか、やっぱり頭がわやになっとるんよ」
「しかしよぉ、感心なのは、ごっつぉにしてもよぉ、若ぇのにセンスがあるわ。貴族様の贅沢品ちゅう感じじゃのうて、地産地消っちゅう感じだけんね! 肉も魚もまいことまいこと」
「それはわしも思うちょった! あの領主さんはタダもんじゃねぇとおれは思う」
領内に響き渡る笑い声に、ユリーシャ王女殿下がわなわなと肩を震わせる。
肉と魚が焼ける美味しそうな匂いがこちらまで漂っている。
「まさかとは思うが、一応聞くぞ。私がそなたに与えた見舞金は……」
「は、はい。今回の宴会に使った食材や人件費でほとんど全部使っちゃいました。えへへ」
「えへへ、ではないわ!!」
ユリーシャ王女殿下が座席から身を乗り出して、外にいる僕の首を締めにかかった。
「このっ、このっ……」
「お、王女殿下、ぐ、ぐるぢいっ……、お、お顔を出されてはマズいですっ……」
「なぜその金で武具を買わなかったのだ!! 少しでも勝率が変わるであろうに!」
「ぐ、ぐるぢいっ……」
「そもそもあの兵士共はなんじゃ!! もっと我が国精鋭の兵団は探せばいくらでもおったであろうに!!」
「死……死む……死むぅっ……!!」
ユリーシャ王女殿下の力は、ご本人が考えていらっしゃるよりもはるかに強い。
僕はデュラハンと戦っていた時よりも死の危険を感じていた。
「だいたい、なぜ私が顔を出してはならんのじゃ!! 私がちょっとそなたらを依怙贔屓して兵たちの前に顔を見せれば、彼奴らも貴族共相手に手を抜かんであろうに!!」
「そ、それでは、逆効果なんです……っ」
「何……?」
ユリーシャ王女殿下の指が少しだけゆるんで、僕は九死に一生を得た。
こんな繊細で美しい指で、どうやったらこんな殺傷能力が発揮できるんだろう。
「はぁ、はぁ、ふぅ……、こほん、王国中枢の精鋭たちであれば、王女殿下の一声で士気がみるみる高揚し、若獅子祭が終わるまで忠誠を誓ってくれるでしょう。ですが、彼らは辺境の片田舎にいる警備隊です。王女殿下のような方がいらっしゃれば萎縮してしまって、かえって何もできなくなります」
「……」
これで納得してもらえたかな。
そんなことを思いながら、王女殿下の顔を見上げると……。
「だーかーらー!!」
「ぐええええっ!!!」
「なんで王国中枢の精鋭を指名しなかったのかと言うておるのだー!!!!!」
ユリーシャ王女殿下が背後に回って僕の首に左腕を巻き付け、右手で僕の後頭部を抑え込んだ。
「ス、裸絞……ッッ」
ど、どこでそんな技を……。
ユリーシャ王女殿下の、もはやどんな香水なのかすらわからない上品でフローラルでかつ動物的で官能的な香りに鼻孔をくすぐられながら、僕の意識は遠のいていった。
「お、お前は何をやっとるんじゃ!!!」
「し、しーっ、ユリーシャ王女殿下!! お声が大きいですっ!!」
街道の外に止めた馬車の客室からほんの少しだけ顔を出しているユリーシャ殿下に、僕は慌てて言った。
「声が大きくもなるわ! 訓練もせず、領内で療養していると聞いたから心配して来てみれば……」
王女殿下の言葉に重なるように、領内から兵士たちと生徒たちのバカ騒ぎの声が聞こえる。
「わははははは!! おめぇらんとこの伯爵様はかわっちょるのう!!」
「うははは!! そーなんスよー!! アイツのせいでいつもめちゃくちゃなことに巻き込まれてばっか!」
「いやー、伯爵様だけじゃなく、あんたらにしても若ぇ連中にしちゃ相当腹がすわっちょるわ。なんちゅったかいな……、そう! ふてぶてしいもんな!」
「そりゃふてぶてしくもなりますよ!」
「わははは! たしかに!! おっつぁん、これ読んでみてよ。イグニア新聞って言うんだけど……」
ウチのクラスの連中は西部辺境警備隊の皆さんとすっかり打ち解けたようだ。
ソリマチ村長……じゃなかった、隊長は「おっつぁん」と呼ばれるようになっていた。
ソリマチさんたちの地方で「おじさん」という意味らしい。
「わははははは!! なんじゃこりゃ!!!! 地元で爆笑王言われちょるんか!」
「ワシらんためにこげなごっつぉ用意しちょるとか、やっぱり頭がわやになっとるんよ」
「しかしよぉ、感心なのは、ごっつぉにしてもよぉ、若ぇのにセンスがあるわ。貴族様の贅沢品ちゅう感じじゃのうて、地産地消っちゅう感じだけんね! 肉も魚もまいことまいこと」
「それはわしも思うちょった! あの領主さんはタダもんじゃねぇとおれは思う」
領内に響き渡る笑い声に、ユリーシャ王女殿下がわなわなと肩を震わせる。
肉と魚が焼ける美味しそうな匂いがこちらまで漂っている。
「まさかとは思うが、一応聞くぞ。私がそなたに与えた見舞金は……」
「は、はい。今回の宴会に使った食材や人件費でほとんど全部使っちゃいました。えへへ」
「えへへ、ではないわ!!」
ユリーシャ王女殿下が座席から身を乗り出して、外にいる僕の首を締めにかかった。
「このっ、このっ……」
「お、王女殿下、ぐ、ぐるぢいっ……、お、お顔を出されてはマズいですっ……」
「なぜその金で武具を買わなかったのだ!! 少しでも勝率が変わるであろうに!」
「ぐ、ぐるぢいっ……」
「そもそもあの兵士共はなんじゃ!! もっと我が国精鋭の兵団は探せばいくらでもおったであろうに!!」
「死……死む……死むぅっ……!!」
ユリーシャ王女殿下の力は、ご本人が考えていらっしゃるよりもはるかに強い。
僕はデュラハンと戦っていた時よりも死の危険を感じていた。
「だいたい、なぜ私が顔を出してはならんのじゃ!! 私がちょっとそなたらを依怙贔屓して兵たちの前に顔を見せれば、彼奴らも貴族共相手に手を抜かんであろうに!!」
「そ、それでは、逆効果なんです……っ」
「何……?」
ユリーシャ王女殿下の指が少しだけゆるんで、僕は九死に一生を得た。
こんな繊細で美しい指で、どうやったらこんな殺傷能力が発揮できるんだろう。
「はぁ、はぁ、ふぅ……、こほん、王国中枢の精鋭たちであれば、王女殿下の一声で士気がみるみる高揚し、若獅子祭が終わるまで忠誠を誓ってくれるでしょう。ですが、彼らは辺境の片田舎にいる警備隊です。王女殿下のような方がいらっしゃれば萎縮してしまって、かえって何もできなくなります」
「……」
これで納得してもらえたかな。
そんなことを思いながら、王女殿下の顔を見上げると……。
「だーかーらー!!」
「ぐええええっ!!!」
「なんで王国中枢の精鋭を指名しなかったのかと言うておるのだー!!!!!」
ユリーシャ王女殿下が背後に回って僕の首に左腕を巻き付け、右手で僕の後頭部を抑え込んだ。
「ス、裸絞……ッッ」
ど、どこでそんな技を……。
ユリーシャ王女殿下の、もはやどんな香水なのかすらわからない上品でフローラルでかつ動物的で官能的な香りに鼻孔をくすぐられながら、僕の意識は遠のいていった。
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2024年12月追記
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