士官学校の爆笑王 ~ヴァイリス英雄譚~

まつおさん

文字の大きさ
75 / 199

第二十一章「若獅子祭」(16)

しおりを挟む
16

「あれ……」

 会場で覚醒した僕は、周囲の静まり返った様子に驚いた。
 最初は誰もいなくなってしまったのかと思ったけど、埋め尽くした観客の数は変わらない。
 会場の誰一人として、声を発していないのだ。

「……もしかして、何かやらかしちゃった?」
「右手を上げてみろよ」

 キムが笑いながらそう言うので、僕はよく意味がわからないまま、右手を上げる。
 その途端。

 鼓膜が破れそうなほどの大歓声が会場を包んだ。

「うおおおおおおおおおお!! すげぇ勝負だったぞ!!!!!」
「こんな若獅子祭見たことねぇよ!!!」
「C組が……、平民クラスが勝ちやがった!!!!!」
「今年の1年生、ヤバくないか?」
「ヴェンツェルくん、かわいいー!!」
「子犬みたいに爆笑王に付いてくるの、キュンキュンしちゃう!」
「ガーディアンで自分の城をぶっ壊した時は、爆笑王がまたやらかしちまったのかと思ったぜ!」
「わはは!! やらかしたじゃねぇか! 盛大によ!」
「次回の若獅子祭、絶対アレを真似するクラスが出てきそうだな……」
「……その前に、次回やれんのか? あんなに盛大に魔法樹を焼き払ったり、ガーディアンで破壊し尽くしてよ……」
「聖天馬騎士団に死神傭兵団グリムリーパー鋼鉄の咆哮シュタールゲブリュル……、こんな若獅子祭はたぶん、二度と見れないでしょうね……」
「まったくだ。いい時代に生まれたもんだぜ……」
「トーマスとかいう奴を見てたら、なんかオレ泣けてきちゃったよ」
「あいつ肉屋の息子だろ? 帰りになんか買いに行ってやろうぜ」
「おそらく西部辺境警備隊は、この若獅子祭で我が国での評価がかなり高まるだろうな」
「ええ。今回彼らが見せた技術の数々とベルゲングリューン伯の策は、ヴァイリスの土木・建築分野に一石を投じたと思います」
「ベルゲングリューン式部品組み立てモジュール工法と言ったか……。それに移動式の馬防柵。実に興味深い。彼と話をする機会を作ってもらえるかね」
「かしこまりました」
「森に入ったゾフィア様強すぎない?」
「ジェルディク帝国と和平があって本当によかったよな」
「あの年で少佐らしいぞ。親父はあそこの帝国元帥殿」
「え、あのすげぇ怖そうな眼帯の人? 爆笑王のことずっと見てるけど……」
「『生まれるのが遅すぎた龍王』とか言われてるらしいぞ。300年前に生まれてたらヴァイリスは今頃ジェルディクっていう名前になってただろうって」
「龍王って……、たしかにそんな顔してるけど……」
「爆笑王の今回の戦いは素晴らしい」
「ほう、その心は?」
「うんこを1回も使わなかった」
「ぎゃはははは!違ぇねぇ!! あいつのエピソードって鳩のフンとか、うんこ燃やしたとか、そんなんばっかだもんな」
「うおおおお!!! オレのアデールちゃんが……、アデールちゃんがアゴヒゲのキザ野郎に……!!」
「リョーマさんカッケー!!! おれ中等部卒業したらあの人の舎弟にしてもらおう!」
「爆笑王ってもう奥さん3人いるんでしょ? 私も立候補できないかしら」
「4人って話よ。ほら、あの胸の大きい子も」
「……まだ学生でしょ? ちょっと手が早すぎない?」
「若さが有り余ってるのよ。どすけべそうな顔してるもの」
「あれはマザコンなのよきっと。周りがみんなお母さん代わりみたいじゃない?」
「あー、わかるー!!」

「……なんか、僕の話題だけロクな内容じゃないな」
「日頃の行いが悪いからでしょ」

 ユキから容赦ないツッコミが飛んだ。
 
「あ、そうそう、ルッ君、いる?」
「んーなに?」

 まだ若獅子祭の余韻でどこかボーッとしているルッ君に声をかけた。

「なんで、まだ泥だらけなの?」
「えっ、マジで?!」

 ルッ君があわてて自分の顔をごしごしとこする。

「うっそー」
「あっ、てめぇ……、えっ」

 ルッ君は顔をこすった手を止めて僕に何か言おうとして、目の前に差し出されたソレを見て目を丸くした。

「そ、それ……」

 僕はびっくりするルッ君の手に、ソレをぽん、と置いた。

「はい、あげる」

 ルッ君の手の上に置いた懐中時計。
 召喚から僕の手元に戻ってきた懐中時計ソレを見て、ルッ君の涙腺がみるみるうちにゆるみ始めた。
 と同時に、会場から大きな拍手が巻き起こった。

「えっ?」

 僕とルッ君がびっくりして顔を上げると、僕たちの様子が映像魔法スクリーンで観客全員に映し出されていた。

「うおおおおお、よかったなー!! ルッ君!!!」
「ニクいぞ! 爆笑王!! 男泣かせ!!」
「ルクスー!! カッコよかったぞ!!!」
「一人でB組落としたなんてすげぇぞー!!!」

「……なんか、男の歓声ばっかりだね」
「う、うるせぇ」

 ルッ君はそう言いながら、恥ずかしそうに懐中時計をポケットにしまった。

「ありがとな」
「こちらこそ。ありがとう」

 C組だけでなく、他のクラスも観客たちからの称賛を受けていた。
 あ、トーマスがE組のみんなから胴上げされてる。

(ほらね? 人気者だったでしょ、トーマス)

 アデールは女子たちからキャーキャー言われている。
 偽ジルベールからのドラマティックな求愛で大騒ぎしているんだろう。
 普段よくわからない本しか読んでないのに、まったく油断のならない奴だ。

 そんな中、シーン、と静まり返っているクラスがある。
 B組とA組だ。
 B組は本陣を下っ端3人組に任せてA組にヘコヘコしているうちに本陣を取られるっていう愚をおかした上に、その下っ端3人がルッ君をいたぶっていたところも、その後あっけなくやられたところもうっかり映像魔法スクリーンで観客に見られてしまうという大恥をぶっこいてしまったので、完全に自業自得だとは正直思う。
 あと半年ぐらい大人しくしていればいいんじゃないかな。

 だが、最大の強敵として敢闘したA組の静けさは、異質だった。
 それは、21年ぶりにA組が敗退したという衝撃だけではない。

(ギルサナス……)

 失った右目の傷を神官たちから回復魔法ヒールを受けている彼を、A組の連中は無視することもできず、近づくこともできず、ただ遠巻きに見ていた。
 それもそうだろう。
 彼の抱えた闇の深さを物語るような、漆黒の甲冑を身にまとった暗黒騎士ダークナイトの姿は、きっと忘れようにも忘れられないだろうから。

 大公爵グランドデュークの嫡男として、太陽のように輝いていた彼の姿は、そこにはない。
 担架に乗せられ、残された目でぼんやりと虚空を見上げているギルサナス・フォン・ジルベールの表情は、今までA組のクラスメイト達が見たことのないものだろう。
 
(きっと、本当の友達ができるよ。ギルサナス)

 A組生徒たちの顔を見て、僕は思った。
 彼らの目にある、動揺や恐れ、好奇、忌避きひ、さまざまな感情。
 でも、それだけじゃない。
 それが証拠に、ギルサナスを遠巻きに見ているクラスメイト達の輪が、少しずつ狭まってきている。

「C組生徒はこれよりヴァイリス王宮大広間にて、授与式を行う!! 移動開始!!」

 ボイド教官の声が響いた。
 
「なお、エリオット国王陛下によるお取り計らいにより、今年も授与の様子は映像魔法スクリーンでご覧になれますので、会場の皆様は引き続き若獅子祭をお楽しみください!!」

 ボイド教官がそう言うと、エリオット国王陛下とユリーシャ王女殿下が立ち上がり、観衆達が大きな拍手を送った。

『……まだ気を抜くなよ、まつおさんよ』
『はい。王女殿下』

 ユリーシャ王女殿下から、こっそり魔法伝達テレパシーが送られてきた。
 そうだ、まだ終わっていない。
 僕はエリオット国王陛下に移動を促す大貴族を見上げる。
 ギルサナスによく似た金髪。強い意志を感じさせる太い眉。大公爵グランドデュークとしての威厳を感じさせるひげ。屈強な身体に黄金鎧を身に纏い、豪華な赤いマントをひるがえしている男……。

 ジルベール大公と決着をつけなければ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

いつまでもドアマットと思うなよ

あんど もあ
ファンタジー
二年前に母を亡くしたミレーネは、後妻と妹が家にやって来てからすっかり使用人以下の扱いをされている。王宮で舞踏会が開催されるが、用意されたのは妹のドレスだけ。そんなミレーネに手を差し伸べる人が……。

プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。 『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』 ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。 まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。 みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。 でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。

処理中です...