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第二十四章「ヴァイリス魔法学院」(1)
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ヴァイリス魔法学院は、首都アイトスにあるヴァイリスで唯一の魔法学校だ。
魔法の素質というものは、生まれ持った才能というよりは、代々血脈に受け継がれていくものらしく、貴族家がこぞって魔法使いの血統を取り入れていった歴史もあり、また、魔法使いに必要な研究や学習、装備品がたいへん高価で庶民にはなかなか手が出せないということもあり、ヴァイリス王国もジェルディク帝国も、ほとんどの魔法使いが貴族出身である。
そのせいもあってか、ヴァイリス士官学校よりは建物にお金がかかっていて……、内装も外装も、庭園も豪華絢爛。お坊ちゃま、お嬢様の学校、といった雰囲気だ。
短い間だけど、僕とミヤザワくん、ヴェンツェルの新しい学園生活がここで始まる……と思ったのだけど。
「あのさ、あんたじゃ話にならないから、責任者出してくんない?」
「責任者など呼ばなくても、お前に我が校の入学資格がないことなどわかる!」
入り口で門前払いされた僕は守衛の詰め所に連行されていた。
「当魔法学院では、ローブやマント、および杖の装備が必須となっている。お前のその格好は、そのどれも満たしていない!」
几帳面そうな守衛が、僕のことをにらんで言った。
「ちゃんとマント付けてるでしょ?」
「そんな魔法使いっぽくないマントは、魔法学院に通う生徒のマントとは言えないし、杖はどうした!」
「だから、この剣が杖の変わりなの。わかる?」
「剣は剣だろ! 仮に百歩譲って、それに杖の効果があるとして、杖をもってこいって言われたんだから普通、杖っぽいのを持ってきて、魔法使いらしいマントでくるだろう?!」
……それは僕もその通りだと思うんだけど。
仕方ないじゃないか。
僕はもう、この服を着る以外の選択肢がないんだから。
「だいたい、その格好はどこぞの高級将校なり大貴族が着るような服だろう。お前のようなどこの馬の骨ともわからんような……」
「ああ、なるほど。あんたは最近田舎から出てきたんだな」
「なっ?! そげなこと関係なかろう?!」
……どこかで聞いたことがある言葉のような気がする。
「ヴァイリスで僕の名前を知らないのはモグリだって言ってるの。遅刻しちゃうから、もう行くからね。もしあんたのせいで落第になったら、ジェルディクの帝国猟兵に暗殺されるかもしれないよ」
「な、な、本官を脅迫しちょうかや!!」
いや、脅迫じゃなくて、今そこにある危機をそのまま伝えただけなんだけどな。
仕方ない。
「直立不動!!!」
うんざりした僕がそう告げると、守衛は直立不動になったまま動かなくなった。
「な、な、何を……?!」
「僕が魔法使いってことが、これでわかったでしょ?」
僕は動揺する守衛の耳元で、ささやいた。
「……もし今度、僕がここを通る時に邪魔をしたら、次に動かなくなるのは、君の身体じゃなくて、心臓かもしれないよ? でも、お仕事ご苦労さま。僕以外の人にはそのノリのままでいいと思うよ」
魔法でもなんでもないというか、そもそもなんなのか自分でもわかっていないし、そんなことはできないんだけど、ハッタリとしては十分だろう。
そこで、僕はふと思いついて、言ってみた。
「もしかして、西方辺境警備隊のソリマチ隊長って知ってる?」
「なっ……、や、やめちょくれ!! か、家族には手を出さんでごせ……」
「あ、ごめんごめん、脅かす気はなかったんだけど……、ってことは、おっつぁんの息子さん?」
「そげだ。なんであんた、ウチの親父のことを知っちょうと?」
言葉が似てるからもしかして同郷かと思ったら、なかなかの偶然だ。
「おっつぁん達は今、隣のイグニアに来てるよ。……というか、たぶん、ずっといる」
「えっ?!」
「イグニア市で馬車に乗って北東方向に街道を行くと、ベルゲングリューン領っていう場所があるから、そこにいる誰かに僕に教えられて来たって言えば、おっつぁん達のところに案内してくれると思うよ。それじゃーね」
僕は守衛の詰め所を後にした。
「あ、ミヤザワくん」
「よかった、まつおさん! 無事に入れたんだね」
「なんとかね。風邪は平気?」
「うん、もうなんともないよ。心配かけてごめんね。……で、それが例の……」
僕の衣服を見て、ミヤザワくんが恐ろしいものでも見るように言った。
「そう、例のやつ」
僕はげんなりとしながら言った。
「ごめんね……、すごくカッコいいし似合ってると思うんだけど……、あの混沌と破壊の魔女アウローラのものだって聞いて、ちょっと怖くて……」
「……いいんだ。 ミヤザワくんが爆笑しなかっただけでも、僕は今感動しているんだ」
ミヤザワくんは本当にイイやつだ。
「こちらこそ、まさか憧れの魔法学院で学期休暇を過ごせるなんて夢みたいだよ。ありがとう」
「お、来たな! ベル」
ヴェンツェルが魔法学院講師のネームプレートを付けた、ウルフヘアーの美人をおんぶするような格好で、僕たちのところまでやってきた。
どうやら、先生の方がヴェンツェルにべたべた甘えているらしい。
ちょっと美少年だからって、こんなすげぇ美人の先生といつの間に……と思って、ふと気付いた。
やわらかそうな髪の雰囲気と色の感じが、ヴェンツェルと一緒だ。
「お姉さん、やっぱりすごい美人だったね」
「あーらお上手。キミが噂のベルゲングリューン伯ねって……、なにこの服!!!!」
「あ、姉うぇ……く、くるし……くるしっ……」
大人の女性らしく振る舞おうとしていたらしいヴェンツェルのお姉さんは、僕の服を近くで見た途端、驚愕のあまり、おんぶさせていた弟の首にまわしていた腕をぎゅうう、と締めた。
「破壊と混沌の魔女アウローラの遺物ですって……」
ヴェンツェルから事情をかいつまんで聞いて、お姉さんのジルヴィア先生が絶句した。
「魔法学校になんていうエグいもの着てくるのよ……」
「い、いや、だってこれ、脱げないんですもん……」
ドン引きするジルヴィア先生に僕は答えた。
「と、とにかく、学長に報告して全講師に急いで通達しておかないと……。歩く核爆発魔法が入学してきたようなものだから。挨拶はまた後でね、ベルちゃん」
「歩く核爆発魔法……、ベルちゃん……」
ものすごい勢いで駆け出していったジルヴィア先生を、僕たち3人はぽかーんと眺めた。
「はは、姉上も大げさだなぁ……。ベルはまだ火球魔法すら撃てないってのに……」
苦笑するヴェンツェルを見て、僕はニヤァと邪悪に笑って見せた。
「ふっふっふ……、ヴェンツェルくん……それはいつの時代の『ベル』のことを言っているのかなぁ?」
「なっ?!」
「すごい! できるようになったの?! まつおさん!」
ミヤザワくんが驚きよりも喜びを全面に出して言った。
「帝国元帥閣下のお宅を燃やしたらシャレにならないから発動までは試してないけど、発動開始のところまでは確認したよ」
僕は答える。
「そればかりじゃない。元帥閣下の書庫でジルベールと本を呼んでいたら、魔法書がいっぱいあるのを確認して……、覚えられる限りの魔法とその詠唱を暗記して……その全ての魔法の発動開始まで確認できたんだ」
「ほ、本当かそれは!?」
ヴェンツェルが僕に掴みかからんばかりにしがみついて言った。
びっくりした時のリアクションが姉弟で一緒なんだな。
「発動開始までということは、それは使えるということだ。その服の効果がすごいというのもあるだろうが……、間違いなくそれは君の素質だぞ、ベル」
「わはははは! 僕もそう思う。 士官学校での長い苦難の毎日は、僕が大魔導師となるための布石であったのかもしれない……!」
そんなことを話していると生徒たちが移動をしはじめたので、僕たちはヴァイリス魔法学院、学期休暇特別講習初日の演習場となるグラウンドに向かった。
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「当魔法学院では、ローブやマント、および杖の装備が必須となっている。お前のその格好は、そのどれも満たしていない!」
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「ちゃんとマント付けてるでしょ?」
「そんな魔法使いっぽくないマントは、魔法学院に通う生徒のマントとは言えないし、杖はどうした!」
「だから、この剣が杖の変わりなの。わかる?」
「剣は剣だろ! 仮に百歩譲って、それに杖の効果があるとして、杖をもってこいって言われたんだから普通、杖っぽいのを持ってきて、魔法使いらしいマントでくるだろう?!」
……それは僕もその通りだと思うんだけど。
仕方ないじゃないか。
僕はもう、この服を着る以外の選択肢がないんだから。
「だいたい、その格好はどこぞの高級将校なり大貴族が着るような服だろう。お前のようなどこの馬の骨ともわからんような……」
「ああ、なるほど。あんたは最近田舎から出てきたんだな」
「なっ?! そげなこと関係なかろう?!」
……どこかで聞いたことがある言葉のような気がする。
「ヴァイリスで僕の名前を知らないのはモグリだって言ってるの。遅刻しちゃうから、もう行くからね。もしあんたのせいで落第になったら、ジェルディクの帝国猟兵に暗殺されるかもしれないよ」
「な、な、本官を脅迫しちょうかや!!」
いや、脅迫じゃなくて、今そこにある危機をそのまま伝えただけなんだけどな。
仕方ない。
「直立不動!!!」
うんざりした僕がそう告げると、守衛は直立不動になったまま動かなくなった。
「な、な、何を……?!」
「僕が魔法使いってことが、これでわかったでしょ?」
僕は動揺する守衛の耳元で、ささやいた。
「……もし今度、僕がここを通る時に邪魔をしたら、次に動かなくなるのは、君の身体じゃなくて、心臓かもしれないよ? でも、お仕事ご苦労さま。僕以外の人にはそのノリのままでいいと思うよ」
魔法でもなんでもないというか、そもそもなんなのか自分でもわかっていないし、そんなことはできないんだけど、ハッタリとしては十分だろう。
そこで、僕はふと思いついて、言ってみた。
「もしかして、西方辺境警備隊のソリマチ隊長って知ってる?」
「なっ……、や、やめちょくれ!! か、家族には手を出さんでごせ……」
「あ、ごめんごめん、脅かす気はなかったんだけど……、ってことは、おっつぁんの息子さん?」
「そげだ。なんであんた、ウチの親父のことを知っちょうと?」
言葉が似てるからもしかして同郷かと思ったら、なかなかの偶然だ。
「おっつぁん達は今、隣のイグニアに来てるよ。……というか、たぶん、ずっといる」
「えっ?!」
「イグニア市で馬車に乗って北東方向に街道を行くと、ベルゲングリューン領っていう場所があるから、そこにいる誰かに僕に教えられて来たって言えば、おっつぁん達のところに案内してくれると思うよ。それじゃーね」
僕は守衛の詰め所を後にした。
「あ、ミヤザワくん」
「よかった、まつおさん! 無事に入れたんだね」
「なんとかね。風邪は平気?」
「うん、もうなんともないよ。心配かけてごめんね。……で、それが例の……」
僕の衣服を見て、ミヤザワくんが恐ろしいものでも見るように言った。
「そう、例のやつ」
僕はげんなりとしながら言った。
「ごめんね……、すごくカッコいいし似合ってると思うんだけど……、あの混沌と破壊の魔女アウローラのものだって聞いて、ちょっと怖くて……」
「……いいんだ。 ミヤザワくんが爆笑しなかっただけでも、僕は今感動しているんだ」
ミヤザワくんは本当にイイやつだ。
「こちらこそ、まさか憧れの魔法学院で学期休暇を過ごせるなんて夢みたいだよ。ありがとう」
「お、来たな! ベル」
ヴェンツェルが魔法学院講師のネームプレートを付けた、ウルフヘアーの美人をおんぶするような格好で、僕たちのところまでやってきた。
どうやら、先生の方がヴェンツェルにべたべた甘えているらしい。
ちょっと美少年だからって、こんなすげぇ美人の先生といつの間に……と思って、ふと気付いた。
やわらかそうな髪の雰囲気と色の感じが、ヴェンツェルと一緒だ。
「お姉さん、やっぱりすごい美人だったね」
「あーらお上手。キミが噂のベルゲングリューン伯ねって……、なにこの服!!!!」
「あ、姉うぇ……く、くるし……くるしっ……」
大人の女性らしく振る舞おうとしていたらしいヴェンツェルのお姉さんは、僕の服を近くで見た途端、驚愕のあまり、おんぶさせていた弟の首にまわしていた腕をぎゅうう、と締めた。
「破壊と混沌の魔女アウローラの遺物ですって……」
ヴェンツェルから事情をかいつまんで聞いて、お姉さんのジルヴィア先生が絶句した。
「魔法学校になんていうエグいもの着てくるのよ……」
「い、いや、だってこれ、脱げないんですもん……」
ドン引きするジルヴィア先生に僕は答えた。
「と、とにかく、学長に報告して全講師に急いで通達しておかないと……。歩く核爆発魔法が入学してきたようなものだから。挨拶はまた後でね、ベルちゃん」
「歩く核爆発魔法……、ベルちゃん……」
ものすごい勢いで駆け出していったジルヴィア先生を、僕たち3人はぽかーんと眺めた。
「はは、姉上も大げさだなぁ……。ベルはまだ火球魔法すら撃てないってのに……」
苦笑するヴェンツェルを見て、僕はニヤァと邪悪に笑って見せた。
「ふっふっふ……、ヴェンツェルくん……それはいつの時代の『ベル』のことを言っているのかなぁ?」
「なっ?!」
「すごい! できるようになったの?! まつおさん!」
ミヤザワくんが驚きよりも喜びを全面に出して言った。
「帝国元帥閣下のお宅を燃やしたらシャレにならないから発動までは試してないけど、発動開始のところまでは確認したよ」
僕は答える。
「そればかりじゃない。元帥閣下の書庫でジルベールと本を呼んでいたら、魔法書がいっぱいあるのを確認して……、覚えられる限りの魔法とその詠唱を暗記して……その全ての魔法の発動開始まで確認できたんだ」
「ほ、本当かそれは!?」
ヴェンツェルが僕に掴みかからんばかりにしがみついて言った。
びっくりした時のリアクションが姉弟で一緒なんだな。
「発動開始までということは、それは使えるということだ。その服の効果がすごいというのもあるだろうが……、間違いなくそれは君の素質だぞ、ベル」
「わはははは! 僕もそう思う。 士官学校での長い苦難の毎日は、僕が大魔導師となるための布石であったのかもしれない……!」
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