士官学校の爆笑王 ~ヴァイリス英雄譚~

まつおさん

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第二十七章「クラン戦」(3)

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「むちゃくちゃ良く描けてんじゃん!」
「へへへ、だろ?」
 
 花京院が得意げに鼻をこすった。
 ゾフィアの敵情視察に花京院を同行させてみたら、実に立体的な地形図を描いてきてくれたのだ。
 用水路の水の深さまでわかる描き方で、作戦を立てるには十分すぎるぐらい精巧だ。
 文句があるとすれば、端っこに小さくない字で「Cぐみ かきょーいん」と書いてあることと、アホみたいな顔をして鼻を垂らしたキャラの絵が書いてあることだろうか。

「殿、悪いニュースもある。連中はどうやら、傭兵を集めているようだ」
「傭兵?! そんなのもアリなの?」
「どうやらアリらしい。クランとして戦うなら、その人数に特に制限はないようだ」
「ほぇー」
「暁の明星は大手クランだから、同盟を結んでいる強豪ギルドや傘下に入っている弱小クランも多い。相当の大人数で来るだろうな」
「こうなったら、こっちもシュタール下痢ぶりゅりゅ……」
「ゲブリュルだ! 鋼鉄の咆哮シュタールゲブリュル!」
「そう、それ!」
「父上も、ルドルフ将軍閣下も殿が頼めば断らんだろうが……、どうする?」
「うーん……いや、やめとこう。もしこれがミスティ先輩じゃなくて、ゾフィアの取り合いだったらお願いしてもいいかな、とは思うけどね」

 僕は少し考える。
 暁の明星が確保している城はジェルディク帝国の首都、リヒタルゼンの城だ。

「花京院の描いた地図によると水路が多く……、足場が悪いね。敵が大人数で来るというならほぼすべての道を封鎖されちゃうだろうな」
「私もそう思う。混戦は避けられないだろうな」

 いつの間にか隣にぴと、と立っていたヴェンツェルがノンフレームの眼鏡をくい、と押し上げながら言った。
 黒いチョーカーがよく似合っている。

「混戦になったら、人数が多い方が圧倒的に有利だよなぁ。おまけにガーディアンまでいる」

 鋼鉄の咆哮シュタールゲブリュルは大陸最強の軍隊と言っていいだろうが、これだけ狭いと突撃による圧倒的な突破力を活かせない。
 それよりはむしろ……。

「ジョセフィーヌ、いるかい?」
「はーいまつおちゃん。何かしら? 今、みんなのお座布団に刺繍するのでちょっと忙しいんだけど……」

 ジョセフィーヌがめちゃ可愛い花柄のパッチワークの座布団カバーを作っていた。

「忙しいところごめんね。ちょっとこないだの万年筆で手紙の代筆をお願いしたくて。僕は字がヘタだから……」
「あらー、まつおちゃんの字、味があって好きよ、私」
「今回のはちょっとおカタイ所に出すからさ、味があっちゃマズイいんだよね」
「へぇーっ、どこに出すのぉ? じゃ、まずは宛名から書くわね」

 ジョセフィーヌが机の上に置いてある便箋を一組取って、紅茶一口飲むと、万年筆を取り出した。

「アヴァロニア教皇庁」
「ブッ!!!!」

 ジョセフィーヌが紅茶を噴き出した。

「ちょ、ちょっと、ヤダぁ! まつおちゃんがヘンなことを言うから、封筒がべちゃべちゃになっちゃったじゃないの!」
「そのまま書こうとするな! 交換だ交換!」

 思わず噴き出してしまうようなヤバい所に送るのに、なぜべちゃべちゃになった便箋を使おうとするのだ。

「今から言うことを、ジョセフィーヌならではの上品かつエレガント、気品があってセンス抜群の文章でアレンジして書いて欲しいんだ」
「ハードル上げてくるぅ~」
「聖天馬騎士団ゴッドフリート殿、いかがお過ごしでしょうか。先日の若獅子戦では大変お世話になりました。貴殿と貴殿率いる伝説の騎士団と、模擬戦ながら刃を交わすことができたことは、私にとって終生の誇りとなるでしょう。さて、本日はご報告とお願いがあってお手紙させていただきました」
「なるほど! 聖天馬騎士団なら水路があろう道が狭くても関係ない。名案だな! だが、どうやって彼らに協力させるんだ?」
「ちょっとちょっとー、ヴェンツェルちゃん横でしゃべんないでぇー、まつおちゃんの言うことを頭に入れて、お手紙の文面を考えながら書いてるんだからぁー」
「す、すまない」

 そう言いながら、ジョセフィーヌは見事な達筆でさらさらと手紙を書き始める。

「この度、我々はクランを結成したのですが、ある経緯で城持ちの大手クランとクラン戦をしなくてはならなくなりました。他方、皆さんが大事に見守っていらっしゃる『聖女』が、この度すばらしい宝具アーティファクトを入手され、次のクラン戦では大活躍すること間違いなしと考えています。きっと聖天馬騎士団の皆様は、聖女の奮戦を間近でご覧になりたいのではないかと考え、ぶしつけながら、ご招待のお手紙を送らせていただいた次第です」
「なるほど……」
「んもう~、まつおちゃんったら腹黒なんだから……」
「もしよろしければ、ただご覧になるのではなく、また、今回は敵同士でもなく、共に聖女を支える『同志』として友軍参加していただき、歴史的な瞬間を共に分かち合いませんか、と。こんな感じかな」
「ふぅーん、私をダシに使おうっていうのね」

 僕の腰を横からつん、と黒いストッキングのつま先がつついた。
 振り返ると、腕と足を組んだアリサが肘掛け椅子に座っていた。

「ダメ?」
「ううん、いいアイディアだと思うわよ」

 アリサはそこまで言ってから、少し恥ずかしそうにつぶやいた。

「あなたの称号の下の方まで、彼らが見なければね」
「あ」

 「聖女アンナリーザに愛されし者」……たしかに、これはヤバい。
 火薬袋をたくさん持たせたミヤザワくんに引火するぐらいヤバい。
 
「ま、まぁ、ルール上、途中で陣営を変えることはできないみたいだから……ハハ」

 ……とりあえず、今はあまり深く考えないことにした。

『メッコリン先生、今ヒマ?』
『ヒマなわけないだろう!!』
『あ、じゃぁいいです。さよなら……』
『ま、待てよ! 要件ぐらい言ってけよ!』
『クラン戦するんだけど、参加します?』
『俺は友達か! 教師を『今夜、飲みあるんだけど行く?』みたく誘うな!』
『じゃ、来る?』
『行くか! それよりな、新学期の授業の……』

 僕は通信を切った。

「今回は魔法が肝なんだよなぁ」

 僕が知っている魔法の使い手は限られる。
 魔法学院の先生でヴェンツェルのお姉さん、ジルヴィアさんは大陸名うての大魔導師ハイウィザードだけど……、きっとものすごく多忙だろうし、魔法学院は規則も厳しそうだしなぁ。
 普通に頼んでも断られるだろうなぁ。

『ジルヴィア姉さん、今忙しいよね』
『あらベルちゃん! いえ、ちょうど今屋上でタバ……休憩していたところよ。どうしたの?』
『実はね、僕とヴェンツェル、クラン戦っていうのをやらなくちゃいけなくなったんだけど……』
『……相変わらず、あなたの周りでは色んなことが起こるのね……』
『僕とヴェンツェルは城持ちの大手ギルドからいじめられてるんだよ。だから、絶対勝てるわけないんだけど、ヴェンツェルが、『姉上がいれば勝てるのに……』ってすごく悔しがってて。いや、姉さんは忙しいだろうから無理だろうって言ったんだけど、ヴェンツェルが『いや、姉上だ』『姉上じゃなきゃだめなんだ』『ここはもう姉上しか……』』
『行くわ。場所はどこなの?』

 即決した。

「ヴェンツェル、ジルヴィア先生参戦決定」
「な、なにぃぃっ?!」

 ヴェンツェルが目をむいて僕を見上げた。

「……どんな手を使ったかはあえて聞くまい……」
「姉の愛情だよ。ヴェンツェルはもっとお姉さんに甘えてあげて」
「そういうのは、君に任せる……」
「え、いいの?」

 僕が聞くと、ヴェンツェルは少し恥ずかしそうにしながら、言った。

「姉から見たら、もう君と僕は兄弟みたいなものだろう……」
「……ヴェンツェルが義理の弟になったりして」
「はは、冗談もほどほどに……、……冗談だよな? お、おい、ベル、待て!!」

 僕がニヤニヤ笑いながら椅子に向かうと、ヴェンツェルが子犬のように追いかけてきた。

「……やっぱりあの二人、仲良すぎません?」
「『姉から見たら、もう君と僕は兄弟みたいなものだろう』」
「ぷっ……、似てる……」

 テレサ、ミスティ先輩、メルで盛り上がっていた。

「さて、あとは……」

『おっす、アーデルハイド』
『お、おっす……? だ、誰ですの……って、聞くまでもありませんでしたわね……』
『ご無沙汰。元気してた?』
『馴れ馴れしいですわね……。貴方が穴だらけにしたグラウンドで元気に学生生活を送っていますわよ』
『それはよかった。それと、ありがとね』
『……な、なんのことかしら』
『ミヤザワくんの杖、新しくなってた。あれ、君が贈ってくれたんじゃないの?』
『……彼から聞きましたの? 口止めしましたのに』

 やっぱりそうか。
 僕は思わず微笑んだ。
 いいとこあるじゃん。

『ううん、ただ、杖の飾りの部分が、君の趣味に似てるなって思ってたんだ』
『……相変わらず、おそろしく目ざといですわね……』

 アーデルハイドが呆れたように言った。
 ずいぶん丸くなった気がする。

『彼には失礼なことを何度も言ってしまいましたから、そのお詫びですわ。それに、一時とはいえ、我が校に身を置いた生徒があんな安物の杖を振り回していたら、示しがつきませんもの』
『大事に使ってるみたいだよ。いつも丁寧に磨いてる』
『そ、そう……』

 アーデルハイドはそう言って、少し躊躇ためらうようにしてから、言葉を続けた。

『貴族であるか平民であるかなど、私にとっては砂かほこりか、程度の違いに過ぎぬ。魔術の深淵はそなたが考えているよりずっと深い。砂を誇らず、埃をわらわず、おのが道を邁進するがよい』

 ……魔法でも詠唱するかのように、アーデルハイドが口ずさんだ。

『おお、なんかカッコいいセリフだね。君が考えたの?』
『貴方が私に言ったセリフですわ!! も、もしかして、忘れたんですの?!』

 ああ、そうだ。
 僕じゃなくて、アウローラが勝手に言ったセリフだ。

『グラウンドを穴だらけにして貴方が学園を去ってから、あの言葉を何度も思い出しましたの。……悔しいですけれど、貴方の言う通りだと思い知らされましたわ。……それで彼に謝罪することにしましたの』
『そのまま付き合っちゃえばいいのに。オススメだよ、ミヤザワくん。いい奴だし、キレイ好きだし。なんて言ったって、君の悪口を言えって言われて、すごく考えた挙げ句に言った言葉が『あんぽんたん』だよ? ぷくく……あんぽんたんってナニ……?』
『残念ですけれど、貴方が言った通り、魔術の探求に身分の差がなくとも、この社会には歴然と存在しますの。アーレルスマイアー伯爵家の人間である限り、私が平民とお付き合いすることはありませんわ』
『そっか、残念。意外とお似合いだと思ったんだけどなぁ』
『……か、家格で言えば、同じ伯爵家である貴方と、そ、その、私の方が……』
『そうそう、それよりさ、今日は話があって連絡したんだけど……』
『そ、それより……』
『僕のクラン『水晶の龍』に入らない?』
『っ!? あなた……学生で、冒険者ですらないのにクランを作ったんですの?』
『そうだよ』
『そうだよって……』
『でさ、城持ちクランとクラン戦することになったから、よかったら参戦しないかなと思って』
『クランを作ったばかりで、城持ちクランとクラン戦……。ごめんなさい、ちょっと何を言っているのかわからないのですけど……』
『ウチは魔法の使い手の数が圧倒的に少ないからさ、君みたいな優秀で、一見すっごく意地悪でお高く止まってるんだけど実は優しくて面倒見のいい人が来てくれるとすごく助かる』
『褒められていると認識するのがすごく難しい褒め方ですわね……』
『ま、よかったら考えといてよ。後でまた連絡するね、それじゃ!』
『ちょ、待っ……』

 これで、よし、と。
 あとは、こっちも。

『やあやあオールバック君』
『む……誰かな?』
『おいおい、君をこんな呼び方するのは、僕ぐらいだろう?』
『ベルゲングリューン伯か、久しいな。……実はそうでもない』
『そうでもない?』
『君のせいで、魔法学院の生徒から『オールバック』呼ばわりされるようになってな。すっかり定着してしまったのだ』
『オールバック似合ってるし、いいじゃん。正直おっさんくさいとは思うけど、伝統トラディショナルとオールバックはいつの時代も色褪いろあせないんだって、アウローラが言ってた』
『私はそんなことは言ってない』
『うわ、割り込んでくるなよ……』
『ちょっと待て……、自分でもバカバカしいと思いつつも一応聞くんだが……その、今のはまさか、君の一人芝居ではなくて、アウローラがしゃべったのか?』
『うん、そう』
『……なんということだ……、混沌と破壊の魔女が話す場に、居合わせることができようとは……』
『まぁ、そんなわけで、クラン戦に来てね。待ってるから』
『ちょ、ちょっと待て!! もう少しヒントをくれ!! 今の流れで私に話がわかると思うのか?!』
『詳しい話はアーデルハイドに聞いてみて!』
『ちょ、待っ』

「さてと……、一応、あの人にも声かけてみっか」

『学長先生、やっほー! クラン戦に参加しません?』
『うわははははははっ!!!! ははっ、げ、げほっ、げほっ……、キ、キミは私を笑い殺す気かね……』
『ダメですよね、やっぱ』
『……私をクラン戦に誘った生徒はキミが初めてだとは言っておこう』
『魔法学院の学長先生が来たら絶対面白いのに……。敵も味方もぶったまげますよ』
『ふふふ……たしかに面白いだろうなぁ……。今日はその想像だけで楽しく過ごせそうだよ』
『想像で楽しむタイプか……、ルッ君の仲間だな』
『よくわからんが、ものすごく不名誉な言われようをしたことだけはなんとなくわかるぞ……』
『じゃ、こないんですね? 本当にいいんですね? もう誘いませんよ?』
『わはははは、言い方を変えて参加価値を高めようとするな』
『ちぇー』

 ダメか、ざんねん。

『ユリーシャ王女殿下、クラン戦に参加……』
『するかバカモン!!!』

「ふぅ……」

 魔法伝達テレパシーの連続使用で疲れたこめかみをグリグリしながら、僕は椅子に深くもたれこんだ。 
 とりあえず、優秀な魔法の使い手を3名集めることができた。
 今のところ、上々の結果といえるだろう。
 あとはリザーディアンに参戦してもらって……。
 
『リョーマ、聞こえてる? 若獅子祭は楽しかったね』

 僕はリョーマに通信を飛ばした。
 リョーマは魔法伝達テレパシーが使えないだろうから、もしかしたらうんこ中かもしれないけど、若獅子祭であれだけ妨害してくれたんだ、気にすることはないだろう。

『実は、もうひと暴れしたくないかなーと思って、声を掛けてみたんだ。城持ちの大手クランにケンカ売られちゃって、うっかり買っちゃってね。完全な負け戦なんだけど、少なくともケンカ相手には困らないから、今回は僕と一緒に暴れてみない? なんだったらお友達の傭兵団『死神グリムリーパー』も連れてきていいよ』

 これだけじゃダメだな。
 リョーマの性格から考えて、また相手クラン陣営について嫌がらせしてきてもおかしくない。
 というか、絶対する。
 そもそも声を掛けなくても、どこからか話を聞きつけてやってきそうな気がしたから、先手を打ってリョーマに声を掛けたのだ。

『今回は敵に回ったりしたら、こんな面白い話二度と君に振らないから、そこんとこ夜露死苦ヨロシク!』

 これでよし。
 間違っても「裏切ったらただじゃおかないぞ」なんて言ったら絶対裏切ってくる、そういう男だけど、「もう面白い話振らないよ」って言ったら絶対裏切らないと思う。

 僕はその後、エタンとトーマスにも声を掛けて。
 最後に、彼に連絡を入れた。

『まだ、君とそこまで打ち解けるには早いのかな、とは思ったんだけど……、でも、誘ってみようと思う』

 僕は一度深呼吸してから言った。

『僕のクランに入らないか? そして、力を貸して欲しい。……ギルサナス』
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