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第二十七章「クラン戦」(13)
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13
「反転!! ガーディアンを狙撃した奴を仕留めて、城内の味方に少しでも貢献するぞ!!」
「うっわ、マジかよ!!」
二体目のガーディアン撃破に味方陣営が沸き返ったのも束の間。
予想外の局面に、僕は思わず舌打ちをした。
連中は、味方の救援を中断し、アリサを狙うつもりなのだ。
ここで犠牲の甚大さを覚悟して、前線部隊の救援をあきらめるとは思わなかった。
もしこれが召喚体じゃない、実際の生身の戦闘でそんな非情な判断ができるとすれば、それが是であれ非であれ、非凡な決断力のある指揮官と言えるだろう。
前線部隊のほとんどを焼き殺し、ジルヴィア先生のとんでもない魔法で後詰部隊の大半を蒸発させても、さすがは金星冒険者軍団だ。
(アリサが危ない!!)
救援は絶望的だ。
まだ炎上のさなかにある通路を抜けて高台に向かうことはできない。
でも……、僕一人なら……。
「オールバックくん、君の防護魔法って、たとえば炎の中をくぐるようなことはできるの?」
「残念ながら難しい。我がバルテレミー家は固定防御のみに特化して研鑽を重ねてきたからな」
「……それなら、私の得意分野だ」
「メッコリン先生?」
メッコリン先生が僕の肩に手を乗せた。
「お前のその軍服みたいな装備は相当エグい属性耐性がついているな。だが、常に炎に晒されるような状況では、露出している顔部分が問題になる」
「先生……?」
「魔法付与は本来、物品に魔力を込める技術だが、使い方によっては身体強化魔法よりも強力な効果を身体に付与することができる……」
「僕が何をしようとしているか、わかるの?」
「アンナリーザくんを助けに行こうっていうんだろ? わかるさ」
メッコリン先生がにっこりと笑う。
「指揮官としてどうかとは思うが、大事な女の子を一人で助けに行くなんて、漢じゃないか」
メッコリン先生はそれだけ言うと、魔法詠唱を開始した。
……なんだ、やっぱりこの先生も、めちゃくちゃかっこいいんじゃないか。
「火蜥蜴の鱗」!!
メッコリン先生が発動した魔法を受けた瞬間、全身が火照るような感覚が走り、腕をめくってみるとうっすらと赤い鱗状の線が走っていた。自分では見れないけれど、おそらく、顔も全身もこうなっているのだろう。
「あの炎に耐えられる時間は、保って三分ってところだ。それまでに向こう側に到着できなければ、お前もあいつらみたいになる。わかったか?」
「ありがと、……メックリンガー先生」
なんだよ、ちゃんと名前言えるんじゃないか。
先生のそんなツッコミを背中に受けて顔を上げると、目の前に見覚えがある馬の鼻が、僕の顔をクンクンと嗅いだ。
「乗れ、卿よ」
「閣下? ……みんなも?!」
馬から手を差し伸べるジルベールの周囲には、いつものみんなが集まっていた。
「ベルなら絶対、行くと思ってた」
「私は半々だと思ったけどねぇー」
「ちょっと妬けるけど、それでこそベルくんだわ」
「今回、アンナリーザ様だけちょっとズルいと思います」
メル、ユキ、ミスティ先輩、テレサ。
「絶対助けてこいよ。ウチの大切な戦力なんだからな」
「ああ」
僕はキムと拳を合せた。
「他の奴らにも、今の先生の魔法をかけてもらって行くってのはどうなんだ?」
「花京院、それは私も今考えたが……、無理だ」
花京院の問いに、ヴェンツェルが答える。
「あらん、どうしてぇん?」
「私たちの装備では、残念ながら彼ほどの属性防御がないからですわ。あの炎では三分どころか五秒と保たないでしょうね……」
アーデルハイドはジョセフィーヌにそう答える。
「私なら、行くこと自体はできるのだが……」
どぎついピンク色の羽飾りを兜につけたユリシール殿が小さくつぶやいた。
たしかにユリシール殿の甲冑であれば、十分な耐性防御を備えているだろうけど、到着するのに一時間ぐらいかかってしまいそうだった。
そうやって残念がる甲冑のお方の正体を知っているアーデルハイドが、目を丸くして、それからクスリと笑って、僕を振り返った。
「最初に貴方に言ったこと、謝罪しますわ。部下を捨て駒にするなど将たる器ではないと……」
「わはは、仲間一人を助けに行く指揮官もどうかと思うけど」
「もう少し火勢がおさまれば、必ず私が消火してみせますわ。……それまで死ぬのは許しませんからね」
「丸くなったね、アーデルハイド」
「なっ……?!」
「ゾフィア、合流の指揮をお願い。ヴェンツェル、補佐を頼む」
「わかった」
「殿、ご武運を!」
僕はミヤザワくん、エタン、トーマスにも手を振って、ジルベールの馬に乗り込んだ。
「聖女殿を救うのは私情か、それとも計算か?」
馬を疾走らせながら、ジルベールが問うた。
「うーん、両方かな」
「ふっ、そうか」
「なんだよう」
「いや、たまには私情だけで動いても良いのではないかと思ってな」
ジルベールが言った。
「それってさ、どうやってやればいいの?」
少し考えて、僕は答える。
「まったく計算しないで、感情だけで何かをするとか、ちょっと想像もつかないな」
「ふふっ、卿らしい言葉だな」
「実際、計算して、計算通りになったことなんて、たぶんほとんどないんだけどさ」
そこまで言って、僕はあることに気付いた。
「そうか。若獅子祭の時に閣下がアデールに告白した時みたいなのを、私情だけの行動っていうんだな」
「ああ、そうだな」
背中を向けているのもあって、ジルベールが素直に答える。
「閣下はオトナだなぁ。僕ならきっと、その時でも色々考えちゃうだろうな」
「……卿よ。今まで何度か、改めて挨拶でもと、アデールを卿に会わせようとしたのだが、本人が嫌がるのだ」
「……そ、そんな嫌われるようなことしたっけ」
「怖いのだそうだ」
「こ、怖い?」
「卿のそばにいると吸い込まれそうになると。そうなると私の元には戻れなくなりそうだから、会いたくないと言うのだ」
ジルベールが可笑しそうに笑いながら言う。
「……回りくどいノロケ方しないでくれる?」
「ふふ、そうではない。卿は計算しているつもりなのだろうが、周囲の人間が卿に付いていくのは、卿の計算していないところに惹かれているということだ。……この私もな」
「……それじゃ、やっぱり今のままでいいってことじゃん」
「うん?」
「計算しているつもりで計算していない部分があるのが僕の魅力なんだとしたら、これからも計算し続けるしかないってことじゃん」
「……似たようなことをルクスが言っていたな」
「わはは、そうそう!! 『モテようとしない方がモテるって言うけど、それでモテてラッキーって思ったらモテなくなるんだから、それ意味ないんじゃね』って悩んでた。そんなのはモテてから考えろって言ったんだけど」
「クックック!! 奴は奴なりに、一生懸命悩んでいるのであろうな」
「近くにいるとあんなに騒がしいのに、ちょっと別作戦やってもらってるだけで、正直もう寂しいもんね。『ルッ君? あ、そうか、今いないのか』ってさ」
「その言葉、本人が聞いたら泣いて喜ぶと思うぞ」
「あのね、言うわけないでしょ?」
僕がそう言ったところで、ジルベールが手綱を強く引いた。
「飛べッ!! 鬼鹿毛ッッ!!」
ジルベールは愛馬が高い嘶きと共に馬防柵を踏み越ようとする瞬間に馬首をめぐらせ、旋回しながら馬防柵を蹴って跳躍させた。
その最高点に達したところで僕はジルベールから身体を離した。
炎の渦と冒険者たちの骸に包まれた、地獄の地へ。
「武運を祈る」
「ありがと、閣下」
僕は跳躍の勢いのまま身体を前転させて着地した。
頬の辺りまで燃え上がる炎と熱気に、脳が驚き、大火傷を負ったような恐怖心が全身を襲うが、メッコリン先生の魔法によって火蜥蜴の鱗に覆われた皮膚には、傷一つ付かない。
時間は、保って三分。
僕は自らが生み出した凄惨な地獄の業火を単身で駆け抜けるのだった。
「反転!! ガーディアンを狙撃した奴を仕留めて、城内の味方に少しでも貢献するぞ!!」
「うっわ、マジかよ!!」
二体目のガーディアン撃破に味方陣営が沸き返ったのも束の間。
予想外の局面に、僕は思わず舌打ちをした。
連中は、味方の救援を中断し、アリサを狙うつもりなのだ。
ここで犠牲の甚大さを覚悟して、前線部隊の救援をあきらめるとは思わなかった。
もしこれが召喚体じゃない、実際の生身の戦闘でそんな非情な判断ができるとすれば、それが是であれ非であれ、非凡な決断力のある指揮官と言えるだろう。
前線部隊のほとんどを焼き殺し、ジルヴィア先生のとんでもない魔法で後詰部隊の大半を蒸発させても、さすがは金星冒険者軍団だ。
(アリサが危ない!!)
救援は絶望的だ。
まだ炎上のさなかにある通路を抜けて高台に向かうことはできない。
でも……、僕一人なら……。
「オールバックくん、君の防護魔法って、たとえば炎の中をくぐるようなことはできるの?」
「残念ながら難しい。我がバルテレミー家は固定防御のみに特化して研鑽を重ねてきたからな」
「……それなら、私の得意分野だ」
「メッコリン先生?」
メッコリン先生が僕の肩に手を乗せた。
「お前のその軍服みたいな装備は相当エグい属性耐性がついているな。だが、常に炎に晒されるような状況では、露出している顔部分が問題になる」
「先生……?」
「魔法付与は本来、物品に魔力を込める技術だが、使い方によっては身体強化魔法よりも強力な効果を身体に付与することができる……」
「僕が何をしようとしているか、わかるの?」
「アンナリーザくんを助けに行こうっていうんだろ? わかるさ」
メッコリン先生がにっこりと笑う。
「指揮官としてどうかとは思うが、大事な女の子を一人で助けに行くなんて、漢じゃないか」
メッコリン先生はそれだけ言うと、魔法詠唱を開始した。
……なんだ、やっぱりこの先生も、めちゃくちゃかっこいいんじゃないか。
「火蜥蜴の鱗」!!
メッコリン先生が発動した魔法を受けた瞬間、全身が火照るような感覚が走り、腕をめくってみるとうっすらと赤い鱗状の線が走っていた。自分では見れないけれど、おそらく、顔も全身もこうなっているのだろう。
「あの炎に耐えられる時間は、保って三分ってところだ。それまでに向こう側に到着できなければ、お前もあいつらみたいになる。わかったか?」
「ありがと、……メックリンガー先生」
なんだよ、ちゃんと名前言えるんじゃないか。
先生のそんなツッコミを背中に受けて顔を上げると、目の前に見覚えがある馬の鼻が、僕の顔をクンクンと嗅いだ。
「乗れ、卿よ」
「閣下? ……みんなも?!」
馬から手を差し伸べるジルベールの周囲には、いつものみんなが集まっていた。
「ベルなら絶対、行くと思ってた」
「私は半々だと思ったけどねぇー」
「ちょっと妬けるけど、それでこそベルくんだわ」
「今回、アンナリーザ様だけちょっとズルいと思います」
メル、ユキ、ミスティ先輩、テレサ。
「絶対助けてこいよ。ウチの大切な戦力なんだからな」
「ああ」
僕はキムと拳を合せた。
「他の奴らにも、今の先生の魔法をかけてもらって行くってのはどうなんだ?」
「花京院、それは私も今考えたが……、無理だ」
花京院の問いに、ヴェンツェルが答える。
「あらん、どうしてぇん?」
「私たちの装備では、残念ながら彼ほどの属性防御がないからですわ。あの炎では三分どころか五秒と保たないでしょうね……」
アーデルハイドはジョセフィーヌにそう答える。
「私なら、行くこと自体はできるのだが……」
どぎついピンク色の羽飾りを兜につけたユリシール殿が小さくつぶやいた。
たしかにユリシール殿の甲冑であれば、十分な耐性防御を備えているだろうけど、到着するのに一時間ぐらいかかってしまいそうだった。
そうやって残念がる甲冑のお方の正体を知っているアーデルハイドが、目を丸くして、それからクスリと笑って、僕を振り返った。
「最初に貴方に言ったこと、謝罪しますわ。部下を捨て駒にするなど将たる器ではないと……」
「わはは、仲間一人を助けに行く指揮官もどうかと思うけど」
「もう少し火勢がおさまれば、必ず私が消火してみせますわ。……それまで死ぬのは許しませんからね」
「丸くなったね、アーデルハイド」
「なっ……?!」
「ゾフィア、合流の指揮をお願い。ヴェンツェル、補佐を頼む」
「わかった」
「殿、ご武運を!」
僕はミヤザワくん、エタン、トーマスにも手を振って、ジルベールの馬に乗り込んだ。
「聖女殿を救うのは私情か、それとも計算か?」
馬を疾走らせながら、ジルベールが問うた。
「うーん、両方かな」
「ふっ、そうか」
「なんだよう」
「いや、たまには私情だけで動いても良いのではないかと思ってな」
ジルベールが言った。
「それってさ、どうやってやればいいの?」
少し考えて、僕は答える。
「まったく計算しないで、感情だけで何かをするとか、ちょっと想像もつかないな」
「ふふっ、卿らしい言葉だな」
「実際、計算して、計算通りになったことなんて、たぶんほとんどないんだけどさ」
そこまで言って、僕はあることに気付いた。
「そうか。若獅子祭の時に閣下がアデールに告白した時みたいなのを、私情だけの行動っていうんだな」
「ああ、そうだな」
背中を向けているのもあって、ジルベールが素直に答える。
「閣下はオトナだなぁ。僕ならきっと、その時でも色々考えちゃうだろうな」
「……卿よ。今まで何度か、改めて挨拶でもと、アデールを卿に会わせようとしたのだが、本人が嫌がるのだ」
「……そ、そんな嫌われるようなことしたっけ」
「怖いのだそうだ」
「こ、怖い?」
「卿のそばにいると吸い込まれそうになると。そうなると私の元には戻れなくなりそうだから、会いたくないと言うのだ」
ジルベールが可笑しそうに笑いながら言う。
「……回りくどいノロケ方しないでくれる?」
「ふふ、そうではない。卿は計算しているつもりなのだろうが、周囲の人間が卿に付いていくのは、卿の計算していないところに惹かれているということだ。……この私もな」
「……それじゃ、やっぱり今のままでいいってことじゃん」
「うん?」
「計算しているつもりで計算していない部分があるのが僕の魅力なんだとしたら、これからも計算し続けるしかないってことじゃん」
「……似たようなことをルクスが言っていたな」
「わはは、そうそう!! 『モテようとしない方がモテるって言うけど、それでモテてラッキーって思ったらモテなくなるんだから、それ意味ないんじゃね』って悩んでた。そんなのはモテてから考えろって言ったんだけど」
「クックック!! 奴は奴なりに、一生懸命悩んでいるのであろうな」
「近くにいるとあんなに騒がしいのに、ちょっと別作戦やってもらってるだけで、正直もう寂しいもんね。『ルッ君? あ、そうか、今いないのか』ってさ」
「その言葉、本人が聞いたら泣いて喜ぶと思うぞ」
「あのね、言うわけないでしょ?」
僕がそう言ったところで、ジルベールが手綱を強く引いた。
「飛べッ!! 鬼鹿毛ッッ!!」
ジルベールは愛馬が高い嘶きと共に馬防柵を踏み越ようとする瞬間に馬首をめぐらせ、旋回しながら馬防柵を蹴って跳躍させた。
その最高点に達したところで僕はジルベールから身体を離した。
炎の渦と冒険者たちの骸に包まれた、地獄の地へ。
「武運を祈る」
「ありがと、閣下」
僕は跳躍の勢いのまま身体を前転させて着地した。
頬の辺りまで燃え上がる炎と熱気に、脳が驚き、大火傷を負ったような恐怖心が全身を襲うが、メッコリン先生の魔法によって火蜥蜴の鱗に覆われた皮膚には、傷一つ付かない。
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