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第三十一章「作戦名:ベルゲングリューンの井戸」(4)
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4
そんなことを話していると、ヴェンツェル、ミヤザワくん、アーデルハイド、オールバックくんがやってきた。
ちなみに、ベルゲンくんはさっき子どもたちの集団に引きずられてどこかに連れ去られていった。
「魔法学院に寄ってきたところだ」
「まつおさん、今は色々忙しいみたいだから、魔法学院に登校するの、ちょっと待ってくれるってさ」
「マジでぇ?! やったー!!!」
僕はミヤザワくんの言葉に全力でガッツポーズをした。
「……喜びすぎだと思うが」
「ねぇねぇ、ヴェンツェルちゃんは、さっきの食べ物の話で言うと何かしらん?」
「うーん、ティラミスかな。ミヤザワくんはこう、カブと豆乳のスープみたいなやつで、アーデルハイドはいちごパフェ。オールバックくんはなんかこう、暴れイノシシの背脂がこってりした麺類かな」
「……いったいなんの話ですの」
「ヴェンツェル君がティラミスで……、私がバラ肉丼……」
ミスティ先輩がぼそっとつぶやいた。
「今回は、ずいぶん貴方らしいことを思い付いたものですわね」
「あら?!」
アーデルハイドの言葉に、僕は思わず、ジョセフィーヌみたいな反応をしてしまった。
今日も金髪ツインテールでツンツンしたお嬢様スタイルがよく似合っている。
「な、なんですの……」
「い、いやぁ……てっきりもっとこう……『王国の公共事業にまで関与するなんて……、貴方いったい何者なんですの……』みたいなことを言われるのかなって」
「……本当に言いそうな感じで言わないでくれません? もう貴方のやることなすことにいちいち驚かないことにしましたの」
「すまん。私はまさにそういうことを言おうとしていた」
オールバックくんが言った。
今日もビシッとワックスをつけたオールバックの髪がテカテカ光ってる。
「……貴方らしくて良いと思いますわよ。にぎやかで、騒々しくて、でも、とても効率的……」
「もしかして、アーデルハイドってお祭り好き?」
「そ、そういうわけではありませんわ……、ただ、その、小さい頃に、領民たちの祭りで遊んだ時のことをちょっと思い出しただけで……」
アーデルハイドがそう言ったのを聞いて、僕はミスティ先輩と目を合わせて、互いの目をうるうるさせた。
「「ええ話しや……」」
「な、なんですの二人して……」
ミスティ先輩がアーデルハイドの頭を撫でた。
「いいのよアーデルハイドちゃん。これからは家柄なんて気にせず、いつでもここで楽しんでいけばいいんだからね」
「くぅ……そんな話を聞いてしまったからには、もっと祭りを盛り上げていかないと……」
僕は腕を組んで少し考えた。
「よし!! 決めた!!」
僕はぽん、と手を合わせて、ジョセフィーヌの方を向いた。
「ジョセフィーヌ、さっきのやつ、やろう」
「えっ、ジョセフィーヌ汁のこと?」
「ちがうよ!! マッチョのオネエ軍団のパレードだよ!!」
僕がそう言うと、周りのみんながギョッとした目で僕を見た。
「べ、ベル、君はいったい……」
「ヴェンツェル、みんなが魔物に囲まれた時に、一番頼りになるのは?」
「ふむ……君じゃないか?」
「いや、僕はみんなにあれこれ言うだけでしょ。そうじゃなくて、実行部隊でだよ」
「そうなると、やはり壁役のキムかな。だが、包囲されているとなると、後衛の防衛までは厳しいか……」
ヴェンツェルが美少女の顔で真面目に考え込んだ。
「そうなると、包囲を突破する必要があるから、圧倒的な突破力があるジルベールだろうな。だが、迷宮や洞窟だと馬には乗れないから、そうなると、花京院やジョセフィーヌだろうか」
「そう!! ジョセフィーヌ!!」
僕はビシィっとヴェンツェルを指差した。
「ええぇ、オレはぁ?」
「花京院もだけど、今はジョセフィーヌなの!」
僕は言った。
「それじゃ、ミヤザワくん、精神的にキツいことがあって、みんなの士気がダダ下がりになってる時でも元気いっぱいで、みんなを元気にしてくれるのは?」
「まつおさんかな」
ミヤザワくんがにっこり笑って言った。
「ちがーう!!」
全幅の信頼を寄せてくれて嬉しい気持ちを押し殺して、僕は全力で否定した。
「僕はあきらめが悪いだけ! そういう時でもニコニコしていられるのは?」
「え、えーと」
ミヤザワくんが必死に考えている。
「え、えーっと……」
「じょ……」
あまりに答えが出ないので、僕は少しヒントを与えた。
「ジョ? ……ジョーンズさん?」
「誰だよ!」
「ご、ごめん。僕が好きな物語の主人公の探検家の名前」
「あ、嬉しい。その探検家、私の父がモデルなの」
ミスティ先輩がミヤザワくんの話に食いついたので、僕はあわてて軌道修正した。
「探検家のジョーンズさんの話はいいから!! ミヤザワくん、ジョセ……」
「あ、わかった!! ジョセフィーヌだ!」
「そう、その通り!!!」
僕は少し疲れながら、ミヤザワくんをビシィっと指差した。
「そんな、困った時に頼りになって、みんなを元気にしてくれるジョセフィーヌが厳選したマッチョ軍団を集めてパレードをやったら、絶対盛り上がると思わない?」
「あーん、もう!! まつおちゃん!! 大スキ!!」
突進気味に抱き付きに来たジョセフィーヌを緊急回避すると、ジャキッと水晶龍の盾が出現した。
「んもう! 盾を出してまで警戒することないじゃないの!」
「い、いや、これは盾が勝手に……」
「ふふふっ、でも、それ、たしかにすっごく楽しそう!」
ミヤザワくんがそう言った後、ぐえっ、と変な音が聞こえた。
「……ミヤザワくん、今、ちょっとエグい感じのおならした?」
「し、してないよ!!」
「じゃ、ゲップした?」
「し、してないけど……、ああ、こいつかな?」
ミヤザワくんが身体をずらすと、ミヤザワくんの後ろでちょこんと座った大きなトカゲがこっちを見ていた。
「ぐえぐえ」
「う、うわっ、なんだこいつ……」
花京院がびっくりしてトカゲに近付くと、トカゲの口から強烈な炎が噴き出した。
ブォワァァァァァッ!!!
「うわああああああっ!!!」
びっくりして後ずさった花京院の顔のすぐ近くを、極太の火柱がかすめていった。
「あ、あちっ、あちぃっ!! オ、オレのもみあげが燃えちまった!!」
「い、いったいなんですの?!」
「今のは炎の息だ……。それによく見ると翼がある……、もしや……」
驚くアーデルハイドに、オールバックくんが説明する。
「ほ、ほら、前に士官学校の魔法宝物庫からそれぞれにアイテムを授与された日のこと、覚えてるかな?」
「うん……なるべく思い出したくないけどね……」
みんなが様々な魔法武器や宝具のようなものを貰っている中、僕が渡されたのは、ただの竹の扇子だった。
ふざけているとしか思えない。
しかも、メルに粉々に叩き潰されてしまった。
「へへ、まつおさんの扇子を中庭に埋めて、墓を作ったのオレなんだぜ?」
花京院が得意げに言った。
中庭の片隅にあるイチイの樹の下に「まつおさんのせんすのおはか」って書いた板が立っている。
どうせボイド教官やロドリゲス教官あたりが見つけて撤去されるだろうと思ってそのままにしていたら、ボイド教官が「風情があっていい」という謎の評価で、周りに石を並べてかわいい飾り付けまでしてしまったのだ。
おかげで、今では士官学校の生徒がふざけてお花を添えたりして、僕のからかいの種になっている。
「それで、魔法宝物庫がどうかしたの?」
「あの時に僕がもらった幻獣がこいつなんだけど……。ちょっと前になつくようになって、いつでも呼び出せるようになったんだ」
「ええっ?! あ、あのかわいい幼竜みたいだったのが、こんなおデブさんになっちゃったの?」
「ぐえぐえ」
ミヤザワくんの足元が心地よいのか、靴の上にアゴを乗せた、大きなデブトカゲ……に見えるドラゴンの幻獣。
「何を食べさせたらいいかわからなくて、あげてみたらなんでも食べるから……。もぐもぐ食べるのがかわいくて、毎日あげてたらこんな感じに……。はは。でも、かわいいでしょ?」
「か、かわいい……かな、うん。たしかに、味があるというか、見ようによってはかわいいかも」
「あらぁ、ワタシはスキよぉ。きっといつかイケメンになるわよー、このコ!」
「そうね、300年もすれば、立派なドラゴンに育つでしょうねー」
ジョセフィーヌとミスティ先輩は気に入ったのか、しゃがみこんで大きなトカゲのようなドラゴンの頭を撫でた。
「ぐえ」
「でも、コイツ、全然ドラゴンに見えないぜ? 実はトカゲだったってオチなんじゃ……うわわわっ!!!」
ブォワァァァァァッ!!!
いらんことを言う花京院に、また強烈な火炎ブレスが飛んできた。
「お名前はなんというのかしら?」
近づこうとはしないながらも興味はあるらしく、アーデルハイドがミヤザワくんに尋ねた。
「うん、まつおさんに決めてもらおうかなと思って、まだ決めてないんだ」
「え、僕?」
「うん。この子の名付け親になってくれない?」
「いいけど……、本当にいいの?」
「やめといた方がいいんじゃないか? どうせまつおさんのことだから、『ウンコ』みたいな名前にされると思うぞ」
「あのねぇ、僕をなんだと思ってるんだ……」
僕は大きなトカゲのようなドラゴンにしゃがんで、顔を近づけた。
「ねぇー、花京院はひどいこと言うよねー。あいつのケツ、いつでも燃やしちゃっていいからねー」
「ぐえぐえ」
「うわ、こいつ、今マジでオレの顔を見ながら返事しやがった!」
花京院がうろたえた。
「うん、たしかによく見たらかわいい顔をしてるなぁ……、お腹もぽちゃぽちゃしてて、かわいい」
「ぐえー、ぐえー」
お腹をなでられるのが気持ちいいのか、僕の手にぎゅううっと体重を預けてきた。
……かなり重い。
「よし、決めました!」
僕は立ち上がって、宣言する。
「ブッチャー。今日からお前はブッチャーだ!!」
「ブ、ブッチャー……」
ドン引きしたように、アーデルハイドがつぶやいた。
ミスティ先輩と花京院が顔を隠して必死に笑いをこらえている。
「ブッチャー……ふふっ、いい名前かも」
「ミ、ミヤザワ君、本当にそれでいいのか? もっとこう、マクシミリアンとかだな……」
ヴェンツェルの言葉に、ミヤザワくんがにこにこして首を振った。
というか、ヴェンツェルのネーミングセンスもどうかと思う。
「おいで、ブッチャー」
「ぐえ」
ブッチャーはちゃんと返事をして、ミヤザワくんの足元にすり寄った。
「そうそう! あのね、こう見えて、こいつ、ちゃんと飛べるんだよ」
「「「「「「「え?」」」」」」」
ミヤザワくんの言葉に、僕らは思わず声を出した。
「ほら、ブッチャー、飛んでごらん、せぇのっ!!」
「ぐえぐえ」
ブッチャーは、ミヤザワくんに言われて、少しめんどくさそうにしながら、のっそりと翼を伸ばした。
「ぐえっ、ぐえっ」
うわ……、ひっく……。
おっそ……。
翼に対して身体が重すぎるのか、ブッチャーは地面すれすれの超超超低空飛行で、歩くよりも遅い速度で移動した。
「か、かわいい……」
ミスティ先輩がつぶやく。
……たしかに、翼をぱたぱたさせて、激重の身体を浮かせるブッチャーは、なんともいえない愛くるしさがあった。
「ミヤザワくん。パレードにさ、ダイエットも兼ねて、こいつも参加させたらどうかな?」
「え、いいの?! おもしろそう!!」
……決まりだな。
「アーデルハイド、楽しみにしててね。きっと君が子供の頃の気持ちに戻れるような、楽しいお祭りにしてみせるから」
「え、ええ……」
戸惑いながらも、少し頬を赤くしてアーデルハイドが言った。
「しかしベル……、僕たちは迷宮に入らなくていいのだろうか……」
隣でジョセフィーヌがものすごい集中力で候補者リストを作り始めているのを見ながら、ヴェンツェルが言った。
「入る入る。もちろん入るよ」
僕はヴェンツェルに答えた。
「でも、冒険者の数がまだまだ足りない」
「足りない? 冒険者達が二時間待ちしているのに?」
ミスティ先輩が尋ねた。
「先輩、たぶんそれは今だけだよ。今は始まったばかりだから一気に集まっているけど、負傷したり、補給で戻ってくる冒険者、翌日以降に備えて休む冒険者が出てくると、時間帯によってはまばらになって、手薄になる可能性がある」
「手薄になれば、それだけ迷宮探索の危険性が増す……」
ミスティ先輩の言葉に、僕はうなずいた。
「だから、朝も夜も行列ができるぐらいの状態を続けるためにも、もっともっと盛り上げていかないとね」
そう答えながら、僕は頭の中で、まったく別のことを考えていた。
「黒バラのミスティ丼」は観光名物としてアリなんじゃないか……。
ギュンターさんの山葵を乗っけて、黒毛丘バッファローのバラ肉を、薔薇のように美しく並べて……。
ぐ~、ぎゅるるる~。
「おなかすいてきちゃった」
「……あのね、私の顔を見てお腹を鳴らさないでくれる?」
ミスティ先輩にほっぺをつねられながら、僕はベルゲングリューンランドの構想が自分の中でどんどん広がっていくのを感じていた。
爆笑王のベルゲングリューンランド。
……悪くないよね。
最初は恥ずかしさと情けなさしか感じなかった称号だったけど、カーニバルでみんながウキウキして、歩いている誰もが笑顔を浮かべているのを見ていると、なんだか少し、爆笑王という称号が自分にふさわしいものなのかも、と思えてくるのだった。
そんなことを話していると、ヴェンツェル、ミヤザワくん、アーデルハイド、オールバックくんがやってきた。
ちなみに、ベルゲンくんはさっき子どもたちの集団に引きずられてどこかに連れ去られていった。
「魔法学院に寄ってきたところだ」
「まつおさん、今は色々忙しいみたいだから、魔法学院に登校するの、ちょっと待ってくれるってさ」
「マジでぇ?! やったー!!!」
僕はミヤザワくんの言葉に全力でガッツポーズをした。
「……喜びすぎだと思うが」
「ねぇねぇ、ヴェンツェルちゃんは、さっきの食べ物の話で言うと何かしらん?」
「うーん、ティラミスかな。ミヤザワくんはこう、カブと豆乳のスープみたいなやつで、アーデルハイドはいちごパフェ。オールバックくんはなんかこう、暴れイノシシの背脂がこってりした麺類かな」
「……いったいなんの話ですの」
「ヴェンツェル君がティラミスで……、私がバラ肉丼……」
ミスティ先輩がぼそっとつぶやいた。
「今回は、ずいぶん貴方らしいことを思い付いたものですわね」
「あら?!」
アーデルハイドの言葉に、僕は思わず、ジョセフィーヌみたいな反応をしてしまった。
今日も金髪ツインテールでツンツンしたお嬢様スタイルがよく似合っている。
「な、なんですの……」
「い、いやぁ……てっきりもっとこう……『王国の公共事業にまで関与するなんて……、貴方いったい何者なんですの……』みたいなことを言われるのかなって」
「……本当に言いそうな感じで言わないでくれません? もう貴方のやることなすことにいちいち驚かないことにしましたの」
「すまん。私はまさにそういうことを言おうとしていた」
オールバックくんが言った。
今日もビシッとワックスをつけたオールバックの髪がテカテカ光ってる。
「……貴方らしくて良いと思いますわよ。にぎやかで、騒々しくて、でも、とても効率的……」
「もしかして、アーデルハイドってお祭り好き?」
「そ、そういうわけではありませんわ……、ただ、その、小さい頃に、領民たちの祭りで遊んだ時のことをちょっと思い出しただけで……」
アーデルハイドがそう言ったのを聞いて、僕はミスティ先輩と目を合わせて、互いの目をうるうるさせた。
「「ええ話しや……」」
「な、なんですの二人して……」
ミスティ先輩がアーデルハイドの頭を撫でた。
「いいのよアーデルハイドちゃん。これからは家柄なんて気にせず、いつでもここで楽しんでいけばいいんだからね」
「くぅ……そんな話を聞いてしまったからには、もっと祭りを盛り上げていかないと……」
僕は腕を組んで少し考えた。
「よし!! 決めた!!」
僕はぽん、と手を合わせて、ジョセフィーヌの方を向いた。
「ジョセフィーヌ、さっきのやつ、やろう」
「えっ、ジョセフィーヌ汁のこと?」
「ちがうよ!! マッチョのオネエ軍団のパレードだよ!!」
僕がそう言うと、周りのみんながギョッとした目で僕を見た。
「べ、ベル、君はいったい……」
「ヴェンツェル、みんなが魔物に囲まれた時に、一番頼りになるのは?」
「ふむ……君じゃないか?」
「いや、僕はみんなにあれこれ言うだけでしょ。そうじゃなくて、実行部隊でだよ」
「そうなると、やはり壁役のキムかな。だが、包囲されているとなると、後衛の防衛までは厳しいか……」
ヴェンツェルが美少女の顔で真面目に考え込んだ。
「そうなると、包囲を突破する必要があるから、圧倒的な突破力があるジルベールだろうな。だが、迷宮や洞窟だと馬には乗れないから、そうなると、花京院やジョセフィーヌだろうか」
「そう!! ジョセフィーヌ!!」
僕はビシィっとヴェンツェルを指差した。
「ええぇ、オレはぁ?」
「花京院もだけど、今はジョセフィーヌなの!」
僕は言った。
「それじゃ、ミヤザワくん、精神的にキツいことがあって、みんなの士気がダダ下がりになってる時でも元気いっぱいで、みんなを元気にしてくれるのは?」
「まつおさんかな」
ミヤザワくんがにっこり笑って言った。
「ちがーう!!」
全幅の信頼を寄せてくれて嬉しい気持ちを押し殺して、僕は全力で否定した。
「僕はあきらめが悪いだけ! そういう時でもニコニコしていられるのは?」
「え、えーと」
ミヤザワくんが必死に考えている。
「え、えーっと……」
「じょ……」
あまりに答えが出ないので、僕は少しヒントを与えた。
「ジョ? ……ジョーンズさん?」
「誰だよ!」
「ご、ごめん。僕が好きな物語の主人公の探検家の名前」
「あ、嬉しい。その探検家、私の父がモデルなの」
ミスティ先輩がミヤザワくんの話に食いついたので、僕はあわてて軌道修正した。
「探検家のジョーンズさんの話はいいから!! ミヤザワくん、ジョセ……」
「あ、わかった!! ジョセフィーヌだ!」
「そう、その通り!!!」
僕は少し疲れながら、ミヤザワくんをビシィっと指差した。
「そんな、困った時に頼りになって、みんなを元気にしてくれるジョセフィーヌが厳選したマッチョ軍団を集めてパレードをやったら、絶対盛り上がると思わない?」
「あーん、もう!! まつおちゃん!! 大スキ!!」
突進気味に抱き付きに来たジョセフィーヌを緊急回避すると、ジャキッと水晶龍の盾が出現した。
「んもう! 盾を出してまで警戒することないじゃないの!」
「い、いや、これは盾が勝手に……」
「ふふふっ、でも、それ、たしかにすっごく楽しそう!」
ミヤザワくんがそう言った後、ぐえっ、と変な音が聞こえた。
「……ミヤザワくん、今、ちょっとエグい感じのおならした?」
「し、してないよ!!」
「じゃ、ゲップした?」
「し、してないけど……、ああ、こいつかな?」
ミヤザワくんが身体をずらすと、ミヤザワくんの後ろでちょこんと座った大きなトカゲがこっちを見ていた。
「ぐえぐえ」
「う、うわっ、なんだこいつ……」
花京院がびっくりしてトカゲに近付くと、トカゲの口から強烈な炎が噴き出した。
ブォワァァァァァッ!!!
「うわああああああっ!!!」
びっくりして後ずさった花京院の顔のすぐ近くを、極太の火柱がかすめていった。
「あ、あちっ、あちぃっ!! オ、オレのもみあげが燃えちまった!!」
「い、いったいなんですの?!」
「今のは炎の息だ……。それによく見ると翼がある……、もしや……」
驚くアーデルハイドに、オールバックくんが説明する。
「ほ、ほら、前に士官学校の魔法宝物庫からそれぞれにアイテムを授与された日のこと、覚えてるかな?」
「うん……なるべく思い出したくないけどね……」
みんなが様々な魔法武器や宝具のようなものを貰っている中、僕が渡されたのは、ただの竹の扇子だった。
ふざけているとしか思えない。
しかも、メルに粉々に叩き潰されてしまった。
「へへ、まつおさんの扇子を中庭に埋めて、墓を作ったのオレなんだぜ?」
花京院が得意げに言った。
中庭の片隅にあるイチイの樹の下に「まつおさんのせんすのおはか」って書いた板が立っている。
どうせボイド教官やロドリゲス教官あたりが見つけて撤去されるだろうと思ってそのままにしていたら、ボイド教官が「風情があっていい」という謎の評価で、周りに石を並べてかわいい飾り付けまでしてしまったのだ。
おかげで、今では士官学校の生徒がふざけてお花を添えたりして、僕のからかいの種になっている。
「それで、魔法宝物庫がどうかしたの?」
「あの時に僕がもらった幻獣がこいつなんだけど……。ちょっと前になつくようになって、いつでも呼び出せるようになったんだ」
「ええっ?! あ、あのかわいい幼竜みたいだったのが、こんなおデブさんになっちゃったの?」
「ぐえぐえ」
ミヤザワくんの足元が心地よいのか、靴の上にアゴを乗せた、大きなデブトカゲ……に見えるドラゴンの幻獣。
「何を食べさせたらいいかわからなくて、あげてみたらなんでも食べるから……。もぐもぐ食べるのがかわいくて、毎日あげてたらこんな感じに……。はは。でも、かわいいでしょ?」
「か、かわいい……かな、うん。たしかに、味があるというか、見ようによってはかわいいかも」
「あらぁ、ワタシはスキよぉ。きっといつかイケメンになるわよー、このコ!」
「そうね、300年もすれば、立派なドラゴンに育つでしょうねー」
ジョセフィーヌとミスティ先輩は気に入ったのか、しゃがみこんで大きなトカゲのようなドラゴンの頭を撫でた。
「ぐえ」
「でも、コイツ、全然ドラゴンに見えないぜ? 実はトカゲだったってオチなんじゃ……うわわわっ!!!」
ブォワァァァァァッ!!!
いらんことを言う花京院に、また強烈な火炎ブレスが飛んできた。
「お名前はなんというのかしら?」
近づこうとはしないながらも興味はあるらしく、アーデルハイドがミヤザワくんに尋ねた。
「うん、まつおさんに決めてもらおうかなと思って、まだ決めてないんだ」
「え、僕?」
「うん。この子の名付け親になってくれない?」
「いいけど……、本当にいいの?」
「やめといた方がいいんじゃないか? どうせまつおさんのことだから、『ウンコ』みたいな名前にされると思うぞ」
「あのねぇ、僕をなんだと思ってるんだ……」
僕は大きなトカゲのようなドラゴンにしゃがんで、顔を近づけた。
「ねぇー、花京院はひどいこと言うよねー。あいつのケツ、いつでも燃やしちゃっていいからねー」
「ぐえぐえ」
「うわ、こいつ、今マジでオレの顔を見ながら返事しやがった!」
花京院がうろたえた。
「うん、たしかによく見たらかわいい顔をしてるなぁ……、お腹もぽちゃぽちゃしてて、かわいい」
「ぐえー、ぐえー」
お腹をなでられるのが気持ちいいのか、僕の手にぎゅううっと体重を預けてきた。
……かなり重い。
「よし、決めました!」
僕は立ち上がって、宣言する。
「ブッチャー。今日からお前はブッチャーだ!!」
「ブ、ブッチャー……」
ドン引きしたように、アーデルハイドがつぶやいた。
ミスティ先輩と花京院が顔を隠して必死に笑いをこらえている。
「ブッチャー……ふふっ、いい名前かも」
「ミ、ミヤザワ君、本当にそれでいいのか? もっとこう、マクシミリアンとかだな……」
ヴェンツェルの言葉に、ミヤザワくんがにこにこして首を振った。
というか、ヴェンツェルのネーミングセンスもどうかと思う。
「おいで、ブッチャー」
「ぐえ」
ブッチャーはちゃんと返事をして、ミヤザワくんの足元にすり寄った。
「そうそう! あのね、こう見えて、こいつ、ちゃんと飛べるんだよ」
「「「「「「「え?」」」」」」」
ミヤザワくんの言葉に、僕らは思わず声を出した。
「ほら、ブッチャー、飛んでごらん、せぇのっ!!」
「ぐえぐえ」
ブッチャーは、ミヤザワくんに言われて、少しめんどくさそうにしながら、のっそりと翼を伸ばした。
「ぐえっ、ぐえっ」
うわ……、ひっく……。
おっそ……。
翼に対して身体が重すぎるのか、ブッチャーは地面すれすれの超超超低空飛行で、歩くよりも遅い速度で移動した。
「か、かわいい……」
ミスティ先輩がつぶやく。
……たしかに、翼をぱたぱたさせて、激重の身体を浮かせるブッチャーは、なんともいえない愛くるしさがあった。
「ミヤザワくん。パレードにさ、ダイエットも兼ねて、こいつも参加させたらどうかな?」
「え、いいの?! おもしろそう!!」
……決まりだな。
「アーデルハイド、楽しみにしててね。きっと君が子供の頃の気持ちに戻れるような、楽しいお祭りにしてみせるから」
「え、ええ……」
戸惑いながらも、少し頬を赤くしてアーデルハイドが言った。
「しかしベル……、僕たちは迷宮に入らなくていいのだろうか……」
隣でジョセフィーヌがものすごい集中力で候補者リストを作り始めているのを見ながら、ヴェンツェルが言った。
「入る入る。もちろん入るよ」
僕はヴェンツェルに答えた。
「でも、冒険者の数がまだまだ足りない」
「足りない? 冒険者達が二時間待ちしているのに?」
ミスティ先輩が尋ねた。
「先輩、たぶんそれは今だけだよ。今は始まったばかりだから一気に集まっているけど、負傷したり、補給で戻ってくる冒険者、翌日以降に備えて休む冒険者が出てくると、時間帯によってはまばらになって、手薄になる可能性がある」
「手薄になれば、それだけ迷宮探索の危険性が増す……」
ミスティ先輩の言葉に、僕はうなずいた。
「だから、朝も夜も行列ができるぐらいの状態を続けるためにも、もっともっと盛り上げていかないとね」
そう答えながら、僕は頭の中で、まったく別のことを考えていた。
「黒バラのミスティ丼」は観光名物としてアリなんじゃないか……。
ギュンターさんの山葵を乗っけて、黒毛丘バッファローのバラ肉を、薔薇のように美しく並べて……。
ぐ~、ぎゅるるる~。
「おなかすいてきちゃった」
「……あのね、私の顔を見てお腹を鳴らさないでくれる?」
ミスティ先輩にほっぺをつねられながら、僕はベルゲングリューンランドの構想が自分の中でどんどん広がっていくのを感じていた。
爆笑王のベルゲングリューンランド。
……悪くないよね。
最初は恥ずかしさと情けなさしか感じなかった称号だったけど、カーニバルでみんながウキウキして、歩いている誰もが笑顔を浮かべているのを見ていると、なんだか少し、爆笑王という称号が自分にふさわしいものなのかも、と思えてくるのだった。
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アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
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以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
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