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「再会」
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「再会」
そこに「376」の数字と隊章が刺繍されたオリーブドラブのキャップに陸上自衛隊のマスコットキャラクターの「タクマ君(※注3)」と「ユウちゃん(※注4)」がプリントされたオリジナルTシャツ(※注5)を着たひとりの男性が熱心に特攻隊員の遺書一通一通にじっくり時間をかけて目を通している姿が目に入った。
ボランティアが戻ってくるまでに國江がもう一度「再来少尉」の遺書を読みたいと言うので、第20振武隊隊員の遺書が並ぶコーナーに再度足を運ぶと、國江が先に再来少尉の遺書を読み込んでいた男の横顔に「颯さん!」と声を掛けた。
男はいぶかしげに國江と邦に顔を向け、「はい…、すみませんがどちらさまでしたでしょうか?」と言って丁寧にキャップを取った。額にある髪の生え際の横一文字の赤い痣に邦は「はっ」とした。2年前の秋の記憶が鮮明に脳裏に甦った。
「すみません、私は「邂逅邦」、おばあちゃんは「國江」と言います。あの…、2年前の台風14号の時に三股の土砂崩れで私とおばあちゃんは陸上自衛隊の救助隊員さんに助けられたんですけど、その時の隊員さんじゃないですか?」
邦が自信なさげに尋ねると、男は邦と國江の顔を覗き込み納得をしたような表情を見せた後、俯き黙り込んだ。
「私の人違いでしょうか?勘違いだったらごめんなさい。あの状況で命を救ってもらったにもかかわらず命の恩人の顔をはっきりと覚えていないんですよ。申し訳ない話ですよね…。でも、そのおでこの痣に見覚えが…。」
と邦は頭を下げた。
「いや、あなたの記憶は正しいです。がけ崩れの家屋から救出された女性2名の事はよく覚えています。僕がその時の救助隊員です。」
と男は答えた。
「じゃあ、何を難しい顔をされてたんですか?」と邦が尋ね直すと男は少し時間を置いて言葉を選んで答え始めた。
「はい、あの時もおばあさまから「はやて」って呼ばれた記憶があるんですよね。ただ、災害救助の場では隊員は自ら名乗る事は隊規で禁止されてますし、ネームタグも外して出動してるんで僕の名を呼ばれた理由がわからなくて…。そして今日も「また」ですよね…。
まあいいか…。もうここは災害現場じゃないですもんね。改めまして「ご無沙汰いたしました」。陸上自衛隊都城駐屯地の「輪根颯」曹長です。入隊4年目の22歳です。あの時は初の「災害救助出動」でした。残念ながら、1名の方の命は救う事はできませんでしたが、今日こうしておふたりの元気なお顔を見られたことは率直にうれしいです。自衛隊員になって皆さんの命を守る事ができて本当に良かったと心底から思い直しました。」
命の恩人の屈託のない笑顔に邦は一瞬「ドキッ」とときめき、國江はやさしく微笑みを颯に向けた。そこに語り部のボランティア男性が戻って来た。颯が隣にいるも、仲良く話している様子を見て家族と思ったのか気にせず調べてきたことを書き込んだメモを見ながら説明に入った。
再来颯少尉が所属した第20振武隊は、大阪の現在の八尾空港の場所にあった旧日本陸軍航空隊の「大正陸軍飛行場(※6)」から昭和20年3月16日に「大分海軍航空隊基地」に艦船攻撃訓練の為に進出し、3月23日に山口県の「防府飛行場」に移動し、25日に「都城西飛行場」に立ち寄り、27日に「知覧基地」にやって来たという事だった。
「都城基地には3日間滞在していた事が分かりました。もしかするとおばあさまは、その時に再来少尉とお会いされたのかもしれませんね。」と優しく語りかけてくれたが國江の表情は曇った。
語り部の男は、4月1日、2日、12日の第20振武隊の戦果広報の写しも確認してきてくれていたようで「「再来颯少尉」は愛機の「四式戦」で4月2日に敵輸送船に大損害を与えたと大本営の発表も米軍作戦年史の記録にもありました。」と話すボランティアの言葉に國江は残念そうに俯き、言葉が出なかった。
國江に代わって邦がボランティアの語り部に尋ねた。「おばあちゃん、昭和20年3月の大阪空襲で焼け出されちゃって、3月31日に大阪を出て、4月1日に都城の親戚の所に疎開してきたんですよ。だから、3月25日から27日の間に出会うって事は考えられないんですよ。他におばあちゃんが再来颯少尉に会う可能性って考えられませんか?」
語り部は腕を組んで天井を仰ぎ、申し訳なさそうに答えた。
「うーん、おばあさんが知覧に来たというのであれば考えられますけど、陸軍の記録上25日から27日に都城に居たのは間違いないと思われますが、出撃記録と戦果記録からすると4月2日には再来少尉は徳之島から出撃して名誉の戦死をなされてますのでお会いしていたというのは何かの記憶違いではないでしょうか…。」
沈黙の時間が流れた。いたたまれなくなった颯が國江に声をかけた。
「自衛隊の旧軍の歴史データベースにコンタクトを取ればより詳しい資料も見つかるかもしれませんのでこの件は僕に預けてもらえませんか。偶然にも僕と同じ名前というのも何かの縁を感じますし、自衛隊員の僕としては歴史上の「先輩」になる訳ですから邂逅さんのお気持ちが少しでも晴れるようにお手伝いさせてもらいますよ。戦中の混乱期の中での話ですのでなにもこの場で「結論」を出す必要もないでしょう。この後、お時間があるようでしたら、詳しくお話を聞かせてください。」
優しい颯の言葉に邦は「よろしくお願いします。おばあちゃん、96(歳)になりますけど頭はしっかりしてるんです。昔の事もよく覚えています。家に戻れば昭和20年5月に撮ったっていう再来少尉との写真もあります。無理のない範囲で調べていただけると助かります。」と丁寧に110度のお辞儀をした。
颯は「そんなに頭を下げてもらう必要はないですよ。困っている国民が居れば、それを助けるのが私たち自衛隊員ですから。今日のこの後のご予定はどうなってるんですか?」と尋ねた。
「この後は、「三角兵舎跡」と「ホタル館富屋食堂」を見学して車で都城に帰る予定です。颯さんはここまでお車ですか?」
と邦は答えると、颯はバスと電車で来たという。「じゃあ、帰りはうちの車で一緒に帰りましょうよ。」と誘うと「ご迷惑でなければ…。」と気を遣う颯の袖を國江が掴み「ご一緒してね。」と微笑むと素直に「では、そうさせてください。この後の訪問先は行ったことがありますのでご案内させてもらいます。」と申し出を受け入れた。
そこからは颯が國江の車いすを押し、その横に邦が付いた。遺影と遺書・遺品の展示を一通り見終わると、その部屋に展示されている特攻で多く使われた陸軍を代表する戦闘機の「一式戦隼」について解説してくれた。昨晩、映画のDVDで見た全長8.92メートルの「隼」の実機は邦には思ったより小さく感じた。
「颯さん、この飛行機が突っ込んでいった「戦艦」ってどれくらいの大きさなん?」
邦が尋ねると、颯は難しい顔をして答えた。
「終戦時、沖縄に来ていた最新型のアイオワ級のアメリカの戦艦は全長で270メートルありました。日本の戦艦大和より7メートル長いですね。旧式の戦艦でも220メートルありますし、エセックス級の正規空母は270メートル、カサブランカ級の護衛空母でも156メートルです。
スケール的なサイズ感だけで話すと、歩兵が戦車に突っ込んでいくより相手はでかいわけですからそれは恐ろしいですよね。それをやってのけた当時の帝国軍人パイロットの精神力には感服します。」
と説明すると、隼戦闘機に向かって黙礼した。
隣の部屋に移動すると、先ほど見たばかりの「隼」より一回り大きな「四式戦」が展示されていた。
「こちらは、「四式戦疾風」です。僕の名と同じ読みになりますがこちらは「しっぷう」とかいて「はやて」と読みます。旧帝国陸軍では「大東亜決戦機」と呼ばれる「重戦闘機」です。軽戦闘機の「隼」より全長は長くて9.74メートルです。
それにしても「戦艦」や「空母」と比べたら、象対烏ってなもんですけどね。量産開始が昭和19年4月と言う事で、材料部材や燃料等の輸入が厳しくなってからの登場だったので設計通りの性能を出すのは難しかったようです…。本来の性能が出せればもっと戦果を残してもおかしくない機体だったんですけどね。」
少し悔しそうに説明を行う颯を見て(やっぱり自分の名前と同じ飛行機って事でちょっと感情移入してはるんかな?)と邦は思った。
最後の展示室には、小型のボートが展示されていた。後部の操縦席に2名の兵士像が乗っていた。
「颯さん、これ何?鉄砲も何もついてへんけどモーターボート?」と尋ねる邦に颯は顔をしかめた。(あれ、変なこと聞いてしもたかな?)と不安な表情を見せると、それに気付いた颯は歪んだ作り笑顔を見せた。
「あ、邦さんが悪いわけじゃないですよ。変な顔をしてしまってすみません。これは海軍の特攻艇で「震洋5型」です。この震洋は全長6.5メートルの船体に250キロの爆薬を積んで時速50キロで敵船に突っ込むんですよ。
今の自衛隊では考えられない作戦ですよね。不謹慎な言い方になりますが「航空特攻」は約4000人の命を懸けて、米軍発表で沈没100隻、損傷386隻、死者2491名を含む死傷者4324名以上とかなりの結果を上げることができました。しかしこの震洋は2500人の命と引き換えに4隻の敵船に損害を与えただけなんです…。1門あたり1分間に500発以上で時速に直すと約3200キロで向かってくる銃弾の中、時速50キロで海面の上を航行せざるを得ない搭乗員の無念を考えると…。」
言葉が途切れた颯の頬に一筋の涙が流れ、國江は「颯さんはやさしいね…。よかったらこれ使ってね。」とハンカチを差し出した。
(※注3) 「陸BOYタクマくん」という陸上自衛隊の男の子のイメージキャラクター。
「ゲームとパソコンが好きなインドア派」とか「お酒は控えめ、お豆腐が大好物でヘルシー志向」、「ヒップホップやアクション映画が好き」というキャラ付けがされている。
モットーは「無茶をしない事」とのこと。
(※注4) 「陸GIRLユウちゃん」という陸上自衛隊の女の子のイメージキャラクター。
「生まれつきの赤毛」、「リーダー気質でみんなから頼られる人気者」、「キャンプや剣道などアクティブな活動が得意」、「こぶしをきかせた演歌の熱唱はファンがいるほどの腕前」というキャラ付け。
ヘルメットに付けた大きな赤い花が可愛い!
(※注5) 残念ながら「公式グッズ」としては存在していない。
あったら「欲しい」一品。
(※注6) 現在の八尾空港であり陸上自衛隊「八尾駐屯地」で「第5対戦車ヘリコプター隊」、「中部方面ヘリコプター隊」の基地になっている。
元々「中河内郡大正村」の農地を埋め立て、阪神飛行学校の民間パイロット養成所としてスタートで「大正時代にできたから」、「元は現在の大正区にあったが移転した」という説は間違いの様である。
昭和15年に陸軍に移譲され「大正陸軍飛行場」に変名。昭和16年に敷地面積が約6倍に拡張され、昭和19年7月には京阪神防空の為に編成された陸軍第11飛行師団が設置され、二式単戦「鍾馗」、四式戦「疾風」等、「重戦闘機」装備の飛行第246戦隊が置かれた。
そこに「376」の数字と隊章が刺繍されたオリーブドラブのキャップに陸上自衛隊のマスコットキャラクターの「タクマ君(※注3)」と「ユウちゃん(※注4)」がプリントされたオリジナルTシャツ(※注5)を着たひとりの男性が熱心に特攻隊員の遺書一通一通にじっくり時間をかけて目を通している姿が目に入った。
ボランティアが戻ってくるまでに國江がもう一度「再来少尉」の遺書を読みたいと言うので、第20振武隊隊員の遺書が並ぶコーナーに再度足を運ぶと、國江が先に再来少尉の遺書を読み込んでいた男の横顔に「颯さん!」と声を掛けた。
男はいぶかしげに國江と邦に顔を向け、「はい…、すみませんがどちらさまでしたでしょうか?」と言って丁寧にキャップを取った。額にある髪の生え際の横一文字の赤い痣に邦は「はっ」とした。2年前の秋の記憶が鮮明に脳裏に甦った。
「すみません、私は「邂逅邦」、おばあちゃんは「國江」と言います。あの…、2年前の台風14号の時に三股の土砂崩れで私とおばあちゃんは陸上自衛隊の救助隊員さんに助けられたんですけど、その時の隊員さんじゃないですか?」
邦が自信なさげに尋ねると、男は邦と國江の顔を覗き込み納得をしたような表情を見せた後、俯き黙り込んだ。
「私の人違いでしょうか?勘違いだったらごめんなさい。あの状況で命を救ってもらったにもかかわらず命の恩人の顔をはっきりと覚えていないんですよ。申し訳ない話ですよね…。でも、そのおでこの痣に見覚えが…。」
と邦は頭を下げた。
「いや、あなたの記憶は正しいです。がけ崩れの家屋から救出された女性2名の事はよく覚えています。僕がその時の救助隊員です。」
と男は答えた。
「じゃあ、何を難しい顔をされてたんですか?」と邦が尋ね直すと男は少し時間を置いて言葉を選んで答え始めた。
「はい、あの時もおばあさまから「はやて」って呼ばれた記憶があるんですよね。ただ、災害救助の場では隊員は自ら名乗る事は隊規で禁止されてますし、ネームタグも外して出動してるんで僕の名を呼ばれた理由がわからなくて…。そして今日も「また」ですよね…。
まあいいか…。もうここは災害現場じゃないですもんね。改めまして「ご無沙汰いたしました」。陸上自衛隊都城駐屯地の「輪根颯」曹長です。入隊4年目の22歳です。あの時は初の「災害救助出動」でした。残念ながら、1名の方の命は救う事はできませんでしたが、今日こうしておふたりの元気なお顔を見られたことは率直にうれしいです。自衛隊員になって皆さんの命を守る事ができて本当に良かったと心底から思い直しました。」
命の恩人の屈託のない笑顔に邦は一瞬「ドキッ」とときめき、國江はやさしく微笑みを颯に向けた。そこに語り部のボランティア男性が戻って来た。颯が隣にいるも、仲良く話している様子を見て家族と思ったのか気にせず調べてきたことを書き込んだメモを見ながら説明に入った。
再来颯少尉が所属した第20振武隊は、大阪の現在の八尾空港の場所にあった旧日本陸軍航空隊の「大正陸軍飛行場(※6)」から昭和20年3月16日に「大分海軍航空隊基地」に艦船攻撃訓練の為に進出し、3月23日に山口県の「防府飛行場」に移動し、25日に「都城西飛行場」に立ち寄り、27日に「知覧基地」にやって来たという事だった。
「都城基地には3日間滞在していた事が分かりました。もしかするとおばあさまは、その時に再来少尉とお会いされたのかもしれませんね。」と優しく語りかけてくれたが國江の表情は曇った。
語り部の男は、4月1日、2日、12日の第20振武隊の戦果広報の写しも確認してきてくれていたようで「「再来颯少尉」は愛機の「四式戦」で4月2日に敵輸送船に大損害を与えたと大本営の発表も米軍作戦年史の記録にもありました。」と話すボランティアの言葉に國江は残念そうに俯き、言葉が出なかった。
國江に代わって邦がボランティアの語り部に尋ねた。「おばあちゃん、昭和20年3月の大阪空襲で焼け出されちゃって、3月31日に大阪を出て、4月1日に都城の親戚の所に疎開してきたんですよ。だから、3月25日から27日の間に出会うって事は考えられないんですよ。他におばあちゃんが再来颯少尉に会う可能性って考えられませんか?」
語り部は腕を組んで天井を仰ぎ、申し訳なさそうに答えた。
「うーん、おばあさんが知覧に来たというのであれば考えられますけど、陸軍の記録上25日から27日に都城に居たのは間違いないと思われますが、出撃記録と戦果記録からすると4月2日には再来少尉は徳之島から出撃して名誉の戦死をなされてますのでお会いしていたというのは何かの記憶違いではないでしょうか…。」
沈黙の時間が流れた。いたたまれなくなった颯が國江に声をかけた。
「自衛隊の旧軍の歴史データベースにコンタクトを取ればより詳しい資料も見つかるかもしれませんのでこの件は僕に預けてもらえませんか。偶然にも僕と同じ名前というのも何かの縁を感じますし、自衛隊員の僕としては歴史上の「先輩」になる訳ですから邂逅さんのお気持ちが少しでも晴れるようにお手伝いさせてもらいますよ。戦中の混乱期の中での話ですのでなにもこの場で「結論」を出す必要もないでしょう。この後、お時間があるようでしたら、詳しくお話を聞かせてください。」
優しい颯の言葉に邦は「よろしくお願いします。おばあちゃん、96(歳)になりますけど頭はしっかりしてるんです。昔の事もよく覚えています。家に戻れば昭和20年5月に撮ったっていう再来少尉との写真もあります。無理のない範囲で調べていただけると助かります。」と丁寧に110度のお辞儀をした。
颯は「そんなに頭を下げてもらう必要はないですよ。困っている国民が居れば、それを助けるのが私たち自衛隊員ですから。今日のこの後のご予定はどうなってるんですか?」と尋ねた。
「この後は、「三角兵舎跡」と「ホタル館富屋食堂」を見学して車で都城に帰る予定です。颯さんはここまでお車ですか?」
と邦は答えると、颯はバスと電車で来たという。「じゃあ、帰りはうちの車で一緒に帰りましょうよ。」と誘うと「ご迷惑でなければ…。」と気を遣う颯の袖を國江が掴み「ご一緒してね。」と微笑むと素直に「では、そうさせてください。この後の訪問先は行ったことがありますのでご案内させてもらいます。」と申し出を受け入れた。
そこからは颯が國江の車いすを押し、その横に邦が付いた。遺影と遺書・遺品の展示を一通り見終わると、その部屋に展示されている特攻で多く使われた陸軍を代表する戦闘機の「一式戦隼」について解説してくれた。昨晩、映画のDVDで見た全長8.92メートルの「隼」の実機は邦には思ったより小さく感じた。
「颯さん、この飛行機が突っ込んでいった「戦艦」ってどれくらいの大きさなん?」
邦が尋ねると、颯は難しい顔をして答えた。
「終戦時、沖縄に来ていた最新型のアイオワ級のアメリカの戦艦は全長で270メートルありました。日本の戦艦大和より7メートル長いですね。旧式の戦艦でも220メートルありますし、エセックス級の正規空母は270メートル、カサブランカ級の護衛空母でも156メートルです。
スケール的なサイズ感だけで話すと、歩兵が戦車に突っ込んでいくより相手はでかいわけですからそれは恐ろしいですよね。それをやってのけた当時の帝国軍人パイロットの精神力には感服します。」
と説明すると、隼戦闘機に向かって黙礼した。
隣の部屋に移動すると、先ほど見たばかりの「隼」より一回り大きな「四式戦」が展示されていた。
「こちらは、「四式戦疾風」です。僕の名と同じ読みになりますがこちらは「しっぷう」とかいて「はやて」と読みます。旧帝国陸軍では「大東亜決戦機」と呼ばれる「重戦闘機」です。軽戦闘機の「隼」より全長は長くて9.74メートルです。
それにしても「戦艦」や「空母」と比べたら、象対烏ってなもんですけどね。量産開始が昭和19年4月と言う事で、材料部材や燃料等の輸入が厳しくなってからの登場だったので設計通りの性能を出すのは難しかったようです…。本来の性能が出せればもっと戦果を残してもおかしくない機体だったんですけどね。」
少し悔しそうに説明を行う颯を見て(やっぱり自分の名前と同じ飛行機って事でちょっと感情移入してはるんかな?)と邦は思った。
最後の展示室には、小型のボートが展示されていた。後部の操縦席に2名の兵士像が乗っていた。
「颯さん、これ何?鉄砲も何もついてへんけどモーターボート?」と尋ねる邦に颯は顔をしかめた。(あれ、変なこと聞いてしもたかな?)と不安な表情を見せると、それに気付いた颯は歪んだ作り笑顔を見せた。
「あ、邦さんが悪いわけじゃないですよ。変な顔をしてしまってすみません。これは海軍の特攻艇で「震洋5型」です。この震洋は全長6.5メートルの船体に250キロの爆薬を積んで時速50キロで敵船に突っ込むんですよ。
今の自衛隊では考えられない作戦ですよね。不謹慎な言い方になりますが「航空特攻」は約4000人の命を懸けて、米軍発表で沈没100隻、損傷386隻、死者2491名を含む死傷者4324名以上とかなりの結果を上げることができました。しかしこの震洋は2500人の命と引き換えに4隻の敵船に損害を与えただけなんです…。1門あたり1分間に500発以上で時速に直すと約3200キロで向かってくる銃弾の中、時速50キロで海面の上を航行せざるを得ない搭乗員の無念を考えると…。」
言葉が途切れた颯の頬に一筋の涙が流れ、國江は「颯さんはやさしいね…。よかったらこれ使ってね。」とハンカチを差し出した。
(※注3) 「陸BOYタクマくん」という陸上自衛隊の男の子のイメージキャラクター。
「ゲームとパソコンが好きなインドア派」とか「お酒は控えめ、お豆腐が大好物でヘルシー志向」、「ヒップホップやアクション映画が好き」というキャラ付けがされている。
モットーは「無茶をしない事」とのこと。
(※注4) 「陸GIRLユウちゃん」という陸上自衛隊の女の子のイメージキャラクター。
「生まれつきの赤毛」、「リーダー気質でみんなから頼られる人気者」、「キャンプや剣道などアクティブな活動が得意」、「こぶしをきかせた演歌の熱唱はファンがいるほどの腕前」というキャラ付け。
ヘルメットに付けた大きな赤い花が可愛い!
(※注5) 残念ながら「公式グッズ」としては存在していない。
あったら「欲しい」一品。
(※注6) 現在の八尾空港であり陸上自衛隊「八尾駐屯地」で「第5対戦車ヘリコプター隊」、「中部方面ヘリコプター隊」の基地になっている。
元々「中河内郡大正村」の農地を埋め立て、阪神飛行学校の民間パイロット養成所としてスタートで「大正時代にできたから」、「元は現在の大正区にあったが移転した」という説は間違いの様である。
昭和15年に陸軍に移譲され「大正陸軍飛行場」に変名。昭和16年に敷地面積が約6倍に拡張され、昭和19年7月には京阪神防空の為に編成された陸軍第11飛行師団が設置され、二式単戦「鍾馗」、四式戦「疾風」等、「重戦闘機」装備の飛行第246戦隊が置かれた。
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