【完結】『８０年を超越した恋～令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

「夢の映像化」

「夢の映像化」

　邦の入社からあっという間に３週間が過ぎた。コンビニでの棚への品並べや各種払い込み処理に加え、社員である邦には商品の受発注や本部への営業日報報告など、覚えることは山ほどあった。８時間のシフト勤務の後、１時間から２時間の業務処理の残業でへとへとになって家に帰る毎日が続いた。
　颯は先任下士官として、免許取得指導員の仕事に加え、春の新卒の新入隊員教育が加わり、邦同様に忙しい毎日を過ごしている。週に１、２度店で顔を合わせるのだが、悪夢は続いているという。前回、会った４月１日の夜には「遺書を書く夢」を見たと言い、２日には「空から海に落ちる夢」で目が覚めたという。
　１２日は「不条理に上司に殴られる夢」を見たのを最後に、寝汗で目が覚めるようなきつい夢はこの１週間は無いという事だった。１５日には「夢にセーラー服の邦ちゃんが出て来たよ。何を話したのかは全然覚えてへんねんけどね。」と笑顔を見せてくれたが（なぜ、セーラー服？私の学校はブレザーって話はしてたはずやったよな…。颯さんは「セーラー服派」なんやろか？）と思った。

　「ところでコレ私のシフト表やねんけど、平日で颯さんの休みと合うところあるかな？」と問いかけると、颯は手帳を取り出し「２５日の金曜日かな？何かあんの？」と尋ねなおした。
　邦は角２サイズの「防衛弘済会」の封筒から２枚の紙を取り出した。１枚はカラーのチラシでもう１枚はＰＰＣ用紙だった。
「ん、「原メンタルクリニック」？「心療内科専門医」って書いてあるけど何？もう1枚は「申告書（自認書）」って書いてあるけど、「睡眠」に関わるヒアリングシートみたいやな…。」
　颯が尋ねると、邦は真剣そのものの表情になって言った。
「１日に「夢見が悪くて…。」って話してくれたやん。弘済会に問い合わせたら「夢判断」、「夢診断」を最新機材でやってくれて、心の中まで相談にのってくれる精神科医が宮崎市内に居るって事で紹介を受けたんよ。
　悪夢による「睡眠障害」の原因を探れば、変な夢も見んようになるねんて。その専門医が宮崎にあるんやったら車で１時間の距離やねんからいっぺん行ってみいへんかなってね。
　弘済会の紹介やったら社員や自衛隊員の初回カウンセリングは無料みたいやねん。私もおばあちゃんの記憶について相談してみたいから一緒に行ってみようや。」

　（あぁ、おばあさんの事はあくまで「僕を誘う理由」で本気で僕のことを心配して探してくれたんやろな。ここまでやってくれて断る理由もないし、ここは邦ちゃんの厚意に甘えようか…。）颯は邦の心遣いに感謝して、２５日のメンタルクリニック訪問に同意した。
　その場で「申告書（自認書）」を記入すると店でチラシの裏表と併せてコピーを取ると邦に原本を渡した。邦はスマホで「原メンタルクリニック」の予約状況を確認すると午前診の最終枠の１１時半とその前の１１時枠が空いていたので２人の名で予約を入れた。受診申し込みページから必要事項を入力すると「備考欄」に「書き込むべきことがたくさんありすぎるために、「メール問い合わせフォーマット」に別途ＰＤＦファイルで送ります。」と入力フォームに打ち込み送信した。

　２５日午前９時半、邦は車で颯の住む自衛隊宿舎に向かった。「じゃあ、一応、うちのおばあちゃんの記憶の相談から先に始めさせてもらうわな。私の話が早く終わったらそのまま颯さんの診察に入れるように診察は同席してな。」と言う邦の気遣いに感謝しながら、今朝見た夢について話した。
　今朝は料理が並ぶ和室で自分を含めて５人で寄せ書きをする夢だったという。何を書いたかわからないが、マジックでなく「毛筆」で書いたという事だった。颯が言うには書き終わった寄せ書きは邦に渡したとの事だった。イメージの中で「７７４」という数字が頭に残っているという。
「うーん、それだけじゃ私は「プロ」やないからその夢が何を意味するんか分からへんな。まあ、オカティックな話になるけど、アメリカの「９１１」や東北の「３１１」の予知夢的なものを見た人の中にはその「数字」が強烈にイメージが出た人も居るっていう事やから何か意味があるんかもしれへんな。
「７７月」や「７４日」は存在せえへんから「令和７年７月４日」か「７月７日４時」を暗示してるとするならば何かの予知夢の可能性もあるわな。具体的な数字が出て来たっていうのは「夢の解読」に一歩前進かもしれへんな。それも含めて原先生に聞いてみようや。」
と邦は前向きに自分の意見を述べた。

　午前１０時半に「原メンタルクリニック」に到着し、受付嬢に初診の登録シートを渡され、ふたりで待合室で記入した。午前１０時半の患者の後は邦と颯しか予約は入っていないので広くはない待合室は無人だった。
　ふと邦の目が向いた先の、新聞や雑誌が並ぶ待合の患者向けのブックラックに、たくさんの付箋が本の上部からはみ出して貼られた「催眠による深層意識の可視化の最新研究」というタイトルの本があった。著者名が「原鉄也」となっていたので手に取ってみた。若くスマートな男の写真が１ページ目に「著者」として紹介されていた。前書きは難しく感じたので最初の付箋に飛んでみた。
「オープンＡＩ」社から２０２４年２月にリリースされた「初代Ｓｏｒａ」の後継機となる２０２５年の９月３０日に公開される予定の最新動画生成ＡＩ「Ｓｏｒａ２」の機能紹介から始まっていた。
　文字によるプロンプト入力をすると約３分で実写動画と変わらないレベルの３Ｄ動画に効果音やＢＧＭも生成できるという最新式のＡＩソフトについての解説がなされていた。

　次の付箋の章には発声された言葉を文字化できるＧＰＴによる対話型プロンプトメーカーの解説が実機名を挙げて解説されていた。（ん、いったい何が言いたいんやろか？まだ時間はあるからもう少し読んでみよか…。）とその次の付箋ページを繰った。
　（えっ、なんやこれ！一気に面白くなってきたで！）と瞬時に興味を引いたのは「ドリームギア」と言う商品とその装着実験の写真だった。
　中国のベンチャー企業「脳姫科技」社から「４５９９元（※約９５０００円）」で発売されている実在する商品での実験について書かれていた。
　中国では「絵夢儀」という名称で販売されている「ドリームギア」はヘッドギアにセットされた１０個の高感度センサーが脳内の血流や脳波の変化を捉え、生成ＡＩが夢を映像化するというものだった。

　次に続くページには同様に付箋が貼り付けられていて、中国の一流大学人材育成協力交流協議書を締結した「Ｃ９Ｌｅａｇｕｅ」と呼ばれるトップ９の大学のひとつ「浙江せっこう大学」の「ブレーン・マシン・インターフェイスＢＭＩ」と呼ばれる人間の脳と外部機器を接続する研究で脳疾患により筋肉が動かせなくなるという難病の「ＡＬＳ筋萎縮性側索硬化症」患者等の医療分野で研究が進んでいるという。
　その機能としてその機器による脳信号受信により、思い浮かべた常用漢字の画像表示の正答率は２０２５年時点で９６％に達しているという。

　次のページでそれらの４つの機材を組み合わせると、催眠術による夢の内容の「口頭論述」で夢の映像化が可能になるという研究成果が写真入りでわかりやすく解説されていた。
　研究の拡大用途として「記憶喪失患者」や重度の「ＰＴＳＤ患者」に「退行催眠」をかけ、心の障害になっている者を映像及び音声化する事でその心の障害を取り除くことができるというものだった。
　ページの後半には「これは余談であるが…、」の注記の後に、「退行催眠による「前世」の動画生成にも成功した。」という事が書かれていた。
「どひゃー、世の中の科学はここまで進んでるんやな！颯さん、この本読んでみてよ！この機械があれば颯さんの見続けてる謎の悪夢も解決するかもしれへんで！」
 

「おまけ」

※上2枚は昭和２０年の「國江」おばあちゃんです（ネタバレ）。

よろひこー！
(⋈◍＞◡＜◍)。✧💖