聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

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第二章

魔王の宝物庫

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 先頭を走っていたカナンが、通路の向こうに少年魔王が立っていることに気付いた。
 少年魔王は手招きしている。
 そして彼は無数にある扉のうちの1つへ入って行った。
 再び少年の顔がその扉から再びひょいっと出て、「こっちだ」と云っているように見えた。
 隣を走っていたアスタリスも魔王に気付いた。
 カナンは不審に思ったが、このまま先の見えない通路をやみくもに走ってもいつか追い付かれると考え、決断した。
 罠だとしても抜け出してやる、そんな気持ちが彼を行動させた。

「皆、私に続け!」

 カナンはそう叫んで、少年魔王が入っていった扉に飛び込んだ。
 皆、カナンに続いて開いたままの扉へと入って行った。

「カイザー、戻って!」

 私の叫びに答えたカイザーは、部屋に入る直前に遥か後方から黒い影となって私のネックレスに吸い込まれた。
 最後に部屋に入ったシトリーが扉を閉めると、扉自体が消えてしまった。
 部屋の中に入った全員はそれに驚き、何かの罠かと身構えた。
 その部屋は6畳間くらいの広さしかなく、全員が入ってぎゅうぎゅう詰めになっていた。
 その中央には少年魔王が立っている。

「魔王様、ご無事だったのですね!」
「ここは我の城だぞ。何を心配することがある?」

 ロアが言葉を掛けると、少年魔王は自信たっぷりに云った。

「しかし、ここは一体…?」

 カナンがきょろきょろと辺りを見回す。

「この城には我しか知らぬいろいろな仕掛けが施してあるのだ」
「さっきのスキルや魔法が使えない部屋もですか?」
「ああ、おまえたちは警戒の必要な者を通すための防犯用の来客室に通されたのだな。ホルスはおまえたちを罠にかけるためにあの部屋を使ったのだろう」

 なるほどね。それで隣に護衛とかSPを待機させる部屋がついてたのか。

「さっきホルスから魔王が次元ナントカに捕らえられたって聞いた気がするんだけど?」
「ああ、ダンタリアンが<次元牢獄>とかいうスキルを使ったようだったな」
「ようだったな…って」
「封印されているとはいえ、我は空間魔法が使えるのだぞ。あんな牢獄を破ることなぞ造作もないわ。そんなことも失念するほどあやつの目は曇っていたということだ」
「魔王様、空間魔法ってどんな魔法ですか?」

 訊いたのはアスタリスだった。

「異空間への干渉を可能にする魔法だ。空間を捻じ曲げてくっつけたり別の次元の空間へ出入りしたりできるのだ」
「す、すごいです!」

 魔王は人の気も知らないで、得意気にフフン、とか鼻を鳴らしている。

「もう…!心配したんだから」
「お前はもう少し我の力を信用しても良いと思うぞ?」

 少年魔王は、私の側にやってきて、私の手をぎゅっと握った。
 
「…魔王様、この部屋、出口がありませんが」

 ジュスターが魔王に尋ねた。

「安心しろ。今この部屋は移動する箱になっているだけだ」
「移動する箱?それってエレベーターってこと?」
「ふむ、驚いたな。おまえはこの仕掛けを知っているのか?」
「知っているっていうか、人を乗せて別のフロアに移動するっていったらそれしかないから…」
「よくわからんが、おまえの言う通り、この部屋は今、別の場所に移動しているのだ。目的地についたら扉が現れる仕組みだ」
「目的地って?」
「宝物庫だ」

 しばらくそうしていると、なにもなかった部屋の壁に突然扉が現れた。

「着いたぞ」

 宝物庫へは、魔王の魔力に反応して動くこのエレベーターでしか行けないようになってるという。
 そりゃ泥棒も盗めないわけだわ。
 現れた扉から外に出てみると、そこは先ほどまでの通路ではなく、真っ暗な空間だった。
 魔王は、私の手を握ったまま、暗闇の中を歩いていく。
 少し目が慣れてくると、両脇に魔物の像が置かれているのがわかった。
 なんかテーマパークのアトラクションに入ったみたいな気持ちになった。

 魔王が立ち止まって、何かぶつぶつと唱えると、何もない空間に巨大な扉が現れた。
 彼が手で触れると、扉は重そうな音を立てて開いた。
 ますますテーマパークっぽくなってきた。

 扉の中に入ると、そこには美術館みたいな空間が広がっていた。
 透明なケースが壁に沿って置かれており、その中には様々な武器や装備、アクセサリーなどが展示されている。
 騎士団員たちは目を輝かせてそれらを見て回りだした。

「どうだ、見事なものだろう?我が作った自慢の品々だ」
「まるで美術館ね…って、ええ!?これ自作!?」

 これらの武器や装備は、魔王が長い年月を生きている間、暇つぶしに自分で製作したのだという。
 そこいらのS級鍛冶職人には負けん、などと云っている。
 わざわざこんな展示ケースに入れてるって、なかなかのマニアよねえ。

 団員たちは1つ1つ興味深そうに見ている。
 更に歩いていくと、奥は武器庫になっていた。
 壁に沿って、槍や剣、鉄扇、斧、暗器など多種多様な得物が飾られていた。
 西洋っぽい剣や日本刀、中東世界の曲刀など、世界観もバラバラで、まるで武具の博物館だ。

「ここにあるものなら何でも持って行って構わないぞ」
「ええっ!?本当ですか!?」

 団員たちは歓声を上げた。
 彼らは思い思いに武器を吟味し、手に取った。

 ロアはエメラルドグリーンの宝石のついた弓を手にし、ジュスターは柄にアクアマリンの宝石がはめ込まれた長刀を選んだ。皆、それぞれの属性にあった武器を選んだようだ。
 たしか、宝石のついた武器は高価なんだって云ってた気がするけど、さすが魔王、太っ腹だなあ。

「おまえにはこれをやる」

 魔王が私に手渡したのは扇子だった。

「あ!扇子じゃない!どうしたのこれ?」
「昔、召喚された人間と知り合う機会があってな。その者が持っていたものを真似して作ってみたのだ」
「へえ…」

 それは長さ30センチくらいの奇麗な扇子だった。
 要の部分にはまってる白く輝く宝石は…ダイヤかな?
 私は扇子を広げてみた。ちょうど顔が隠れるくらいの大きさだ。
 扇面の部分には和紙ではなく白い布が張ってある。
 その布には日本画のようなタッチで花と鳥の絵が描いてあった。

「試しに聖属性に対応している宝石を使ってみたのだが、我には使いこなせぬのだ」
「ねえ、この扇子の絵ってゼルくんが描いたの?」
「書き写しただけだ。たしか、ソータツ、とかいう有名な絵師が描いた絵だとかで良い物らしいから、なるべくそのままの形で再現したかったのだ」
「へえ、案外上手じゃない。絵も上手いなんてすごいわ」
「そ、そうか?」

 魔王は照れたようにはにかんだ。
 魔族って文字は書けなくても絵は描けるのね。
 とっても上手だわ。
 これの元の扇子を持っていた召喚された人って、もしかして江戸時代の人だったのかな?
 こんな立派な扇子、見たことない。博物館に展示されるレベルだ。

「ダイヤモンドって聖属性の石だったんだね」
「ああ、この世界でも貴重な石だ。それは持っているだけでおまえの魔力を増幅してくれるはずだ」

 確かに、扇子を手にしていると、力がみなぎって来る気がする。

 そういう魔王も体に釣り合わないほどの大きく立派な杖を持っていた。
 杖というより錫杖というべきもので、その上部には大きな七色に輝く宝石が乗っていた。
 この宝石はすべての属性を魔法で組み合わせて作った魔王オリジナルの宝石だそうだ。

「こんなおっきいの、持って歩くの大変じゃない?」
「心配無用だ」

 そう云うと、魔王の杖はあっという間に彼の掌に吸い込まれて消えた。

「消えた!?」と驚いているうちに、再び彼の手に杖が出現した。
「我の創った武器は自分のマギを武器に送り込むことで、自身の専用武器にできる。そうすると任意でマギ化できるのだ。便利だろう?」

 魔王の言葉を他の団員たちも聞いていたようで、皆、持っている武器を出したり閉まったりし始めた。
 その様子を見て、私はジュスターの<衣服創造・装着>スキルを思い出した。

「なんだかジュスターのスキルみたいね」
「あれとは全然違うぞ!この武器は加工前の鉱物に我の魔力を練り込んでちゃんと火入れから苦労して創り上げたものなのだ。それをマギ化させられる技術はこの世で我にしかできぬことなんだぞ?」

 なんだかものすごく力説された。
 アナログと3Dプリンターの違い、ってとこかな?
 たしかに服と違って武器は威力と耐久力が重要だものね。
 彼は、すべて一点ものの武器だから二度と同じものはできないのだと自慢していた。
 ちなみに私の扇子も、他の団員たち同様に、自分のマギの中にしまうことができた。
 これなら持ち運びに便利だし、無くす心配もないわね。

「魔王様」

 私と魔王の会話に割って入ってきたのはジュスターだった。

「皆ありがたく武器をいただきました。今まで以上に働いて御覧にいれます」
「よく言った。では裏切り者を血祭りにあげるとするか」

 魔王の激に団員たちは「オー!」と声を上げた。

「血祭りとかぶっそうね…」
「止めるか?」
「いいんじゃない?あなたもダンタリアンには一発かましてやりたいでしょ?」
「無論だ」
「私たちもスキルを封じられた状態で襲撃を受けたのよ?一回ぶっ飛ばしてやんないと気が済まないわ」
「おまえにしては過激なことを言うではないか」
「ちょっと頭に来てるのよ。たぶん、あいつら魔王を捕らえたって得意になってるわよ。自分の野望に酔いしれてるような奴は、一回鼻をへし折ってやった方がいいのよ」

 私は片手で自分の拳をパン!と受けて鳴らした。

「…お前を怒らせるのはやめておこう…」

 魔王はボソッと呟いた。

「ん?何か言った?」
「いや、では皆、用意は良いか?」

 魔王の声に、ロアをはじめ、騎士団のメンバーは「はい!」と返事をした。
 魔王は宝物庫の床に自分の手をかざし、魔法紋から大きな魔法陣を投影した。

「皆、魔法陣の中に入れ。城の入口まで一気に飛ぶぞ」
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