聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

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第六章

勇者の記憶

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 その魔族は魔大公エウリノームと名乗った。

 実は、私たちが魔王軍との戦いに投入された頃から、アロイスはこの魔族と通じていたという。
 私は知らなかったが、エウリノームは魔王の側近で、戦いの最前線で自軍の指揮を執っていた大物魔族だった。
 不老長命の魔族にしては珍しく、エウリノームの外見はかなり年老いて見えた。聞けば数千年を生きているという、魔王に次ぐ長命を誇る魔族だとか。
 エウリノームは魔王軍の情報をアロイスに渡していた。
 彼は、魔王の横暴さと独裁的支配を憂いていて、魔王を殺す手伝いをしたいと申し出てきたのだそうだ。アロイスはその見返りとして、人間の国でも魔族が生きて行けるよう取り計らう約束をした。

 しかしミユキやジェームズは魔族を国に入れることに猛反対した。
 だが、実際戦いに勝利できたのは、エウリノームのもたらした情報があったおかげだ。それにもうアロイスが約束してしまった以上、それは守るべき事項だ。
 私はミユキとジェームズを説得した。彼らを説得するのに、少しキツイ云い方をしてしまったかもしれない。だが、彼らも渋々頷いてくれた。
 魔族を受け入れると云っても、具体的に何かするわけではなく、ただ彼らのすることを見て見ぬふりをするだけだった。
 帝国軍の目があるため、秘密裡に地下古墳の奥に穴を掘り、地下に新たな魔族の村を作ることになった。
 なにかあればアロイスがすべての責任を取ると云った。

 その頃から徐々におかしなことが起こり始めた。

 エウリノームは頭からすっぽりと覆うローブを着用し、魔族だとばれないようにして人前に姿を現し始めた。数日後には同じようなローブ姿の者が増え、アロイスは彼らに文字を教え、人間の生活を教えた。
 ここへ来て、ようやくアロイスが魔族と取引した本当の狙いがわかった。
 彼は古文書を題材に、魔族の魔力を使って古の術の実験を行いたかったのだ。
 不思議なことにローブの集団は、周囲の人間たちの信頼を得ていった。
 魔族である彼らは大聖堂に人を集めて、なぜか魔族排斥を訴える活動を始めた。
 エウリノームはそれを、帝国の目を欺き、新たな国造りをするには国民をひとつにする指標が必要だからだと云った。
 それに加え、あんなに反対していたミユキとジェームズも魔族と行動を共にし、その活動を支援し始めたのだ。一体どういう心境の変化なのだろうか。

 そんなある時、アロイスの姿が見えなくなった。
 手分けをしてオーウェン王国の滅びた市街地や難民街を探してみると、その一角のボロ屋に彼を発見した。
 彼はなぜかすべての記憶を失い、オーウェン王国の生き残りの貧しい人々のために、回復魔法や蘇生魔法を使っていた。
 いくら説得しても、アロイスはここで貧しい人々を癒すために残ると云い、大聖堂に戻ることはなかった。
 魔族のことはエウリノームに任せ、私は国主として激務に追われるままに毎日を過ごした。

 その日、私は戴冠式の日取りをどうするかという話を大臣たちと話し合った後、気の置けない仲間たちと食事を取っていた。

「新しい国の名前なんだけど、私はシリウスがいいと思うのよね」

 一緒に食卓を囲んでいたミユキが云った。

「シリウスラントの方が国っぽくていいんじゃないか?」

 ジェームズもそれに乗っかってきた。

「やめてくれよ。恥ずかしいじゃないか」
「いいじゃない。英雄なんだしさ」

 新しい国の名前はいくつか候補が上がっていたが、どうも自分の名前が国の名称にされるのは気恥ずかしい。

「それより、顔色が悪いぞ。大丈夫か?」

 ジェームズが私の顔を覗き込むようにして云った。

「あ…ああ」

 このところ、過労のせいか、体調が悪かった。
 この疲れはおそらく精神的なものだろうから、回復魔法では治せない。
 それにしても、今日は朝から体調が悪かった。
 水を飲もうとカップを取った。
 一口飲んだ後、カップは手から滑り落ちてテーブルの下で音を立てて割れた。
 手が痺れたように震えている。
 力が入らない。
 もう椅子にも座っていられない程に、体から力が抜けて行く。

 そんな私の様子を不自然に見守っていたミユキとジェームズが席を立って私の傍に集まった。
 心配してきたのかと思いきや、彼らの口から出たのは意外な言葉だった。

「あらら、ようやく?」
「さすがは勇者シリウスだね。魔獣すらも数滴で死ぬ毒に半年も絶えるなんてさ」

 2人共、何を云っているんだ?

「悪いな。こんな姑息な手を使うのは俺も正直気が引けたんだよ。だけど正面から戦ってもおまえには勝てないからな」
「あなた、どーせ私たちなんか雑魚だと思ってたでしょ?ビックリした?まさか、まさかの下剋上よね?」

 ミユキは笑った。
 嘘だ、君がこんなことをするはずがない。

「確かにおまえは英雄だ。だが俺たちだって頑張ったよな?なのに俺たちはその他大勢扱いだ。この扱いの違いは何だよ?」
「あなたは私たちを得意気に蘇生させたわ。恩着せがましくね。周りの大臣たちがなんて言ってるか知ってる?役立たずでも生き返らせてもらえるなんて幸運だって、他の兵たちは不死者ゾンビイになったのに、ってね。もうそんな扱いまっぴらなのよ!」

 ミユキ、ジェームズ、おまえたち、そんなことを思っていたのか…。
 一言云ってくれればよかったのに。
 私たちは、仲間じゃなかったのか。仲間だと思っていたから生き返らせてやったのに。

「あなたがもう少し、仲間を敬う人だったら違う結果になっていたかもね」
「おまえは俺たちを最初からコマ程度にしか思っちゃいなかったろ。バレバレなんだよ」

 待ってくれ、私はそんなつもりはなかった。

「じゃ、あとは私たちに任せてゆっくり休んでね」
「これからは俺たちがお前の代わりに表舞台で活躍するからさ」

 待ってくれ…。
 なぜこんな方法を取るんだ?もっと話し合って別の結果を出すことはできなかったのか?
 それすらも拒絶したということなのか?

 意識が…。遠のく…。

 倒れる前に見えた光景は、笑いながら話すミユキとジェームズ。そしてその背後にはローブ姿の人物がいた。
 おまえたちは、魔族にそそのかされたのか…?
 だったらなぜそんな楽しそうな顔をしているんだ?


 次に目を覚ましたのは、ベッドの上だった。
 もう体を動かすことすらできなかった。
 神経系の毒のようで、回復魔法を発動することもできなかった。
 長い時間をかけて、少しずつ毒を盛られていたようで、自分の体調の変化にすら気付かなかった。
 毒見役を買って出てくれていたミユキ自身が、まさか毒を盛った張本人だったとは。

 枕元に、誰かがいる気配がする。
 顔を動かすこともできずにいた私の視界に、その人物は入ってきた。

「やあ、シリウス。まだかろうじて生きていたね」

 ローブから覗く年老いた魔族の顔。
 エウリノームだ。
 やっぱりコイツの仕業だったのか。
 アロイスのことも、仲間が裏切ったのも全部コイツのせいだ。そうに決まっている。

「少し、話をしようじゃないか。…と云っても君はもう話すこともできないようだが」

 …コイツの目的は何だ?
 なぜ私に気安く話しかけてくる?

「もともとこの戦争は人間側によって計画的に引き起こされたものなんだよ。オーウェン王国を滅ぼしたい連中によってね。それに魔族は利用されたにすぎない」

 それはどういうことだ。この戦争は謀略だったということか?

「魔王を倒していい気になっている君に、どうしても一言言っておきたくてね。君は欲深い人間共に利用されただけの愚かな英雄だ。君は王になってもいずれ謀殺される運命だった。だったら私がもらっても良いだろう?」

 それが真実だったとしても、なぜ魔族であるおまえがそれを知っている?

「ああ、君の言いたいことはわかるよ。私は最初からアトルヘイム帝国と組んでいたのさ。私の狙いは君が持つようなレアスキルを手に入れること。狙いは魔王のスキルなのだがね。私は若い肉体のまま永遠の時を生きる奴のスキルをどうしても手に入れたいのだよ」

 魔王のスキル?
 何を云っているんだ。

「君はあの魔王をあっさりと倒してくれた。なぜその場に自分がいなかったのかと、激しく君に嫉妬したよ。せっかくのチャンスだったのに、私は魔王の障壁によって近づけもしなかった。君が決闘だなどと余計なことをしなければ、魔王のスキルを奪うことができたのに」

 エウリノームは、私に逆恨みをしているのか?
 スキルを奪うとはどういう意味だ?

「だから私は君を殺して、魔王を倒した君のスキルをもらうことにしたんだ。仕方がないので魔王の復活を待つことにしようと思ってね」

 私を殺してスキルを奪う?
 何の冗談だ…。

「言っておくが、君の仲間たちは元々君を恨んでいたんだ。私はその感情をほんの少しだけ増幅してやったに過ぎない。彼らは自分で毒を用意したんだよ。おかげでこうして私がトドメを刺せる訳だが」

 なんということだ…。
 くそっ、くそっ、くそっ!!

「私も始めは魔王を倒した君を恨んだがね。でも、これはこれで楽しみができた。君のスキルを使って、次は直接魔王を殺せるのだから。魔王が復活する日が楽しみだよ」

 エウリノームめ…。

「絶望したまえ。私を不快にさせた君は苦しみの中で息絶えるのだ。さようなら、勇者シリウス」

 くそっ…死ぬものか。
 私には<運命操作>がある。

 その直後、エウリノームの持つ剣が、私の胸を貫いた。


 …。

 …死ぬのか、私は。

 おのれ、
 エウリノーム。

 地獄に落ちろ、
 私を裏切った人間共。

 生きて、いつか必ず、おまえたちに復讐してやる。
 必ず。

 …。

 …。




 
 …。

 …。

 …むっ。

 誰だ?

 そう、今、私の記憶を覗いているだ。
 おまえはそこで、
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