褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

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復讐を終わらせませんか?

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「リーストファー様」


私は穏やかにリーストファー様に話し掛けた。


「もう復讐を終わらせませんか?貴方の背負うものは私には分かりません。

私は実際に親しい人を奪われた事はありません。皆寿命がつき天に召されました。まだ天に召されるには早い人の死に私はまだ立ち合った事がありません。だから貴方の気持ちが分かるとは言えません。

ですが私は思うのです。復讐は相手を不幸にするだけじゃない、貴方も不幸になります。復讐を果たせば満足ですか?そんなのは自己満足です。

復讐は正義じゃない。

なぜってもう貴方は新たに縁を繋いだからです。私と夫婦になり私の家族とそして伯爵家と公爵家の使用人達、もう貴方は一人ではありません。貴方が殺されれば私が相手に復讐します。お父様がお母様がライアンが復讐します。復讐されれば相手も黙っていません。そしたら使用人同士で殺し合いです。

それは貴方が望む光景ですか?

憎悪を持つななんて言いません。それは生き残った者が持つ感情です。ですが、憎悪は孤独への始まりだと私は思うんです。

だってそうでしょ?

貴方は私に触れる時いつも迷っています。こんな俺が触れて良いのか、こんな俺が妻を抱いていいのか、こんな俺がこんな俺がといつも葛藤の中にいます。

恨みや憎しみだけで殿下から奪い妻にし夫婦になりました。憎悪に囚われていた時の貴方は満たされましたか?殿下から私を奪い私を貴方の妻にして貴方の心は満足しましたか?ああこれですっきりしたと気が晴れましたか?

殿下から私を奪っても私を妻にしても気なんか晴れない。だってそうでしょ?殿下から何を奪っても例え殿下の命を奪っても、死んだ者は生き返りません。貴方が大切に思うご友人もご家族ももう貴方に話しかける事も笑いかけてくれる事もありません。俺達の敵を討ってくれてありがとうと、良くやったなと言ってくれますか?

結局復讐は復讐を果たした一瞬だけ満たされても、それは崩壊への扉を開けたに過ぎません。生きる希望だった復讐に復讐を遂げた所で闇は闇。闇の中で過ごす日々は人を狂わせます。人として生きる、その根本が壊れていくんですから。

人を恨み憎み続けるという事は心が真っ黒に染まり続けるという事。真っ黒な心はいつしか体を蝕み、そして自らの命すら軽く思えてくる。あれだけご友人の命をご家族の命を重く思っていたのにです。

貴方に空いた心の穴はまた埋めるしかありません。それは復讐を遂げるのではなく、残った者達で慰めあいながら、助かった命を天で見守ってくれる方々に恥じないように生き続け繋ぐしかありません。

知っていましたか?例え自分で満たせなくても他人が満たすことができるんですよ?私が貴方を満たすこともできるんですよ?

強制的に私達は夫婦になりました。ですがゆっくりと共に育んだから恨みや憎しみから愛へと姿を変えたのではありませんか?

でも貴方はそんな自分が許せない。家族の死を兄弟の死を仲間の死を、理不尽な死を思えば、私は復讐する相手だからです。

なら私を貴方の手で殺して下さい。貴方がそれで満足するなら、復讐を果たして下さい。そしてもう復讐を終わらせてください」


私はリーストファー様を見つめた。

リーストファー様は顔を横に振っている。


「嫌だ…、嫌だ、嫌だ、どうしてそんな風に穏やかに笑って俺を見るんだ。どうして俺を責めない、どうして俺を罵らない。

どうして、どうして俺が俺の手で殺せる、どうして俺がお前を殺さないといけない、殺せる訳が、ないだろ……」


リーストファー様は『嫌だ』と顔を横に振っている。

そうなのよ?恨みや憎しみから夫婦になったとしても、こうして愛が生まれれば例え復讐したいと思っていた相手でも愛しい人を殺せない。

それは貴方の心が満たされ始めたからなの。私を愛する気持ちと私が貴方を愛する気持ち、お父様やお母様、ライアンや使用人達、皆の思いが貴方の心に詰め込まれたからなの。

今の貴方にはどう見える?

真っ黒だった世界がどう見える?

花壇の花の色、空の色、木々が生い茂るこの世界は綺麗に見えない?

鬱陶しいと思っていた雨が風情だと思えたり、恵みの雨だと思えたり、そんな日はゆっくり過ごそうと心に余裕が生まれたりしない?

貴方の瞳に映す光景がもし変わったのならそれは貴方の心が色を持ち出したから。真っ黒で何色にも染まらなかった心が少しづつ変わろうとしている証拠なの。

もうどうでもいいと投げ出した心が満たされ始めればこのままでは駄目だと体を治そうと思う。体が治れば今度は動けるようになりたいと思う。動けるようになれば風景や景色が瞳に映るようになる。

それが生きているという事。

そして誰かを愛おしく思うようになれば心は強くなる。


「誰かを愛おしく思う心は誰にも止められません。殿下が伯爵令嬢を慕うように、私が貴方を愛したように、そして貴方が私を愛したように…。

その心は復讐するより上ですか?下ですか?」


復讐を果たした所で満たされないの。

私だって伯爵令嬢の彼女を妬んだ時もあった。殿下を恨んだ時もあった。好きな人がいるなら私を婚約者にしないでよって。

私は愛の中で育った。だから皆が私をこの綺麗な世界に留めようとするの。

殿下の婚約者として割り切れるまで私だって時間が掛かったわ。殿下の婚約者に決まった時『生涯この人に尽くそう』そう婚約式で誓ったわ。殿下は私の夫になる人だったんだもの。

でも殿下の心を知り、諦めに近いけど、それでも愛を知らない女性もいる中で私は愛を知ってる。それだけで充分だと思ったの。

殿下との間に愛はなくても情は生まれたから。

ねぇリーストファー様、今の貴方に私達を切り捨てれるのかしら。今の貴方に縁を断ち切れるのかしら。

私は無理だと思うわ。



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