褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

文字の大きさ
39 / 152

愛とは…

しおりを挟む

私の傷も治り2ヶ月滞在していた公爵邸から伯爵邸へ帰る晩、お父様とお母様、ライアンといつものように皆で一緒に夕食を食べている。


「派手な夫婦喧嘩をしたらしいな」


突然お父様が言った。


「したらしいなってお父様も知っていますよね?何も知らずに私達の滞在を認めていたんですか?」


それも今日?今までだって何度も言う機会はあったわ。


「ミシェル、私はリーストファーに聞いている」


お父様の威圧に私は黙った。お母様なんてにこにこ笑っているわ。ライアンはサッと目を反らしたけど。


「どこぞの阿呆が巻き込まれたらしいが、まぁあれが別にどうなろうが私の知ったことではない。なんなら私の邸に無断で入った族のようなもの、傷の一つや二つ…、無傷で帰って行けたんだ、何も文句はあるまい」


まだ一応殿下ですよ?その殿下を阿呆とかあれとか…。それに傷の一つや二つも付けたらどうなる事やら…。


「のうリーストファー、派手な夫婦喧嘩をしたらしいな」

「申し訳ありません」


リーストファー様は立ち上がり頭を下げている。


「それで?頭を下げるだけか?頭を下げるだけなら阿呆でもできるぞ?」

「もう二度と『公爵の宝石』に傷を付けません」

「傷を付けた事を言っている訳ではない」


ん?待って、公爵の宝石って何?


「大切にできないのなら返してもらうぞ。リーストファー、二度目はないと思え」

「はい、肝に銘じます。私にとって、とても大切な人です。もう二度と悲しませる事はしません、お約束します」

「分かれば良い」

「いいえ、私は許しません」


お母様?お母様まで急にどうしたの?

ライアンを見たら『僕を見ないで下さい』と念を送ってくる。


「リーストファー君」


お母様のにこにことした笑い顔が怖い。これは本気で怒ってる時の顔だわ。


「私の可愛い娘に傷が残ってしまったわ」

「申し訳ありません」


リーストファー様は頭を下げた。


「消えない傷を残した貴方がもし私の可愛いミシェルを裏切ったら、その時は貴方の大事な所をちょん切るわよ?」


ライアンなんか『ヒッ』と身を屈めているわ。分かるわ、分かる。私でも想像するだけで痛いもの。


「お義母上、これだけは断言できます。私は今この時もこれから先もミシェルしか愛せません。女神を裏切ればそれこそ私は罰が下ります。もしはありませんがそれでももしお義母上から見て私が裏切り行為をしていると思えたのなら、この命をどうぞ地獄へ堕として下さい」

「そう?なら良いの。女性は旦那様に愛されるから綺麗になるの。そして愛は人を強くしてくれるわ、それは貴方もよ?」


優しく笑うお母様はリーストファー様を見つめた。


「人は誰かに愛されるとね、このままの自分で良いんだって思えるの。このままの自分をこの人は愛してくれる、それがどんなに幸せな事か分かるわ。そして人を愛すとね、この人の為にって強くなれるの。そして何があっても信じられるの。嘘も裏切りもそんなの些細な事よ。私はこの人の全てを愛しているの。何かを返してほしい訳じゃないわ、ただ私がこの人を愛してるだけなの。

もし自分の心と同じように相手もその心を渡してくれるのならそれはとても尊い事よ」

「はい」

「ミシェルはどっかの白豚ちゃんのお陰で自分で強くなったわ。強くあろうとする姿は妃としては誇らしいわ、でも親としては悲しかった。ミシェルは少し臆病なの、自分の弱さには脆いわ。まあミシェルは立ち直り方も逞しいんだけど、でも一人で何でも解決しようと一人で抱え込むの。誰にも弱音を吐けないミシェルがいつか限界を越えてしまわないか私は危惧しているの」


お母様、白豚ちゃんって…、確かに殿下はふくよかだけどせめて恰幅がいいと言ってあげて下さい。殿下の肌は羨ましいくらいもち肌なんですよ?それに昔は痩せていたんです。重圧や心労、心痛でふくよかになっただけで痩せれば見目は悪くないですよ?


「ミシェルは芯が強い女性に成長したわ。でも私は弱音が吐けて、心を相手に渡せる女性にもなってほしいの。自分だけで抱えないで一緒に抱えてくれる対の相手。

リーストファー君、それは貴方にも言えるのよ?」


お母様は私とリーストファー様を見つめる。


「貴方は一人で背負いこもうとする。全てを曝け出せとは言わないわ。でもね、ミシェルが隣にいる事を忘れないでほしいの。ミシェルは強いわ、貴方の愛で本当の意味でも強くなった。だから信じてほしいの。どんな貴方でもミシェルは愛しているわ。

貴方はもう私の愛しい息子なのよ?いつでも私達を頼ってくれていいの」

「はい、ありがとうございます」


優しい顔でお母様は私達を見つめている。

愛とは尊いもの、本当の愛とは相手の全てを信じ受け入れるもの。

愛されたいと願うのではなく、嘘や裏切りを許し、見返りを求めるのではなく、ただその人を愛する。

でもそれはとても難しい。

どれだけ相手を愛していても許せる所許せない所はある。嘘をつかれたり裏切られれば傷つくし辛く悲しい。自分が愛した分だけ相手にも自分を愛してほしいと願ってしまう。

でもだからこそ尊いもの。

どんなあなたでもそれがあなた、あなたの全てを受け入れれたら…。

今の私達はお父様やお母様のように深い愛ではないかもしれない。それでも相手を大切に思う気持ちも愛。そしてその愛に無条件でずっと注ぎ続ければお父様やお母様のような本当の愛にきっとなる。

お母様は私が臆病だと知っていたのね。そしてその事に対面すると私は脆い。傷つくのが怖くて問い質す事ができない。そして自分自身でその心の置き場を探し納得させる。

殿下の時もそうだった。そしてリーストファー様の時も…。

前のように驚愕すると心が耐えられなくなり吐いてしまう。

それを弱さと言えばそう。年相応と言えばそう。でもそれも私。



しおりを挟む
感想 130

あなたにおすすめの小説

誓いを忘れた騎士へ ―私は誰かの花嫁になる

吉乃
恋愛
「帰ってきたら、結婚してくれる?」 ――あの日の誓いを胸に、私は待ち続けた。 最初の三年間は幸せだった。 けれど、騎士の務めに赴いた彼は、やがて音信不通となり―― 気づけば七年の歳月が流れていた。 二十七歳になった私は、もう結婚をしなければならない。 未来を選ぶ年齢。 だから、別の男性との婚姻を受け入れると決めたのに……。 結婚式を目前にした夜。 失われたはずの声が、突然私の心を打ち砕く。 「……リリアナ。迎えに来た」 七年の沈黙を破って現れた騎士。 赦せるのか、それとも拒むのか。 揺れる心が最後に選ぶのは―― かつての誓いか、それとも新しい愛か。 お知らせ ※すみません、PCの不調で更新が出来なくなってしまいました。 直り次第すぐに更新を再開しますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

愛され妻と嫌われ夫 〜「君を愛することはない」をサクッとお断りした件について〜

榊どら
恋愛
 長年片思いしていた幼馴染のレイモンドに大失恋したアデレード・バルモア。  自暴自棄になった末、自分が不幸な結婚をすればレイモンドが罪悪感を抱くかもしれない、と非常に歪んだ認識のもと、女嫌いで有名なペイトン・フォワードと白い結婚をする。  しかし、初顔合わせにて「君を愛することはない」と言われてしまい、イラッときたアデレードは「嫌です。私は愛されて大切にされたい」と返した。  あまりにナチュラルに自分の宣言を否定されたペイトンが「え?」と呆けている間に、アデレードは「この結婚は政略結婚で私達は対等な関係なのだから、私だけが我慢するのはおかしい」と説き伏せ「私は貴方を愛さないので、貴方は私を愛することでお互い妥協することにしましょう」と提案する。ペイトンは、断ればよいのに何故かこの申し出を承諾してしまう。  かくして、愛され妻と嫌われ夫契約が締結された。  出鼻を挫かれたことでアデレードが気になって気になって仕方ないペイトンと、ペイトンに全く興味がないアデレード。温度差の激しい二人だったが、その関係は少しずつ変化していく。  そんな中アデレードを散々蔑ろにして傷つけたレイモンドが復縁を要請してきて……!? *小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

処理中です...