42 / 152
家族の愛
しおりを挟む次の日の朝、公爵邸の玄関では『また顔を出せ』と、お父様とリーストファー様は話しをしている。
私はマーラに抱きしめられ『またお二人でお顔を見せに来て下さいね』『今度はニーナも連れてくるわ』と別れの挨拶をした。
それからお父様に抱きしめられ『帰るのか?ずっとここに居てもいいんだぞ』と言われた。私を愛しいと見つめる瞳に『また遊びに来ます。お父様、私はお父様が大好きです』『ああ、知ってる』そう言ってお父様は私を一度抱きしめ、それから私の頭を撫でた。
『ライアン』と私が呼べば、ライアンは両手を広げ、私はライアンを抱きしめる。『寂しくなります』私はライアンの背中を撫で『私も寂しいわ。ライアン、貴方はいつまでも私の可愛い弟よ?ライアン、大好きよ』『僕も姉上が大好きです』ライアンをギュッと抱きしめた。
最近は『私』と大人振るライアンだけど、私の前では『僕』になる。本当に可愛い弟なの。
最後にお母様が私を抱きしめた。『ミシェル、いつでも顔を見せに帰って来なさい。何かあれば直ぐに頼りなさい。私達はいつでも力を貸すわ。いい?もう貴女は妃じゃないの。一人で我慢する事も、一人で何んでも抱え込む事もしなくていいの。リーストファー君とお互いの心を預けられる夫婦になりなさい。愛してるわミシェル』『私もお母様を愛してます』お母様は私の背中を撫でた。私はお母様に抱きしめられ背中を撫でられるのが大好きなの。私はお母様の胸に顔を埋めた。お母様の温もりは、いつも私の背中を押してくれる。だから私は安心して飛び立てるの。
マーラはリーストファー様を抱きしめている。恥ずかしそうな、どうして良いか分からず固まるリーストファー様を、私は『クスクス』と笑ってしまう。
『伯爵様はもう私の可愛い息子です。何かあれば直ぐにマーラが駆け付けます。
リーストファー、無理はしないで。体には気を付けて。
いいですか?いつもマーラが伯爵様を心配していると心の片隅に置いて下さいませ』『ああ、ありがとうマーラ』リーストファー様はマーラを優しく抱きしめた。リーストファー様の顔は穏やかな顔をしている。
お母様は『リーストファー君、もう貴方も私の愛しい息子なの。何かあれば直ぐに頼りなさい。家族に遠慮はいらないわ』お母様はリーストファー様を抱きしめ背中を撫でている。『はい』と言ったリーストファー様は嬉しそうに笑った。
それを見ていたお父様はリーストファー様を睨んでいたけど、私は見て見ぬ振りをしたわ。
お父様はお母様の腰を抱いて、リーストファー様から離した。そして直ぐにお母様を抱きしめた。リーストファー様の温もりを塗り替えるようにギュッと。そして額に頬に、最後は手の甲に口付けを落とした。
リーストファー様はライアンと話をしている。『今度私にも稽古を付けて下さい』『それはいいが、お義父上に稽古を付けてもらう方が俺より上達するぞ?お義父上の一発は相当なものだったからな』『父上は容赦ないですから。それに一度くらいは父上から一本取りたいです』『そうか、分かった』リーストファー様はライアンの頭を撫でている。『今度伯爵邸に遊びに来い』『必ずですよ?私は本当に行きますよ?』『ライアンに嘘を付いてどうする。待ってるからな』『はい、義兄上』ライアンは嬉しそうに笑い、リーストファー様も可愛いなとライアンを見つめている。
私はその光景を見つめる。
家族の愛に恵まれなかったリーストファー様。辺境の大きな家族は皆を平等に愛した。はたして、一対一でこうして家族の愛を受け取れたのか。
少し離れた所に居る見習い君達は『伯爵様、俺達にもまた稽古を付けて下さいね』と手を振っている。『ああ、いつでも付けてやる』と、リーストファー様も手を振り返している。
「では、もう帰りますね。お父様、お母様、長い間ありがとうございました」
私はお父様とお母様に頭を下げた。
「お義父上、お義母上、長い間俺までお世話になりました」
リーストファー様も頭を下げた。
「娘と息子の世話をするのは当たり前だ。これからは度々帰って来い。今度は酒でも飲もう」
お父様はリーストファー様の下げてる頭を撫でている。
「はい、今度は必ず」
お父様に頭を撫でられていて、俯いたまま答えたリーストファー様。その声は嬉しそうな声をしていた。
お父様が手を退け、リーストファー様は顔を上げた。
突然お母様に抱きしめられた。直ぐ真横にはリーストファー様の顔。
「いつでも帰って来なさい。ここはもう二人の家でもあるのよ?」
「はい、お母様」
「はい、お義母上」
「気を付けて帰るのよ?」
お母様が離れ、私達は馬車に乗り込んだ。馬車の中から私達は手を振る。馬車の外から皆が手を振る。
ゆっくりゆっくりと、別れを惜しむように、馬車は動き出した。
公爵邸を出た馬車の中では、隣に座るリーストファー様が私の肩を抱き寄せた。私は自然とリーストファー様の肩に頭を預け、そのまま身を預けた。
お互い寂しい思いを分かち合うように…。
74
あなたにおすすめの小説
誓いを忘れた騎士へ ―私は誰かの花嫁になる
吉乃
恋愛
「帰ってきたら、結婚してくれる?」
――あの日の誓いを胸に、私は待ち続けた。
最初の三年間は幸せだった。
けれど、騎士の務めに赴いた彼は、やがて音信不通となり――
気づけば七年の歳月が流れていた。
二十七歳になった私は、もう結婚をしなければならない。
未来を選ぶ年齢。
だから、別の男性との婚姻を受け入れると決めたのに……。
結婚式を目前にした夜。
失われたはずの声が、突然私の心を打ち砕く。
「……リリアナ。迎えに来た」
七年の沈黙を破って現れた騎士。
赦せるのか、それとも拒むのか。
揺れる心が最後に選ぶのは――
かつての誓いか、それとも新しい愛か。
お知らせ
※すみません、PCの不調で更新が出来なくなってしまいました。
直り次第すぐに更新を再開しますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
牢で死ぬはずだった公爵令嬢
鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。
表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。
小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
愛され妻と嫌われ夫 〜「君を愛することはない」をサクッとお断りした件について〜
榊どら
恋愛
長年片思いしていた幼馴染のレイモンドに大失恋したアデレード・バルモア。
自暴自棄になった末、自分が不幸な結婚をすればレイモンドが罪悪感を抱くかもしれない、と非常に歪んだ認識のもと、女嫌いで有名なペイトン・フォワードと白い結婚をする。
しかし、初顔合わせにて「君を愛することはない」と言われてしまい、イラッときたアデレードは「嫌です。私は愛されて大切にされたい」と返した。
あまりにナチュラルに自分の宣言を否定されたペイトンが「え?」と呆けている間に、アデレードは「この結婚は政略結婚で私達は対等な関係なのだから、私だけが我慢するのはおかしい」と説き伏せ「私は貴方を愛さないので、貴方は私を愛することでお互い妥協することにしましょう」と提案する。ペイトンは、断ればよいのに何故かこの申し出を承諾してしまう。
かくして、愛され妻と嫌われ夫契約が締結された。
出鼻を挫かれたことでアデレードが気になって気になって仕方ないペイトンと、ペイトンに全く興味がないアデレード。温度差の激しい二人だったが、その関係は少しずつ変化していく。
そんな中アデレードを散々蔑ろにして傷つけたレイモンドが復縁を要請してきて……!?
*小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。
たろ
恋愛
幼馴染のロード。
学校を卒業してロードは村から街へ。
街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。
ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。
なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。
ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。
それも女避けのための(仮)の恋人に。
そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。
ダリアは、静かに身を引く決意をして………
★ 短編から長編に変更させていただきます。
すみません。いつものように話が長くなってしまいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる