褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

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戦場での出来事 リーストファー視点

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王宮軍と辺境隊、部隊は別でも戦術はロータス卿が決定する。勿論、隊長と辺境伯と辺境隊隊長と話し合いながらだが。

本格的な戦になったといえど小競り合い程度の戦闘を毎日繰り返し、相手の出方を様子見していた。

5年も同じ相手と剣を交えれば、小競り合い程度か本戦か、その違いは互いに分かる。互いに力はまだ隠している。それでも前線で食い止めるのに力の出し惜しみはしない、それは相手も同じだ。ここを突破されればこの戦の負けを意味する。

辺境隊は長年寝食を共にし暮らしてきただけあり、ベーン副隊長以外は小隊が代わる代わる前方と後方を交代しながら戦う。小隊が代わろうが統制が取れている。

それに比べ、王宮軍は寝食を共にしていても平民の兵士だけだ。傭兵や平民の歩兵は軍を率いて出兵する時だけ掻き集められる。道中で槍や弓を教えた。農具は使えても初めて剣を手にする若者もいる。辺境までの1ヶ月で毎日稽古をつけた。同じ飯を食べ、同じように雑魚寝し、話し掛け、なんとか一応統制が取れているといった所だ。

『俺が守ってやる』そんな格好良い事を言えたらいいが、実際そんな格好良い事は言えない。『自分の身は自分で守れ。道は俺が開ける。お前達は目の前に敵が現れたら躊躇いなく斬れ』躊躇いは死を意味する。足が震えるだろう、泣きながら、懺悔しながら相手を斬るだろう、それでも生き残る為だ。

俺だって初めて人を斬った夜は眠れなかった。敵とはいえ目の前で血を流し俺を睨みながら息絶えた。その場では次から次へと敵が迫り剣を振り続けた。でも夜になると相手の顔が、俺を睨むその顔が頭から離れなかった。

何度悪夢に魘されただろう。夜中に何度も飛び起き汗で張り付く寝間着。眠るのが怖くて眠れない日々が続いた。15歳の少年にはそれが国の為だと言われても人を殺めたのは事実。

皆が同じように悪夢に魘される。辺境を去る者もいた。兄弟の死が死と隣り合わせの場所だと俺達に再認識させた。

そんな時テオンと二人だけの約束をした。

強くなろうと、皆を守れる強さを持とうと、敵を斬るのに罪悪感はあるがそれが俺達の志。

この辺境を守る。

辺境の大きな家族を守る。

俺達に剣を一から教えてくれた。俺達に家族を与えてくれた。友を兄弟を、何も持たない俺達に、生きる道を一から与えてくれた。


テオン達が属する第二小隊の時は俺も楽だった。元々俺が属していた小隊だった。俺の背中を預けられる、それだけで戦い方は一段と上がる。ベーン副隊長もケニー第二小隊長も俺達兄弟の絆を信じ第二小隊の指示を俺に任せてくれた。視線一つ、剣の太刀筋一つで意思疎通が出来る。

久しぶりにテオンと同じ戦場を駆ける。阿吽の呼吸で目の前の敵を皆で蹴散らしていく。

辺境伯から王宮軍へ行けと言われた時、本当はテオンも行けと言われた。だがテオンは辺境から離れたくないと辞退した。その理由も分かっていたから俺は一人で王宮軍へ向かった。まあ、1年後には辺境へ戻ってきたんだが。


屈強な騎士でも緊張状態が続けば疲弊する。そんな時、後方から来た騎士が『王太子殿下が本陣に激励に来てな、後方の奴等は皆やる気だ。この戦は必ず勝つぞ』と鼻息荒く語っていた。それは前線にいる者達にも伝わった。闘志あふれる姿が皆に戻り、皆の闘志を奮い立たせてくれた王太子に俺は感謝した。

目を虚ろにし、誰も何も話さない。ここは暗闇の中の底なし沼。何も感じない、味覚なんて疾うの昔になくなった。毎日繰り返される戦いに、血の残り香がいつまでも鼻に残り続ける。布に包まれた亡骸。回収出来ず今尚戦場に残る亡骸。『ここは地獄だ』と歩兵の一人が言った。

そうだ、俺は地獄に身を置く騎士だ。さしずめ門番といった所か。


王太子の激励は地獄で生きる俺達の光のように思えた。


だが、

ロータス卿の作戦を伝える伝令役が来た時、『今本陣は険悪な雰囲気だ。ロータス卿と王太子殿下が言い争いをしていてな、隊長も辺境伯も止めているが…。俺は王太子殿下が何を考えているのか分からない』ボソッと呟いた伝令役は怪訝な顔をした。

卿が言い争い?あの温厚な卿が?

卿の作戦は大胆かつ繊細だ。だが時に冷酷。今まで死者が最小限で済んでいたのは事実。

卿の作戦を伝令役から聞き、こちら側の情報も伝え、卿が再度作戦を練り直し実行する。

作戦を実行する為に、俺達は隊長達後方の部隊を待った。

静かな闇夜、俺は横になっていた。少しだけでも目を瞑る。ふっと寝入る時もあるがそれでも寸刻。

バタバタと近付いて来る足音に体を起こした。

『副隊長!』

焦燥した顔をしていたのは見張りをしていた騎士。

『辺境側から部隊が敵陣へ向かって行きました』

俺は急いでベーン副隊長のもとへ向かった。ベーン副隊長は声を荒らげ指示を出している。

もうすぐ夜が明けると言っても松明の火が無ければ人の顔も分からない。

カンカンカンと静かな戦場に鳴り響く敵国の敵襲を知らせる鐘の音。

『ベーン副隊長、これは何事ですか』

『分からない。後方の隊が突撃したようだ。今調べている、少し待ってくれ』

辺境伯は卿の作戦を無視するような人じゃない。それも自分の隊を犬死にさせるような人じゃない。

どういう事だ!

何が起こった!

俺が急いで王宮軍の野営地に戻れば皆起きて戦闘の準備をしていた。

夜目が利く訳ではないが音で状況は分かる。地鳴りのような馬が駆ける音、遠くで微かに聞こえる剣を交える音。

『リーストファー、すまない。勝手に突撃したらしい』

ベーン副隊長は険しい顔をしていた。

勝手に?そんな訳がない。指示もなく勝手な行動はしない。

誰だ!

誰が勝手に指示を出した!


助けに行こうにももう少し明るくならなければこちら側の死を意味する。状況が分からない以上勝手な行動は避けるべきだ。

そんなこと頭では分かってる。それでも心が、さっきからずっと心がざわざわと胸騒ぎがしている。

夜が明けようと辺りが白む時、本陣から王宮軍、辺境隊、全軍隊が到着した。

その時、一頭の馬がこちらに向かって駆けてきた。

『キルトーーー!』

馬に引き摺られ、キルトの息は既に絶えていた。腹にはキルトの剣が貫通した状況で、馬に引き摺られ首には縄が食い込んでいた。

ふざけるな!

ふざけるな!

ふざけるなーー!

俺の友を、俺の兄弟を、

よくも!

よくも!

よくもーー!



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