褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

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友の死 リーストファー視点

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俺が辺境へ来た年は、騎士になりたいと集まった人数が少なかった年だった。辺境伯は2年に一度、騎士になりたい8~10歳の子供達を迎える。まだ5歳だった俺とテオンは例外だったが受け入れてくれた。ほとんどが平民で孤児が多かった。

同時期に入隊した者達で共同生活をする。俺達は16人で共同生活をした。部屋は二人部屋だが、朝から晩まで行動を共にする。食事は食堂だが、掃除や洗濯、自分達の物は自分達で、それが辺境の決まりだった。俺達の面倒を見てくれたのが当時はまだ騎士だったケニー小隊長や第二小隊の騎士達。

木刀を初めて握った日、俺はケニー小隊長を師とし学んだ。辺境では騎士が子供の師になり一対一で教える。ある程度剣が振れるようになれば小隊に属し稽古を一緒にする。幼い頃から小隊の中で育つ事で小隊は団結する。そして同じ年に入隊した仲間は友であり兄弟、絆は固く結ばれる。

それでも3人辺境を去った。2人は小競り合いで重傷を負い亡くなった。

5人の分まで、俺達はそう誓った。



キルトは副小隊長として第二小隊から第三小隊へ異動した。小隊長の中では一番若いバーム小隊長は副小隊長としてキルトを指名した。まだ俺も第二小隊の騎士の頃で、皆でキルトの副小隊長を祝った。

ルイスは第二小隊所属だが、利き手を大怪我し本陣と前線の辺境側の伝令役をしていた。


『ケニー小隊長は第三小隊だけでは心配だと数人連れて一緒に行ったらしい。だが皆は待機だと言われたらしい。第二小隊の兵士に聞いたから間違いない。だけどどこを探しても居ないんだ。天幕は全て探した。それでも、どこにも、居ないんだ…。

なあリーストファー、皆は小隊長に付いていってないよな?どこかに居るよな?』

俺は何も答えられなかった。いや、ルイスも分かってる。テオンや皆がケニー小隊長の後を追ったと。待機だと言われても小隊長と共に、それはここで育った者にしか分からない絆だ。

見張りが言っていた。『少し遅れて一部隊が敵陣へ向かった』と。

ケニー小隊長は情が厚い。止めれないのなら手を貸してやるか、そんな人だ。そしてバーム小隊長は忠誠心が強い人だ。王太子自ら王の命令だと言えばどんな命令でも従っただろう。例え犬死にと分かっていても王の為に命を懸ける、それが忠誠だからだ。

王太子は命令だけ下し、自分が命令した結果を見届ける事なく王宮へ帰って行った。

王太子の命令は辺境隊から王宮軍へ伝わった。皆が理不尽な命令に憤りを隠せない。それでも俺達は戦いを途中で投げ出すことは出来ない。

それは国の為じゃない、国に住む人達の為じゃない、己の命の為でもない。犬死にした同志の為にだ。同志の為に勝つしかない。

皆が士気を高めた時だった。

『止めろー!』

大きな声に、戦闘準備をしていた皆が一斉に集まった。

目線の先、

引き摺られるように歩いてきた。

遠目でも分かる。拷問を受けたんだろう。血だらけのその姿を俺の瞳は捕えた。腕がだらんと垂れ、額から流れる血。鎖に繋がれ、引っ張られるようにでも足を引き摺り歩く姿。乱雑に両膝をつかされ座らされた。

生きてる

生きてる……


『隊長!直ぐに出れます!今ならまだ助けられる!』

俺は隣に立つ隊長に伝えた。

助け出す

必ず…

今ならまだ間に合う

『止めろーーー!』

慟哭にも近い悲鳴が聞こえた。

端から次々に…。

『や、止めろーーー!』

俺は思わず叫んだ。

『アーーースー!アーーースーー!』

俺は膝から崩れ落ちた。

『アース……』

俺は握る拳で何度も地面を叩いた。

『止めろーーー!ライドーーー!止めてくれ…、止めてくれーーー!』

拳から血が流れようと痛みはない。

心の痛みに比べたら体の痛みなんて何も感じない。

『やめ、ろ……、やめろ……、やめて、くれ………、やめてくれ………』

俺は何度も顔を横に振った。

『テオン!!』

俯いていた顔を上げたテオンと目が合った。

『テオン、テオン、テオン、テオン!!』

やっちまったよ、そんな顔をしたテオン。

『止めろ!……止めろ!……止めろーーー!!』

テオンと見つめ合う。

見つめ合うテオンが笑った。

『テオーーーン!!』

テオンの腰にはテオンの剣。その剣を鞘から敵国の騎士は抜いた。

『止めろーーーーー!!』

俺の体を雁字搦めにして止める隊長、辺境伯、辺境隊隊長、俺の近くに居た騎士達。

俺は振り払おうとした。今すぐ駆けていきテオンを助けたい。

身動きがとれない程強い力で皆が俺を必死に止める。

俺の叫びと同時に敵国の騎士はテオンの剣でテオンの首筋を斬った。血が噴き出し…、そしてテオンの体はだらんと地面に突っ伏した。

レイもダンもヒースもイルクもエリオも、

死んだ………。


俺は地面の土を握った。

目の前の光景に、俺の瞳から光が失っていくのが分かった。

何度も叫んだ。何度も地面に頭をぶつけた。何度も地面を拳で叩いた。

それでももう還ってこない。

もう、誰も………。


誰もが暗い空気を纏い、啜り泣く声があちらこちらで聞こえる。

でも俺は違った。

目視では分からない最も最奥にいる敵将。俺には敵将しか目に入らない。

俺は最も最奥の場所を見据えた。

必ずお前の首を討ってやる。

拳の中の土をじゃりっと握り潰した。



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