褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

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騎士として

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王宮軍に女性が入れないとはいえ、奥様方は出入りできる。着替えを持ってきたついでに稽古風景を少し見学することはよくあると思う。キャーキャー騒がなければ注意される事はないし、稽古を妨害しなければ追い出される事もない。

今私は騒いでもいないし妨害もしていない。ただ椅子に座って眺めているだけ。

それなのに…、

女性が稽古を見学するのが初めてでもないのに、チラチラと見られる視線に刺さるような視線。稽古をしている若者達は注意散漫。稽古に身が入っていないのが私にも分かる。

これはもしかして妨害?

私は席を立ち上がろうとした。集中力のない稽古は稽古とは言わない。このまま稽古を続ければ誰か怪我をする。練習刀とはいえ本来しなくてもいい怪我を負ってほしい訳じゃない。


「お前等!」


おじさまの大きな声が訓練場に響いた。


「お前達、間違えるな!

それとな、残念だがリーストファーの奥さんだ」


一斉に向けられる視線。


「副隊長の奥方に挨拶してこい。剣を持つ以上礼儀を怠るな!騎士道の精神を忘れたのか。

ああ、それと、睨んだ奴は謝罪もしろよ。戦場での出来事とは無関係だ。女性に矛先を向けるなら本人に向けろ、これからも剣を握りたいなら卑怯な真似はするな」


『ほら並べ』と柵にもたれかかるおじさま。私の後ろにはロータス卿、リーストファー様は柵越しに私の前に立った。

3人からの視線に、柵越しに並んだ若者達の緊張感が伝わる。

始めは騎士達一人一人と挨拶をする。それから若者達と挨拶をする。『頑張って』と私も声をかける。『ククッ、にこやかにすると鬼が怒るぞ?』おじさまは面白おかしく笑っているけど、無表情で挨拶する訳じゃないんだから微笑むのは当たり前だわ。

『ああ、頬なんて染めるから可哀想に鬼の餌食になったな』おじさまを見るとにこにこと笑っている。目の前の若者はみるみる顔色が悪くなった。『大丈夫よ?挨拶をしているだけだもの』私は目の前の若者に優しく声をかける。

『あぁあ』『テネシー隊長、少し気が散るので静かにして頂けます?』私がおじさまをキッと睨めば、おじさまはとぼけた顔をする。『俺はこいつらの身を案じただけなんだがな』それからも言葉を交わせば『あぁあ、はい、もう一人釣れた』流石に『もう、少し黙ってて』少し素が出たのは仕方ない。気心知れたように隊長と話す私を、興味深そうに遠巻きで眺めている騎士達や若者達。

『すみません、睨んでしまいました』と勢いよく頭を下げる子に『仕方がないわ、これからは温かく迎えてくれる?』『はい』と元気な声が返ってくる。

始めは好意的な態度だった。それでも次第に敵意的な態度を隠さない若者もいる。

『すみません』すみませんって一応謝罪はするけど、態度は悪びれる様子はない。隊長の手前謝罪します、って所ね。でもそれも仕方がないと思うわ。あの戦場での出来事はそれだけの惨劇だったもの。

実際、妃でもない婚約者ってだけで私とは無関係だったのかもしれない。もし一緒に付いて行っていたら止めたわ。それでも貴族の婚約者と王族の婚約者とでは立場も責任も違うのは分かってる。だから無関係とは言い切れない。


「おい」


怒気を含んだ低く冷たい声。さっきまで面白おかしく笑っていたのに、今は険しい顔になっている。

私は後ろに立つロータス卿に視線を移した。顔を横に振るロータス卿。

『隊長』私が声をかければ視線だけで『黙ってろ』と言われた。

リーストファー様に助けを求めると、リーストファー様も同じ顔をしていた。


「間違えるなと言ったはずだ」

「ですが」

「あの惨劇を知る者としてお前達の気持ちが分からないわけではない」


おじさまは並んでいる若者達に視線を向けている。

あの好意的な態度だった若者達はきっと戦場を知らない子達なのね。あの惨劇を見ていない?物資補充だったのか、裏方をしていた子達だった?

まだ挨拶をしていない若者達の視線は刺さるような敵意の目。いくら隊長が謝罪をしろと言っても、まだ心の内を隠すのは難しい。経験で培われるものだと言っても、経験が浅い年若い彼等にはまだ無理よ。きっと頭では分かってる、無関係だと、矛先を向けるのは間違いだと。でも心を隠せないほど、それだけ彼等にとっても心に深い傷を残した。

バーチェル国にとっては残虐も戦略。士気を下げることにも繋がるし、隊を乱す、それだけで有利になる。


「これからも騎士を目指す以上、仲間の死も友の死も立ち会う事になる。戦術が上手くいかない時もある。己の信念の為に、仲間の為に命を懸ける時もある。犬死にと分かっていても忠義の為に懸ける命もある。この世から争いが無くならない以上、それはこれからも続く。

感情はお前達のものだ、何をどう思おうと咎めたりしない。だがな、これからも騎士を目指すなら、騎士になりたいのなら、感情は心にしまえ、表に出すな」


張り詰めた空気に顔を俯かせる若者達。


「そもそも我々は弱者を護らないといけない。女性はか弱き者だ、か弱き者に感情をぶつけてどうする。お前達は屑に成り下がりたいのか。騎士としてではなく男として低劣だという事を自覚しろ。そして己を恥じろ。

これからも剣を持ちたいなら卑怯な真似はするな。それができないなら剣は置け、王宮軍には必要ない」


静まり返る訓練場におじさまの声だけが響いた。



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