褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

文字の大きさ
63 / 152

辺境伯の砦

しおりを挟む

リック達が戻ってきて皆で状況を聞いている。


「制圧は成功したようですが…、隊と隊がぶつかったので怪我人が多数出ました。王宮軍は天幕を張りそこで怪我人の治療をしています」


制圧が終わったからといって怪我人を辺境に残して帰ろうとはならない。多少動けるようになるまで辺境で滞在するだろう。


「ダグラスさん、医師を数名手配できますか?それと薬やガーゼも大量に手配してもらいたいのですが…」

「ああ、任せろ」

「それから食料、あとお酒もお願いします。王宮軍と辺境隊と皆が飲んで騒げるくらいお願いしたいのですが」

「ここは酒場だぞ?蔵の酒全部持ってけ」

「ありがとうございます。あと踊り子さん達を、それと綺麗なお姉様方もお願いできると嬉しいのですが…」

「騎士なんて浴びるほどの酒があれば十分だぞ?」

「ですが、踊り子さん達が舞い、綺麗なお姉様方と話しをしながら飲むお酒の方がより美味しくなりません?」

「宴か」

「ええ、できるだけ華やかな宴になるように」

「分かった」

「では全て揃うには何日くらい必要ですか?」

「2日もあれば」


荷が揃うまで酒場の2階をお借りした。夜になれば下から陽気な声が聞こえ、軽快な楽器演奏と歌も聞こえる。酒場の外では喧嘩する人もいた。そうするとダグラスさんの怒鳴り声が聞こえ、私は窓から入ってくる音を楽しんだ。

辺境は陽気な人が多い。昼間、街を歩いた時も明るい人が多かった。気さくに話しかけてくれ、屋台で何か買えば『おまけだ』と山盛りだった。

『辺境は危険な所と敬遠される、実際戦が始まれば危険だ。それでもここで暮らす奴等は陽気に振る舞う。戦に慣れたからじゃない、信じてるからだ。辺境伯を辺境隊を信じてるから、必ず護ってくれると信じてるから陽気に笑う。

不安な訳じゃない、これまで何度と涙を流した。店も壊された、家も失った、それでも命より大事なものはない。命が助かったのなら、笑おう、歌おう、踊ろうと自然と体が動く。

それに空腹は思考を鈍らせる。だから街の人達はおまけだとたらふく食べさせる。飢えを経験したからこその教訓なんだ』

昼間、街から帰って来てダグラスさんから聞いた話。不思議だった、ここが辺境だとは思えないくらい人々は皆明るく賑やかだったから。

辺境までの道中の領地では不安を隠せない人達が多かった。口にするのは恐怖、心配、嘆き。でも辺境の人達は誰も口にしない。ここは辺境からかけ離れた街なのではと錯覚するほどに。

辺境の騎士は強いと言われているけど、本当に強いのは街の人達や辺境で暮らす人達。

窓から入る陽気な声に、私は眠りについた。


荷の準備が終わり、私は辺境の砦へ向かう。

辺境の砦の門の前、私達は止められ書状と紋を見せる。門をくぐり案内されたのは門番をする騎士達の休憩所の一室。その部屋で今は待っている。

扉を開けて入って来たのは辺境伯とテネシー隊長。


「本日は陛下の使者としてお伺い致しました。こちらが陛下からの書状です」


辺境伯は書状を手に取り目を通す。


「陛下からの言伝を預かりました。『合同訓練では良い成果を残してくれた。少しばかりだが両方に労いを振る舞わせてくれ』

そして本日は陛下からの労いをお届けに参りました。心身ともに癒やされますように願っております。ささやかではありますが、華やかな宴になりますよう」

「陛下の御心に感謝する」

「両方合同訓練に力が入ったようなので先に治療に必要な物資をお持ちしました。労いの品は本日の夕刻にお持ち致します」


先に食料や薬等を届けに来た。お酒とお姉様方は日が沈む頃に届けるつもり。


「では書状の確認がお済みでしたらこちらに印をお願い致します」


辺境伯が名を書き印を押した。私はそれを確認した。


「確かに受け取りました。ではわたくしはこれで失礼致します」


私は退室しようと席を立った。


「リーストファーに会って行かないのか」


辺境伯の声に私は立ち止まり、辺境伯と向かい合った。


「本日は陛下の使者としてこちらにお伺い致しました。わたくし個人のご挨拶は明後日改めてお伺いさせて頂きます」

「承知した」


私は辺境伯とテネシー隊長を見つめた。


「わたくしが陛下の使者としてこちらにお伺いした旨は、王宮軍副隊長にはくれぐれもご内密に」


私は口元に人差し指を当ててにっこりと微笑んだ。


「怒るぞ?」


テネシー隊長はにこにこと笑いながら言った。


「あら、隊長も楽しんでおいでのように見えますわよ?わたくしも彼の驚いた顔が楽しみですの。では明後日にまたお会いしましょう」

「では使者様お気をつけて」


『馬車まで送る』と今はおじさまと歩いている。


「明後日はお願いしますね」

「坊っちゃんはどうだ」

「驚くほど静かです」

「制圧といっても渋々だ、危険なのは変わらないぞ?燻る闘志の芽はまだ残ってる」

「ええ、だからお願いしているんです」

「まあ任せておけ」


顔は笑っていても目は笑っていないおじさまの顔を見つめた。

私はおじさまの言葉を疑ったことはない。信頼も信用もしている。おじさまが『任せておけ』と言うのなら私は安心して明後日訪ねてこれる。


「羽目を外さないで下さいね?」

「ん?」

「労いのお酒を飲み過ぎないで下さい」

「楽しんでこそだろ?」

「まあそうですが」

「気をつけて帰れよ」

「はい、では明後日に」


私は馬車に乗り、空の荷馬車と街へ帰った。


しおりを挟む
感想 130

あなたにおすすめの小説

誓いを忘れた騎士へ ―私は誰かの花嫁になる

吉乃
恋愛
「帰ってきたら、結婚してくれる?」 ――あの日の誓いを胸に、私は待ち続けた。 最初の三年間は幸せだった。 けれど、騎士の務めに赴いた彼は、やがて音信不通となり―― 気づけば七年の歳月が流れていた。 二十七歳になった私は、もう結婚をしなければならない。 未来を選ぶ年齢。 だから、別の男性との婚姻を受け入れると決めたのに……。 結婚式を目前にした夜。 失われたはずの声が、突然私の心を打ち砕く。 「……リリアナ。迎えに来た」 七年の沈黙を破って現れた騎士。 赦せるのか、それとも拒むのか。 揺れる心が最後に選ぶのは―― かつての誓いか、それとも新しい愛か。 お知らせ ※すみません、PCの不調で更新が出来なくなってしまいました。 直り次第すぐに更新を再開しますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

【完結】どうやら時戻りをしました。

まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。 辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。 時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。 ※前半激重です。ご注意下さい Copyright©︎2023-まるねこ

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

処理中です...